マスコミ各社による世論調査でも支持率が軒並み過去最低を記録するなど、もはや打つ手なしの状況に陥ったと言っても過言ではない岸田政権。なぜ首相はここまで国民からの信頼を失ってしまったのでしょうか。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では米国在住作家の冷泉さんが、支持率低下につながった4つのポイントを指摘。さらに日本における「政界再編」の可能性を探るとともに、政党や政治家たちの具体的な動きを大胆予測しています。
※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2023年11月21日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。
予兆あり。政界再編で日本に生まれる2大政党のメンツ
まず、現在の日本の政局ですが、11月13日までに時事通信が実施した月次の世論調査によると、岸田内閣への支持は21.3%となり、内閣発足以来の最低を更新したようです。また自民党の支持率も下落しており19%になっています。合計でも40%しかなく、俗に言う「方程式」理論から言えば足して50を割ると危険水域なのだそうですから、極めて危険ということになります。
一般的に、議院内閣制の宿命としては不人気な内閣を担ぎ、更に政党支持率まで下がってしまうと首班指名の支持母体である自民党の議員団としては、個々の議員が「自分は次の選挙が危ない」という危機感を抱いてしまうことになります。その場
...more合に、衆議院の小選挙区から選出された議員などは、当に「選挙に落ちてタダの人になる」という恐怖を実感してしまうことになります。比例の名簿順位が下位の議員の場合は、それこそ絶望的になります。
国政選挙が当面はなくても、支持率低下が問題になるのは、そうした「瀬戸際議員」の場合は、2年とか3年先のことでも恐怖のエネルギーは小さくないからです。こんな総理総裁を担いでいては、自分が落選してしまうという恐怖は、この種の政治家にとって決定的だからです。
では、どうして支持率が急落しているのかというと、具体的には4つぐらいの原因があるようです。
1つは、とにかく定額減税が不評だということです。順序として「異次元の子育て対策」があり、その財源は「増税」だと明らかになると世論が猛反発したので、「だったら減税」だけれども「恒久減税ではなく定額」という流れでした。その場当たり性が余りにも露骨であったことが、世論の怒りを買ったわけです。
2つ目は、副大臣、政務官レベルの辞任が3名続いたことです。原因は全て個別で、不倫、公選法違反、脱税ということで、お粗末な内容です。ただ、総裁選に勝ち、組閣して総理の座にとどまるには他派閥の協力は欠かせません。その際に決め手になるのは人事です。当選回数を重ねながら、要職に就いたことのない人物「派閥に押し込まれる」という意味では、総理には100%の任命権はないわけで、そんな中でしっかり「身体検査」を行うノウハウが欠けていたとなると、周囲が騒がしくなるのは抑えられないということになります。
3つ目は、中東情勢です。ここへ来て世論の風向きが変化しているので、また少し違うトーンになってきたのですが、10月7日のハマスによる奇襲テロ攻撃の直後は、若い世代を中心に岸田総理の態度に違和感が出たようです。つまり、ウクライナに対しては被害者の正義を認めて即座に100%の支持をしたのに、テロ被害者のイスラエルに対しては曖昧な態度を取ったことがイメージ低下に繋がったようです。
これは、日本がG7の中では特殊な「中東における中立外交」を行ってきたことが、しっかり若い世代に伝わっていなかったのが原因です。ですが、総理として、この機会にその「国是」を自分の言葉で説明する努力は全く足りませんでした。
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何をやっているのか、何をやりたいのかが分からない岸田政権
4つ目は、経済政策です。円安がジリジリと進行することで、原油、そして輸送費が上昇し、更に穀物など食料品が上がっています。そして建設資材なども高くなり、全国的に影響が出ています。安倍政権時代には意図的に実施していた円安ですが、現在は全く違う様相になっています。エネルギー高と円安がダブルで効いていること、ドル円水準が120円前後ではなく、150円という弱さを見せていることを考えると、安倍=黒田時代とは構造的な違いが出てきています。
