2025年6月19日
国立大学法人京都大学
京大オリジナル株式会社
積水ハウス株式会社
国立大学法人京都大学(以下、京都大学)と積水ハウス株式会社(以下、積水ハウス)は、「子どもの感性発達に有効な住提案」に向けた共同研究プロジェクトの成果を初めて外部に公開する報告会を、6月18日(水)京都大学 吉田キャンパス 国際科学イノベーション棟で実施いたしました。
左)京都大学 成長戦略本部 統括事業部 イノベーション領域 統括 中川 雅之
右)積水ハウス株式会社 執行役員 ESG経営推進本部長 山田 実和
積水ハウスは長年の住生活研究から、「感性、身体、知性、社会性」の4つの力の発達が「子どもの生きる力」であると捉え、「子育ち+子育て」の視点から住まいづくりを提案してきました。この考えのもと、2024年度に京都大学と「子どもの感性発達に有効な住提案に関する知見の拡大・創出」を目的とした包括連携を締結。1年目は、京大オリジナル株式会社※の協力のもと、教育心理学、社会学、情報学、認知科学など多様な分野の10名以上の研究者と議論を重ね、今後の研究の核となるテーマを「住まいにおける子どもと家族との会話によるつながりに関する研究 ~子どもの感性・社会性の発達を目指して~」に決定しました。
※京都大学 100 %出資の子会社。京都大学
...more の研究者と企業の産学連携のコーディネート等を行っている。本件では、共同研究テーマ探索のための京大式 AGORA(研究者と企業のアイデア創出ワークショップ)の企画・運営などを担当。 https://www.kyodai-original.co.jp/
今回の公開報告会では、共同研究の本格始動に先立ち、住まいにおける家族のつながりが子どもの感性や幸福感にどのような影響を与えるのかを探るため、①プロジェクト1年目に行った研究テーマ探索活動や全国の家族を対象としたプレ調査の報告、②プロジェクト2年目以降の共同研究方針の共有、③京都大学と積水ハウスの研究者による子ども・家族・住まいの関係性に関する知見を共有するパネルディスカッションを実施いたしました。
左)プロジェクト2年目以降の共同研究方針を説明する
京都大学 教育学研究科(国際高等教育院)髙橋 雄介 准教授
右)全国の家族を対象としたプレ調査の報告を行う
積水ハウス株式会社 R&D本部 服部 正子 ライフリサーチグループリーダー
パネルディスカッションの様子
左より)
京都大学 情報学研究科 助教 井上 昂治
京都大学 人間・環境学研究科 教授 柴田 悠
京都大学 アジア・アフリカ地域研究研究科 教授 高田 明
積水ハウス株式会社 フェロー 河﨑 由美子
今後の共同研究においては、「住まいにおける家族の会話」に着目し、家族の会話スタイルを分類するとともに、それらが子どもの幸福感や非認知能力に与える影響の分析を行います。家族との会話が自然に生まれる空間のエビデンスを構築することで住まいの提案力をより一層高め、住まいが家族のつながりを育み、子どもたちの感性や社会性の発達につながる「場」となることを目指します。
●関連リリース 2025年6月18日 積水ハウス株式会社発行
URL:https://www.sekisuihouse.co.jp/company/topics/topics_2025/20250618/
多くの人は「創作」や「アート活動」と聞くと、プロの芸術家や特別な才能を持つ人たちだけが関わるものだと思いがちです。
しかし、公認心理士あり学術研究者でもあるカトリーナ・マッコイ氏は、創造性は誰にとっても必要な営みであり、ストレス軽減や幸福感の公寿、自己肯定感の強化など多くの恩恵があると述べています。
創作は「贅沢」ではありません。
本記事では誰もが創作に取り組むべき理由と、そうするための4つのポイントを紹介します。
目次
創作って特別なこと?「創ること」は誰でもできる心のケアだった創作を生活に取り入れる4つのポイント
創作って特別なこと?「創ること」は誰でもできる心のケアだった
ストレスフルな社会だからこそ、身近な創作を楽しもう / Credit:Canva
私たちは日々、仕事や人間関係、社会的プレッシャーなど、目に見えないストレスを抱えながら生きています。
そんな現代において、「創作」という行為が心に与える影響が、心理学的にも再評価されています。
