順天堂大大学院医学研究科消化器内科学の大久保捷奇助教らの研究グループは、エンドグリンと呼ばれるタンパク質の発現量が高いと、乳がんの予後が悪くなることを発見した。乳がん組織に豊富に存在するがん関連線維芽細...
液晶ディスプレイの⾼機能化を可能にする新たな研究成果、近畿⼤と⽴命館⼤による研究グループが発表。円偏光の発生・回転方向の高速切替に成功。
女子の進学選択に影響する「親の期待」 ― ジェンダー観が高等教育への進路を左右 ―
詳しくは、早稲田大学ウェブサイトをご確認ください。
<発表のポイント> ■女子の大学進学率は上昇している一方で、難関大学への出願は依然として男子よりも低率に留まっています。 ■本研究は、高校生の進学選択に対する「親の意識」が子どもの性別によって異なることを実験的に示し、女子は「女子学生が多い大学」あるいは「文学部に代表される文系学部」を受験先として選ぶと親から高く評価される傾向がある一方、「工学部」の受験は親から勧められない傾向にあることを可視化しました。 ■本研究の結果は、日本におけるジェンダー格差の根底にあるアンコンシャス・バイアスを可視化し、入試制度改革や進学支援策のあり方に示唆を与えます。
日本では大学進学率が男女でほぼ同等になった一方で、難関大学(※1)への出願では女子が依然として少ないことが課題として指摘されています。
早稲田大学政治経済学術院の尾野嘉邦(おの よしくに)教授、ハーバード大学・早稲田大学現代政治経済研究所の打越文弥(うちこし ふみや)特別研究所員、学習院大学の三輪洋文(みわ ひろふみ)教授の研究グループは、高校生の大学選びに対する「親(※2)の意識」に焦点を当て、性別による評価の違いを調査しました。全国の成人
...more3,000人を対象とした実験調査の結果、女子が「女子学生が多い大学」あるいは「女子向きとされる学部」を希望している場合に、その親は受験を勧める傾向がわかりました。さらに、男子に比べて女子の大学進学に経済的な便益を見込んでいない親、あるいは伝統的な性役割意識(※3)を持っている親は、女子の難関大学受験を勧めない傾向にありました。
図1は、親が子どもの受験先をどう評価するかについて、さまざまな要素(大学の種類、学部、通学方法など)がどのように影響しているかを示したものです。女子割合が高い大学や文学部(=Humanities)への受験を予定している場合に、親の評価は高くなります。ここからは、進学に対する親の意識にはジェンダーによる違いがあることが示唆されます。
これらの結果は、大学進学におけるジェンダー格差の一因が、社会的な性別役割意識にあることを示唆しており、今後の大学入試制度や進学支援の見直しに資する知見となります。
本研究成果は、2025年6月26日に高等教育研究に関する国際誌「Research in Higher Education」に掲載されました。
論文名:Gendered Expectations for College Applications: Experimental Evidence from a Gender Inegalitarian Education Context
(図1)親が子の受験先を評価する際に影響する要素。(7)論文のFigure 3から転載。
(1)これまでの研究で分かっていたこと
これまでの研究は、教育社会学やジェンダー研究の専門家によって進められてきました。大学・短大を含めた女子の高等教育機関進学率は上昇している一方、難関大学や理系分野では依然として男性が多数を占めていることが知られています。こうした傾向は1990年代以降、特に男女の進学率が逆転し始めた頃から注目されてきました。
日本を含む東アジア諸国では、選抜的な大学入試制度のもと、性別による進路の分化が顕著に見られます。その進路選択の違いは、本人の志望や能力によるとされてきましたが、「親の意識」など周囲の影響については十分に検証されていませんでした。また、これまでの研究は主にインタビューや観察データに基づいており、因果関係の特定には限界がありました。
(2)今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと、そのために新しく開発した手法
