ニューヨークで開かれた国連総会の一般討論演説では、各国の首脳らが国際情勢などについてそれぞれの立場を表明した。中ロなど米国との深い対立を抱える国々は国連の舞台でも対決姿勢を強め、世界の分断ぶりを印象…
世界各国の首脳や閣僚らが集う国連総会(193カ国)の一般討論演説は26日、最終日を迎える。国連の多国間主義の重要性を確認する年に1度の機会だが、参加を見送った大国の首脳も目立ち、途上国からは不満の声も漏れた。機能不全が指摘される安全保障理事会など国連改革の必要性を唱える声は高まるものの実現は遠い。
イタリアのメローニ首相が2023年9月20日(米東部時間)に行った国連総会の一般討論演説で、「私たちは、国家のない、国境のない、アイデンティティのない世界は紛争のない世界でもあると言う人々の、ユートピア的で利己的な物語を拒否しなければならない」とする訴えを展開した。
ロシアによるウクライナ侵攻は言うに及ばず、世界各地で発生する紛争や止まらぬ人権侵害を解決することができずにいる国際社会。国連や安保理の機能不全が叫ばれていますが、もはや国際協調の時代に戻ることは不可能なのでしょうか。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では元国連紛争調停官の島田さんが、分断がほぼ固定化されブロック化が進む世界の現状を詳しく解説。その上で、自身が国際交渉人として日本政府に期待すべき役割を提示しています。
もう戻らない世界協調の時代。分断が固定化された国際社会
「国連安全保障理事会がウクライナの問題を取り上げ、支援について話し合うように、世界が直面する気候変動の脅威に対して国連はもっと関心を示し、コミットメントを高めるべきだ。ウクライナにおいてかけがえのない生命が奪われている現実に心を痛めるが、気候変動による自然災害により、より多くの人の生命が世界中で奪われ続けている。国連は本気でグローバルな問題に目を向け、真剣かつ迅速に対応しなくてはならない」
これは9月19日にUNで開催された気候変動対策についての首脳級会合で、バルバドスのミア・モトリー首相が訴えかけた内容です。
この発言を聞いたとき、正直驚くと同時に、国際情勢における関心の潮流が変わったことを実感しました。
ロシアによるウクライナ侵攻が勃発した際、バルバドスを含む多くの
...more国々はロシアによる蛮行を非難し、ウクライナの人々に思いを寄せる姿勢を明確にしましたが、侵攻から1年半以上が経ち、戦況が膠着化する中、ロシア・ウクライナ双方による破壊と、欧米諸国とその仲間たちが課す対ロ制裁の副作用が、途上国を苦しめている状況に直面すると、報道されている内容とは違い、その他大勢の国々の関心はウクライナ問題から離れていることが分かります。
そして同時に途上国を中心に広がる国連および先進国への焦りと怒り、そして苛立ちも明確になってきました。
“正義のために”という名目の下、欧米諸国とその仲間たちは湯水のようにウクライナに資金提供を申し出て、継続的な支援を約束していますが、世界レベルで深刻化する気候変動問題や、スーダンにおける内戦と国民的な悲劇、ミャンマー情勢、アフガニスタン情勢をはじめとする多くの国際問題に対して及び腰または無関心を装う国連と欧米諸国とその仲間たちへの不満が爆発し始めています。
ブラジルのルーラ大統領も「ロシアによるウクライナ侵攻は看過できない蛮行であると考えるが、ウクライナにも負うところはあるはずだ。世界はあまりにもウクライナ問題に関与しすぎ、本当に助けを必要とする大多数の人々から目を背けていないだろうか」と自省も込めて発言していますし、グローバルサウスの軸を務めるインドのモディ首相も、他の国々と共に、国際問題に対して積極的に関与することを発言しています。
欧米諸国とその仲間たちが何もしていないかというと語弊がありますが、ウクライナに対する熱狂(とはいえ、日ごとに冷めてきている気がしますが)に比べて、スーダンの問題やエチオピアでのティグレイ問題、ミャンマー情勢やアフガニスタン情勢に対するコミットメントへの熱情を感じることができません。
実際、国連の人権高等弁務官であるヴォルカ─・ターク氏も、人道支援を統括するマーティン・グリフィス事務次長も、国連安全保障理事会の場で「スーダンの惨状について報告し、その際、安保理の実質的な機能マヒにより、スーダンの人々に対する人道的支援が停止しており、スーダンはすでに国際社会から見放されている」という厳しい指摘がされていますが、安保理常任理事国の完全なるスプリットの影響を受けて、何一つ効果的な策を講じることが出来ていません。
かつて国連安全保障理事会のお仕事もしていた身としては、非常に残念であり、強烈に懸念を抱く事態になっています。