創作活動とは、自分の内側から何かを表現し、形にする行為すべてを指します。
必ずしも芸術作品のように完成度が高い必要はありません。
たとえば、絵を描くことや写真を撮ること、編み物や刺繍を楽しむことも創作です。
また、詩や日記を書くこと、歌詞やメロディーを考えること、ダンスや演劇で身体を使って表現することも含まれます。
さらに、料理を
...more 工夫したり、ガーデニングで空間を演出したりすることも立派な創作活動です。
これらはすべて、自分なりの創造力を使った表現です。
創作中、私たちはフロー状態になり、深い満足感が得られる / Credit:Canva
創作に取り組むと、人はしばしば「フロー状態(没頭状態)」に入ります。
これまでの研究によると、これは時間の感覚を忘れるほど集中した状態であり、自己意識や不安感が薄れ、深い満足感が得られるとされています。
また、創作にはストレスや不安の軽減、自己肯定感と自信の向上、感情の整理と自己理解の促進といった心理的効果があります。
過去のメタ分析によれば、創作はウェルビーイング(幸福感、満足度)の向上に統計的に有意な効果を持つことが明らかにされています。
こうしたメリットを考えると、誰もが創作活動に取り組むべきだと分かります。
それでもなお、多くの人は創作に対して尻込みしてしまうものです。
「自分は才能がない」「何を作っても意味がない」と感じてしまう人も少なくないでしょう。
特に現代社会では、成果や生産性が強く求められるため、創作のような非効率な行動は軽視されがちです。
また、「時間がない」「創作する余裕がない」といった日常的な理由も、創作を後回しにする大きな要因です。
では、忙しい現代人が日常生活に創作を取り入れるためには、どんなことを意識できるでしょうか。
創作を生活に取り入れる4つのポイント
マッコイ氏は、創作を日常に取り入れるための実践的なアドバイスを4つ紹介しています。
これらは心理療法の知見に基づき、多くの人に応用可能な方法です。
まず1つ目は「創作に許可を出す」ことです。
忙しい社会人でも「創作」していい! / Credit:Canva
「下手でもいい」「意味がなくてもいい」と自分に言ってあげることが、創作の第一歩になります。
多くの人は、始める前に「こんなもの作っても誰も評価してくれない」と自分を止めてしまいます。
でも創作は、他人のためにではなく、自分のために行うものです。
自由に、目的なく、ただ手を動かすこと自体に癒しの力があります。
次に、「恐怖と仲良くなる」ことが大切です。
「失敗したくない」「誰かに笑われるのが怖い」という感情は自然なものです。
創作には、自己開示という側面があるため、不安を伴うのは当然です。
それでも、マッコイ氏は「恐怖を否定せずに隣に座らせる」ことを提案しています。
子どもが一生懸命に描いた絵を笑う大人はいませんよね。
自分自身にも、同じ優しさを向けていいのです。
3つ目のポイントは、「習慣にする」ことです。
創作する時間を確保しよう / Credit:Canva
創作は「時間があるときにやろう」ではなく、「あえて時間を作ってやる」ものです。
たとえば、1日20分だけ、週に数回でも創作タイムをスケジューリングしましょう。
これを予定表に書き込むだけで、心理的な優先順位が上がり、行動につながりやすくなります。
習慣化することで、創作への抵抗感がぐっと下がります。
最後に、「好奇心を追う」ことが創作の鍵になります。
創作のタネは、日常の中のちょっとした「気になる」に隠れています。
たとえば、ふと目に留まった色や形、耳に残ったフレーズやリズム、なぜか気になる物語の断片などです。
こうした感覚に素直に従ってみることが、創作の扉を開くきっかけになります。
創作とは、完成されたアイデアを持って始めるものではなく、手を動かしながら育てていくものなのです。
ここまで考えてきたように、創作は、プロのためだけの活動ではありません。
それは、心を整え、自分を知り、生活に彩りを与える日常の営みです。
「何かを生み出す」という体験は、誰にでも開かれており、あなたの中に眠る創造性を呼び覚ましてくれます。
たとえそれが、誰にも見せない落書きであっても、それはあなたの内面と世界をつなぐ大切な証です。
今こそ、ほんの少しだけ“創る時間”を自分に許してみませんか?