男女の大学進学率は均等化しているにもかかわらず、女子が難関大学への進学を避ける傾向は続いています。これは本人の希望だけでなく、親の性別に対する期待が影響しているのではないかと考え、本研究では、女子の進学判断における「親の無意識バイアス」を可視化することを目指しました。子どもが「男子か女子か」によって、親が進学先をどう評価するのかを検証し、特に、難関大学への進学に対して親の態度がどのように変化するかを調べました。
オンライン調査は2023年2月下旬から3月上旬にかけて、全国の成人男女3,000人を対象に架空の高校生のプロフィール(図2)を提示し、その高校生の親として「受験を勧めるかどうか」を評価してもらう調査実験(コンジョイント分析)(※4)を行いました。子どもの性別、志望学部、学部内の女性学生比率、通学距離などを無作為に組み合わせ、親の反応を統計的に分析しました。
(図2)実験で用いたプロフィール例
まず、大学の難易度そのものに対しては、子どもの性別による評価差は大きくなく、難関大学を受験することは、男女関係なく親から勧められる傾向がありました。一方で、女子の場合、希望する大学の女子比率が高いと親は受験を勧める傾向が確認されました。また、「女子向き」というイメージが強い傾向がある学部(文学部など)を女子が希望している場合も、親は受験を勧める傾向にあります。これに対して、「男子向き」のイメージが強い傾向がある理系学部(工学部)を女子が希望している場合には、親は進学を勧めない傾向がありました。
また、調査の回答者に大学に進学することの経済的便益を男女別に予想してもらったところ、女子に比べて男子の大学進学に高い便益を見越している人ほど、女子の難関大学受験を勧めない傾向がわかりました。さらに、伝統的な性役割意識を持っている親は、女子の難関大学受験を勧めない傾向にあることもわかりました。
以上の結果は、女子が難関大学を避ける要因が「学力的困難さ」ではなく、親が抱く「その大学のイメージ」や「大学進学に対する期待利益」にある可能性を示唆しています。とくに、「理系学部」「男子が多い大学」への進学は、女子にとってハードルが高いと親に認識されていることが分かりました。
(3)研究の波及効果や社会的影響
本研究は、大学進学におけるジェンダー格差の背景として、親の無意識の性別観(アンコンシャス・バイアス)が重要な役割を果たしていることを示しました。特に、難関大学への女子の進学が本人の学力や志望だけではなく、保護者の評価基準に左右される可能性を、実証的に明らかにした点は注目できます。この成果は、高等教育政策に対する重要な示唆を提供します。進学格差(※5)を是正するには、教育機会の平等だけでなく、「選択の背後にある価値観や認知の偏り」にも目を向ける必要があることが示されたためです。
また、社会的には、現在議論が進んでいる「女子枠」(※6)導入との関連性も高いといえます。たとえば、都内のある理工系国立大学では2024年度より、女子受験生向けに入学定員の一部を確保する制度が導入されました。こうした制度は現在、全国40大学以上に広がりつつあります。本研究の知見は、それらの制度が社会や家庭にどのような影響を与えるかを評価・設計する上での理論的基盤となり得ます。
さらに、学校現場における進学指導やキャリア教育にも応用可能です。女子は「女子向きとされる学部」や「女子学生の多い大学」で親からより高く評価されやすいという傾向を踏まえることで、進路指導においても、保護者の認識に働きかける視点が求められます。教育関係者がこの知見を活用することで、ジェンダーに配慮した進路支援がより効果的に行えるようになります。
本研究は、進学格差の構造的要因を解明することで、政策・教育・家庭のそれぞれに対し、具体的な改善の方向性を示すものとなりました。
(4)課題、今後の展望
本研究は、受験先の大学に対する親の評価が、子どもの性別によって変わる可能性を示しました。しかし、本調査はあくまで仮想のプロフィールに基づく評価実験であり、実際の行動や進学決定とは異なる場合があります。また、受験する大学の選択には、家庭の経済状況、学校の進路指導、本人の希望など、さまざまな要因が複雑に関係しています。今回の結果はその一部を明らかにしたにすぎず、「親の意識」だけで進学の意思決定全体を説明できるわけではありません。
こうした限界を踏まえ、今後は以下のような発展的な調査が求められま...
