政府の試算によれば、東日本大震災の10倍以上の被害をもたらすとされる南海トラフ地震。しかしそこにはなぜか発生する可能性が極めて高い「原発事故」は想定されていません。この政府の試算の「甘さ」を指摘するのは、人気ブロガーのきっこさん。きっこさんは今回「きっこのメルマガ」で、南海トラフ地震発生時に起こり得る原発事故とその甚大な被害を解説するとともに、その対策としてかねてから提言している原発の即時廃炉を改めて主張しています。
カウントダウン状態の南海トラフ地震の被害をさらに大きくするもの
北アフリカのモロッコで、9月8日深夜(日本時間の9日朝)に発生したマグニチュード6.8の地震による犠牲者は、続報のたびに数百人単位で増え続けてる。この原稿を書いてる15日の時点では、モロッコ内務省が13日に発表した「死者2946人、負傷者5674人、倒壊家屋約5万戸」というデータが最新だけど、まだまだ増えるだろうと報じられてる。そして、現地のニュース映像を観ると、多くの家屋や建物が倒壊してるので、そうとう大きな地震を想像するけど、実はそうでもないのだ。
モロッコ周辺はメッタに地震が起こらない地域なので、ほとんどの建物が耐震対策など何もしておらず、一般の家屋に至っては単にレンガを積み重ねただけのものも多いと言う。鉄筋など使っていないので、今回のような規模の地震にはひとたまりもない。その上、発生したのが深夜だ
...moreったため、多くの人たちは室内で寝ていて、こうした状況が被害を大きくしてしまったと見られてる。
そんな今回のモロッコの地震で、特にあたしが驚いたのは、「モロッコ周辺では、1900年以降、マグニチュード5以上の地震が9回起きているが、マグニチュード6を超えたのは初めてで、過去120年余りで最大規模となった」という報道だ。「120年間でマグニチュード5以上の地震が9回、マグニチュード6以上が1回」って、世界有数の地震大国、日本から見たら、「ほぼゼロ」みたいな話だからだ。
ちなみに、毎日どこかで地震が起こってる日本の場合は、過去120年なんて数えてたらキリがないので、2011年3月11日の「東日本大震災」を引き起こしたマグニチュード9.0の三陸沖地震から現在までの12年間を数えてみた。そしたら、この12年間だけで、マグニチュード5以上の地震が、少なくとも84回は発生してた。120年間で9回のモロッコとは偉い違いだ。その上、この84回のうち、半数以上の43回はマグニチュード6以上だ。モロッコでは120年間でマグニチュード6以上は今回が初めてだと言うのに、日本では12年間だけで43回も発生してる。さらには、その43回のうち8回はマグニチュード7以上なのだ。
ちょっと古いデータで申し訳ないけど、世界的に地震が多発した2004年から2013年までの10年間を見てみると、世界ではマグニチュード6以上の地震が1629回発生してる。で、このうち18.5%に当たる302回が日本で発生してるのだ。日本の面積は、全世界の面積のわずか0.25%しかないのに、そんな、1%の4分の1しかない小さな島国に、全世界で発生してるマグニチュード6以上の大地震の約2割が集中してるのだ。
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過去には南海トラフ地震が短いスパンで連続して起きたケースも
…そんなわけで、あたしは、ブログにもこのメルマガにも書いたことがあるけど、日本列島は、北米プレート、ユーラシアプレート、太平洋プレート、フィリピン海プレートという4つのプレートが干渉し合う「プレート銀座」の上にある。日本列島自体は、東日本が北米プレート、西日本がユーラシアプレート、伊豆半島がフィリピン海プレートの上に乗ってる。で、日本列島の大部分が乗ってる陸のプレートである北米プレートとユーラシアプレートに対して、海のプレートである太平洋プレートとフィリピン海プレートが、1年に数センチずつ移動してグイグイと押しつつ、陸のプレートの下へと潜り込み続けてる。
でもそれは、『忘れていいの~愛の幕切れ~』をデュエットしつつ、背後から小川知子さんの胸元にスルリと手を入れる谷村新司さんのような滑らかな「潜り込み」じゃない。いくら動いてるとは言え、プレートは分厚くて巨大な岩盤だ。陸の巨大な岩盤に海の巨大な岩盤がぶつかって、ガチンコ勝負で力負けした海の岩盤のほうが、陸の岩盤の下へ強引に潜り込んで行くという壮大な地球の営みだ。