全ての画像を見る参考文献Creativity Is Not a Luxuryhttps://www.psychologytoday.com/us/blog/finding-the-right-words/202506/creativity-is-not-a-luxuryライター矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。編集者ナゾロジー 編集部...
ストレス社会において、ウェルビーイング(幸福感)を高める活動に注目が集まっています。
ですが、忙しい日々の中で「ヨガを30分行う」「スマホを手放して自然と向き合う」といった提案に、ハードルの高さを感じる人は少なくありません。
そんな中、「1日たった数分、わずか1週間で幸福感が向上する」という研究成果が報告されました。
本研究は、アメリカ・カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)の研究チームが中心となって実施し、「マイクロ・アクト(喜びを生み出す小さな行動)」による幸福感向上の効果を科学的に検証しています。
研究内容は2025年6月4日付で『Journal of Medical Internet Research』誌に掲載されました。
目次
たった数分の活動「マイクロ・アクト」でも人は幸せになれる?たった数分の行動で幸福感が高まると判明
たった数分の活動「マイクロ・アクト」でも人は幸せになれる?
本研究の背景には、「幸福感は心身の健康を支える重要な要素である」という科学的な知見があります。
高い幸福感を持つ人は、うつ病や不安障害の発症リスクが低く、心疾患や慢性病の発生率も抑えられると報告されています。
米国の国民予防戦略においても、「ウェルビーイング」は公衆衛生の重点領域として挙げられています。
幸福で健康的な人生を送るには / Credit:Canva
従来のウェルビ
...more ーイング向上法には、感謝日記の記入、瞑想、ポジティブ心理学的トレーニングなどがあり、その効果は多くの研究で実証されてきました。
しかし、これらの介入は数週間から数ヶ月にわたる取り組みが前提で、時間や労力を要するため、継続できない人も多いのが課題でした。
そこで研究者たちは、「もっと手軽で短時間でも効果がある方法はないか?」と考え、「The Big Joy Project(ビッグ・ジョイ・プロジェクト)」という大規模な市民参加型実験を立ち上げました。
このプロジェクトには、169カ国から1万7598人が参加しました。
各参加者は7日間、毎日1回、5〜10分程度の「マイクロ・アクト」を実施しました。
マイクロ・アクトの具体的なの内容は、「誰かの喜びを一緒に祝う」、「感謝リストを作る」、「小さな親切を計画・実行する」、「自分の価値観を見つめ直す」、「困難な体験から得たポジティブな側面を見つける」、「自然の動画を見て畏敬の念を味わう」、「世界に善をもたらす自分をイメージする」というものです。
参加者は、行動の前後で気分を記録し、7日後には自分の感情変化や効果の高かった行動のフィードバックを得ることができました。
たった数分の行動で幸福感が高まると判明
たった数分の行動や感謝で幸福感が向上すると判明 / Credit:Canva
結果は非常に有望なものでした。
7日間の介入の後、参加者の心理的・身体的指標には次のような有意な変化が見られました。
ウェルビーイング(生活満足感、人生の意味など)、ポジティブ感情(希望、楽しさ、驚きなど)は、幸福感への自己効力感(自分で幸せを作り出せる感覚)がそれぞれ向上したのです。
また主観的なストレスも低下したと報告されました。
さらに、自己評価による健康状態と睡眠の質も、わずかながら有意に向上しています。
また、より積極的にマイクロ・アクトを行った人ほど改善幅が大きかったとも報告されています。
人はわずか1日僅か数分の小さな活動でも、自分の幸福感を大きく変化させられるのです。
マイクロ・アクトは社会的に不利な立場である人ほど効果的 / Credit:Canva
加えて、このマイクロ・アクトの効果は、社会的に不利な立場にある人ほど、大きな効果を及ぼすことが分かりました。
教育水準が低い人、経済的に困窮している人、人種的・民族的マイノリティの参加者は、その他の層と比べて顕著な幸福感の向上を報告したのです。
研究者はこれを「ベースラインの幸福度が低いほど、改善余地が大きくなる」という心理学的傾向と説明しています。
さらに、若年層(18〜34歳)は高齢者よりもウェルビーイングやストレス低下において強い効果を示していました。
もちろん、この研究にはいくつかの限界があり、ウェブベースでの自己選択型参加だったため、モチベーションの高い人が偏って参加している可能性も否定できません。
それでもなお、研究チームはこのアプローチが「低コストかつ高効率な公衆衛生施策」として大きな可能性を持つと結論づけています。
「ほんの少しの行動で、私たちの幸福は変えられる」はずです。
まずは「自然の動画を見る」「感謝リストを作る」など、すぐに始められることをやってみて、自分でもその効果を実感してみると良いでしょう。
全ての画像を見る参考文献Boost well-being and reduce stress with quick and easy daily “micro-acts”https://newatlas.com/health-wellbeing/well-being-daily-micro-acts-joy/元論文Scaling a Brief Digital Well-Being Intervention (the Big Joy Project) and Sociodemographic Moderators: Single-Group Pre-Post Studyhttps://doi.org/10.2196/72053ライター矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。編集者ナゾロジー 編集部...