では、岸田氏は現状をどう認識して、どんな政策を打って行くのか、これがサッパリ見えません。デジタルの関連も総理のメッセージ発信は弱く、担当大臣に丸投げですし、ライドシェアの問題も総理としては「知らぬ存ぜぬ」に見えます。
4点ほど「現象面」からの指摘をしましたが、全体的に言えるのは、政策の方向性が全体的に見えないことで、内閣の存在感が希薄になっているということです。過去の政権と比較すると、例えば小泉政権は(徹底的に骨抜きになっていたにしても)構造改革を前向きに売り込むという「姿勢」がありました。安倍政権(第二次)は保守派の支持を取り付けることで、政治も経済も外交も中道政策で課題を解決するという手品を続けた政権でした。例えば前世紀になりますが、小渕政権などは、結果的に捨て金になったにせよ、バブル崩壊で傷んだ経済に対して公共投資のバラマキを必死に続けた政権と言えます。
そうした過去の政権と比較すると、岸田政権というのは何をやっているのか、何をやりたいのかが分からないわけです。安倍政権より中道寄りかと思うと、いきなり防衛費を倍増するとか、ウクライナに100%のコミットをしてしまうとか、その一方で、広島サミットでは核廃絶に情熱を込めるなどという発言が出るわけです。では、核禁条約と核不拡散の二重体制というウルトラCをやるかというと、この点ではアメリカ追随の現状維持にとどまるわけです。
その結果が最初に述べたような「子育て政策の財源は増税で、それを批判されたら定額減税」という世論の「尾を踏む」ような迷走になっているわけです。つまり、一貫性、左右のマトリックスにおける立ち位置というものがハッキリしないと言いますか、伝わって来ないのです。
国会答弁について言えば、小泉、安倍のように「俺様の本音はもっと右だけど、官僚の建前と憲法の建前があるので、ここは官僚の作文をイヤイヤ読んでおこう」というような態度は、勿論ですが、決してお行儀が良いとは言えません。気持ちが入っていないので棒読みを批判されたり、見苦しい局面が多かったのは事実です。
一方で、岸田氏の国会答弁を聞いていると、塾世代のガリ勉タイプですからさすがに読み間違えとかは少ないのです。ですが、とにかく彼の本音はどこで、そこからどのぐらいズレた建前を喋っているのか、あるいは理想論はあそこだが今喋っているのは現実だとかという「政治の位置感覚」があるのかないのか、分からなくなるのです。もっと言えば思想的、政策的な「ホンネ」そのものが欠落しているか、もしくは極端に現実離れした社会観を持っているのかもしれません。
多分、本当に中長期ビジョンはないし、左右のプロッティングと言いますか、あるいは改革か守旧か、短期か長期かといった判断の感覚というのが、もしかしたら決定的に欠けているのかもしれないのです。それでいて、どうやら舞台裏での暗闘に関しては敵味方を峻別してネチッこくやっているフシもありますが、世論にはそれも良くも悪くも伝わっていないようです。
そうしたことの全体が、どうも「この総理では不安だ」ということになっているのではないかと思うのです。
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対立軸が良くも悪くもハッキリしているアメリカ
こういう場合は、やはり政策論議に戻るのが一番です。確かに、岸田政権への不安は属人的であり、具体的にはコミュ力を中心とした統治スキルの問題だと思います。ですが、例えば岸田がダメなら、茂木はどうか、河野は危ないので菅の復帰でどうか、あるいは選挙対策で上川を担げなどという中で、一々それぞれのスキルを比較しようにも、徹底的に各人のスキルを追及する場というのがそもそもありません。
とにかく、日本の総理選出のシステムは、総理総裁になる直前までの権力闘争は密室政治であり、就任した途端に「国民との直接対話」という未経験のガチンコ演技が求められるというギャンブル性の高い制度になっています。これを、すぐに変えることができないのであれば、政権が弱まった際にはやはり政策論議という基本中の基本に戻るのが重要と思うのです。
この政策の対立軸ということでは、日本とは反対に「良くも悪くもハッキリしている」のが、アメリカの場合です。単純化をするのであれば...