6000年以上前に、すでに“クマさんグミ”があったと言われたら、皆さんは信じるでしょうか?
つぶらな瞳にぼってりとした胴体、まるで現代のグミ菓子のような見た目をしたクマの像がポーランドに存在していたのです。
……とはいえ、もちろん食べられるわけではありません。
その正体は実をいうと、「琥珀(アンバー)」でできた小さなクマの彫像なのです。
では、この“クマさんグミ”のような琥珀の彫像はいったい何のために作られたのでしょうか?
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いつ作られたものなのか?何の目的があったのか?
いつ作られたものなのか?
Credit: pl.wikipedia
このクマの彫像は、ポーランド北部の都市・スウプスク(Słupsk)近郊で、1887年頃に泥炭採掘中に偶然発見されました。
発見当時は特に名前もついていませんでしたが、2013年に行われた命名コンテストで、地元の幼稚園児によって「スウプチョ(Słupcio)」と名付けられました。
これは「スウプスクのちびっ子」という意味合いのポーランド語で、その愛らしい姿にぴったりの愛称です。
現在はポーランド・シュチェチンの国立博物館(National Museum in Szczecin)に展示されており、地元のシンボル的存在としてレプリカが土産品としても人気を集めています。
スウプチョのサイズは長さ約10.2センチ、高さ約4.2センチとグミよりはず...moreっと大きいですが、手のひらサイズほどで、腹部には紐を通すための穴が空いています。
このことから、古代の人が首からぶら下げたり、携帯していたと考えられています。
このクマ像が作られた時期については、長らく中石器時代(約1万年前〜6500年前)とされてきました。
しかし近年の研究によれば、実際にはそれより古い後期旧石器時代(約1万2000年前〜9500年前)の可能性が高いと指摘されています。
その理由のひとつは、装飾に見られるジグザグ模様や細かな線刻が、他の旧石器時代の遺物と共通しているためです。
では、スウプチョには何の目的があったのでしょうか?
何の目的があったのか?
Credit: wmuzeach.pl
クマという動物は、当時の北欧の人々にとって特別な存在でした。
強く、まれにしか出会えない、冬には姿を消す。
そうした神秘性から、クマは「異界との境界を超える存在」、つまり精霊や守護者のような意味を持っていたと考えられています。
さらに素材としての琥珀もまた、特別な力を宿すと信じられていた可能性があります。
見た目は石のようなのに軽く、海水に浮かび、磨けば輝き、火をつけると芳香を放ち、そして摩擦すると静電気で光る。
こうした“魔法のような特性”が、人々にとって神聖な素材としての地位を与えていたのです。
そのため、クマという象徴的な動物を、琥珀という特別な素材で形にすることには、呪術的・宗教的な意味があったとみられています。
つまり、スウプチョはただの首飾りではなく、“護符”や“精霊の依り代(よりしろ、精霊が宿る場所)”としての役割を果たしていたのかもしれません。
全ての画像を見る参考文献Słupcio: A 6,000-year-old amber ‘gummy bear’ that may have been a Stone Age amulethttps://www.livescience.com/archaeology/slupcio-a-6-000-year-old-amber-gummy-bear-that-may-have-been-a-stone-age-amulet元論文Stone Age amber bear figurines from the Baltic Sea areahttps://doi.org/10.1484/M.TANE-EB.5.134373ライター千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。編集者ナゾロジー 編集部
火星への移住はもはや夢物語ではありません。
ここ数年のうちに、有人での火星探査も計画されており、いよいよ現実味を帯びてきました。
しかし人類が火星に到着できたとしても、そこにはある人体への危険性があるようです。
南カリフォルニア大学(USC)の研究チームはこのほど、火星の塵が呼吸器を通じて血流にまで入り込み、深刻な疾患を引き起こす可能性があることを報告しました。
この難点をクリアしない限り、人類が火星で持続的に暮らすことは難しそうです。
研究の詳細は2025年2月12日付で学術誌『GeoHealth』に掲載されています。
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火星の塵が危険なワケとは?どのように対策すべきか?
火星の塵が危険なワケとは?
