2025年7月9日
早稲田大学
東京都市大学
TIS株式会社
岡山理科大学
工学院大学
バーチャルでの自己開示がリアルを超える リアル・バーチャル・ビデオ通話を比較し、自己開示の効果を検証
詳細は早稲田大学HPをご覧ください。
【発表のポイント】 ●ビデオ通話やバーチャルリアリティ(VR)でのオンラインコミュニケーションが普及しつつあることをふまえ、対面で対話するリアル、ビデオ通話、2つのバーチャル(リアルアバターと非リアルアバター)の4つのコミュニケーションメディア※1で、人間関係や絆を築く上で中心的役割を果たす自己開示について定量的に測定・検証しました。 ●自己開示の程度はリアルよりバーチャル(特に非リアルアバター)の方が統計的に有意に高く、ビデオ通話とリアルとの間に大きな違いは見られませんでした。 ●性別組合せも自己開示に影響を及ぼし、コミュニケーションメディアに関わらず、その程度が最も高い組合せは女性同士でした。
教育や仕事などのさまざまな場面において、オンラインコミュニケーションが普及しつつあります。人間関係の構築と維持に不可欠とされる自己開示が、オンラインとリアルのコミュニケーションで異なるのかを理解することは、新たなコミュニケーションツールを考える上で
...more重要です。
早稲田大学人間科学学術院教授の市野順子(いちの じゅんこ)、TIS株式会社 テクノロジー&イノベーション本部セクションチーフの井出将弘(いで まさひろ)、岡山理科大学経営学部教授の横山ひとみ(よこやま ひとみ)、工学院大学情報学部准教授の淺野裕俊(あさの ひろとし)、東京都市大学メディア情報学部教授の宮地英生(みやち ひでお)、同学部教授の岡部大介(おかべ だいすけ)の研究グループは、リアル、ビデオ通話、2つのバーチャル(本人と似ているリアルアバターと、似ていない非リアルアバター)の4つのコミュニケーションメディアを介した対話の比較を通して、(1)ビデオ通話やバーチャルはリアルと比べてどの程度自己開示が促されるか、(2)性別組合せはこれにどのように影響するか、を調査しました。その結果、(1)バーチャル(特に非リアルアバター)はリアルより、個人的な感情の開示の程度が1.5倍以上高い一方で、ビデオ通話はリアルと大きく違わない、(2)コミュニケーションメディアに関わらず、自己開示の程度が最も高い性別組合せは女性同士で、個人的な情報の開示でその傾向が顕著である、との結論が得られました。
本研究成果は、「Behaviour & Information Technology」のオンライン版に2025年6月4日に公開されました。
論文名:Effects of new communication media and gender on self-disclosure
キーワード:自己開示、バーチャル、VR(バーチャルリアリティ)、アバター、ビデオ通話、オンラインコミュニケーション、リアル、性別
(1)これまでの研究で分かっていたこと
自己開示はコミュニケーションにとって不可欠な要素であるため、リアルでの対話での自己開示に関する研究もさることながら、従来のコミュニケーションメディアであるテキストや音声を介した対話での自己開示に関する研究も、非常に活発に行われてきました。テキストや音声を介した対話は、リアルでの対話よりも、自己開示が促されることが多くの研究で示されています。しかし、ビデオ通話やバーチャルという新しいコミュニケーションメディアがリアルと比較して、自己開示が促されるかについてはほとんどわかっていませんでした。
(2)新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと
今回の研究では、72ペア(144人)の参加者を対象に、リアル、ビデオ通話、2つのバーチャル(本人と似ているリアルアバターと、似ていない非リアルアバター)の4つのコミュニケーションメディアのいずれか一つを用いて、個人的なトピック(例:「記憶から消してしまいたい出来事」)について、ペアで対話(相互に自分のことを話す)してもらう実験を行いました(図1)。参加者の自己開示の程度を、言語行動、非言語行動、生理的反応、参加者自身の認識(アンケート)など、複数の観点から定量的に評価しました。以降では、それらのうち、言語行動と参加者の認識の結果を示します。
図1 実験で使用した4つのコミュニケーションメディアでの対話の様子(プライバシー保護のため、リアル、ビデオ通話、リアルアバター条件の顔部分はぼかしを施している。アバターの視点はリアル、ビデオ通話と同様に一人称視点である。)
◆検証(1)ビデオ通話やバーチャルはリアルと比べてどの程度自己開示が促されるか?
【言語行動】
発話ごとに、3つのカテゴリ(情報、思考、感情)各々について自己開示のレベルを評定し、自己開示のスコアを求めました(図2)。その結果、開示されにくいカテゴリ(感情、思考、情報の順)になるほど両者の差は開き、統計的な有意差が見られたのは感情のカテゴリ(不安、不満、憂鬱、恥、恐怖などに関すること)でした。一方、ビデオ通話はリアルと大きな違いは見られませんでした。
【参加者の認識】
参加者の対話中の認識(対話相手にどの程度自己開示できたかなど、図3)と将来に対する認識(対話相手に将来どの程度自己開示できそうか、図4)について、複数のアンケートを用いて測定しました。その結果、いずれのアンケートでも、コミュニケーションメディア間で大きな違いは見られませんでした。
参加者の認識の結果(主観的データ)と言語行動の結果(客観的データ)を照らし合わせると、バーチャル空間では、人は特別な意識を払うことなく自己開示を行える可能性が示唆されます。
図2 自己開示のスコア(コミュニケーションメディア間の比較)
図3 対話相手にどの程度自己開示できたかなどについてのアンケート(コミュニケーションメディア間の比較)
図4:対話相手に将来どの程度自己開示できそうかについてのアンケート(コミュニケーションメディア間の比較)
◆検証(2) 性別組合せは自己開示にどのように影響するか?
【言語行動】
自己開示のスコアを求めた結果、女性同士(開示する側の性別もされる側の性別も女性)、異性同士、男性同士の順にスコアが高く、情報のカテゴリ(本人の外見、性格、経験、家族などに関すること)の開示でその傾向が顕著でした(図5)。これらの結果は、リアルでの対話を調査した多くの社会心理学の知見と一致します。
【参加者の認識】
参加者自身の認識を複数のアンケートを用いて測定した結果、ほぼすべての項目で、最も高い評定値を示したのは言語行動と同様に女性同士であった一方、最も低い評定値を示したのは言語行動(男性同士)とは異なり女性から男性への開示でした(図6、図7)。
検証(1)と同様に、参加者の認識の結果(主観的データ)と言語行動の結果(客観的データ)は必ずしも一致せず、女性は男性との対話において、心理的には警戒しているものの、その警戒心は自己開示行動に必ずしも反映されないことが伺えます。
図5:自己開示のスコア(性別組合せ間の比較)
図6:対話相手にどの程度自己開示できたかなどについてのアンケート(性別組合せ間の比較)
図7:対話相手に将来どの程度自己開示できそうかについてのアンケート(性別組合せ間の比較)
(3)研究の波及効果や社会的影響
バーチャルはリアルと比べて個人的な感情に関する自己開示が促されるという結果から、感情表出に関連するさまざまなVRサービスへの発展的な適用が期待されます。自己開示は心の健康に深く関わる要素であり、今後、その支援に対するニーズはますます高まると予想されます。これにより、心理カウンセリング、キャリア支援、ライフスタイルの相談、ストレス解消など、さまざまな分野での有望な適用が可能となり、例えば以下のようなサービスが考えられます。
●うつ病・認知症・がん・適応障害・不安障害等の患者や、さまざまな心の症状をもつクライアントが、セラピストと対話するカウンセリングや...