新しいゲーム機が発売されると、それを購入するかどうか悩む人は少なくありません。
ゲーム好きな人でも「忙しくてなかなかプレイできない」「高い」などの理由で、ゲーム機の購入を躊躇してしまったという人は多いのではないでしょうか。
しかし、日本大学経済学部に所属する江上弘幸氏ら研究チームは、PS5(PlayStation 5)やSwitch(Nintendo Switch)などのゲーム機を所有した人は、生活満足度を向上させ、心理的苦痛が軽減されていると報告しました。
研究の詳細は、2024年8月19日付の科学誌『Nature Human Behaviour』に掲載されました。
Switch2も迷っているなら思い切って買うことで、日々の満足感が増すかもしれません。
目次
「PS5とSwitchの抽選販売」を利用した自然実験PS5とSwitchを所持していることが生活満足度を向上させていた
「PS5とSwitchの抽選販売」を利用した自然実験
ゲームに関する研究結果は様々。賛否両論。 / Credit:Canva
ゲームの影響を扱った研究は数多く存在していますが、結果は様々です。
ゲームが中毒症状を引き起こす恐れがあることを示した研究もあれば、ゲームが認知機能を高め、プレイヤーの幸福度が増すことを示唆した研究もあります。
この分野の研究の限界の1つは、「日常生活での影響を調査するのが難し
...more い」という点です。
ゲームに関する過去の研究の多くは、管理された実験室など特殊な環境で行われており、それが結果に影響を与えている可能性があるのです。
そこで江上氏ら研究チームは、新型コロナウイルスのパンデミックが生じた際に、実験室の外でゲームの影響を調査する機会を見出しました。
パンデミック中は外出が制限されるため、世界中でゲームをプレイする人が急増しました。
パンデミック中にゲーム機の需要が急増。抽選販売が行われる / Credit:Canva
これは日本でも同様であり、需要が供給に追い付かず、PS5(PlayStation 5)やSwitch(Nintendo Switch)のコンソールが不足しました。
これに対処するため、小売業者たちは、「抽選システム」を導入しています。
抽選に応募した人の中からランダムで当選者が選ばれ、その人がコンソールを購入できるようにしたのです。
実際、このパンデミックの時期に「PS5の抽選に当たった」という人もいることでしょう。
このため、この時期にはゲーム機に興味をもちながらも、実際に「ゲーム機を所持した人」と「所持しなかった人」をわかりやすく分ける状態になりました。
江上氏らはこの状況を利用して自然実験(実社会に自然に生じた現象から因果関係を分析する手法)を行うことにしました。
PS5とSwitchを所持していることが生活満足度を向上させていた
江上氏らの研究は、2020年から2022年にかけて、抽選に応募した8192人(10~69歳)を対象に行われました。
彼らをアンケート調査することで、ゲームの所有、心理的苦痛、生活満足度、過去30日間にどのくらいゲームをプレイしたかなどの情報を集めました。
PS5やSwitchの抽選に当たって所持した人は、幸福度が増した。 / Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部
そしてこれらを分析した結果、抽選に当たってPS5やSwitchを購入した人は、ゲームを所持してない人と比べて、心理的苦痛が小さく、生活満足度が高いと分かりました。
加えて、どちらのゲーム機でも、それらをプレイすることで生活満足度が高まると分かりました。
特に1日1時間以上ゲームをプレイすると、メンタルヘルスがさらに向上するようです。
しかし、1日3時間以上ゲームをする人たちの間では、このようなポジティブな効果が減少しており、長時間のプレイがメンタルヘルスをさらに改善するわけではないと分かりました。
