1970年代から80年代にかけて、既存のバンドミュージックとは異なる音楽が世界中で誕生した。その一つが「エレクトロミュージック」である。
当時流行していたディスコに反抗心を持ったミュージシャンたちが、シンセサイザーやターンテーブルなどの新たな音楽機材を用いて、新しい「踊れる音楽」を作り出したのだ。エレクトロミュージックは、いわば80年代におけるカウンター・カルチャーであった。
そして30年を経て、ヒップホップやエレクトロミュージックは、ロック以上に多くの人々に聴かれるまでになった。そんな新しい音楽でありながら、アンダーグラウンドな存在であったエレクトロミュージックを、メジャーなものに押し上げた立役者の一人がダフト・パンクだ。
メンバーのトーマ・バンガルテルとギ=マニュエル・ド・オメン=クリストは、ロックやブラックミュージックのグルーヴをエレクトロミュージックと掛け合わせて新しい音楽を作り出した。
ダフト・パンクの始まりは1987年、フランスの中学校で当時13歳であったトーマとギ=マニュエルがパリの学校で出会いにさかのぼる。
トーマは父親がディスコミュージックのプロデューサーだったこともあり、幼い頃からダンスミュージックに触れながら育った。一方のギ=マニュエルも7歳からエレクトーンを習い、幼い頃から音楽や楽器を愛する、やや早熟な少年だった。
二人の共通点は、ジミ・ヘンド...moreリックスやベルベット・アンダーグラウンド、そして映画の『イージー・ライダー』。ブルージーで開放的なカルチャーが好きであったことから、すぐに仲良くなるのだった。
彼らは17歳になると、3人組ロックバンド「ダーリン」を結成する。音楽的センスに長けていたのですぐに頭角を現し、地元のレーベルとの契約も果たした。
3人の演奏はまだ拙いながら、ポップで哀愁が漂うメロディは、確かな才能を感じさせるものであった。しかし、初めてのシングルをリリースした直後、思わぬ洗礼が待ち受けていた。音楽誌「メロディー・メーカー」から、10代の青年たちが受けるにはあまりにもショッキングすぎる、厳しい評価を受けたのだ。
「The two Dalin’ tracks are a daft punky trash.」
(ダーリンのリリースした二曲は愚かなゴミだ。)
彼らはバンドとして活動をする自信を見失い、楽曲制作やライヴ活動が出来なくなってしまった。
しかし、そうしてロックから離れていた時期に転機が訪れる。二人は地元パリで行われていた音楽イベントに行って、生まれて初めてエレクトロミュージックに出会ったのだ。響き渡るベース音とリズムトラックは、彼らに衝撃を与えた。トーマは当時の感動と興奮をこのように述懐している。
「初めて聴く音楽とその熱気を体験したんだ。みんなその音楽で踊っている。新しいシーンの誕生だと思った」
当時はまだ、エレクトロミュージックを流すラジオ局はなかった。だからこそ、その体験は新鮮なものに映ったのかもしれない。「新しいシーン」に創作意欲を掻き立てられた二人は、自宅の寝室を改造し、シンセサイザーやDJセットによる新しい音楽を作り始めたのである。
彼らはリズムやベースの刺激的な音だけでなく、ポップで踊りだしたくなるメロディや、肉体的なグルーヴを追求した。それはトーマの父がディスコミュージックを作っていたことや、二人が少年の頃に聴いたロックンロールやソウルの影響から生まれた発想であった。
エレクトロミュージックを作り始めて一年後の1993年、二人はスコットランドのインディーレーベル、ソーマ・レコードと契約する。ユニット名はバンド時代に酷評された時の言葉、「a Daft Punky Trash」から取って「Daft Punk(ダフト・パンク)」と名付けられた。
インディーズでのライヴが評判を呼び、4年後には彼らは名門レーベル、ヴァージン・レコードとの契約を勝ち取る。そして、初めてのアルバム『ホーム・ワーク』をリリースした。
すると収録曲の「Around The World」のミュージックビデオが、MTVでオンエアーされたことで、大きな注目を浴びる。映像の中でヘルメットを被ったダフト・パンクが、マネキンのようなダンサーとともにダンスをする異様な映像は、世界の音楽ファンたちに衝撃を与えた。
アンダーグラウンドな雰囲気をまといながらも、ポップなメロディと踊れるベースラインが響く「Around The World」は、彼らが目指した音楽の理想形でもあった。エレクトロミュージックを知らなかった人々も巻き込んで、「ホーム・ワーク」は大ヒットを記録した。
