ドナルド・トランプ前大統領のフロリダ州の自宅を家宅捜索し、11点の機密文書を押収した米連邦捜査局(FBI)。トランプ支持者の間では、以前から語られていた陰謀論を持ち出し前大統領を擁護する動きも見られますが、報道のなされ方を含むこの一連の動きを、我々はどのように見るべきなのでしょうか。今回のメルマガ『在米14年&起業家兼大学教授・大澤裕の『なぜか日本で報道されない海外の怖い報道』ポイント解説』では著者の大澤先生が、陰謀論は信じないとした上で、トランプ氏への家宅捜索を待ち望んでいた人々がいたことは容易に想像できるとし、その理由を解説。さらにこれまでのトランプ氏を巡る様々な報道を通じて感じたという、日米両国に対する強い不満を記しています。
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トランプ元大統領へのFBI強制捜査
トランプ元大統領が政府の機密情報を隠し持っている可能性があるためFBIが別荘を強制捜査したニュースが全米を驚かせました。
これは大変な事です。なんといってもトランプは前大統領であり、今も人気がある次期大統領選の共和党最有力候補なのです。
以下、CNNのHP(8月12日)からの抜粋です。
トランプ氏家宅捜索、FBIの目的は核兵器関連の機密文書
米紙ワシントン・ポストは、米連邦捜査局(FBI)が行ったドナルド・トランプ前大統領のフロリダ州の自宅「マール・ア・ラー
...moreゴ」の家宅捜索について、核兵器に関連した機密文書などの捜索が目的だったと伝えた。
ワシントン・ポスト紙の報道は、捜査に詳しい関係者の証言に基づいている。捜索の詳しい内容や、文書が押収されたのかどうかについては明らかにしていない。
メリック・ガーランド司法長官は11日、トランプ氏の自宅の捜索令状を取るという判断は「個人的に承認した」と述べ、「司法省はこうしたことを軽々しく判断しない」と記者会見で語った。
解説
十分な状況証拠があったからFBIは強制捜査に踏み切ったという内容ですね。
CNNは反トランプで有名ですが、トランプ支持派からは、これはトランプの次期大統領選への出馬を防ぐための、きわめて危険な政治的な動きだという批判が当然あります。
トランプと「ディープステート(影の政府)」との戦いという人もいます。
ディープステートとはアメリカ合衆国の連邦政府・金融機関・産業界の関係者が秘密のネットワークを組織しており隠れた政府として機能しているという陰謀論です。そしてトランプは彼らと戦っているのだというのです。
私は、これを信じません。
しかしながら、今回のトランプの家宅捜査を待ち望んでいた有力な政府機関や個人が沢山いたであろうことは容易に想像できます。
米国政府のもつ数多くの機密情報、トランプは大統領として知り得る立場にありました。
CIAの中南米での非人道的行為、ロッキードマーチン社とアフリカ独裁者との関係、中国に買収されていた有力政治家…、国益の観点から開示されていない多くの機密情報があるはずです。
しかし、どんな機密情報があるかわからないわけですから、実際に保管されている情報以上に関係者は心配しているでしょう。
「我々の恥部であるX情報も保管されているかもしれない、もしそうなら絶対公開されては困る」と思っている有力機関、個人は多いでしょう。そして彼らは「トランプにそれを見られたかもしれない」と恐れているはずです。
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今回の強制捜査で、どういった機密資料をトランプの自宅から押収したかを大雑把にでも公表されれば「少なくとも我々はトランプの関心事ではなかったようだ」と多くの有力関係者は安心できるのです。
その意味で、このFBIの強制捜査は機密の暴露を心配する関係者の要望にもそうものと言えます。
また、こういった「トランプに弱みを握られた可能性がある」と思う人達が、トランプは嘘つきであると言う印象を世界中に与え、発表する手段を奪う事を画策することも十分にありえます。
彼らがやったかどうかは別にして実際にそうなっています。
彼らが大手のマスコミに影響を与えて反トランプのキャンペーンのような展開になっているのかも知れません。ディープステートのような結社ではなくても、トランプを恐れる有力機関の力が自然に結集されているのです。