ゲーム機を所持し、適度にプレイすることが、私たちを幸せにしているようです。
ちなみに、機種と所有者の状況には相性があることも判明しました。
PS5所持におけるメンタルヘルス上のメリットは、男性やハードコアゲーマー、子供のいない世帯でより顕著でした。
PS5とSwitchがもたらすメリットの大きさは、所有者の状況に左右される / Credit:Canva
一方、家族連れやカジュアルゲーマーにとっては、Switchを所持することでより大きな幸福感が得られていました。
江上氏は、「この違いは、PS5が通常1人でプレイするゲーム機であるのに対し、Switchが家族や友人と一緒にプレイできるポータブルゲーム機であることから生じている」と考えています。
新しいゲーム機を買う時には、自分の状況にあった機種を選択する方が、より幸せなのかもしれません。
これはゲーム機を所持しているという事自体が、生活満足度に繋がっている点や、パンデミック下の孤独感などの解消にゲームが役立っていたことを示唆しており、ゲームが人々の生活や幸福に貢献している可能性を示唆するものです。
もちろん、今回の研究は、パンデミック中という特殊な状況で行われたものであり、それゆえ限界があります。
ゲーム機の所有に関する生活満足度も、購入に際して抽選が関連しているため、ゲーム機自体の所持ではなく、抽選に当たったという満足感や喜びが関連している可能性があります。
そのため江上氏は、次のステップとして「パンデミック以外でも今回の研究結果が維持されるかどうか確認する」ことを挙げています。
全ての画像を見る参考文献PlayStation is good for you: video games improved mental health during COVIDhttps://www.nature.com/articles/d41586-024-02643-8Study suggests video game playing may have mental health benefits under some conditionshttps://phys.org/news/2024-08-video-game-playing-mental-health.html元論文Causal effect of video gaming on mental well-being in Japan 2020–2022https://doi.org/10.1038/s41562-024-01948-yライター大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。編集者ナゾロジー 編集部...
あなたのSNSフィードに、一度は流れてきたことがあるのではないでしょうか?
「What I eat in a day(私が一日に食べたもの)」または「1日の食事」と題された動画。
おしゃれな部屋、アクティブウェアに身を包んだスレンダーなインフルエンサーたちが、朝から晩までの食事を美しく紹介していきます。
一見すると健康志向でポジティブな動画に思えますが、実はこれらのコンテンツが多くの人の自己肯定感を蝕み、食行動や精神に深刻な影響を与える可能性があると警鐘が鳴らされています。
オーストラリアのサンシャイン・コースト大学(USC)の臨床心理学者、キャサリン・フーリハン(Catherine Houlihan)氏は、「私の1日の食事」動画がもたらす有害性について、臨床の現場での経験と研究結果を交えて明らかにしました。
目次
なぜ「私の1日の食事」系動画は“有害”なのか?「1日の食事」動画がメンタルヘルスに与える5つの悪影響とその対処法
なぜ「私の1日の食事」系動画は“有害”なのか?
