1.概要
東京都立大学大学院理学研究科 化学専攻の奥村拓馬 准教授、理化学研究所開拓研究所の東俊行 主任研究員(高エネルギー加速器研究機構量子場計測システム国際拠点特任教授)、同開拓研究所の橋本直 理研ECL研究チームリーダー(仁科加速器科学研究センター理研ECL研究チームリーダー)、高エネルギー加速器研究機構量子場計測システム国際拠点の早川亮大 研究員、同物質構造科学研究所の下村浩一郎 特別教授、自然科学研究機構核融合科学研究所研究部 プラズマ量子プロセスユニットの加藤太治 教授、東北大学大学院理学研究科 化学専攻の木野康志 教授、同研究科天文学専攻の野田博文 准教授、立教大学理学部物理学科の山田真也 准教授、中部大学の岡田信二 教授、外山裕一 特任助教、東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構の高橋忠幸 特任教授、筑波大学計算科学研究センターのTong Xiao-Min 准教授らによる研究グループは、最先端のX線検出器である「超伝導転移端センサーマイクロカロリメータ(Transition-Edge Sensor: TES)」(注1)を駆使し、新たなエキゾチック原子(注2)系「多価ミュオンイオン」の観測に成功しました。多価ミュオンイオンは、1つの原子核が少数の電子と負電荷を帯びた素粒子「負ミュオン」(注3)を同時に束縛した原子系です。これまで理論的には存在が予測されてい
...moreましたが、実験的に直接観測されたのは今回が初めてです。多価ミュオンイオンは、正電荷をもつ原子核が異種の負電荷をもつ粒子を同時に束縛するという、他に類のないユニークな系であり、新たな量子少数多体系(注4)としての関心に加え、負ミュオンと原子・分子の相互作用を探る新たなプローブとしての可能性も秘めています。本研究は、科学雑誌『Physical Review Letters』のEditors' Suggestionに選ばれ、オンライン版(6月16日付)に掲載されました。
図1:本研究で観測した多価ミュオンイオン(μAr16+, μAr15+, μAr14+)の模式図。μAr16+, μAr15+, μAr14+は、負ミュオンに加えて電子をそれぞれ1, 2または3個束縛している。
2.ポイント
・「多価ミュオンイオン」の存在は理論的に予想されていたものの、X線検出器のエネルギー分解能の限界や、周囲の原子からの速い電荷移行反応により、実験的な観測は困難であった。
・茨城県東海村の大強度陽子加速器施設(J-PARC)の大強度ミュオンビームとTES検出器を組み合わせることで、低圧の気体原子を標的としたX線分光実験が実現し、電荷移行反応を抑制した条件下の測定が可能になった。
・TES検出器の卓越したエネルギー分解能により、多価ミュオンイオンに束縛された電子の個数およびその量子状態までを識別して観測することに成功した。
3.研究の背景
原子は、中心に存在する原子核と、その周囲を取り巻く電子から構成されています。通常、原子は電気的に中性ですが、複数の電子が取り除かれると、「多価イオン」と呼ばれる高い正電荷をもつイオンが生成されます。この多価イオンは、基礎物理学をはじめ、核融合プラズマ、表面科学、天文学など、さまざまな科学分野において重要な役割を果たしています。特に、プラズマ(電離した原子や分子の集まり)の中で多価イオンが数多く存在します。プラズマは、宇宙の星々や太陽のような高温の環境で見られる状態で、多価イオンが放出する電子特性X線(注5)を測定することで、プラズマの状態を詳しく調べることが可能です。
私たちの研究グループでは、多価イオンの新たな一形態として、原子核と電子に加えて、負の電荷を持つ素粒子「ミュオン」を含む「多価ミュオンイオン」に注目しました(図1参照)。負ミュオンは電子と類似した性質をもつものの、その質量は電子よりも207倍と重いため、より原子核に近い軌道に束縛されます。多価ミュオンイオンは、1つの原子核に電子とミュオンという異なる2種類の荷電粒子が同時に束縛された、極めてユニークな量子少数多体系であり、その性質の解明は、新たな研究分野の開拓につながることが期待されています。