で、強引に潜り込んで行く海のプレートは、陸のプレートの境界部分も一緒に引っ張り込んで行く。フィリピン海プレートの移動は1年に3~7センチ、平均5センチ程度だけど、10年なら50センチ、100年なら5メートルというわけで、海のプレートに引きずり込まれた陸のプレートは、一定の年月を経ると限界点を迎える。そして、耐え切れなくなってビヨヨーンと戻った時に、大地震が起こる。これが「トラフ地震」だ。
「トラフ」とは、日本語で「舟状海盆(しゅうじょうかいぼん)」て言うんだけど、海底の細長い溝のこと。たとえば、「相模(さがみ)トラフ」は相模湾の沖から分岐するトラフで、フィリピン海プレートが北米プレートへ潜り込み続けてる。これが、関東大震災を発生させた。一方、同じフィリピン海プレートでも、西日本の乗ったユーラシアプレートに潜り込み続けてるのが「南海トラフ」だ。
「南海トラフ」は、静岡県の駿河湾から九州の日向灘(ひゅうがなだ)沖まで、水深約4000メートルの溝が約700キロに渡って続いてる巨大なトラフだ。これが、西日本の乗ってる陸のユーラシアプレートと、それに干渉し続けてる海のフィリピン海プレートとの境界になってる。そして、100年から150年くらいの間隔で、フィリピン海プレートに引きずり込まれたユーラシアプレートがビヨヨーンと戻り、そのたびに巨大な南海トラフ地震を発生させて来た。
【歴代の南海トラフ地震】
684年 白鳳地震(M8.25)887年 仁和地震(M8.25)1096年 永長地震(M8.0~8.5)1099年 康和地震(M8.0~8.3)1361年 正平東海地震、正平南海地震(M8.25~8.5)1498年 明応東海地震(M8.2~8.4)1605年 慶長地震(M7.9)1707年 宝永地震(M8.6~9.3)1854年 安政東海地震、安政南海地震(M8.4)1944年 昭和東南海地震(M7.9)1946年 昭和南海地震(M8.0)
1361年と1854年は2つの地震が並んでるけど、どちらも1つめの地震の同日か翌日に2つめが発生してる。また、1096年の永長地震の3年後に発生した康和地震、1944年の昭和東南海地震の2年後に発生した昭和南海地震など、短いスパンで連続してるケースもある。これらは、1つめの地震でユーラシアプレートすべてがビヨヨーンと戻り切らず、残った部分が2つめの地震を発生させたと見られてる。
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ヒロシマ型原爆を遥かに超える放射能汚染が西日本全域に
で、昭和に連続して発生した2つの南海トラフ地震から80年近くが経ったので、今ごろ駿河湾から日向灘まで続く南海トラフでは、引きずり込まれたユーラシアプレートが限界に近づいてて、そろそろビヨヨーンと戻る時期なんじゃないか?…というわけで、政府が専門家を集めて組織した地震調査委員会に試算させた結果が、「(南海トラフ地震は)今後30年以内に70~80%の確率で発生する」という予測だった。
政府の地震調査委員会によると、次に南海トラフ地震が発生した場合、マグニチュードは8超、最大震度は7超、沿岸部を襲う津波は高さ20メートル超、被害規模は東日本大震災の10倍を超えると試算されてる。南海トラフは沿岸部から目と鼻の先なので、地震発生から45分後には巨大地震が押し寄せる。だから、ほとんどの人は逃げられない。津波による浸水は、30都府県の737市区町村に及び、その面積は全国の約32%、つまり、日本列島の3分の1が水没するわけだ。
建物の倒壊や津波などによる死者は、関東から九州にかけて計32万3000人、負傷者は62万3000人、浸水などで自宅に住めなくなった避難者は950万人、建物の全壊と焼失は238万棟、そして、最終的な被災人口は全国民の53%に達すると試算されてる。名古屋や大阪は壊滅状態になり、直接は津波の被害を受けない東京も、海面の水位が3メートル以上も上昇するため、海抜ゼロメートル地帯は当然として、海抜3メートル前後の東京23区は半分以上が水没する。
東京は道路も線路も大半が水没するので、交通は完全に麻痺し、都市部の市民はどこへも...
