2013年7月に投開票が行われた参院選の公示日4日前、当時の安倍晋三首相と旧統一教会会長らが自民党の総裁応接室で面談していたとされる写真を、9月17日付の朝刊でスクープした朝日新聞。教団票の差配に関する協議も行われたとの証言もありますが、岸田首相やすべての総裁選候補は統一教会問題の再調査を頑なに拒むかのような姿勢を崩しません。今回の『きっこのメルマガ』では人気ブロガーのきっこさんが、これこそが政権とカルト教団の癒着の実態と指摘。さらに政権が変わらないかぎりこのような状態が終わることは決してないと断言し、ある国の事例を挙げて解説しています。※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:政権とカルト教団
安倍晋三と統一教会だけじゃない。政権とカルト教団「癒着」の実態
日本と同じアジアの島国であるフィリピン共和国は、国としての規模が日本ととても良く似ています。まず、日本の総面積は約37.80万平方キロメートル、フィリピンの総面積は約34.34万平方キロメートル。日本の人口は約1億2,400万人、フィリピンの人口は約1億1,600万人。国土の総面積も人口も、フィリピンは日本の約9割ほどで、ほぼ同じ規模なのです。
また国際社会での立ち位置も、日本もフィリピンも同盟国の名のもとにアメリカから都合良く使われがちな点や、日本は東シナ海で、フィリピンは南シナ海で、中国からの
...moreチョッカイに手を焼いている点なども類似しています。そして、こうした背景を踏まえた上で、アメリカと中国の板挟みになりつつも、自国の経済のために外交努力に余念がない点も同様でしょう。
しかし、こうした表面上だけでなく、水面下でも日本とフィリピンは、否、日本の自民党政権とフィリピンの前ドゥテルテ政権は酷似していたのです。それは、政権与党がカルト教団と手を組み、政権維持のために利用していたという点です。日本では朝日新聞が、2013年の参院選の直前に当時の安倍晋三らが自民党本部で統一教会の会長らと面会している写真を公開したことで、これまでの岸田文雄首相の「党としての組織的な関係はなかった」という説明が虚偽であったと証明されました。
それでも岸田首相は「再調査の必要はない」と強弁し、任期切れでの逃亡を図りました。また、総裁選に出馬している9人の候補者も、全員が再調査には否定的な姿勢を示し、今でも教団と深い繋がりのある議員が多数いるという自民党の実体を白日の下に晒したのです。そんな「自民党と統一教会の問題」が再燃する中、フィリピンでは9月8日、ロドリゴ・ドゥテルテ前大統領の盟友と言われるアポロ・キボロイ容疑者(74)が、フィリピン国家警察(PNP)に逮捕されました。
アポロ・キボロイは、フィリピンのミンダナオ地方ダバオ市に30ヘクタール(東京ドーム6.4個分)の広大な拠点を持つカルト教団「イエス・キリストの王国(KOJC)」の創設者にして教祖であり、自分のことを「宇宙の所有者」だの「神に任命された息子」だのと抜かしてるアレな人です。でも、統一教会しかり、こういうアレな人にこそ騙されちゃうんですよね、ピュアな一般人たちって。
アポロ・キボロイの宗教詐欺の基本は「この世は近いうちに滅亡するが、私を信じて寄付をした者だけは救われる」という宗教詐欺の定番メニューですが、このカルト教団の信者数は、フィリピン国内に400万人以上、ウクライナやブラジルやアメリカなどに200万人以上、推定で600万人を超えると見られています。キボロイは統一教会と同様に、信者らに強制的に集金活動をさせ続けているだけでなく、気に入った女性信者を日替わりで「夜の義務」と称した自分への性的サービスを強要して来ました。
ドゥテルテ政権が一丸となって守った「太すぎる客」
他にも、児童への性的虐待や人身売買や偽装結婚の斡旋、詐欺や強制労働、現金密輸や資金洗浄などを繰り返し、2014年から2019年までの6年間だけで少なくとも約2,000万ドル(約30億円)を集め、自身の贅沢三昧や政治家への賄賂に使って来ました。フィリピン国内に数々の不動産を所有しているだけでなく、分かっているだけでも米カリフォルニアと米ラスベガスとカナダに、計1,100万ドル(約16億5,000万円)を超える4つの邸宅を所有しています。
