核兵器の惨禍を伝える象徴である原爆ドームの「特別史跡」への格上げは、被爆80年を迎える今、「物言わぬ証人」である被爆建物を後世に残していく意義を改めて問うている。
イスラエル軍がイラン西部アラクの重水炉を攻撃したと発表しました。イスラエルがイランの核開発能力を弱める強い意思を示した形です。1分で読めて役に立つ「サクッとニュース」、今回は「イスラエルとイランの核施設攻撃」について解説します。
被爆者の全国組織「日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)」が18、19の両日、東京都内で定期総会を開いた。イスラエルによるイランの核施設攻撃などで国際情勢の緊張が高まる中、「核兵器使用のリスクが今…
昨年ノーベル平和賞を受賞した日本原水爆被害者団体協議会(被団協)の代表委員、田中重光さん(84)=長崎市、長崎原爆被災者協議会長=が鹿児島市を訪れ、講演会などで核兵器の廃絶を訴えた。今年は被爆80年。8月に広島と長崎で原水爆禁止世界大会も開かれる。田中さんは「核兵器禁止条約に日本も参加せざるを得なくなる空気を国民の力で作り、政府に圧力をかけてほしい」と話した。
核戦争にすら発展しかねないイスラエルとイランの軍事衝突に対し、国際的な懸念が高まっている。これに関して、「イスラエルのネタニヤフ首相は、軍事衝突をエスカレートさせなければ議会を解散され、下野すれば逮捕されてしまう」一方で、「イランのイスラム保守政権も、イスラエルという敵がいなくなれば改革派の突き上げで国が瓦解してしまう」という構図を指摘するのは米国在住作家の冷泉彰彦氏だ。「平和になったら困る」人間はイスラエルだけでなくイランやハマスにすら存在し、それぞれが自身の延命や保身のために戦争を利用しているという。(メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』より)※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:中東紛争のメカニズムを考える
多くの日本人が理解できない、イスラエルとイランが衝突する本当の理由
イスラエルのイランに対する攻撃は、その規模が大きく、また全体的に相当な決意を込めた行動という印象を与えました。このために、イランとしては同様に相当程度の反撃を決意せざるを得ず、即座に規模の大きな反撃を行っています。反撃には反撃で応えるということで、相互の応酬が止まりません。
現状としては、とにかく事態は悪化の一途を辿っています。イスラエルの側は、当初のイラン軍幹部や核科学者の暗殺というピンポイント作戦にとどまらず、油井への攻撃を含むインフラ破壊も開始しています。
一方で
...more、イラン側の攻撃はイスラエルの事実上の首都であるテルアビブだけでなく、複数の都市に対する攻撃へと拡大しています。特にイスラエル自慢の迎撃システム(アイアン・ドーム)の能力を超える飽和攻撃も試みており、被害が拡大しています。
例えばですが、この間に続いたイスラエル=ガザ戦争との比較で言えば、ガザの場合は背後にイランがスポンサーでいたわけですが、今回のイランによる攻撃はより規模が大きくなっているようです。ガザが使用していたミサイルより大型で射程が長く、搭載している爆弾も大きなものを飽和攻撃に使用しているので、迎撃漏れが起きた場合の被害は深刻になっています。
一方で、イランは領内の制空権を確保できておらず、イスラエルが新世代の戦闘機を使って侵入、攻撃、帰還を繰り返すのを阻止できていません。これに無人機や偽装トラックによる侵入などを組み合わせてくるので、被害を止められないようです。
戦争は被害の応酬であり、被害は自己正当化と憎悪の拡大をもたらします。その意味で、既に深刻な戦闘状態というのが両国内で発生しており、これを直ちに停止に持っていくのは難しい状況です。従って、解決策についての具体的な提言というのは、現時点では非常に難しいのが正直なところです。
今回は、従いましてこの紛争の原因と継続のメカニズムについて考察してみたいと思います。
政権維持のため戦争を欲するイスラエル。だがそれだけが原因ではない
まず、イスラエルの側ですが、現在のネタニヤフ政権は非常に難しい政権運営の綱渡りを続けています。ネタニヤフ政権といえば、民間人犠牲を躊躇しないように見えるガザへの激しい攻撃を遂行したことなどから、強硬派に見えます。ですが、イスラエル国会の勢力分布の中では、極右ではありません。もちろん保守ですので、中道や左派とは厳しく対立していますが、超保守派とも対立しています。
その対立点は2点あります。1つは、ネタニヤフ氏自身を含む政権中枢が汚職疑惑、具体的にはカタールなどの外国勢力からの収賄を疑われているということです。こちらはすでに検察が動いており、逮捕状も出ていますから、政権を降りた瞬間に逮捕される可能性があります。
