大型連休明けの5月8日に東京都立川市の市立第三小学校で起きた、同校に通う女児の「保護者の知り合い」という男性による襲撃事件。各種報道によれば「いじめ問題の話し合いのこじれ」に起因するとのことですが、識者はこの事件をどう見たのでしょうか。今回のメルマガ『伝説の探偵』では、現役探偵で「いじめSOS 特定非営利活動法人ユース・ガーディアン」の代表も務める阿部泰尚(あべ・ひろたか)さんが、学校関係者や保護者らから掴んだ情報を詳しく紹介。その上で、多数のいじめ事件に関わってきた立場の人間として、容疑者たちの行いを決して赦すことがでいない理由を記しています。※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:立川、小学校襲撃事件
探偵が掴んだ「立川小学校襲撃事件」の報道されない情報
東京立川市でトンデモない事件が起きた。
東京都立川市錦町にある立川市立第三小学校に、二人組の男が襲撃をしたという事件が5月8日、速報で流れた。
当初の速報を検索してみると、報道もかなり慌てていたようで、「3人組が小学校に侵入」とあった。
事件は5月8日午前11時ごろ、東京都立川市の立川市立第三小学校から110番通報が入り、警察官が駆け付け、小学校に侵入し暴行を働いた男らを緊急逮捕した。
情報を整理すると、8日午前9時ごろまで同校2年生の女児児童の母親と男性担任が、女児児童が被害を受けたといういじ
...moreめについて話し合いをしていたということである。
話し合いは決裂した模様で、一度帰った母親は、襲撃の実行犯となる46歳の男に連絡をした。46歳の男と27歳の男は母親の女と共に小学校に侵入し、特定の女児児童の名前を叫びながら、2年1組の男性担任を持っていた緑色の焼酎の酒瓶で殴打した。
児童らによれば、2年1組の担任は出血し、酒瓶は割れていたそうだ。通報は2年2組の担任から「教室の鍵を閉め、机や椅子でバリケードをしているからこちらは大丈夫だが、1組に暴漢が侵入している」、駆け付けた教頭らが「2人の男が学校に侵入し暴れている」と110番通報があったそうだ。
激しい暴行を受けたのは2年1組の担任と校長であったそうだが、教員らは男らを1階の職員室の方へ誘導し、その隙に児童らは体育館に避難した。鍵が閉まっている職員室のドアのガラスを割られたり、破壊するなどの行為もあった。取り押さえようとするなどした教諭らは5人が軽いけがとのことだが、白昼の小学校を襲撃したこの二人組の男は、いじめ被害の相談をしていた母親の友人であるとのことだった。
本来安全であるはずの小学校を、その学校の保護者が主体的にどこかの暴れ者を連れ込んで暴行侵入事件が起きたという前代未聞のこの事件は、学校の安全という社会の秩序を大きく損なうものであり、普段いじめ被害者側に寄り添っている私からしても、とんでもない事件だと言わざるを得ないし、目の前で起きた事件によって子どもたちの心に深い傷を与えただろうから、心のケアは何よりも先にやってもらいたいと思うのだ。
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誰もが違和感を持った「朝9時」という話し合いの時間
ちなみに私の情報源によると、5月8日は避難訓練がある日で、当初は避難訓練なのかと思ったそうだが、校内放送で「これは訓練ではない」という旨が流れ、騒然となったそうだ。
また、報道によれば9時に母親は学校と話をしていたそうだが、この時間に誰もが違和感を持ったそうだ。
時間割では1時間目が8時40分から9時25分であるから、授業の真っただ中のことであったろうから、話し合いのアポイントなどは無く、怒鳴り込んできたのではないかとのことであった。
また、侵入した46歳の男と27歳の男は、いわゆる輩風であり、酒に酔った様子であったそうだ。2階にある2年生の教室から廊下は、お酒の匂いが残っていたとの証言もあった。
また、46歳の男は警察に「制止されたので振り払っただけ」と容疑を否認しているようだが、各証言によれば、この46歳の男が30代の母親(保護者)と知り合いで、学校との交渉の不満をもっており、特定の女児児の名前を叫び、担任を狙い撃ちして酒瓶や拳で殴ったという。つまりは狙い撃ちをしており、酒を飲んだのも、後に酩酊状態で前後不覚を主張しようと計画していたとも考えられる。刑法39条の心神喪失、心身衰弱による無罪減刑を狙っていたのであれば、より悪質である。
