朝ごはんの定番といえば、焼きたての目玉焼きやふわふわのスクランブルエッグ。
そんな身近な食材「卵」に、私たちの記憶を守る力があるとしたらどうでしょう?
米タフツ大学(Tufts University)らの研究チームは、卵の摂取量とアルツハイマー型認知症のリスクとの関連を調査。
その結果、卵を週に2回以上食べる人は認知症になるリスクが大幅に低下することが判明しました。
また卵に含まれる“ある栄養素”が脳に重要な働きをしていることも示されています。
研究の詳細は2024年7月3日付で科学雑誌『The Journal of Nutrition』に掲載されました。
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週2回以上の卵摂取が「記憶の消失」を防ぐ?卵の中の脳の味方「コリン」が鍵を握る?
週2回以上の卵摂取が「記憶の消失」を防ぐ?
この研究は、アメリカ・シカゴを拠点とする「Rush Memory and Aging Project(RMAP)」のデータに基づいています。
対象となったのは、平均年齢81歳の高齢者1024人。
参加者は認知症を発症していない状態で研究に登録され、年1回の健康評価とともに、食生活に関する詳細なアンケートにも回答しました。
注目されたのは「卵の摂取頻度」と「その後の認知症の発症率」の関係です。
追跡期間は平均6.7年。期間中に280人(約27%)がアルツハイマー型認知症と診断されました。
研究で
...moreは、卵の摂取頻度によって参加者を以下の4つのグループに分類しています。
・月1回未満
・月1~3回
・週1回
・週2回以上
Credit: canva
分析の結果、卵を週に1回食べていた人は、月1回未満しか食べない人に比べて認知症の発症リスクが47%低いことが判明しました。さらに、週に2回以上卵を食べていた人も同様に、約半分のリスクであることが示されました。
この関係は、年齢、性別、教育歴、運動習慣、総摂取カロリーなど、さまざまな交絡因子を統計的に調整したうえでも有意に認められました。
また、調査期間中に死亡した参加者の脳解剖による検証も行われ、卵を多く食べていた人の脳では、アルツハイマー病に特有の脳の異常(アミロイド斑やタウたんぱく質の蓄積)も少なかったことが確認されています。
つまり、卵は単に「認知症になりにくい人が食べている食品」なのではなく、実際に脳内の病変そのものを減らしている可能性があるのです。
卵の中の脳の味方「コリン」が鍵を握る?
では、なぜ卵が認知症リスクの低下と関係しているのでしょうか。
その答えは、卵に豊富に含まれる「コリン(choline)」という栄養素にあります。
コリンは、記憶や学習に関わる神経伝達物質「アセチルコリン」の材料となり、脳の神経細胞膜の構成にも重要な役割を果たしています。
今回の研究では、「卵の摂取頻度」と「コリン摂取量」、そして「認知症発症率」の関係を数理モデルで解析し、卵の保護効果の約39%はコリン摂取によって説明できることが示されました。
つまり、卵を食べることでコリンを多く摂取し、それが脳を守る一因となっているということです。
さらに卵には、オメガ3脂肪酸やルテインといった、抗炎症作用や神経保護作用があるとされる栄養素も含まれています。
これらがコリンと相乗的に働くことで、より強力な「脳のシールド」として機能しているのかもしれません。
加齢によりコリンの脳への取り込み能力は低下するため、高齢期には特に意識的な摂取が求められます。
卵は調理が簡単で食べやすく、毎日の食事に取り入れやすい点でも理想的な食品といえるでしょう。
Credit: canva
「卵を週に2回以上食べるだけで、認知症のリスクが下がる」
そう聞くと信じがたいかもしれませんが、今回の研究はその可能性を科学的に裏づけました。
もちろん、これは因果関係を証明するものではありません。
ですが卵に含まれる栄養素が脳に良い影響を与えていることは、他の研究でも繰り返し示唆されています。
朝ごはんに卵をひとつ加えることで、将来の記憶や思い出を守ることにつながるかもしれません。
全ての画像を見る参考文献Frequent egg consumption linked to lower risk of Alzheimer’s dementia, study findshttps://www.psypost.org/frequent-egg-consumption-linked-to-lower-risk-of-alzheimers-dementia-study-finds/元論文Association of Egg Intake With Alzheimer’s Dementia Risk in Older Adults: The Rush Memory and Aging Projecthttps://doi.org/10.1016/j.tjnut.2024.05.012ライター千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。編集者ナゾロジー 編集部...
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口の中をスッキリさせてくれるマウスウォッシュが手放せない人は少なくないでしょう。
殺菌作用の強いマウスウォッシュは、口臭の予防や歯周病のリスク軽減に役立つとされ、多くの人が愛用しています。
しかし、その一方で「善玉菌」まで一掃してしまうことへの懸念も存在します。
こうした中、アメリカのラトガース大学(Rutgers University)の研究チームが、善玉菌を温存しつつ悪玉菌だけを選択的に殺菌できるマウスウォッシュを市販製品の中から発見したと報告しました。
研究成果は2025年5月19日付の『Frontiers in Oral Health』誌で発表されました。
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口腔内の菌を一層する従来のマウスウォッシュに対抗するものは?ハーブ系マウスウォッシュは悪玉菌だけをターゲットにする
口腔内の菌を一層する従来のマウスウォッシュに対抗するものは?
