1月20日の就任式を迎えると、ついに始まるトランプ政権。就任を前にトランプの様々な発言がすでに注目を浴びていますが、国際政治学者のイアン・ブレマー氏率いる米調査会社が発表した「2025年の世界の『10大リスク』」によると、トランプ絡みが1位~4位を占めているのだそう。早くもトランプ劇場を見せているようですが、『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』の著者・富坂聰さんが、トランプの発言により中国批判をしてきたアメリカは変わってきていると解説しています。一体どのような変化を見せているのでしょうか。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:アメリカがこれまで中国を批判してきた正義の剣はどこにいってしまうのか
中国批判をしてきたアメリカが一変。トランプ発言に各国が反発
「経済発展したら民主化すると信じていたが裏切られた」
「国際ルールを無視する国」
「専制主義と民主主義の戦い」
「力による現状変更」
これらはメディアが中国を批判するときに多用したフレーズだ。対立目的で振りかざされた拳だが、こうした薄っぺらい正義は、いまドナルド・トランプという「現実」を前に、存在意義を問われ始めた。
大統領就任を控えたトランプが、その「現実」を浮き彫りにし始めたからだ。
国際政治学者のイアン・ブレマー氏が率いる米調査会社、ユーラシア・グループは1月6日、「2025年の世界の『1
...more0大リスク』」を発表した。
結果は、やはりというべきか1位から4位まで広義の意味でトランプ絡みとなった。
米大統領選挙に絡んで注目の的であった「米中対立」は3位。1位は「深まるGゼロ世界の混迷」であった。
この「Gゼロ世界」を、世界の多極化と解釈するのであれば、中国に「追い風が吹く」展開かもしれない。だが実際はそうではない。中国が得るメリットは、混乱というデメリットにはるかに及ばないと予測されるからだ。
そのことはここ最近のトランプとイーロン・マスクの言動からも明らかだ。
昨年11月、米大統領選挙が終わった直後、私は北京でさまざまな中国人と話をした。そのとき、彼らのほんどが「トランプの当選」を、少なくとも嫌がってはいなかった。理由は、「どうせカマラ・ハリスになっても中国に対する嫌がらせは変わらない。それならば見ていて面白い方が良い」だった。
トランプ劇場に比べ、「バイデンはやり方が陰湿」という印象が共有されているようだ。
トランプは今週、そうした中国人の期待を裏切らない特大の花火を次々と打ち上げた。
まずはパナマ運河をアメリカの所有にするという宣言だ。
これについては昨年12月22日、「(パナマ運河の)法外な通航料はばかげている。通航料を引き下げるか、アメリカの管理下に置け」との厳しい要求をすでに突き付けていた。
パナマのホセ・ラウル・ムリノ大統領は素早く反発。トランプを非難。現地では数100人規模の反対デモも起きたと伝えられた。
しかし1月7日、記者会見に臨んだトランプはそのパナマ運河問題に絡み、「必要とあらば軍事的、経済的圧力を使う」と、言葉をエスカレートさせたのである。
問題の記者会見で言及したのはパナマ運河の管理権だけではなかった。
英BBCは同会見を伝えた1月8日の番組で「グリーンランドやパナマ運河を支配するのに必要であれば、軍事力を使う可能性を排除しないとも語りました」と報じている。
会見は、メキシコ湾の名称をアメリカ湾に変更することやカナダの併合まで俎上にのせる無軌道ぶりであった。
米公共放送PBSは、「トランプ次期大統領は2週間後の就任を前に、必要とあらば軍事的、経済的圧力を使ってアメリカの領土を拡張する意向を示しました」(1月8日)と、キャスターは呆れたように伝えた。
カナダに対しては昨年、「25%の関税をかける」と予告し、トルドー政権を崩壊に追い込んだのは記憶に新しい。この日は「カナダはアメリカの『51番目の州になるべき』だ」とさらに踏み込んだのである。
トランプの発言は、その中身を、どこまで本気で言っているのかを見極める必要があるが、たとえブラフだったとしてもその影響は計り知れない。
そもそもこれほどあからさまな「力による現状変更」はない。
これまで中国を「現状変更」と批判してきたアメリカだが、実際に何が「現状変更」かは曖昧模糊としている。だが、トランプの発言はある意味でウクライナに侵攻したロシア以上に身勝手で悪質なものだ。
一方、トランプ政権の新組織「政府効率化省」(DOGE)の共同トップに指名された実業家のイーロン・マスクは、英、独の政界をXの発信で強烈に揺さぶった。
まずイギリスのキア・スターマー首相を「票と引き換えに、集団レイプに深く加担した」と攻撃。これはスターマーが検察庁、公訴局(CPS)のトップだったとき、組織的な児童性的虐待に対処しなかったとイギリスの極右政党が展開する批判に乗った動きだ。
マスクの極右政党に対する支持発信は、ドイツにも向けられ、英、独の各政権は「内政干渉だ」と激しく反発している。
これまで散々アメリカと組んで中国の内政に干渉し続けてきた欧州が「内政干渉」に憤るのはご愛敬だが、一方でもしトランプが各国で極右政権の台頭を歓迎し、それを公然と後押しするのだとしたら、どれほど殺伐とした世界が生まれてくるのか、恐ろしくなる。
そして米議会の動きだ。
米議会下院は、ガザ地区での行いでICC(国際刑事裁判所)がイスラエルのベンヤミン・ネタニアフ首相に逮捕状を出した(昨年11月)ことへの対抗措置として、逆にICC側を制裁する法案を可決した。
米議会がICCを無視すれば、国際司法の権威が失墜することを見越した動きだ。
そして早速ICC加盟国であるポーランドは、今月末に予定されているアウシュビッツ強制収容所解放80周年記念式典にネタニアフ首相が参加しても、ICCに従わず「拘束しない」方針を明らかにしたのである。
BRICS加盟国はICCがウラジミール・プーチンに逮捕状を出したことを受け、首脳会議の開催とプーチンの参加の調整に四苦八苦してきたが、そうしたICCに配慮した対応とは大きく異なり、米議会は公然とICCの権威と法の秩序を地に落としたのだ。
中国を「ルールを守らない国」と批判してきた西側先進国は、これをどう考えているのか。
さらに、もしトランプが大統領に就任後、2021年1月6日の議会乱入事件で罪に問われた服役囚に恩赦を与えてしまったら、民主主義はどうなるのか。
選挙結果を不服として暴力に訴えた者たちが許される国は、はたして民主主義先進国と言えるのだろうか。
西側先進国も、いよいよ自分たち自身の真の姿ときちんと向き合わなければ時代を迎えたのかもしれない。
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image by:Phil Mistry/Shutterstock.com
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