トランプ大統領、就任式の参加人数が史上最高だったなどと分かりやすいウソもついていましたが、十分に理解できる主張もありました。
特に国境の問題は人の心を動かします。以下、トランプの主張です。
全米で不法移民は1,100万人と呼ばれているが、実体はどれくらいいるか分からない。
不法入国者に難民申請されたら、裁判所出頭を条件に釈放する「キャッチ・アンド・リリース政策」は国境を有名無実化している。
優秀な外国人が真面目に移民申請して断られている一方で、不法に侵入した素性が分からない人たちに市民権を大量に与えているのはおかしい。
以前、キューバのカストロが「この国から出て行きたい奴はでていけ」と発言。カーター大統領が受け入れを発表したらキューバは刑務所の囚人を開放。アメリカに送り込みその後遺症に今も苦しんでいる。
アメリカの刑務所で税金で養っている不法移民の犯罪者は30万人以上である。
「不法滞在であっても基本的人権を侵してはならない」という名のもとに、医療保険、食料費補助、住宅補助、児童福祉、教育補助、職業訓練、運転免許証の交付までも認めている都市(サンクチュアリシティー)は不法移民の流入を促進している。
極めて真っ当な主張です。それが米国の一般市民の心を動かしました。
しかしその真っ当な主張を伝えている日本の報道機関はまれです。トランプは貧乏な白人を騙しているといった解説ばかりでした。
たとえばキャッチ・アンド・リリース政策への批判など、大統領選で大きな論争になっているにも関わらず、トランプ大統領任期の前後1年を加えた6年間で日本のTVで解説されたのを見たことがありません。
日米のように交流が盛んな2国間でも情報統制は十分にできるのだなと驚かされました。
現に今もテキサス州知事は、バイデンの人権的な国境政策に強固に反対しており、トランプの政策を支持しています。史上最高の不法移民が押し寄せているからです。
テキサス州知事は独自にトランプの壁の建造を続け、捕まえた不法移民をホワイトハウスのあるワシントンDCに搬送して釈放しています。バイデン大統領への警告であり露骨な嫌がらせです。
【関連】テキサス州知事ブチ切れ。日本メディアが伝えぬ米国の政策論争とは
しかし、それを日本のTV局や新聞はほとんど報道していません。不思議な事です。
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私がトランプ報道を通じて思う事は、米国も日本もちゃんと法治国家になってくれ、という事です。
過去、日本では田中角栄、ホリエモン等が逮捕されました。それは法を犯したから罰した、というよりも、法律を口実にして、何をするかわからない人間を縛ったという印象です。
法律の適用を人によって変えるような国は法治国家ではありません。
またそれを手助けする印象操作をする報道もよろしくありません。
米国も日本もこの問題に対して、「あのトランプだから…」と予断を与えることなく、客観的な報道をしてほしいものです。
※ 追記1:FBIの強制捜査の問題でトランプ元大統領を弁護しているわけではありません。なぜかすぐにごっちゃにされますが。
※ 追記2:もう一つ、今回のFBIの強制捜査で思う事は、日本における公的文書管理の意識の低さです。私は「もり・かけ・さくら」の問題はつまらないと思っていました。しかし、ひとつだけ十分に議論してほしいことがありました。公的文書の改ざん問題です。安倍首相への支持・不支持とは関係なく今も議論すべき問題と思っています。
(この記事はメルマガ『在米14年&起業家兼大学教授・大澤裕の『なぜか日本で報道されない海外の怖い報道』ポイント解説』8月14日号の一部抜粋です。この続きをお読みになりたい方はご登録ください。初月無料です)
社会の分断化を推し進める「バランスを欠いた報道」を見極めるために
メルマガ『在米14年&起業家兼大学教授・大澤裕の『なぜか日本で報道されない海外の怖い報道』ポイント解説』 では、在米14年の経験と起業家としての視線、そして大学教授という立場から、世界で起きているさまざまなニュースを多角的な視点で分析。そして各種マスコミによる「印象操作」に惑わされないためのポイントを解説しています。8月中であれば、8月配...
