ウクライナの停戦協定を巡り、急接近を見せるアメリカとロシア。従来の国際社会の枠組みを覆しかねないこの動きは、ガザ紛争解決の裏でも進みつつあるようです。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では元国連紛争調停官の島田さんが、ウクライナ・ガザ両紛争解決に向けた各国の外交に垣間見える「大きな地殻変動」を詳しく解説しています。※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:突破口が閉じそうな紛争調停の機運‐ウクライナとガザ、中東を巡る“薄氷を履むが如し”の交渉
「外交的解決」は何を意味するのか。突破口が閉じかねない紛争調停の機運
「ガザ復興の真の基盤は、コンクリートや鉄鋼以上のものになるでしょう。それは尊厳、自己決定権、そして安全です」
これはアントニオ・グティエレス国連事務総長が3月4日に開催されたアラブ連合の首脳会議に出席した際に行った演説の一部です。
まさにその通りだと思いますが、同じことはロシアによるウクライナ侵攻以降、国内を激しく破壊されてきたウクライナにも当てはまる内容だと考えます。
グティエレス事務総長のこの発言部分の背景には、2月4日のトランプ発言(ガザをアメリカが所有し再開発するが、ガザのパレスチナ人は周辺国に恒久的に移動しなくてはならない)や、今週、ずっと話題になっているホワイトハウスでのゼレンス
...moreキー大統領との“口論”の原因の一つにもなった“アメリカからの支援の条件にウクライナのレアアースの権益を譲る”というトランプ提案への強い反発があると感じています。
ガザでの緊迫した状況も、ウクライナでのいつ終わるか分からず人々が絶望の淵に立たされ続ける状況も、残念ながら決定的な解決の糸口が見えて来ず、復興の話題を盛り上げるのは時期尚早という声も実は多く聞かれますが、それでも“一筋の希望の光”がないと正直やってられないというのも、また実情かと感じます(これは紛争調停や仲介に尽力する者たち人とっても同じです)。
グティエレス事務総長は「復興のためには、国際社会は国際法の基盤に忠実でありつづけ、あらゆる形の民族浄化を拒否し、政治的な解決を模索することを意味します」と述べて、イスラエルとハマス、ロシアとウクライナ、そしてその仲介を行うアメリカやカタール、エジプトといった“当事者”に外交的な解決を求めるものと捉えていますが、この“外交的解決”が何を意味するのかを巡って、共通した認識が存在しない、というのが、調停に関わり、また今週、ニューヨークに来ていろいろな内容について協議している時に感じることです。
ホワイトハウスでトランプ大統領とゼレンスキー大統領、そしてアメリカのヴァンス副大統領を交えた激しいやり取りにおいても、この「外交的解決が何を意味するのか?」という認識の違いが口論の口火を切ったように見えます。
ウクライナが敗戦国であるかのように進められる停戦協議
アメリカにとっては(そしてロシアにとっても)、それは「2大国である米ロがまず国際秩序の観点から話し合い、分断した世界に秩序を取り戻すことが先決で、そのためにまず米ロで落としどころを探る」ということを意味し、ロシアとの交渉のバランスを取るには、アメリカはウクライナへの軍事支援を継続することが大事だが、そのためには担保としてウクライナのレアアースからの権益を、支援と引き換えに譲らないといけない、ということに、アメリカとウクライナが合意しなくてはならない、というロジックだと考えます。
しかし、ウクライナにとっては、アメリカおよびNATOによるウクライナの安全保障の確約、つまり二度とロシアに自国の領土を蹂躙されないことへの保証がないと、戦後の話をすることはできないし、ましてや「自国の重要な収入源であり、戦後復興の原資となり得るレアアースの権益を渡すなどということは到底約束できない」というのが筋であるという一線を明確にするのが、米・ウクライナ間の“外交的な解決”の条件でしょう。
ただ、その外交的解決なるものを議論するにあたり、ウクライナはロシアに侵略されている当事者であるにもかかわらず、停戦に向けた条件を含む全体の枠組みを話し合う場には呼ばれておらず、米ロ間で勝手に進められる状況に大きな危機感を抱き、調停グループのメンバーの表現を借りると、「恐怖さえ感じている」ようです。