「私の1日の食事」系の動画は、ここ10年で爆発的に人気を集め、現在では再生数が数十億回を超えるジャンルとなっています。
動画内では、インフルエンサーたちがカロリー計算を意識した食事や、「クリーンイーティング(加工食品や精製された砂糖を避け、自然由来の食品を重視するスタイル)」的な食生活を披露します。
...more
爆発的な人気を誇る「私の1日の食事」動画 / Credit:Canva
しかし、多くの動画作成者は栄養や健康に関する専門知識を持っておらず、その内容は科学的な根拠に乏しい場合が少なくありません。
動画によっては危険な食行動を助長する可能性すらあるのです。
例えば、「食事を極端に減らす(低カロリー)」「食事の一部またはすべてをスキップする」「特定の栄養素(糖質や脂質)を極端に制限する」「下剤などの使用を暗示または示唆する」といった描写が含まれていることもあります。
さらに問題なのは、それらの動画が特定の美的基準(痩せている、引き締まっている)を暗黙のうちに“正解”として提示している点です。
多くの動画には美容フィルターが使われ、カメラワークで身体のラインが強調されています。
「この食事をすれば、あなたもこんな身体になれる」という誤ったメッセージが刷り込まれる構造になっているのです。
動画のインフルエンサーとあなたは大きく異なる。当然食事も異なる / Credit:Canva
ですが、こうした前提そのものが誤りです。
人の健康的な栄養状態や体型とは、遺伝や体質、生活環境、年齢、活動量、慢性疾患の有無や服薬状況など医療的背景など、多くの要素で決まるからです。
つまり、「あの人の真似をすれば、私も同じようになれる」は幻想なのです。
むしろ、それに固執することで健康を損ねることすらあり得ます。
では実際に、「私の1日の食事」系の動画は、それを視聴する私たちにどんな影響を及ぼすのでしょうか。5つの影響を考えてみましょう。
「1日の食事」動画がメンタルヘルスに与える5つの悪影響とその対処法
「私の1日の食事」系の動画は、それを視聴する私たちのメンタルヘルスに、以下の5つの危険な影響を及ぼすかもしれません。
① 不適切な食行動の誘発
動画を繰り返し見るうちに、「もっと食事を減らさないと」「この食べ方じゃダメだ」と感じ、食事のスキップや過食・嘔吐といった異常行動を始めてしまうケースがあります。
これは、摂食障害のリスクとなる不適切な食行動(食事制限や過食・排出行動)にあたり、放置すると深刻な精神疾患へと移行する可能性があります。
② 気分の落ち込み
他人と自分を比較することで、自分の身体や食生活への不満が強まり、「自分はダメだ」と感じるようになります。
特に、低カロリーな食事を“正しいこと”と刷り込まれることで、普通の食事すら“悪”に感じてしまう危険性があります。
③ ボディイメージの悪化
動画を見過ぎると、自分の体を醜いと感じるかも / Credit:Canva
「私の1日の食事」動画を見た後、自分の体を醜く感じたり、価値がないと思ってしまう人が多いと報告されています。
2024年の南カリフォルニア大学(USC)の研究でも、そのことが扱われています。
自分の気持ちを気持ち悪いと感じ、自分の体を大切にしたり、感謝したりする気持ちが薄れる傾向があるのです。
④ 強迫観念と不安感
動画の影響で「完璧な食事」や「正しい食べ方」を求めすぎてしまうと、食事が恐怖や不安の対象になります。
また、炭水化物・脂質・タンパク質といった栄養の構成要素を過度に分析する癖がつくと、日常の楽しみであるはずの食事が義務やストレスに変わってしまう可能性があります。
⑤ 人生の焦点が狭まる
SNSが“食”と“見た目”で埋め尽くされることで、人生の価値観や関心ごとが極端に偏ってしまうことがあります。
これは自己評価や幸福感の低下を招き、結果的に全体のQOL(生活の質)を下げることに繋がります。
対処法
もし動画を見た後に落ち込むことがあるなら、それらの動画から離れ、別のことにも関心を向けるべき / Credit:Canva
「私の1日の食事」系の動画は、たとえそれが一時的な食生活の改善の意欲を与えてくれるとしても,それがあなたの身体や心に本当に合っているとは限りません。
それでもしも、これらの動画を見たあとに「なんとなく自分が嫌いになった」「今日の食事を後悔した」と感じたなら、次のことを考えましょう。
「この動画は私のために作られたものではない」
「SNSの演出は現実とは違う」
また、「不安になる動画やアカウントはフォローを外す」「食や身体以外の趣味や関心を意識的に取り入れる」などの実際的な行動も、こころを守る一助となるでしょう。
すでに摂食障害の兆候がある、あるいは誰かの様子が気になるという場合は、心療内科や精神科医への相談をおすすめします。
「何を食べるか」「どう生きるか」といった選択の結果は自分自身が受け取るものです。
だからこそ、”動画に出てくる「他人」”ではなく“あなたにとっての健康”を大切にしていきましょう。
全ての画像を見る参考文献Those ‘what I eat in a day’ TikTok videos aren’t helpful. They might even be harmfulhttps://theconversation.com/those-what-i-eat-in-a-day-tiktok-videos-arent-helpful-they-might-even-be-harmful-257127ライター矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。編集者ナゾロジー 編集部...