もう1つは、宗教保守派の徴兵問題です。一口にユダヤ教といっても、狭義の厳格さという点でさまざまな濃淡があるのですが、中でも厳格な保守派というのは、戒律に対して厳格に従うというライフスタイルを持っています。彼らは、モーセの十戒の中にある「汝(なんじ)殺すことなかれ」に忠実ですので、兵役を忌避します。ですが、現政権はガザにおけるハマス、レバノンにおけるヒズボラとの戦争を継続する中で、この宗教保守派への徴兵をしようとしています。
これに対しては保守派と中道左派が連携して対抗しており、特にこの問題で議会を解散に追い込む構えです。これに対して、ネタニヤフ氏は解散イコール政権交代となる可能性が高く、その場合は自身が逮捕されるかもしれないので、絶対にこれは認められません。現在はガザの戦役が最終段階となり、緊急事態だから国会を開かないとか、解散できないといったロジックが使えなくなっています。
そんな中で、野党連合は議会を解散に追い込むための法案を数段階用意しており、このままですと法案が一つずつ通り、その結果として解散になってしまいます。非常に複雑な動機ですが、ネタニヤフ政権には明白な戦争状態を作って、議会の活動を停止するという動機があったと考えられます。(次ページに続く)
イランも重度の戦争病。「イスラエルという敵」がいなければ内部崩壊する
さて、一方のイランですが、どうして核兵器の開発を進めているのかというと、これも全く別の政治的動機があります。イランは、1978年から79年にかけて発生した「イラン革命」によって、王制を廃止してイスラム共和国、つまり宗教国家に変わりました。
当時はまるで、腐敗してアメリカと結託したパーレビ国王は悪であり、パリに亡命していたホメイニ師は善であるかのような報道もされていましたが、そんな単純な話ではありませんでした。
革命当初から、イランの中には主として3つのグループがありました。1つは、宗教革命を強く推し進めてイスラム法に厳格な生活様式を徹底したいという宗教勢力、2つ目は当時はアメリカに対抗して中東への浸透を企図していたソ連と連携しようという社会主義勢力、そして3つ目は近代的なライフスタイルをある程度守ろうとする改革派でした。
やがて、2番目の社会主義勢力は消えてなくなり、宗教勢力と改革派が対立するようになりました。近年は、特に女性のヒジャブ着用強制などを巡って、この両者は激しく対立していたのです。宗教勢力は改革派を「外国勢力からの工作」だと非難して弾圧し続けていますが、公正な選挙を行うと改革派の大統領が勝つという状況が続いています。
ホメイニ、ハメネイと続いた宗教指導者が国家の最高指導者となって、絶対的な権力を行使してきた歴史があるのですが、この女性の人権問題は、場合によっては国家の分断、あるいは宗教共和国の崩壊につながる可能性も持っています。
一方で、核開発ですが、これは革命以前からイランでは研究されていたことでした。理由は単純で、豊富な埋蔵量を誇っていたイランの石油が枯渇することを恐れて、原発など代替エネルギーを確保しておこうという国策が原点でした。
いずれにしても、国内に深刻な対立を抱えるイランは、どうしても「団結のためには敵が必要」だったのです。敵としては、革命当初は「クルド人の分断勢力(独立派)」が徹底的に攻撃されて弾圧されました。やがてイラン=イラク戦争でのイラクとの対立を経て、その後は「イスラエルを認めないというアラブの大義」を強く押し出すようになります。
これは実はおかしな話です。イスラエルに奪われたパレスチナを取り返すというのは、確かに一時代のアラブ世界にとっての「大義」でした。ですが、イランとは元来がペルシャであり、ペルシャ語圏ですからアラブではないのです。また、イスラエルとイランの間には、国境はありません。直接国境を接していないし、イラクのように領土紛争が起きる可能性もないのです。
そうなのですが、イランの宗教勢力にとっては、自分たちが中東の中で少数派のペルシャ文化圏であり、同時に少数派であるシーア派を宗教とする中で、自分たちが中東のそしてイスラムの「盟主」でありたいのです。ですから、そのためには、どうしてもイスラエルとの紛争の前面に立ちたいという心理に縛られてしまうのでした。(次ページに続く)
イスラエル、イラン、ハマスにすら存在する「平和は困る」者たちの正体
この点でイランがライバル視しているのがサウジアラビアです。メッカ、メジナというイスラムの聖地を抱え、イスラムの盟主を自負するサウジが、テクノロジーや金融を中心とした「脱石油ビジネス」においてイスラエルと連携しようとしています。イランは、これを敵視し、サウジを憎みつつ、イスラエルへの憎悪を国家の団結の軸にしようとしてきました。
手段としては、ガザのハマス、レバノンのヒズボラを支援して「対イスラエルの代理戦争」を仕掛けることが続きました。ですが、この間の紛争により、ハマスもヒズボラも戦闘能力を喪...