東京科学大大学院医歯学総合研究科細菌感染制御学分野の鈴木敏彦教授らの研究グループは、歯周病菌が低酸素環境下で自己免疫疾患である多発性硬化症を悪化させる仕組みを明らかにした。
日本の名古屋大学で行われたショウジョウバエを用いた研究により、がん細胞は「死んだがん細胞」が免疫細胞に食べられることで数が減るのではなく、むしろ生き残ったがん細胞の増殖が促進されるという衝撃的な発見がなされました。
従来マクロファージに代表される貪食作用がある細胞は体内の不要な細胞や異物を取り込んで掃除を行い、組織の健康を維持していると考えられていましたが、今回の研究により、その善意の「掃除」ががん細胞にとっては「肥料」となり、増殖を助けてしまうという意外な側面が浮かび上がったのです。
さらに、この現象は炎症物質の連鎖反応によって、がん細胞自身が次々と炎症物質を出し合うことによって、より一層強力に増殖が促進されていました。
つまり、がん細胞は死んだ仲間が食べられることを逆手に取り、自らの成長を促すシステムを巧妙に作り出していたのです。
この驚くべき発見は、がん治療の常識を変えることになるのでしょうか?
研究内容の詳細は2025年6月26日に『Current Biology』にて発表されました。
目次
がんを取り巻く免疫細胞は敵か味方か免疫細胞が『掃除屋』から『がんの味方』へ免疫の裏切りを利用する新しいがん治療への道筋
がんを取り巻く免疫細胞は敵か味方か
がんを取り巻く免疫細胞は敵か味方か / がん細胞の周りにいるマクロファージはがんの成長を抑えるだけでなく、近年ではがんの成長
...moreを促進する役割をしているのではないかと考えられるようになっています。/Credit:死んだがん細胞の捕食ががんの爆発的増殖を促進 ~マクロファージの”貪食” ががんを育てる意外な仕組みをハエで発見 新たな治療法の確立に期待~
がんという病気は誰にとっても怖いものです。
身近な人ががんになった経験がある方なら、「早くがん細胞を消してしまいたい」と思ったことがあるでしょう。
体の中では、実際にそれを担ってくれる頼もしい細胞がいます。
それが免疫細胞の一種である『マクロファージ』です。
マクロファージは普段、体の中にある死んだ細胞や異物を丸ごと取り込んで分解する「貪食(どんしょく)」という能力を使い、組織を健康に保っています。
つまり体内の『掃除屋』として働いているわけです。
これまでの医学では、この掃除機能によってマクロファージは、がん細胞も同じように取り除き、がんの進行を抑えていると考えられてきました。
しかし最近になって、その認識を覆す新たな事実が浮かび上がっています。
なんと、この頼りになるはずの『掃除屋』が、がん細胞の味方をしてしまうケースがあるのです。
実際、がん組織の周りにはマクロファージが多く集まることが知られており、がんの進行が早いほど、その数は増える傾向にあります。
そして、このようながん組織に特別に集まってくるマクロファージは『腫瘍随伴マクロファージ(TAMs)』と呼ばれています。
これらTAMsは本来の『掃除屋』の役割とは逆に、がん細胞の増殖や転移を助け、がんを悪化させることが確認されています。
けれども、がん細胞がどうやってマクロファージを自分の味方にしてしまうのか、その詳しい仕組みについてはまだはっきりしていませんでした。
この謎を解き明かすために名古屋大学の研究グループは、モデル生物としてショウジョウバエを使った研究を開始しました。
【コラム】ハエを研究する理由
なぜヒトとは進化的に遠いハエが、医学や生命科学の最前線で重宝されるのでしょう?意外に思う人もいるかもしれませんが、ハエもヒトも酸素を吸って二酸化炭素を吐き、糖や脂肪を分解してエネルギーを作ります。筋肉を縮める仕組みも、脳で情報をやり取りする電気信号(ニューロンの活動)も、根本原理はヒトもハエも同じです。台所に置いた果物にハエが群がるのは、人間の食べ物から得られる糖分やアミノ酸こそが、ハエたちにとっても最高の燃料だからにほかなりません。細胞レベルで見ても共通点は驚くほど多く、DNAを読み取ってRNAを作り、タンパク質へと翻訳する「遺伝情報の流れ」は教科書図そのままに保存されています。またゲノムを比べると、ショウジョウバエにある遺伝子のおよそ7割がヒトの遺伝子と“一対一”で対応します。