有名なマウスウォッシュの多くは、口腔内の善玉菌と悪玉菌の両方を殺菌する / Credit:Canva
私たちの口の中には、数百種類以上の微生物が共生しています。
その中には「善玉菌」と呼ばれる有益な菌と、「悪玉菌」とされる病原性のある菌が存在します。
善玉菌は、他の病原菌の侵入を防いだり、口腔内の酸性度を調整する働きがあります。
一方、いくつかの悪玉菌は、歯周病や炎症の原因となり、体内への感染リスクを高めるとされています。
マウスウォ
...moreッシュを用いるなら、こうした問題児たちを簡単に殺菌できます。
ところが、市販の多くのマウスウォッシュは「広域殺菌作用」を特徴としており、善悪の区別なく、口腔内の細菌を一掃してしまう傾向があります。
特に、抗菌剤としてよく使われるクロルヘキシジン(PerioGardなど)やリステリンは、強力な殺菌力を持ちますが、同時に口腔内のバランスを崩してしまう可能性もあります。
過去の研究では、こうしたマウスウォッシュの長期使用が口腔内の善玉菌を減らし、唾液のpHを下げ、歯の脱灰リスクを高めることさえ示唆されています。
さらには、口腔内の微生物環境の乱れが、糖尿病や心血管疾患、さらには認知症リスクにも関連するという報告もあり、歯磨き以上に慎重な使用が求められる製品といえるでしょう。
あるハーブ系マウスウォッシュの効果を調査 / Credit:Canva
今回、ラトガース大学の研究チームが注目したのは、「善玉菌を守りながら悪玉菌だけを減らす」という選択的なアプローチでした。
彼らはその「ターゲットを絞った殺菌効果」が市販のハーブ系マウスウォッシュ「StellaLife VEGA Oral Rinse(本記事ではステラライフと呼ぶ)」にあると考えました。
なお、米国食品医薬品局(FDA)による安全性や効果の承認は受けていませんが、製品側ではFDAの”cGMP(現行適正製造基準)”に準拠して製造していると主張しています。
研究では、5種類の代表的な口腔内細菌を対象に、ステラライフとクロルヘキシジン、リステリン、そして対照としての生理食塩水(PBS)の効果を比較しました。
細菌は単独での培養(プランクトン状態)だけでなく、4種混合のバイオフィルム、さらには実際の歯周病患者由来の80種以上の多菌種バイオフィルムで評価されました。
また、ヒト歯肉細胞を用いた3Dスフェロイドモデルで、それぞれの洗口液の細胞毒性も調べられました。
ハーブ系マウスウォッシュは悪玉菌だけをターゲットにする
結果として、ステラライフは悪玉菌であるFusobacterium nucleatumとPorphyromonas gingivalisの成長を抑える一方、善玉菌であるStreptococcus oralisやVeillonella parvulaの生存をほとんど損なわないという「選択的な殺菌効果」を示しました。
一方、クロルヘキシジンとリステリンは、善玉・悪玉を問わずすべての菌に対して強い殺菌効果を示し、結果としてバイオフィルムそのものがスカスカになってしまいました。
これは、善玉菌が先にバイオフィルムを形成することで病原菌の定着を防ぐという自然の防御機構を損ねてしまう可能性を意味しています。
ステラライフは善玉菌を残し、悪玉菌だけを殺菌していた / Credit:Canva
さらに、ヒト歯肉細胞モデルでは、クロルヘキシジンが最も強い毒性を示し、細胞の壊死や剥離を引き起こしました。
リステリンも中程度のダメージを与えましたが、ステラライフはほぼ細胞構造を保ち、生存率も高く、組織との親和性が高いことが確認されました。
このように、ステラライフは「選択的殺菌」と「低毒性」という2つの重要な特性を併せ持っており、従来の“無差別攻撃型”マウスウォッシュに対して大きなパラダイムシフトを示す結果となりました。
とはいえ、研究にはいくつかの限界があります。
まず、実験はすべて試験管内で行われており、実際の口腔内環境での効果や長期的な安全性は検証されていません。
また、StellaLifeの製造企業が研究費を提供しているため、客観性の確保も今後の課題といえます。
さらに、この製品は2024年にFDAからの指摘により微生物汚染を理由に自主リコールを行った事例もあり、品質管理に対する継続的な注視が必要でしょう。
そして繰り返しになりますが、StellaLifeはFDAの承認を受けておらず、一般的な医薬品とは異なる分類にあることも明確に理解しておく必要があります。
それでも、ハーブ系マウスウォッシュの可能性を示したこの研究は、いずれ日常のマウスウォッシュ選びに新たな視点を与えるものとなるでしょう。
全ての画像を見る参考文献Non-traditional mouthwash performs a surgical strike on oral bacteriahttps://newatlas.com/health-wellbeing/homeopathic-mouthwash-oral-microbiome/Herbal Mouthwash Targets Gum Germs While Letting Helpful Bacteria Flourishhttps://www.rutgers.edu/news/herbal-mouthwash-targets-gum-germs-while-letting-helpful-bacteria-flourish元論文Utilizing a naturopathic mouthwash with selective antimicrobial effects against multispecies oral biofilms for prevention of dysbiosishttps://doi.org/10.3389/froh.2025.1529061ライター矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。編集者ナゾロジー 編集部...