あるAnonymous Coward 曰く、先日、米連邦捜査局がトランプ前大統領の自宅に捜索に入ったが、朝日新聞の記事によると、押収品の中に最高機密を含む機密文書多数が含まれていることが分かったそうだ。
米フロリダ州連邦地裁はこの捜索の捜索令状と押収品のリストを開示したそうだ。それによると、容疑は、防衛機密に関するスパイ防止法、公文書の隠匿や破棄を禁じる法律、捜査妨害目的の文書隠匿を禁じる法律への違反で、押収品には最高機密を含む機密文書が多数含まれていたようだ。今回の容疑では、司法当局は、トランプ氏が防衛機密に関わる文書を持ち出したことを重視しているらしい。米紙によると、捜索の目的の一つは核兵器に関する機密文書の発見があるようだ。
容疑が事実とするなら、国家の最重要機密が容易に持ち出されたことになり、トランプ氏の資質が更に問われることになりそうだ。
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米連邦捜査局、トランプ前米大統領の自宅を捜索
2022年08月10日
2021年に核兵器の法的禁止を謳う「核兵器禁止条約」が発効するも、プーチン大統領の核使用をちらつかせる威嚇等もあって、核軍縮の流れが大きく停滞しています。このまま世界は核軍拡の方向に傾いてしまうのでしょうか。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では元国連紛争調停官の島田さんが、現在国際社会が直面しているさまざまな危機を詳説。さらにロシアの核兵器が今後の核軍縮・核廃絶の動きを大きく左右するとしてその根拠を解説するとともに、ウクライナ戦争の即時停戦の重要性を説いています。
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核兵器は過去の遺産か?それとも現在進行形の未来に向けた脅威か?
8月1日には国連本部(ニューヨーク)でNPT再検討会議が開幕し、8月6日には広島で、8月9日には長崎で原爆投下から77年目の式典が開催された「核兵器ウィーク」となりました。
それらすべての会議や式典で岸田総理は演説を行いましたが、その中で【77年前の原爆投下の悲劇と記憶を忘れてはならない】という過去から現在、そして未来に向けてのメッセージと【核なき世界の実現に向けた決意】が述べられました。
同時に【現在進行形で継続しているロシアによるウクライナ侵攻(ウクライナでの戦争)において、常にロシアによる核兵器使用の脅威が存在していることへの“懸念”と“非難”】
...moreが強調されました。
今年の2月24日以降、ロシアのプーチン大統領が再三、核兵器の使用を厭わないといった趣旨の発言を行い、世界は核軍縮から核軍拡へと進むのではないかという脅威が、再度、私たちの意識に上ってきました。
グティエレス国連事務総長は広島の式典で「第2次世界大戦後、20世紀の間、国際社会は核軍縮、そして究極的に核廃絶に向けた機運を高めてきたが、ロシアによる核兵器使用の可能性の強調は、21世紀に入って再度、核軍拡が進みかねない禁断の扉を開けてしまう可能性がある」と強い懸念を表明しました。
私も昨年4月以降、へいわ創造機構ひろしま(HOPe)のプリンシパル・ディレクターとして「核なき世界の実現」に尽力し、「核兵器が存在する未来は決して持続可能な社会ではない」と訴えかけ、ユースを含む様々なステークホルダーと共に未来に向けたトレンドづくりに携わっていますが、【どのようにして核なき世界を実現するか】という具体的な道程については、まだ明確に描けずにいます。
その中でも【核保有国を核なき世界の実現に向けて巻き込むにはどうすればいいか?】【新たに核保有国となったインド、イスラエル、北朝鮮、パキスタンなどを同じく巻き込むためにはどのような要素が必要か】【核廃絶の問題を、持続可能な未来づくりという観点とどう結びつけ、橋渡しをすべきか】といった問いにまだ答えを見つけられずにいます。
そのような時に、現状の国際社会では【核なき世界の実現】に向けた機運に冷や水を浴びせかけそうな状態が起きています。
1つ目は【ウクライナでの戦争を機に鮮明になった国連安全保障理事会常任理国(P5)間での不可逆的な分断】です。
現在、ニューヨークの国連本部で開催中のNPT再検討会議でも、米英仏陣営の論調は、自らが保有する核兵器の削減や軍縮に言及しないにもかかわらず、核兵器使用をちらつかせるロシアと核軍拡を進める中国への非難一色ですが、中国とロシアは【自国の国家安全保障上の権利と義務という観点から、米英仏などからの脅威に対するために核兵器は“まだ”必要】との主張を繰り返し、会議そのものの話し合いを妨害しているようにも見えます。
そして今週に入って、ロシアはアメリカと延長で合意した新START(新戦略兵器削減条約)で定められた“相互査察”を一方的に停止する旨、アメリカに通告し、今後、ロシアの真の核戦力の姿がベールに包まれて把握しづらくなるという不穏な事態を招いています。
