中国の習近平国家主席が人民元の基軸通貨化を目論むにあたって、よもやドナルド・トランプ米大統領ほど理想的な引き立て役を想定することはできなかっただろう。
2013年に習近平体制が本格スタートして以来、
中国の習近平国家主席は7日、山西省陽泉市で、日中戦争の激戦地で命を落とした「烈士」に献花した。この日は日中全面戦争の発端となった盧溝橋事件(1937年7月7日)の発生から88年にあたる。共産党が「抗日戦争」で果たした役割を強調し、党の求心力維持を図る狙いがあるとみられる。
米軍によるイラン核施設への空爆後、一応の停戦状態にあるイスラエルとイラン。そんな状況の中、ロシアはウクライナへの攻撃をエスカレートさせる事態となっています。その裏にはどのような事情があるのでしょうか。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では元国連紛争調停官の島田さんが、欧米の「優先順位」が推移した事実と、そのとばっちりを受けることとなったゼレンスキー大統領の反応を紹介。さらにウクライナへ救いの手を差し伸べようと動く中国の狙いを解説しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:優先順位の変化-注目を浴びる中東・イラン情勢と霞むウクライナの未来
国際社会の優先順位は「中東」に。霞むウクライナの未来と中国の野望
「ロシアとウクライナの戦争は、しばらくは終わらないだろう。今はイスラエルとイランの衝突が起きないようにしっかりとコミットすべきだ」
これが今、ウクライナの背後にいるはずの欧米諸国のリーダーたちが考える方針のようです。トランプ大統領はそう明言し、欧州各国のリーダーたちは具体的な態度については決して一致しないものの、明らかにウクライナに対する熱量と関心が後退しているのが感じられます。
アメリカ軍によるイランの核施設に対する猛烈な攻撃はまさにサプライズアタックでしたが、トランプ大統領とその周辺が
...more主張するような「数年単位でイランの核開発を止めた・遅らせた」というほどの成果があったかはかなり疑わしく、DIAが出したような「実はイランの濃縮ウランの在処が分からなくなっただけで、ほぼ無傷」という評価も米国内で議論を呼び起こしています。
また“核の番人”たるIAEAのグロッシー事務局長は「ファルドゥの施設はそれなりの損害を受け、他の核施設もそれなりの破壊に見舞われたが、残念ながら濃縮ウランの行方は分からず、遠心分離機もほぼ無傷との分析も多々あり、イランは核保有につながるウラン濃縮を遅くとも数か月以内には再開することが可能である」との見解を述べました。
イスラエルとイランの仲介を行ったカタール政府や、軍を含むアメリカ政府内の分析官、IAEAの専門家、そしてロシア、トルコ、フランスなどの専門家などの意見を総合してみると、どうも今回のアメリカによる攻撃によって、イランが核開発を急ぐ必要性をさらに深く認識するきっかけを与えたとの結論に至ったことが分かります。
それはかつてアメリカのブッシュ政権がAxis of Evil(悪の枢軸)としてイラン、イラク、北朝鮮を挙げましたが、すでにその際に核開発が進み、“恐らく”核保有に至っているという分析がなされていた北朝鮮には米軍の空爆がなかったことに対し、イランとイラクについては、イラクはアメリカ軍を軸とした多国籍軍の、イランについてはイスラエルのターゲットとして攻撃対象になったことをベースに「核保有こそが国家安全保障の確保のカギ」という決断を下すのではないかと、今回のアメリカとイスラエルによるイランの核施設への攻撃を受けてイランの最高指導部が判断し、本格的な核保有への舵を切ったとしても不思議ではありません。
それをつぶさに感じ取り、イランに対する自制を間接的に求めるために協力に動いたのが、フランスとロシアです。
ロシアが対ウクライナ攻撃のギアを上げられたウラ事情
今週(7月1日)行われたプーチン大統領とマクロン大統領との電話会談の内容は、ロシアが当事者となっているロシア・ウクライナ問題についてではなく、イスラエルとイランの軍事衝突に対する懸念と、アメリカ軍による宣戦布告なきイラン攻撃が明らかに国際法に反することで、イランが核開発を急ぎ、中東の緊張が高まることを懸念して具体的な対応と協力について話し合われたと伝えられています。
フランスは欧州、そしてNATOのコアとしてロシアによるウクライナ侵攻に真っ向から反対し、対ロ経済制裁およびウクライナへの軍事支援も行っていますが、その対立を棚に上げても、ロシアとの協力を選んだことは、イランを巡る情勢への懸念の大きさと、ロシアとフランスという、イラン核問題に政治的・外交的な解決をもたらすための技術的なオプションを握っている両国が、現在のホットイシューに対する影響力の拡大を狙ったものであると考えられます。