9月13日に行なった内閣改造で、過去最多に並ぶ5人の女性閣僚を入閣させた岸田首相。一方副大臣と政務官に目をやると女性はただの1人も選ばれず、対象的な結果となっています。その「原因」を考察しているのは、米国在住作家の冷泉彰彦さん。冷泉さんはメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』で今回、岸田氏の女性観に問題があるわけではないとした上で、女性の副大臣・政務官ゼロという問題の背景に考えられる「本当に怖い話」を解説しています。
※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2023年9月19日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。
ドリル優子と「副大臣・政務官に女性ゼロ問題」を考える
どうも日本の政局には閉塞感が濃くなっています。別に岸田氏を降ろせとは言いませんが、国の成長力と生産性を確保するための必要な変更に取り組むように、何とか少しでもマトモな方向を向いて欲しいと思うばかりです。その準備として、3点ほど指摘しておきたいと思います。
1.西村康稔に加藤勝信。コロナ禍に責任回避を続けた政治
コロナ禍については、最新変異株の動向はあるにしても、社会的には出口から出てしまっています。そんな中で、尾身茂博士も委員会の解散により、政府のポジションからは解放されたようです。
尾身博士に関しては、コロナ対策に不満を持つ人々があれこれ悪口を言っています。アメリ
...moreカでも同様で、功績のあったトニー・ファウチ博士は保守派を中心に散々な言われ方をしていました。
ですが、尾身博士もファウチ博士も感染症の専門家です。感染症の専門家のミッションというのは単純で、研究している感染症による死亡数を少しでも下げるのが、この方々のミッションです。
その一方で、対策等による社会的コストを考えて、最適解の政策を決定し、国民の協力を求めるのは政治家の仕事です。政治家が逃げ回っていて、また時には官僚組織の防衛に向かい、時には専門家と対立して経済優先に傾斜したり、あるいは経済への影響を専門家のせいにしたりしたのは、責任回避だと思います。
専門家はコスト100で死亡極小を主張するのが仕事です。一方で経済の専門家は、経済コストは極小で、死亡は許容範囲を主張するのでいいわけで、その中間にある最適解を決定して宣言し、国民に説明するのは政治の責任です。
コロナ禍の間、政治はずっとこの責任回避を続けてきました。例えばですが、西村康稔とか、加藤勝信というような方々は、「あれではダメだった」ということを、厳しく自戒すべきです。
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2.ドリル優子がドリルを使ってまで消したかった問題
小渕優子氏の選対委員長就任が話題になっています。小渕氏については、2014年に関連する政治団体の政治資金収支報告書に虚偽の記載が発覚しました。その際に、東京地検特捜部による捜索が入る前に事務所のPCのハードディスクにドリルで穴を開けて、廃棄したのは有名な話です。このエピソードを受けて、同氏は「ドリル優子」というニックネームをつけられて、現在に至っています。
この事件の顛末として、小渕氏は経済産業大臣をクビになり、元秘書は有罪判決を受けました。ですが、大切なのは
「ドリルで消したこと」
ではありません。そうではなくて、
「ドリルで消さなければいけないような問題」
があったのが問題なのです。
ドリルで消さねばならなかった問題とは何だったのか、それは、90年代に様々な紆余曲折を経て成立した「小選挙区比例代表制による政治改革」が踏みにじられたということです。もっと言えば、政治改革が想定した、政治とカネの問題におけるカネの流れが逆流しているのです。
まず、政治改革の第一の狙いは、それまでの中選挙区制における「自民党候補同士の熾烈な選挙戦」が、多額のカネを必要としていたわけですが、これを断ち切ろうとしたわけです。具体的には、定数1の小選挙区を設定すれば保守同士の戦いはなくなり、政策本位の選挙戦になるというのが制度設計でした。
中選挙区制の時代には、例えば80年代に岡山に住んでいた私が聞いた話では、倉敷とか総社といったあたりでは、橋本龍太郎と加藤六月が熾烈な選挙戦をしていて、陣営は「今日はこっちは天丼、こっちはカツカレー」などと有権者を接待して買収していました。それこそ、カネが無限にかかるような話だったのです。