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より紛争を激化させる方向に進む国際社会
国連および国連安保理が機能していない現状を受けて、各国・各地域は、国連に図ることなく、自ら“気の合う仲間”と“問題解決”に乗り出す傾向が強まっていますが、どうしてもその対応は公平とは言えないため、より紛争を激化させる方向に進んでいます。
私も調停に携わったナゴルノカラバフ紛争についても、今週、アゼルバイジャン側からアルメニア人勢力に対する攻撃を行い、あっという間にナゴルノカラバフにおける実効的な支配を確立しましたが、本件の解決に際し、国連の姿は全くなく、実質的にはロシア軍の平和維持軍が両国の仲介をする形で停戦に導いています。
ただこのナゴルノカラバフでの武力衝突におけるロシアの平和維持軍の仲介の背後には、現在の国際情勢を映し出す特徴が見え隠れしています。
先のナゴルノカラバフ紛争の際には、ロシアは軍事同盟に基づき、アルメニアの後ろ盾としての立場を取り、停戦協議においては、アゼルバイジャン側の後ろ盾であるトルコ政府と直接協議の上、紛争を収めたという経緯がありますが、今回は、アルメニア政府を説得し、アゼルバイジャン側が求めるアルメニア人勢力の武装解除を飲ませる以外に方法はなく、実質的にはアゼルバイジャン側の全面的勝利のアレンジをしたことになります。
これにより、地域におけるロシアの影響力の大きな低下が明らかになり、頼る相手がいなくなったアルメニア政府のパシニャン首相としては、取り急ぎ、アゼルバイジャン側の停戦条件を呑み、急ぎ新たな後ろ盾を探す必要に駆られています。
国内からの非難を受け、「無計画な強硬措置に出るべきではない。ただし、攻撃を受けた場合には、軍事的な対抗措置を取ることを排除しない」という発言をし、争いを避けようとしているように見えます。
しかし、現在、あまり報じられていませんが、アルメニア国内ではパシニャンは弱腰だと非難し、退陣を要請するような事態に発展しています。
今年7月に米軍と合同軍事演習を行い、アゼルバイジャン側への対抗をしようと目論んでいたようですが、これがロシアとトルコを刺激し、パシニャン政権に圧力をかけて欧米への接近を一時的に停止したため、見捨てられたと感じたナゴルノカラバフにアルメニア人勢力が一方的に作ったステパナケルト市を中心とする“ナゴルノカラバフ共和国”の構成員が蜂起し、それを好機ととらえたアゼルバイジャン軍が一気に“制圧”にあたったというのが、どうもストーリーのようです。
このような状況に本来ならば国連安保理が乗り出し、何らかの調停案を提示するのですが、今回も“地域における解決”という形で、国連の出番は与えられないままという状況になっています。
そしてこれまでであれば、ここでロシアが乗り込んできて紛争を“解決”するのですが、ロシアはウクライナへの侵攻を機に、遠くの友人は増えるものの、自らが裏庭と呼ぶ近隣諸国の支持を失い、次第に影響力を失っています(そしてそこに滑り込んでくるのが、中国とトルコです)。
この状況は実はウクライナ情勢にも大きな影響を与えることになっています。
先述の通り、ロシアは対ウクライナではまだ軍事的には優勢を保っているという分析が多いのですが、これが全世界的なレベルで見てみると、ウクライナへの侵攻で消耗するがゆえに、近隣諸国への差配にまで手が回らず、ロシアがもっとも嫌う欧米諸国がどんどん影響力を強めるという状況になっています。
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国連加盟の33%の国々が見せるロシア寄りの姿勢
中東諸国やアフリカ、南アジアなどではまだまだロシアの影響力は強く、ウクライナ侵攻の後でも拡大傾向にあると言われていますが、旧ソ連の共和国で、かつプーチン大統領が目指す“大ロシア帝国の再興”のパズルの駒になるはずのスタン系諸国(カザフスタンやウズベキスタンなど)が挙って欧米諸国への接近を進めていることで、仮にロシアに有利な形でウクライナ侵攻が一段落したとしても、かつてのような大ロシア勢力圏は戻ってはこないと思われます。
そして中央アジア諸国が、ロシアによるウクライナ侵攻に対して距離を置く理由は「次は我が身」という恐れによるものより、「もともとロシア、ウクライナ、ベラルーシは不可分の兄弟姉妹のようなものであり、この紛争も内輪もめに過ぎない」という、他国とは違った見方をしているからだと考えられます(そして、限りなく現実的な認識だと思われます)。
とはいえ、ロシアがいつ自国に牙をむいてくるかわからないという恐れはあるため、ウクライナがNATOやEUへの加盟を模索するように、スタン系の国々も欧米諸国を対ロバランサーとしての存在に据え...