私たちが普段目にする「ほこり」は、掃除機で吸い取れば済むものです。
しかし、火星の塵はそんな生易しいものではありません。
火星の地表には、直径およそ3マイクロメートルという微細な粒子が舞い上がっており、これが「火星ダスト」と呼ばれるものです。
この粒子はあまりにも小さく、人間の肺の粘液では排出できず、呼吸とともに肺の奥深くまで到達します。
実際、アポロ計画の時代にも、月の塵が宇宙服に付着して持ち込まれ、咳や目の痛みなどを引き起こしたことが報告されていました。
火星では、これと同様の事態が起こることが予想されるうえに、さらに事態は深刻です。
月の塵に覆われたアポロ17号の宇宙...more飛行士/ Credit: Justin L. Wang et al., GeoHealth(2025)
火星の塵には、呼吸器疾患や内臓への障害を引き起こす成分が多数含まれています。
代表的なものとして、シリカ(ケイ素化合物)、過塩素酸塩(パークロレート)、ナノ鉄酸化物、そして微量ながらも毒性の高い重金属(ヒ素、クロム、ベリリウム、カドミウム)などが挙げられます。
地球では、こうした物質に長期間さらされる職業労働者が「黒い肺病」や「珪肺症」といった病気にかかることが知られていま
このような知見から、火星ダストの吸入によって宇宙飛行士が健康被害を受ける可能性は極めて高いと考えられるのです。
さらに問題なのは、火星に滞在する宇宙飛行士たちは地球のように医療機関へすぐアクセスできないことです。
往復にかかる時間は最短でも1年、緊急搬送は現実的ではありません。
このような状況だからこそ、火星のダストがもたらすリスクを事前に理解し、備える必要があるのです。
どのように対策すべきか?
これまでの研究でも、火星の塵が肺に悪影響を与える可能性は指摘されてきましたが、今回のUSCの研究チームは、その影響のメカニズムをさらに掘り下げました。
彼らが注目したのは、5マイクロメートル以下の微粒子が肺の防御機構をすり抜け、血流に侵入する可能性です。
このような微粒子は肺胞に沈着し、血液中へ移動して全身に影響を与える恐れがあります。
特に懸念されるのは、パークロレートによる甲状腺機能の阻害 ・シリカやナノ鉄酸化物による肺の線維化 ・クロムやカドミウムによる発がん性など、多様で深刻な疾患のリスクがある点です。
火星で観測された塵(ほとんど視界がなくなるほど)/ Credit: Justin L. Wang et al., GeoHealth(2025)
チームは、地球で同様の成分に曝露された労働者たちの健康被害に注目し、それを火星環境に当てはめる形で評価を行いました。
火星の大気や土壌の成分は探査機によってある程度わかっていますが、実際のサンプル分析はまだ行われていません。
そのため、この研究は地球での毒性データに基づく予測研究として、極めて重要な意義を持ちます。
火星ダストの対策としては、 居住空間への侵入を防ぐフィルター ・静電気による付着を防ぐ宇宙服の素材開発 ・パークロレートにはヨウ素、クロムにはビタミンCといったサプリメントなどが挙げられています。
ただし、宇宙環境では副作用のリスクも深刻です。
ビタミンCの過剰摂取は腎結石のリスクを高めるため、投与は慎重に行う必要があります。
今回の研究の重要な点は「火星の塵は単に不快なものではなく、生命を脅かす危険物質である可能性がある」と科学的に示したことです。
この研究は、人類が火星に立つその日までに備えるべき課題のひとつを、私たちに強く印象づけるものと言えるでしょう。
全ての画像を見る参考文献Should Astronauts Be Worried About Mars Dust?https://www.universetoday.com/articles/should-astronauts-be-worried-about-mars-dustToxic dust on Mars would present serious hazard for astronautshttps://edition.cnn.com/2025/03/26/science/mars-toxic-dust-scli-intl/index.html元論文Potential Health Impacts, Treatments, and Countermeasures of Martian Dust on Future Human Space Explorationhttps://doi.org/10.1029/2024GH001213ライター千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。編集者ナゾロジー 編集部...