アメリカ連邦大陪審は2021年11月、アポロ・キボロイを複数の罪で起訴し、逮捕状を出しました。そして、米FBIはキボロイを指名手配しましたが、彼をアメリカから守ったのがロドリゴ・ドゥテルテ前大統領でした。マルコス独裁政権時代から政治家への賄賂を怠らなかったキボロイは、常にフィリピン政権から守られて来たのです。
ロドリゴ・ドゥテルテ前大統領は2016年、テレビのインタビューで、ダバオ市内の3つの不動産と2台の車をアポロ・キボロイからプレゼントしてもらったと話しました。そして「教祖はとても気前がいい。別荘や車など何か買い物をする時は、必ず2つ買って1つを私にくれる」と笑顔で述べています。また、自身の持病の治療のため、アメリカのトップクラスの脳外科医を紹介してもらった上、高額な医療費も全額をキボロイが負担してくれたと述べました。
キボロイは2機の航空機と3機のヘリを所有しており、選挙のたびにドゥテルテ前大統領を始め、政権の中枢の政治家らに無償で提供して来ました。ここまでしてくれる「太すぎる客」なのですから、いくらアメリカのFBIが指名手配をしようとも、ドゥテルテ政権は一丸となってキボロイを守ったのです。それまでのアキノ政権が「親米反中」だったのに、ドゥテルテ前大統領に代わったとたんに「反米親中」になったのも、この「太すぎる客」を守るためだったのです。
ドゥテルテ前大統領は、アポロ・キボロイを自分の「スピリチュアル・アドバイザー」に任命し、精神的なことだけでなく、政治的な問題に関してまで、キボロイに意見を求めるようになりました。しかし、これが功を奏したのか、「麻薬密売人は裁判など受けさせずにその場で射殺しても良い」などという民主主義を無視したトンデモ政策も国民からは支持され、最後まで高い支持率を誇ったのです。
日本では「フィリピンのトランプ」などと揶揄されましたが、それはアメリカの属国である日本のマスコミの報じ方の問題だったと思います。たとえば日本の拉致問題について、ドゥテルテ前大統領は「日本は兄弟よりも大切な友人だ。北朝鮮の金正恩は大馬鹿野郎だ」と述べているのです。こういう発言を日本のマスコミが正しく報じていれば、日本からの見方も変わっていたかもしれません。もちろん、それとカルト教団との癒着の問題は別ですが。
さて、そんなフィリピンですが、現在の大統領は、ボンボン・マルコス(66)。これは通称で、本名はフェルディナンド・マルコス・ジュニア。1965年から20年間に及ぶ独裁政権に君臨した悪名高きフェルディナンド・マルコス元大統領の長男で、私物化した税金で買いあさったイメルダ夫人の3,000足もの靴のコレクションを覚えている人もいると思います。
そして副大統領は、サラ・ドゥテルテ(46)。これまた強権を振るったロドリゴ・ドゥテルテ前大統領の長女です。ドゥテルテ前大統領の任期満了に伴って行なわれた2022年5月の大統領選では、当初、出馬を示唆しましたが、すぐにボンボン・マルコス候補との連携を発表し、自身は副大統領選に出馬。そして、ボンボン・マルコス&サラ・ドゥテルテのタッグは、対立候補に倍以上の差をつけて圧勝し、今日に至るというわけです。
有権者の15%を意のままに操るアポロ・キボロイ
で、この時、教団を挙げてボンボン・マルコスとサラ・ドゥテルテを支援したのが、そう、アポロ・キボロイでした。キボロイは2人への全面支援を宣言し、航空機やヘリの無償提供を始め、あらゆるバックアップに尽力しました。しかし、何よりの支援は、400万人を超える国内の信者でした。冒頭でフィリピンの人口は約1億1,600万人と書きましたが、フィリピンは日本と違って未成年者が多い国なので、有権者は人口の半数の,6000万人ほどしかいません。
しかし、そのうちの15%に当たる400万人が、キボロイの指示通りに動く洗脳信者なのです。これは得票数としても選挙の支援としても大きな力です。そして、その結果、ボンボン・マルコスとサラ・ドゥテルテの2人は対立候補にダブルスコアで圧勝したのです。
この結果を誰よりも喜んだのが、米FBIから指名手配されているアポロ・キボロイでした。選挙後の2022年6月19日、サラ・ドゥテルテの副大統領就任宣誓式に「宗教指導者」として招待されたキボロイは、...