世界各地の紛争に介入しその解決に尽力する姿勢をアピールする一方で、ベネズエラへの軍事侵攻やグリーンランド領有の意欲を見せるなど、国際社会に混乱をもたらしてもいるトランプ大統領。そこには一体どのような「行動原理」があるのでしょうか。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の「無敵の交渉・コミュニケーション術」』では元国連紛争調停官の島田久仁彦さんが、トランプ外交の思考と言動の背景を詳細に分析。併せてアメリカの軍事力行使が国際秩序に与える影響について考察しています。※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:国際情勢を支配する大国の地政学的思考と翻弄される世界
めちゃくちゃに見えるトランプ「一連の介入」の共通点
ロシア・ウクライナ戦争の場合、実現可能性はともかく、ウクライナサイドはアメリカからの要求に戸惑い、欧州各国の横やりもあって、“戦後”のお話しについては及び腰に見えますが、ロシアについては、この戦争が簡単には終わらないことと、その終結の時期を自らがコントロールできるという立場をよく理解しており、口先ではトランプ大統領の機嫌を取るために、資源の共同開発やアメリカ系企業への解放といったカードを気前よく切って、停戦合意案でも明らかにロシアに有利な内容を勝ち取っていると言えます。
そしてコンゴ民主共和国とルワンダの国境紛争の仲介においては、明
...moreらかにコンゴ民主共和国に埋蔵されているレアアースの採掘権をアメリカが獲得することが話し合われていますし、アルメニアとアゼルバイジャンの間の和解の仲介においては、ロシアに気を遣いつつ、以前から続いているアルメニアへのサポートと引き換えに、アゼルバイジャンに対する抵抗を停止させ、アゼルバイジャンの背後にいるトルコとも話し合って、ロシア・ウクライナエリアを迂回する通商のための回廊の整備に関与しつつ、ナゴルノカラバフ経由で欧州に流れる原油・天然ガスのパイプラインの“安全”管理に絡むことで、しっかりと中央アジア地域におけるプレゼンスと資源による権益の拡大を確保する動きに出ています。
こうして見てみると、実は「どうしてこんなことをしているのか?するのか?」が分からないのではなく、一見、めちゃくちゃに見える一連の介入に共通するのは、【エネルギーおよび鉱物資源の獲得】と、【放置していると、力の空白地帯になりかねない中央アジア地区におけるプレゼンスの拡大による中ロに対する影響力の行使】だと理解することができます(もちろん、別の見方もあるかと思いますので、ぜひご意見をお聞かせください)。
ただ、“これまで”は、仲介や調停という体で米軍が直接的に実力行使をし、軍事作戦を実施することはなかったのが、この一か月ほどの間に様相が変わっています。
例えば、昨年のクリスマスに“国内のキリスト教徒を保護するため”に、ナイジェリア国内のISに対する直接的な軍事作戦を、ナイジェリア国軍と共に実行し、IS勢力を駆逐しましたが、この水面下では、アフリカ随一の原油埋蔵量を誇るナイジェリア政府とのディールがあり、ナイジェリア政府が対応に窮しているISの掃討作戦をアメリカ軍が助ける見返りに、ナイジェリアのエネルギー権益拡大への参画が約束されていたと見ています。
IS支配地域のエネルギー権益を“解放”し、その開発とアップグレード、そして精製から輸出まで含めたフルスケールでのアクセスという土産を獲得しています(アメリカにとっては、素晴らしいクリスマスプレゼントだったのではないでしょうか)。
そして今年1月3日に強行されたベネズエラへの攻撃と大統領夫妻の拘束は、先ほども触れたように、軍事的には完璧と言えるオペレーションになりましたが、これによりアメリカが目指したのは、麻薬撲滅のきっかけではなく、ベネズエラ産原油の権益であり、それは中国とロシアに牛耳られていたベネズエラ産原油権益をアメリカが一手に握り、世界最大と言われる埋蔵量(約3,030億バレル)を誇るベネズエラの原油の採掘および供給能力を回復させ(石油部門の再活性化)、一手に握ることで、OPECプラスが握ってきた原油価格に対するコントロールを奪い去る材料を手にすることになります。