「外交的解決を目指す」というのは聞こえもよく、好ましい調停の形とされることが多いですが、それは当事者すべてがequal standingで話し合いに臨むことが大前提であり、まだ交戦中にどちらかの降伏という状況が起こらない限りは、一方的な結果を押し付けられることはないというのが“共通理解”のはずです。
しかし、ウクライナ問題に関する“外交的解決”のやり方を見ていると、あたかもウクライナが敗戦国であるかのような前提で進められ、その行動を戒め、“望ましい解決”を押し付けるというような雰囲気が存在するように見えてなりません。
ウクライナ問題の解決において、完全に蚊帳の外に置かれた感じが否めず、かなり焦っている欧州各国はアメリカとロシアの間“だけ”で進められるディール・メイキングに危機感を募らせていろいろと口を挟んでいますが、当のトランプ大統領もプーチン大統領も全く相手にしていないのが現状です。
ホワイトハウスでの惨状(ゼレンスキー大統領がやり込められた)を見て、欧州各国は挙ってウクライナ支援およびゼレンスキー大統領支持を表明していますが、これはいろいろな話を総合的に分析してみると、明らかにディール・メイキングへの参加の機会を見つけ、少しでも分け前(外交的な成果と戦後復興における利権)を確保しようという魂胆が見え見えの状況が存在します。
ワシントンDCから傷心のまま、渡英したゼレンスキー大統領は、スターマー首相とロンドン市民から温かく迎えられ、首脳会談の場でスターマー首相は英国のウクライナへの支援の方針に変わりはないことを表明し、ウクライナが求め、トランプ大統領が提示してきた欧州軍による平和維持活動のための駐留に応える旨、表明していますが、これを額面通りに捉えて、「英国はウクライナを見捨てない」と前向きに評価する状況に少し違和感を抱きます。
英国はこれまでスナク前政権からストームシャドーなどを提供し、ウクライナへの支援を行ってきていることは事実なのですが、対ウクライナ支援の規模ではアメリカやドイツには到底敵わず、実際には口先で気前の良いことを言って、なかなか支援を出さないというのが現状です。
再び姿を現し始めた従来からの力による支配の構図
トランプの「威嚇」に上がる非常に強い怒りの声
同様の状況はガザ情勢を巡る国際的な取り組みにも顕著に見て取れます。
冒頭のグティエレス事務総長の訴えかけの内容に全く異論はなく、私は心から支持しますが、実際にはガザ情勢を巡る諸々の話し合いや協議において、国連は相手にされておらず、こちらもまたアメリカが台風の目になり、イスラエルやアラブ諸国を巻き込んで、“今後とのこと”を決める構図になってきていることは否定できない現実になっているように見えます。
そして恐れていたことが3月5日夜に起きました。トランプ大統領がSNSを通じて、ハマスに最後通牒を突き付けたことで、アメリカが明らかに親イスラエルの立場を取り、ハマスの言い分には一切耳を傾けることなく、厳密には“紛争部外者である”アメリカが紛争当事者に対して一方的に対応策の実施を命じるという状況が生まれました。
Post-Gaza Warの復興支援についてアラブ諸国が団結して、具体的な内容をこれから協議しようという協力と協調に向けての機運が高まってきた矢先に、その団結に氷水を浴びせるような威嚇をアメリカが行ったことに対しては、アラブコミュニティはもちろん、ニューヨークにおける外交コミュニティにおいても非常に強い怒りの声が上がっていることをご紹介しておきたいと思います。
ウクライナを巡る問題へのアメリカ政府の対応とは異なり、対イスラエル・ハマスへの対応の背景には「10月7日の“ハマスによるテロ事件”にUNRWAの職員が加担していた」という、国連にとっては非常に不都合な真実が存在しますが、それでも、これまでガザ地区の一般市民に対する人道支援の実施において、国連の存在は不可欠なものであったこと、そして不可欠でありつづけることは変わらない事実だと考えています。
しかし、実際には国連はすでに停戦協議の枠組みからは取り残され、国連事務局の政治・平和維持局の内部にあるMedication Support U...
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