この多価ミュオンイオンの存在は理論的には予測されていたものの、実験的に確認された例はありませんでした。十分に減速された負ミュオンビームを原子に衝突させると、負ミュオンは原子に捕獲され、その後、周囲の電子を弾き飛ばしながら段階的に内側への軌道に遷移して原子核に近づいていきます。この過程は「ミュオンカスケード」と呼ばれ、多価ミュオンイオンはこの過程の中で形成されると考えられています。しかし、多価ミュオンイオンは周囲の物質から電子を引き寄せやすく、生成直後に再び電子を取り込んでしまいます(電荷移行反応)。さらに、そのような多価ミュオンイオンの電子状態(注6)を調べるために適切な分光観測方法もこれまで存在しませんでした。
4.研究の詳細
多価ミュオンイオンの観測においては、周囲の物質からの電荷移行反応を抑制することが重要です。そのため、原子数密度が小さい低圧の気体標的を用いて実験を行う必要があります。しかし、原子数密度を下げると標的中に負ミュオンを静止させることが困難になり、多価ミュオンイオンの生成量も減少してしまうという課題があります。そこで本研究では、J-PARC物質・生命科学実験施設(MLF)ミュオン科学実験施設(MUSE)Dラインにおいて世界最高強度の低速負ミュオンビームを用いて実験を行い、多価ミュオンイオンの生成量を増やしました。
本研究では、多価ミュオンイオンが放出する電子特性X線エネルギーの精密測定を目指しました。電子特性X線のエネルギーは原子核に束縛されている電子の個数や状態に応じて異なるため、そのエネルギーを正確に測定することで多価ミュオンイオンの電子状態を識別することが可能です。従来、このような小さなエネルギー差を識別するためには結晶分光器が用いられてきましたが、検出効率が極めて低く、多価ミュオンイオンのような生成量の少ない系の観測には適していませんでした。この困難を克服するため、私たちの研究グループは、最先端技術である超伝導転移端センサーマイクロカロリメータ(TES)を導入しました。TES検出器は、宇宙X線観測をはじめとする高精度分光を目的として開発が進められてきたX線検出器であり、優れたエネルギー分解能と高い検出効率を両立するだけでなく、広いエネルギー領域に対応可能という利点を備えています。TES検出器を利用することで、数千電子ボルト(eV)の X線に対して0.1 eVの精度でエネルギーを測定することができ、多価ミュオンイオンのような希少な系に対しても有効な分光観測が可能となります。
0.1気圧のアルゴン原子(Ar)を標的とした場合のX線スペクトルを図2に示します。2700-2850 eVの範囲に3本、2900-3050 eVの範囲に1本のピークが観測されました。それぞれのX線エネルギーを電子状態計算の結果と比較したところ、高エネルギー側のピークは束縛電子を1個有する多価ミュオンアルゴンイオン(μAr16+)、低エネルギー側の3本のピークは束縛電子を2個または3個有するμAr15+, μAr14+が放出した電子特性X線とエネルギーが一致することが判明しました。特に、2個の電子が束縛されたμAr15+によるX線は2つのピークに分かれており、それぞれスピンの向きが異なる電子状態に対応しています。このように、TES検出器の優れたエネルギー分解能を生かすことで、束縛電子のスピンの向きまで踏み込んだ、多価ミュオンイオンの詳細な観測に成功しました。
図2:(a) TES検出器を用いて測定した多価ミュオンアルゴンイオンμArのX線スペクトル。(b) μArが放出する電子特性X線エネルギーの理論計算の結果。
5.研究の意義と波及効果
多価ミュオンイオンは、1つの原子核に2種類の異なる荷電粒子(電子と負ミュオン)が束縛された、これまでにないまったく新しい種類の原子であり、基礎科学の観点から非常に興味深い系です。負ミュオンと電子の相互作用により、通常の原子では現れない性質が発現する可能性があります。例えば、本研究においても、多価ミュオンアルゴンイオンの生成量を詳細に分析した結果、負ミュオンがAr原子に捕獲される際に”軌道崩壊”(注7)と呼ばれる現象が重要な役割を果たしていることを、理論的に突き止めました[1]。この現象自体は通常の原子や多価イオ...
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