東日本大震災の発生から14年が経過してもなお、津波からの避難という課題は多くの地域で深刻なままだ。特に、高台が近くに存在しない、あるいは高齢者や障がいを持つ人々のように迅速な垂直避難が難しい人々にとって、安全な避難場所の確保は喫緊のテーマと言える。この「逃げ場がない」という現実を終わらせるべく、株式会社セットアップ横浜が株式会社クラミー技術研究所と共同で、地下型津波避نانシェルター『オクト5』の開発プロジェクトを始動させた。地上ではなく、地下へ。この逆転の発想が、津波避難の新たな常識を築くかもしれない。「命のインフラ」を担う企業の使命感と「オクト5」の具体像セットアップ横浜は、建設業界で半世紀以上の実績を持つ奈良建設株式会社の100%子会社として2010年に設立された企業。「インフラをつくる企業だからこそ、防災という“いざというときの命のインフラ”にも責任を持ちたい」という強い思いを設立の背景に持つ。同社は創業以来、「災害時に“本当に使えるもの”を届ける」という信念のもと、防災・防犯用品の開発と供給を継続。机上の空論や一時的な流行に流されず、現場の声に真摯に耳を傾け、利用者の視点に立った製品開発を心がけてきたという。近年では、避難先の衛生環境や移動困難者の避難手段といった、防災分野で見落とされがちな課題にも積極的に光を当てている。今
...more回の『オクト5』開発も、そうした企業姿勢の表れと言える。『オクト5』は、地中に設置する密閉型の避難シェルターで、津波による強大な水圧や浸水から人命を保護するために設計された新しいタイプの避難施設だ。その主な特徴として、地上からスロープでアクセス可能で、階段を使わずに避難できる点が挙げられる。内部は水密構造となっており、外部からの浸水を完全に遮断する。十数名の収容能力を持ち、地域の小規模な避難所としての機能も期待される。さらに注目すべきは、平常時の活用法。倉庫や休憩所、あるいは防災学習のスペースとしても利用できるため、設置場所の有効活用にもつながる。地下設置型であるため、街の景観を損なうことなく常設できる点も、都市部や平地の多い地域にとっては大きなメリットだろう。© セットアップ横浜/YouTube実証フェーズへ移行、社会実装に向けたパートナーシップの呼びかけこの画期的な地下シェルター『オクト5』は、2025年春より実証フェーズへと移行し、製品化と社会実装に向けた動きを本格化させる。セットアップ横浜は、このプロジェクトを成功に導き、一人でも多くの命を救うため、全国の自治体、企業、研究機関などからのパートナー参画を広く募集している。津波対策は、ハード面だけでなく、避難計画や地域住民の防災意識向上といったソフト面との連携も不可欠。多様な知見や技術を持つパートナーとの連携を通じて、より実効性の高い津波避難システムの構築を目指す考えだ。防災は、災害時の不安を軽減する“社会のセーフティネット”であり、そのインフラを具体的に形にすることが、同社の使命だとセットアップ横浜は述べている。日本は世界有数の地震・津波多発国であり、南海トラフ巨大地震のような大規模災害の発生も懸念されている。従来の避難方法だけでは対応しきれないケースも想定される中、『オクト5』のような新しい発想の避難施設は、防災対策の選択肢を広げ、より多くの人々の安全確保に貢献する可能性を秘めている。この「地下へ逃げる」という新常識が、今後の日本の津波対策にどのような影響を与えていくのか、その動向が注目される。Reference: 津波シェルター「オクト5」© iStock.com / Ignatiev