かつて「愚かなゴミ」と評された二人組は新しい表現を見出し、音楽シーンのトップランナーになったのである。
(注)トーマの発言はダフト・パンクのドキュメンタリー映画「Daft Punk:Unchained」より引用しています。
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2014年1月26日、世界最大級の音楽の祭典、第56回グラミー賞授賞式が催された。ポール・マッカートニーとリンゴ・スターによる共演や、17歳にして最優秀楽曲賞を受賞した注目の新人アーティスト、ロードによるステージなど、グラミーの舞台にふさわしいパフォーマンスが次々と披露された。
そんな豪華絢爛なアーティストたちを差し置いて、最大の称賛を浴びたのが2人組のユニット、ダフト・パンクだ。
パリで暮らす学生、トーマ・バンガルテルとギ=マニュエル・ド・オメン=クリストが出会ったのは1987年。2人は流行の音楽よりも、60~70年代のロックやソウルが好きだったことから意気投合し、1990年にはロックバンドを結成するが、残念ながらそのバンドが花開くことはなかった。
しかし、シンセサイザーやドラムマシンを導入してハウス・ミュージックと呼ばれる、ソウルに根ざしたエレクトロな音楽を作り始めると、1995年に念願のレコード・デビューを果たし、続く2ndシングル「ダ・ファンク」がヨーロッパ全土で大ヒット、ダフト・パンクは瞬く間にハウス・シーンを牽引する存在となった。
それ以来、4~5年に1枚というスローペースながらも、細部まで作りこまれたハイレベルな作品を発表し続けて、ダフト・パンクは世界を代表するデュオになる。
そんな彼らが、新たなコンセプトのアルバム制作に取り掛かったのは2008年。それま...moreでサンプリングやループといったデジタルな手法で作ってきた音楽を、人間の手による生の演奏で再現したいと考えた。
プロダクションはその方向性に難色を示したが、2人は一歩も譲らず、彼らがサンプリングで使ってきたドラムやベース、ギターを実際に鳴らせるプレーヤーたちを集結させた。
結果としてソウルやファンク、ディスコ、フュージョンなど様々なジャンルで時代を牽引してきた世界最高峰のミュージシャンたちによる、夢のようなセッションバンドが実現した。
制作に取り掛かってから5年後の2013年5月、ようやくリリースされた4枚目のアルバム『ランダム・アクセス・メモリーズ』はデジタルの手法を排除して、1970年代のソウルやディスコ、ファンクを前面に押し出すという大胆な路線変更でファンを驚かせながらも世界中で大ヒットする。
中でも、ファレル・ウィリアムズがボーカルとして参加した「ゲット・ラッキー」はスポティファイで1億回以上再生され、史上最もストリーミングされた楽曲として認定された。
『ランダム・アクセス・メモリーズ』は懐古主義的にも捉えられかねないが、彼らにとっては今の時代だからこそ意味のある挑戦だったという。
「ぼくたちとしては、世界から切り離されたスタジオというカプセルにいる感じにしたかったんだ。そこの時代は1978年でもいいんだけど、その音楽を現在と未来へ持って行ったらどうなるんだろう、時代が変わっても伝わるだろうかと旅してみたいというアイディアなんだ」
グラミーのステージでは、その“世界から切り離されたスタジオ”が見事に再現された。
そこには『ランダム・アクセス・メモリーズ』にも参加した、時代を牽引してきた凄腕のプレーヤーたちが集まって、レコーディングを始めようとしている。観客たちは、現代からタイムスリップしてその歴史的瞬間を目撃できるという演出だ。
ゲストとしてスティーヴィー・ワンダーも加わり、その年の最優秀レコード賞を授賞した「ゲット・ハッピー」の演奏が始まった。曲の途中、それまで閉ざされていたミキシング・ブースのシャッターが上がり、ダフト・パンクの2人が登場すると、会場の盛り上がりは最高潮に達する。
過去と現在、そして未来を1つにつないだこのパフォーマンスは、ダンス・ミュージックのみならず、この先の音楽の可能性を指し示しているのかもしれない。
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