自民・公明両党の「現金給付」案が、世論の反発によって立ち消えになった。参院選前のバラマキであることが有権者にバレバレとなると、あと残された手は「消費税減税」くらいしかない。ところが、自民の森山幹事長は財務省の言いなり。石破政権は庶民が求める「減税」を決断できない機能不全に陥っている。元全国紙社会部記者の新 恭氏が詳しく解説する。(メルマガ『国家権力&メディア一刀両断』より)※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:減税を避け、現金給付も断念。迷走を続ける自公政権の“思考停止”
自民党「現金給付」狂騒曲
この一週間余り、大手メディアの政治部記者たちは、政府が物価高対策として全国民一律に現金給付するかどうかをめぐって混乱し続けた。
きっかけは、4月8日夜、自民党の森山幹事長が突然、首相公邸を訪れたことだった。「石破首相に現金給付の検討を求めた」。そんな情報が流れた。
その翌日、自民党の小野寺政調会長は視察先の群馬県太田市で記者団にこう語った。
「林官房長官から視察中に電話があり、経済対策を党で取りまとめるよう指示があった」。
森山幹事長から要請された現金給付について、石破首相が林官房長官を動かしたということだろう。
このとき小野寺氏は「経済不安が国内景気に及ぼす影響を分析する必要がある」と述べ、党内議論を急ぐ考えを示した。実は太田市での視察に向かう前、すで
...moreに小野寺氏は公明党の岡本政調会長とこの件について国会内で協議していた。
その後、9日から10日にかけ主要メディアで「現金給付」という言葉が躍りはじめた。
《自民、公明両党は9日、米国の関税措置や物価高の対策として、国民一律の現金給付を行うよう政府に要求する方向で調整に入った》
これは読売新聞オンライン4月10日の記事だ。朝日新聞デジタルは9日のうちに「独自」と銘打って報じていた。
「選挙前の現金給付」では騙せなかった世論
自公政権がまたしても愚かな政策に手を伸ばそうとしているのか、と世間は訝り、怪しんだ。
なんでも、自民党では一人3万~5万円を現金支給するべしとの声が強く、公明党は10万円程度を主張しているとか。選挙を前にして全国民一律に何万円かを配るお得意のバラマキ政策。これまで何度やっても経済活性化につながらなかったというのに、ちっとも懲りていないのではないか。
石破政権は「年収103万円の壁」を178万円に引き上げて国民の手取りを増やすという国民民主党の政策を、7~8兆円もの財源がいるという理由で拒否したばかり。なのに、現金給付とはどういうことか。かりに国民1人当たり5万円を給付するとなれば6兆円をこえる財源が必要とされる。
国民の榛葉幹事長が「我が党が減税やろうというと、財源がないと言っておいて、選挙の前に給付金をまくのはできると言うのですか。トランプショックを利用して選挙運動みたいなことやらない方がいい」と憤ったのも無理はない。
まさかの世論反発に「現金給付」案を引っ込めた自民党
現金給付に対する世間の芳しくない反応を受けて、石破官邸や自公幹部の言動に変化が見られたのか、同じ読売新聞が11日にはこんな記事を出した。
《与党が夏の参院選を意識し、物価高と米国との関税問題への対策として、消費税減税や現金給付を行うべきだと政府に圧力を強めている。》
明らかな軌道修正である。野党だけでなく、自民党内でも旧安倍派を中心に消費税の減税を求める声が強い。支持率アップを必死に狙う石破首相はそれに応えたい気がないではない。だが、財務省のくびきから逃れられない森山幹事長ら党幹部が懸念を示し、「現金給付」に傾いている。今のところ「消費税減税」と「現金給付」を並立させておくしかない。そのような印象を抱かせる記事だった。
メディアの報じ方は、さらに変化してゆく。産経新聞(11日)の記事は「消費税減税」「現金給付」の折衷案のようなものになった。
《自民、公明の与党は、物価高を受けた経済対策として、食料品を対象にした時限的な消費税減税の検討に入った。減税実現には法改正などで時間がかかるため、「つなぎ」の措置として国民一律の現金給付も行う方針で、政府に要求する。》
消費税減税の「検討」には入ったが、時間がかかるので「つなぎ」の現金給付を行うというわけだ。参院選を乗り切るための“おとり”として、いずれ消費税減税をやるように見せかけ、結局は「現金給付」で国民の気を引く戦略かと思われた。
しばらくの間、各メディアは、物価高対策のため補正予算案を組む方針の石破首相が「消費税減税」をとるのか、「現金給付」を選ぶのかという報道に明け暮れた。
「現金給付ではなく消費税減税」の可能性は残っているが…
ところが、である。15日になって、情勢は急転回する。その朝、テレビ朝日政治部官邸キャップの千々岩森生氏が「羽鳥慎一モーニングショー」に出演して、こう話した。
「現金給付は一気にしぼみました。3万とか5万とかいろんな案が出ていたが、今は減税と、それからもう少し違う対策があるんじゃないかというふうにシフトしている」
そして15日夜。「政府、与党は経済対策を念頭に置いた2025年度補正予算案について、今国会の提出を見送る方向で調整に入った」(毎日新聞)など、現金給付見送りを意味する記事が配信されるにおよび、ブレまくった一連の現金給付報道はほぼ終息した。
自民党内で補正予算編成への期待が膨らんでいるにもかかわらず見送りの方向となったことについて、今国会の会期末まで2か月余りしかなく、野党の協力を得ようと思えば政策要求を次々とのまされる懸念があるからというが、本当のところはどうなのか。いずれにせよ、政権運営が迷走している感は否めない。
ただし、ここで重要なのは「消費税減税」の可能性がまだ消えていないことだ。選挙が迫る参院を中心に減税を求める声は与野党ともに強い。とりわけ与党・公明党は減税に積極的だ。
当メルマガ先週号でもふれたように、米国のトランプ大統領は消費税を「非関税障壁」とみなし、相互関税をかける根拠としている。ならば、消費税減税を外交カードとして切り、景気浮揚と国民生活の安定をはかればいいという考えにいたるのはごく自然であり、理に適っている。
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だが、硬直化したプライマリーバランス論に縛りつけられている石破政権が柔軟な対応力に欠けているのも事実だ。なにより森山幹事長が財務省の言いなりになっているのが痛い。
「減税」論を牽制する森山幹事長の誤りとは?
13日、鹿児島市内で講演した森山氏は「裏付けのない減税政策は国際的信認を失うと大変なことになる」と語り、「減税」論を強く牽制した。
そのさい、国際的信認を失った実例として森山氏が挙げたのが、2022年に英国で起きた“トラス・ショック”だ。
保守党ジョンソン首相の後を継いだトラス首相は、22年9月にミニ予算を発表した。ところが、450億ポンドの財源不明の減税が含まれていたことなどから、株安、国債安、英ポンド安のトリプル安を招き、在任期間49日にしで辞職に追い込まれた。
しかし、当時のイギリスと日本では構造がまるで違う。
イギリスでは、外国人投資家に支えられているポンド建て国債市場が減税案に動揺し、通貨暴落と金利高騰が同時に襲った。一方の日本は、国債の9割以上を国内で消化しており、円建ての信認は相対的に安定している。さらに、当時の英国はインフレと金利上昇が進む中での拙速な減税だったが、日本の場合はそうではない。
米中の緊張、トランプ関税の衝撃、エネルギー価格の高騰・・・。この2025年という年は、これまでにない“国際経済の不確実性”に満ちている。迷える石破政権はこれからどこに針路をとろうとしているのだろうか。
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