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NPT体制においては、米ロ(ソ)中英仏の“核保有国”は、核兵器の廃絶を念頭に、核戦力の削減と軍縮をする義務を負い、その他の国々は核兵器を開発・製造・配備しないことが合意されていますが、これらの義務も合意内容も明らかに守られていません。1945年8月9日に長崎に原爆が投下されて以降、核兵器は使用されてはいないため、核抑止といった幻想が国際政治上、信じられてきましたが、その間もインドとパキスタンは核戦争前夜と言われるまでの緊張を経験しましたし、中東においては常にイスラエルとイランの間での“核の緊張”が存在します。そして、わが国日本も巻き込んだ北東アジア地域では、現在、北朝鮮が恐らく20発の核弾頭を保有し(SIPRIの情報による)、いつでも配備できる状態になったという新たな現実が、核の脅威としてその影を落としています。
日本は、ロシア・中国・北朝鮮・アメリカ合衆国という核戦力に四方を囲まれる非常に特異な安全保障環境に置かれていますが、アメリカは日本に核の傘を提供する“同盟国”なので直接的な脅威ではないとしても、残りの3か国とは常に緊張関係にあるという現実を再認識せざるを得ない国際情勢になっています。
そんな中、広島と長崎でアメリカによる原爆投下から77年目の式典が開催されました。
広島と長崎での式典の様子および原爆投下直後の悲惨な様子を報道する映像を、意図的にウクライナでの惨禍のニュース映像と重ねるという【ウクライナ問題を核兵器の脅威とリンクさせるイメージ戦略】に対しては、個人的に若干の危機感と違和感を覚えましたが、それらの映像が広島と長崎の鎮魂の様子を伝えつつ、どれだけの人に、実際に日本にも再度迫る核の危機を意識させる効果があったかは疑問です。
そんな中、8月1日に日本経済新聞が報じ、欧米メディアも相次いで報じたのが【中国が新疆ウイグル自治区に設置しているロプノール核実験場で地下核実験施設を拡大している】というニュースです。
これに対して中国政府は否定も肯定もしていませんが、各国の軍事衛星がとらえた映像はその情報を裏付けるような内容を映し出していました(これに対して「欧米の陰謀論だ!」「欧米が作り上げた偽の映像だ」という日本の識者もおられましたが)。
今年1月3日国連安全保障理事会で、常任理事国である米英仏中ロの5か国(P5)は共同で「核戦争に勝者なし」と宣言し、「核兵器なき世界という究極目標に向けて、着々と軍縮を進展させる決意」を述べていますが、その後、ロシアは核兵器の使用をちらつかせて、ウクライナを支援する世界を威嚇し、中国はNPTの開催中に地下核実験場の拡大という、NPTの精神に反する行動に出ています。
そして、時期はずれますが、英国政府は核戦力の拡大を国際社会に宣言しました。
中国の行動については、その目的についてさまざまな見方があるようです。例えば「これは対アメリカ・対中国包囲網の参加国に対する威嚇と抑止力の向上を意味する」という意見もあれば、「習近平国家主席が掲げる中国の軍事力拡大の要請に応え、2049年までに米軍の能力を超えるという目標に応える方策として、急速な核戦力の拡充に走っている」という意見もあります。
私はそのどちらも適切な指摘だと考えますが、もう一つ、今、核実験の拡大を“あえて世界に見せる”理由として挙げたいのは【台湾に対する軍事的なオプション】という“中国統一(台湾の併合)”のための最終手段として“見せる”と同時に、先週のペロシ米連邦議会下院議長の訪台への抗議の材料としても位置付けているのではないかと恐れています。
果たしてどうでしょうか?
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ペロシ下院議長は自身の長い議員生活を通じて、ずっと中国の人権問題への懸念を提起し、天安門事件の後には、人権蹂躙の現実に対して天安門広場に赴き、プラカードをもって抗議するという行動にも出ています。
天安門広場に行かれたことがある方には、それがいかに恐ろしい行動かお分かりになるでしょうが、案の定、その先には中国の治安警察と対峙して退去されるという外交上の事件も起こしています。米中間の微妙な相互理解の下、あまり本件は大きく扱われませんでしたが、中国共産党にとってペロシ氏は常に要注意人物であったと言われています。
ゆえに、彼女が大統領権限継承順位第2位の高官であるという事実だけではなく、ペロシ氏の一貫した対中強硬姿勢を受けて、中国政府、そして中国共産党は、彼女の訪台に激しく抗議したのだと、複数の北京における知り合いから聞かされました(米軍機での訪台という示威行為も、北京の怒りを買ったという...
自由民主党「唯一の戦争被爆国として、『核兵器のない世界』の実現に向け、現実的な歩みを着実に進めるべく国際社会をリードしていく。深刻な事態が続くウクライナ情勢、中...