トランプ政権が「ベネズエラの石油増産」を急ぐ背景
国際秩序の崩壊に繋がりかねない「グリーンランド問題」
しかし、ここで注意したいのは【ベネズエラの原油セクターの掌握が、中ロとの勢力争いに勝利するきっかけになるか?】という点です。
中国の国営石油会社のシノペック・グループ(28億バレル)、ロシアのロスザルベズネフチ(23億バレル)、そして中国石油天然気集団CNPC(16億バレル)と、中国とロシアの石油会社が外資のトップ3を占めていますが、中国にとってベネズエラは第34位の原油供与国に過ぎないため、投資先がアメリカにつまみ食いされることは癪に障るでしょうが、ベネズエラからの輸入が停止したとしても、ロシアやイラン産の原油供給先からの代替がすぐに可能であるため、トランプ大統領が望むほど、中国にショックを与えることにはならないと見ています。
ロシアについては、自国が産油国であるため、こちらについてもさほど大きなショックとはなりませんが、中ロにとっては、チャベス政権以降、高めてきた中南米地域における政治的なプレゼンスに対する打撃となるかもしれません。
総合的に見てみると、原油・石油権益をアメリカが握ることによる中ロへの影響は微小だと思われますが、中ロが外交・経済・軍事など多面的に支援しているキューバやパラグアイ、グアテマラやニカラグアといった国々に対して強化してきたコントロール力は、中南米地域の騒動が収まるまでは、低下することになると思われます。
中ロによる“アメリカ合衆国の裏庭”への影響力の伸長は、アメリカの介入の強化により控えざるを得ないのが実情だと思われます。
この中ロとの対峙については、中南米地域ではアメリカの優位が鮮明になる半面、アジア太平洋地域においては中国がよりリソースを割き、アメリカがロシア・ウクライナや中東、そして中南米に力を割かれている間にコントロールが強まるものと思われますし、習近平国家主席が宿願であり、不可分の利害と位置付ける台湾に対する軍事侵攻による併合の可能性が高まる恐れがあります。
ここにアメリカがフルコミットできなければ、中国は勢いづき、その影響を日韓や東南アジア諸国がもろに被ることに繋がり、アメリカが長年築いてきた戦略的な優位性が一気に失われる可能性が高まります。
ロシアについては、アメリカが中南米にコミットしたことで、これまで以上にロシア・ウクライナ戦争を長引かせることができる公算が高まり、一気に畳みかけるような行動に出るかもしれません。さらには、ウクライナに対する欧州各国のコミットメントが、実のない口先だけのものであることが露呈した場合には、ロシアによるバルト三国や東欧諸国への脅威と圧力が高まることが予想されます。
懸念すべきは、アメリカ政府が自国の一方的な利益追求のために軍事力を用いてベネズエラを攻撃し、主権国家の元首を拘束して米国に連れ去るという荒業を正当化していることを踏まえ、ロシアはウクライナおよび周辺国への軍事侵攻を正当化するでしょうし、中国も台湾侵攻のみならず、南シナ海・東シナ海における勢力拡大を正当化することになりかねません。
国連安全保障理事会の常任理事国5カ国中、3か国がそのような自国中心の力の外交を推し進めるようなことになれば、確実に協調と話し合いに基づく国際秩序は崩壊し、力のある者が己の欲を満たすために軍事力を行使するという弱肉強食の世界が生まれ、正当化されることに繋がります。
その恐れが本物になるか否かの分水嶺が、トランプ政権によるグリーンランド所有・領有に向けた動きとそれに対する国際社会、特に欧州各国の対応です。
トランプの気まぐれではない米国のグリーンランド所有欲
ちなみに米国がグリーンランドを欲するのは、トランプ政権になってからの気まぐれではなく、実は150年ほど前から繰り返し表明されてきた米国の外交戦略の一つであり、それは1917年にバージン諸島をデンマークから買い取った成功体験(この際はドイツのUボートヘの対抗のための拠点として購入)に基づく要請で、アメリカはこの取引を通じて、「北欧諸国(デンマーク)は、維持コストが高い自国での防衛が困難な遠隔の領土を、戦略的価値と引き換えに売却する可能性がある」という“学習”を積み上げたことが背景にあります。
実際に第2次世界大戦後の1946年に当時のトルーマン大統領がデンマークに対して...