データの処理・通信・保存などを行うデータセンターは、現代社会に欠かせないデジタル・インフラです。しかし、近年はAI(人工知能)やビッグデータを筆頭とする先端技術の台頭により、大量の高性能プロセッサをフル稼働させるために必要な電力・水の使用量がさらに増加するなど、需要拡大に伴う環境への影響やコスト増加が重要課題となっています。
このような中、データセンターの省エネ・節水、エネルギー効率の向上、環境に優しい運用、コストの調和を目指す取り組みとして、「液体冷却技術」が注目を集めています。本稿では、持続可能なデータセンター・インフラ整備のカギを握る次世代液体冷却技術と、欧米スタートアップの取り組みをレポートします。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・銘柄への投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
※本記事は2024年10月31日時点の情報をもとに執筆されています。最新の情報については、ご自身でもよくお調べの上、ご利用ください。
目次
急増するデータセンターの電気・水消費量
従来のデータセンター冷却技術と課題
「液体冷却技術」が注目されている理由
欧米の次世代データセンター液体冷却技術スタートアップ3社
4-1.単相液浸冷却技術・廃熱再利用で環境負担・コスト軽減「Submer」(スペイン)
4-2...more.持続可能な液体冷却技術のパイオニア「LiquidStack」(米国)
4-3.マイクロコンヴェンティブ液体冷却技術で特許取得「JetCool Technologies」(米国)
まとめ
1.急増するデータセンターの電気・水消費量
データセンターはデータの処理・通信・保存など、デジタル・インフラの中核的な役割を果たす施設です。近年はインターネットの広範囲な普及に加え、AI(人工知能)・ビッグデータ・IoT(モノのインターネット)・クラウドサービス・暗号通貨マイニングなどの新技術やサービスの発展が、データセンターの需要をさらに高めています。
需要増加を背景に問題視されているのが、エネルギー及び水の使用量増加に伴う気候変動への影響です。データセンターでは常時稼働しているサーバーやネットワーク機器が大量のエネルギーを消費する一方で、サーバーを適切な温度に保ち、過熱を防ぐための冷却システムにも電力と水が必要です。一部のデータセンターは水を加熱して発生させた蒸気から電気を供給したり、静電気の発生を抑制する目的でも水を使用しています。
国際エネルギー機構(IEA)によると、世界のデータセンターの消費量は過去数年にわたり、年間20~40%のペースで増加し続けており、2020年にはデータセンター及び通信ネットワークによる温室効果ガス(GHG)排出量が世界のエネルギー関連総排出量に占める割合は1%に達しました。一方で、2021年の水の消費量は8億4,000万リットルと2015年と比較して14%増加しました。
参照:IEA「Data Centres and Data Transmission Networks」
参照:ING「Growth In Water Consumption Of Data Centres Needs More Attention」
データセンターの需要は益々高まることが予想されており、それに伴い電気及び水の需要も増え続ける見込みです。例えば、Goldman Sachs Research(ゴールドマン・サックス・リサーチ)はデータセンターの電力需要が2030年までに160%増加し、世界の総需要の3~4%を占めるようになると予測しています。
参照:Goldman Sachs「AI Is Poised To Drive 160% Increase In Data Center Power Demand」
2.従来のデータセンター冷却技術と課題
このような背景から、エネルギー消費の効率化がデータセンターの持続可能性を確保する上での重要課題となっています。冷却システムの改善もその一つです。冷却システムに使われる電力がデータセンターの総消費電力の30%を占めているというデータもあることから、高密度化し続けるデータセンターの需要に対応しつつ、エネルギー消費量・コストの削減に役立つ高効率で持続可能な冷却システムの必要性が増しています。
参照:Science Direct「A survey on data center cooling systems: Technology, power consumption modeling and control strategy optimization」
2024年10月現在、主流となっている冷却技術は「空調冷却」と「液体冷却」の2つです。放熱に空気や水を使う空調冷却システムは世界中のデータセンターで広範囲に利用されており、メンテナンスが容易な点がメリットです。しかし、テクノロジーの進歩により効率化が進んでいるものの、依然として冷却能力には限界があるため、膨大な熱量が発生するハイパー・スケール施設などには不向きとされています。フロン系冷媒(炭素とフッ素の化合物)が使用されることが多いため、環境負担も問題視されています。
3.「液体冷却技術」が注目されている理由
空調冷却に代わる技術として注目が高まっているのが、液体冷却技術です。液体冷却は熱伝導効率が高いため、空調技術と比較して最大3,000倍もの冷却効果が期待できるほか、エネルギー及び水の消費量が少なく、静音性に優れているといった特徴があります。液体冷却技術は熱伝導性の高い冷却液を使用して電子機器から発生する熱を効果的に吸収し、外部に放出するという仕組みになっており、以下の3つの手法が主に活用されています。
技術
仕組み
液体浸漬冷却
(Liquid Immersion Cooling)
非導電性の誘電性液体が入った密封容器にサーバー機器を浸し、冷却する技術です。単相液浸冷却では液体を循環させて冷却し、二相液浸冷却では液体を沸騰させ蒸気に変えることで冷却します。
チップへの直接冷却
(Direct-to-chip:DTC)
チップへの直接冷却法です。チューブを通してチップ上部に設置されたプレートに液体を流し込み、高出力部品から熱を除去する技術です。冷却液は循環し、再利用されます。
リアドア式熱交換器
(Rear-door heat exchangers)
IT機器のファンから排出される熱風をサーバーラックの背面にある液冷却装置で冷却し、その空気を室内に循環させる技術です。
一方、デメリットとして、初期導入コストが高く、メンテナンスが複雑で漏水リスクがある点などが挙げられます。通常、既存の施設に導入するためには、大規模なインフラ工事やスタッフへのトレーニングが必要となります。一方、浸漬冷却剤の熱伝導流体(鉱油・合成油・フロンベースの液体)はDTCで使用される水ベースの冷却剤ほど熱伝導性に優れていないため、プロセッサの発熱を抑える意図で最大消費電力やパフォーマンスが制限される可能性があります。
参照:Enconnex HP「Data Center Liquid Cooling vs. Air Cooling: Factors to Consider」「Examining Data Center Liquid Cooling: Immersion vs. Direct-to-Chip Systems」
参照:JetCool HP「2024 Data Center Cooling Solutions: Microchannel, Microconvective & Immersion Cooling」
4.欧米の次世代データセンター液体冷却技術スタートアップ3社
従来の空調・液体冷却技術が直面している様々な課題に対応すべく、最近ではより効率的で安全性が高く、環境負担とコストが低い次世代液体冷却技術の開発が進んでいます。ここでは、最先端技術を駆使してデータセンターの持続可能な未来開拓を目指す、海外スタートアップ3社の取り組みを紹介します。
4-1.単相液浸冷却技術・廃熱再利用で環境負担・コスト軽減「Submer」
2015年にバルセロナで設立されたSubmer(サブマー)は、独自のモジュール式単相液浸冷却デバイス「SmartPod(スマートポッド)」の開発を通し、環境への影響を最小限に抑えながら、卓越したパフォーマンスとコスト軽減を目指すスタートアップです。
同社は、屋外・過酷な環境...