筋萎縮性側索硬化症(ALS)やアルツハイマー病、パーキンソン病など、人間の難病原因遺伝子の多くがハエにも見つかっており、変異を導入するとハエでも類似の神経変性や行動異常が起こります。つまり「病気の設計図」が共通しているからこそ、ハエで症状が再現でき、治療薬の候補分子をスクリーニングする足がかりになるわけです。今回取り上げたマクロファージのような「掃除屋」は、ハエでは血球(ヘモサイト)と呼ばれる細胞が担います。(※本記事ではプレスリリースと論文に習いマクロファージと表記します。)ハエの血球も死んだ細胞を食べ、細菌を飲み込み、炎症性サイトカインに似たタンパク質を分泌して組織修復を促します。つまり「死んだ細胞をどう処理し、傷をどう治すか」という免疫の基本路線は、昆虫と哺乳類でほぼ共通なのです。そのためハエで“掃除屋ががん細胞に利する疑い”を調べることは、臨床試験に先立つ強力なヒントとなるのです。実際、ハエを研究することで得られた知見は計り知れません。体内時計、発生遺伝子、カルシウムシグナル、嗅覚受容体――これらはすべてショウジョウバエで解明され、のちにヒトでも同じ原理が働くと裏付けられたテーマです。ショウジョウバエは卵から成虫までおおよそ10日~2週間。成虫一匹の飼育コストはマウスの千分の一以下で、数千匹を同時に飼っても実験室の片隅で済みます。短い世代時間と低コストのおかげで、数百~数千系統の遺伝子改変ハエを一斉に作り、病気モデルや薬剤効果を“網羅的”にテストできます。そういう意味では実験動物としてのハエは決してマウスやサルの下位互換ではないのです。
ショウジョウバエは遺伝子の多くが人間と共通していて、ヒトの免疫システムやがんの仕組みを調べる上でも役立つ生物です。
ヒトでは簡単には調べられない細胞レベルの変化を、ショウジョウバエなら詳しく観察することができます。
研究グループは、ショウジョウバエに人間のがんに似た悪性腫瘍を発生させることで、体内で何が起きているのかを詳しく調べることにしました。
特に、がん細胞とマクロファージがどのように相互作用しているのかを遺伝子レベルで詳細に調べ、この奇妙な協力関係が具体的にどんな仕組みで成り立っているのかを明らかにしようと試みたのです。
マクロファージが本当に『掃除屋』から『肥料』に変わってしまうなら、その仕組みは一体どのようなものなのでしょうか?
免疫細胞が『掃除屋』から『がんの味方』へ
免疫細胞が『掃除屋』から『がんの味方』へ / a/Credit:死んだがん細胞の捕食ががんの爆発的増殖を促進 ~マクロファージの”貪食” ががんを育てる意外な仕組みをハエで発見 新たな治療法の確立に期待~
マクロファージが本当に『掃除屋』から『肥料』に変わってしまうなら、その仕組みは一体どのようなものでしょうか?
この謎の答えを得るために、名古屋大学の研究者たちはショウジョウバエを使うことにしました。
ショウジョウバエを使えば、生きたままの腫瘍細胞とマクロファージの動きをリアルタイムで観察することが可能になります。
実験ではまず、ショウジョウバエの眼の組織に遺伝子操作によって人工的に悪性腫瘍(がん細胞)が作られました。
そしてその腫瘍の成長を追跡したところ、腫瘍の一部の細胞が死に、その死んだ細胞を目がけてマクロファージが集まり始めることが観察されました。
通常、マクロファージはこうした細胞の死骸を取り込んで掃除しますが、今回注目すべきなのは、マクロファージががん細胞を取り込んだあとに何をしているかということでした。
詳しく観察すると、マクロファージは死んだがん細胞を取り込んだあと、『Upd3』という特別な炎症性サイトカインを放出していることが明らかになりました。
このUpd3は、人間の炎症反応で中心的な役割を果たす『インターロイキン6(IL-6)』という物質に非常に似ています。
マクロファージから放出されたUpd3は、その周囲にいる生きたがん細胞に働きかけ、がん細胞の増殖を促す仕組みを作ってしまっていました。
研究者たちはさらに、Upd3ががん細胞にどのような影響を与えるのかを調べるために、遺伝子の働きを調整できる特殊な実験を行いました。
具体的には、マクロファージがUpd3を作れないように遺伝子を操作したり、マクロファージががん細胞を取り込む能力そのものを低下させたりしました。
すると、驚くことに、これらの操...