まず、教育委員会と学校は、一切の容赦をする事はなく、この件に当たって被害届を警察に出して前代未聞の事件としてしっかり刑事罰を求めるべきだ。
そして、報道機関においては警察記者クラブでの様々な制約があるだろうが、少なからず、実行犯にあたる2人の男らの名前やその背景を報じていいように、警察広報と交渉してもらいたい。
一方、仮にいじめがあってその対応が疎かになっていたのであれば、こうした事件があったとしても別事件としてしっかり調査をする必要がある。ただし、この保護者がとった行動は凶行であり、その責任は取るべきであろう。
私はもう20年以上いじめの被害者やその保護者からの相談を受け対応しサポートしてきているから、憤りを感じる学校の態度や隠ぺい工作の汚さは目にしているが、例えどんなことがあれ、絶対に暴力に訴えてはならないのである。ましてや、白昼、無関係のこどもがたくさんいる小学校を襲撃するなど、絶対にあってはならないことだ。
ハッキリ言って、この凶行には私はいじめ被害者の皆さんに批判されるかもしれないが、強い怒りを感じている。これまで多くの被害者やその保護者が握りしめた拳の中で、爪が食い込み血が流れる思いをしながらも、粘り強く積み重ねてきた様々な実績を1つの暴走で全てを崩壊させてしかねない凶行は、多くの人の涙や汗を共にしてきた者として赦しようがないのである。
一方で、なんでこんな馬鹿なことをしたのであろうか、そこまで追い詰められていたのであろうかとも思う。
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いじめ被害者家族が何よりも先に行うべきこと
我が子がいじめを受けたと知ったとき、どんな親でも動揺する。そして、冷静な判断が難しくなる。普段、冷静沈着な人物でも、仕事で難しい事件を仲裁するようなトラブルに慣れている人物でも、普段の冷静さを失うのだ。しかし、そんなとき、親がどういう姿を子どもに見せるかが重要になってくる。
親は完ぺきではないし完全無欠の超越者ではない、一皮むけば生身の人間で、弱くもあり、強くもあるものだ。
そして、そもそも、学校の対応には限界があり、問題解決能力はほとんどないと言える。一方、被害者側にだけ大きな負担がかかる傾向になる。
まず、学校にはスクールロイヤー等専門家群が用意されているが、テレビドラマのような専門職の動き方はなく、例えばスクールロイヤーにいじめ被害者やその保護者が直接相談できるような対応はない。彼らロイヤーに相談する場合は、学校でも教育委員会にどういう相談をしたいかをかなり具体的に申請して、相談するケースが普通なのだ。
それでも、学校は専門家に相談できるが、被害者は様々な無料相談窓口を利用できても、そうした機会は限られている上、結局依頼するとなれば費用が掛かるわけだ。
いじめ被害を受けた子どもが学校に通なくなり、希死念慮がつよく、一人にしておけないケースも多くある。こうした場合、夫婦のいずれかが仕事を辞めざるを得ないとなるケースも多くある。
つまり、被害者には公的インフラやサービスがほとんど用意されていないのだ。そして、これは地方自治等が窓口になることが基本だから、地域差が天と地ほどあるのだ。
スクールカウンセラーやソーシャルワーカーについても学校差や地域差、地方自治の予算や制度の差は明らかにある。
例えばカウンセラーは週に1度の決まった時間にしか相談を受けることができないと嘆いている人もいるし、結局先生の相談ばかり受けているという人もいる。様々な問題に対応することができる専門職も労働環境は非常に不安定であり、結局は、誰かの犠牲の上に成り立っているのが現状と言えよう。
だからこそ小さな団体ながら、私が率いるNPO法人ユース・ガーディアンは完全無償にこだわるのであるが、受けられる数には限界があり、常に資金は枯渇し、人がいない状況となり、中心となる私は対処療法のみで1日の大半を取られてしまうわけだが、それでも私は、相談を受ける際に必ず、「正攻法」以外は取るべきではないとアドバイスしている。
そして、学校や教育委員会、私学であれば学校法人などが、明らかないじめがわかっていながらも、対応しないケースは多くあり、それでも粘り強...