超一流の料理の腕と親しみやすいキャラクターとが相まって、「中華の鉄人」としてお茶の間の人気を博した陳建一さん。先日67歳の生涯を閉じた陳さんですが、何が彼の旺盛なサービス精神を支えていたのでしょうか。今回の無料メルマガ『致知出版社の「人間力メルマガ」』では、同じ料理家である中嶋貞治氏との対談の模様を紹介。そこで、陳さんの「目指していた到達点」が語られていました。
中華の鉄人、陳建一さんのサービス精神
各界の一流たちが訪れる中華の名店・四川飯店の二代目・陳建一さんが2023年3月11日に67歳でお亡くなりになりました。
陳さんは「中華の鉄人」としてメディアに出演し、雑誌、料理学校の講師など幅広い分野で活躍されました。陳さんを偲び、弊誌掲載の対談記事をご紹介いたします。
※ 対談の御相手は、新宿割烹 中嶋の二代目店主・中嶋貞治さんです。
陳 「伸びていく子はちゃんといて、そういう子は一緒に仕事をしているとすぐに分かっちゃう。
例えば、どこかのホテルに仕事に行くとするでしょう。仕事の内容は決まっているけど、僕からは事前の指示は何も出さないの。だいたい長く一緒にやっている子は、何をすべきかが分かるからそれなりに動ける。
料理を提供するっていう最終目的があるわけだから、それに向かって準備すればいいわけだから。
そういうことをパッパッパッてやれる子はどんどん伸びる。これをやっておいたほうがいい
...moreだろうなって考えられるから、どんどん動くことができるのね。
反対に次に何の指示が来るのか待っている子は伸びない。もちろん指示を出せば、間違いなくやるけど、自分からは動けないの。その違いだよね」
中嶋 「陳さんがいま言ったことは、おそらく料理の世界以外にもあてはまるんじゃないかな。例えば会社勤めの人もそうだと思う」
陳 「その場の状況を見て、いまこれが必要だと感じたらスッと動くことができる人。要はどれだけ気が利くかってことだよね」
中嶋 「マニュアルの先に何があるかを読めるかどうか」
陳 「僕の場合、まだ親父が生きていた頃はよく出張料理についていったんだけど、いかに親父が一番仕事をやりやすい状態をつくるかが僕の仕事だった。
うちの親父はこういうことはしませんから、こういう形でお願いしますとか、先方と一つひとつ交渉してさ。とにかく細かいことも含めていろんなことを考えなきゃいけなかったから、いつの間にかせっかちになっちゃった(笑)」
中嶋 「それって結局段取りだよね。例えば、この日にこの料理を出すということが決まっていて、そのためにはこの食材を用意しておかないといけない。特に必要な数が多かったら、何日も前から仕入れの準備をすると。
ただこういうことって、教えればすぐにできるかといったら、そういうふうにはいかない」
陳 「そう。簡単に教えられるものじゃない。それに持って生まれたものって人間必ずあると思うの。僕が親に感謝しているのは、初対面の人でも気兼ねすることなく笑顔でペラペラ喋れちゃう性格に産んでくれたことかな」
中嶋 「その点、陳さんのサービス精神はさすがですよ」
陳 「僕の考え方は単純で、料理人イコールサービスマン。料理人よ、サービスマンたれと。だからうちの店では、ご存じのとおり、お客さんがいつでも調理場の見学ができる。そうすと皆が笑顔で迎えるでしょう。
見られることで弟子たちも成長する。料理人だからって料理をつくっているだけじゃダメ。うちはディズニーランドを目指しているんだから。
ただ、職人の中にはそういうのが嫌いなのもいる。すごい技術を持っているけど、黙って集中するとか笑顔が出ないとか。僕はね、そういう職人はそっとしておくの。だってできないものは、できないんだから」
中嶋 「カウンターでお客さんのお相手をしながらつくれるのもいれば、調理中に声を掛けられても、いまこっちに集中しているから勘弁してくださいっていうのもいる。これはもう向き不向き」
陳 「しょうがないよね。それはその人間が良い悪いという問題とは違うからね」
中嶋 「料理人もタイプはいろいろいるけど、いい料理人というのは、どれだけ愛情を持てるかですよ。お客さん思い、料理思い、それから後進思い。この三拍子が揃っていれば文句なしじゃないかな」
陳 「よく料理人として一流になりたいって言うじゃない。僕はそういう意識は全然なくて、それよりもきょうお店に来てくれたお客さんに喜んで帰ってもらうために全力を尽くすだけ。
あとはもう他人が評価してくれることだから、自分でどうこう言うもんじゃない」
中嶋 「食べ手が10人いれば、つくり手も10人いる世界だから、最後は好みの問題ですね」
陳 「そう。料理の世界は嗜好の世界だから」
※本記事は『致知』2017年4月号 特集「繁栄の法則」より一部抜粋したものです
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