小渕氏の場合も、お父様の恵三氏の場合は、中選挙区で中曽根康弘、福田赳夫と常に厳しい選挙戦を闘っていたわけです。そんな中で、有権者をまとめるための「観劇ツアー」などが常態化していたのでしょう。明治座に昼食、お土産、往復バス付きで招待する、会費は格安で差額は買収という方法です。
問題は、小選挙区制度になったら、この「観劇ツアー」は要らなくなったわけです。それこそ、恵三氏から承継した小渕優子氏の選挙区は、無風区と言われて常に得票率は70%前後となっていました。野党は対立候補を立てるのから逃亡してせいぜい共産党の泡沫候補が出るだけで、現在に至っています。ですから小渕優子氏は将来を嘱望された有力議員として全国で応援演説をする立場であり、地元では選挙運動をしないで良かったのです。
にもかかわらず有権者は「格安観劇ツアー」をせびり続けた、これは買収ではありません。むしろ反対です。タカリであり、悪質な賄賂の要求です。全く理不尽なカネであり、その源泉が実は選挙が公営化されたために税金から(一部かもしれませんが)出ていたわけで、観劇に行った人は全員が収監されて公民権停止になっていいレベルの犯罪だと思います。
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政治改革の目的を完全に踏みにじったドリル優子
今回文春がすっぱ抜いた、カネがファミリー企業に流れていたという問題も同様です。政治改革前に、政治家のファミリー企業が問題になるというのは、例えば田中角栄がそうでしたが、ファミリー企業で儲けたカネを政治に投じていた、これが「政治とカネの不正」だとして叩かれていたのです。
とにかく、カネを作って投入した奴が中選挙区で有利になる、これではカネで権力を買うようだから、これを防止するというのが70年代からの政治改革論議でした。小選挙区制と、選挙の公営化は、この問題を断ち切るためだったのです。
ですが、今回のスキャンダルは、ガソリン代などをチマチマとファミリー企業から買って、カネをそちらに回していたというのです。直ちに違法かどうかは不明ですが、まるで、セコい野党系の素人政治家が、身内を秘書にしたり、自分の家を事務所にしたりして摘発されるのと同じ構図です。
とにかく、小渕氏の問題は、90年代に国を挙げて必死になって実現した政治改革の主旨、つまりファミリー企業などで違法な政治資金を作って、これを「保守対保守の熾烈な選挙戦に投入するのを止めさせよう」という制度の目的を完全に踏みにじっているということなのです。
つまり、選挙区にライバルがいないのに、観劇ツアーをせびる有権者を黙らせられなかったとか、昔は政治資金を支えたはずのファミリー企業が、不景気になって反対にカネをせびる問題を断れなかったという「マネーの逆流」が起きていたのです。
情けないことに、小渕氏は支持者への説明に「2年間かかった」と言っています。このコメントを聞くと、「自分が政治資金問題で疑惑を招いて信頼を失ったので、支持者に許してもらうのに2年かかった」という風に聞こえます。ですが、本当はそうではないかもしれません。「先代の時は観劇ツアーがあったのに、お嬢になってから法律やなにやらで、できないというので、自分としてはガッカリだ」というタカリ構造の有権者に対して「もうできないんですよ」と「説得」するのに2年かかったのかもしれないのです。
ドリルでHDを破壊しなければならなかったのは、そうした内容であったと考えるのが自然です。
だとしたら、小渕氏は被害者なのかもしれません。ですが、仮にそうであれば、こんなセコい、そして違法な既得権益すら潰せない政治家には、巨大な抵抗勢力と戦って、日本経済をグローバリズムに適応した姿に変更するのは無理だと思います。この方への過大評価はもう止めにしたら良いのではないでしょうか。
ついでに言えば、小渕氏との政策の違いをしっかり打ち立てた対立候補をぶつけることから、逃亡し続けた立憲の泉代表には、少なくとも「ドリル優子」を面白おかしく批判する資格はないと思います。
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3.「女性副大臣・政務官ゼロ」に透けて見えるコワい話
閣僚に5人の女性を起用したのはいいのですが、副...