異常な熱波に襲われるフランスのカウンターパートは、その天候に擬えて「フランスが直面している問題はまさにスーパーホットであり、急ぎ対応を講じないといけない要件であると考えるので、敵味方を選ぶ猶予はなく、まずは動いて緊張を解くことが先決だと考える」と表現して、フランスのコミットメントが、対ロ非難・対ウクライナ支援ではなく、イランを軸とした中東地域の混乱と緊張の緩和に重点が置かれたことを示しています。
もちろん、これはプーチン大統領にとっては渡りに船と言え、イラン問題に対応している間は、少なくともフランスはウクライナ問題に深くかかわってこず、恐らくフランスからの軍事支援も滞ると予想できるため、今週に入って一気に対ウクライナ攻撃のギアを上げています。
その半面で“イランへの影響力”というカードを上手に用い、のらりくらりとフランスなどからの要請を交わしつつ、欧米諸国の目をイランとイスラエルに釘付けにし、対ロ攻撃に関わる余裕をなくすことに成功しているように見えます。
プーチン大統領とマクロン大統領にスポットライトを奪われてはならないと、トランプ大統領もウクライナから距離を置き、イラン情勢とガザ情勢に重心を移して“成果”を取りに行こうとしています。
7月2日にはイスラエルのネタニエフ首相に「カタールとエジプトがまとめた停戦案を受け入れよ」と要請し、それと並行してSNSを通じてハマスにDeal(取引)せよというメッセージを送って、ちょっと強引にまとめにかかっていますが、その背後でイスラエルはいろいろとハマスに難癖をつけて、当初より予定していた対ガザ軍事作戦を激化させて“力による強制”を突き付け、一方的な力を見せつけた上で、自国に圧倒的に有利な条件でのディール・メイキングを行おうとしているように見えます。
最近、イスラエルの当局と話す機会があった際に言われたのが「行けるところまで徹底的に破壊し、抵抗することが死を意味することを見せつけなくてはならない。そうすることでイスラエルは国家と国民の安全を確保できるし、それしかない。また徹底的な打撃は、シリアやレバノンといった周辺国にも明確なメッセージを送ることになるだろう」と言う内容ですが、あまり報じられないものの、この内容はアメリカのウィトコフ氏にも共有されているようです。
ゼレンスキーが切ってしまった「タブー」とも言うべきカード
アメリカから中国への接近に切り替えつつある欧州
結束できない欧州は、ウクライナを結果として見捨て、フランスが首の皮一枚で何とか持ちこたえている以外は、中東における影響力もほぼ失っているという惨状を露呈しています。
一応NATO首脳会合ではアメリカとの距離を縮めるべく振舞っていましたが、トランプ大統領のほぼ言いなりになるしかなく、欧州がNATO内で持っていた矜持は見る影もない状況だったと見ています。
結果、アメリカと表面的には接近するものの、欧州として立ち続けるための柱をここにきて、アメリカから中国への接近に切り替えようとしているように見えてきます。
今週、あまり報じられていないのが不思議なのですが、中国の高官が次々と欧州各国を訪れ、協力体制の構築が図られていますが、これは何を意味するのでしょうか?
以前より何度か描いていた世界の3極化ですが、これまでは“欧米とその仲間たち”というグループで一つの極を構成して、確固たる基盤を築いていたのですが、ここにきて、欧州が中国に接近し、関係の改善に乗り出したことで、中国がロシアと主導する国家資本主義陣営との連携が強化され、欧州が中国側に傾くという現象が目立ってきています。
表立ってロシアと直接話をしているのはフランスぐらいですが、中国の背後にはパートナーとしてのロシアがおり、中国陣営との接近は、間接的にロシアとの関係修復に動いているとも解釈できます。
そしてそれは“欧州のウクライナ離れ”と“欧州のロシア接近”を表すことになるため、ウクライナの終末が近づいているのではないかとの懸念も、よく語られるようになってきました。
実際に調停グループ(Multilateral Mediation Initiative)の協議においても、完全に停止はしないものの、依頼内容の重点が明らかに中東に傾いているのを感じてい...
中国外務省は2日、有力新興国で構成する「BRICS」が6~7日にブラジルで開く首脳会議に李強首相が出席すると発表した。習近平国家主席は欠席する。中国の最高指導者は2009年の第1回首脳会議から欠かさず出席してきており、習氏の出席見送りは異例だ。