欧州宇宙機関(ESA)が、国際宇宙ステーション(ISS)での長期ミッションに不可欠な、革新的な食料生産方法の試験を開始しました。この取り組みは、宇宙情報メディア「Space.com」で報じられたもので、「HOBI-WAN」プロジェクトとして月や火星への長期滞在を見据え、限られた資源で食料を生産する技術開発を目指すもの。宇宙での食料供給は、地球からの輸送に大きく依存しており、遠隔地へのミッションではコストや実現可能性の面で大きな課題。同プロジェクトは、宇宙における人類の自律性、回復力、そして宇宙飛行士の幸福度を向上させるための重要な一歩となる可能性があります。「Solein」:空気と電気から生まれるタンパク質唯一無二の食料源、Soleinとはプロジェクトの中核をなすのは、フィンランドの食品技術企業「Solar Foods」が開発した「Solein(ソレイン)」と呼ばれる粉末状のタンパク質。Soleinは、微生物、空気、そして電気を原料とし、ガス発酵プロセスを経て製造されます。地球上ではこの技術が実証されていますが、宇宙空間では微小重力下でのガスの挙動や、窒素源として尿中の尿素を利用するなど、異なる技術的アプローチが必要となります。宇宙でのSolein生産の課題と展望HOBI-WANプロジェクトでは、今後8ヵ月間、地上での試験を通じて、Solein生産に必要な技術を開発。成功すれば、I
...more SSでの実証試験が行われる予定だそう。宇宙空間では、浮力の欠如によりガスや液体が地球上とは異なる挙動を示すため、微生物への栄養素やガスの輸送がSoleinの生成に影響を与える可能性があります。このプロジェクトは、宇宙環境における微生物の挙動を理解し、前例のないガス発酵技術を宇宙で確立することを目指しているようです。宇宙食の未来と持続可能性への考察宇宙食の課題:長期ミッションと資源の制約月や火星への長期ミッションが現実味を帯びる中、宇宙飛行士の食料供給は依然として大きな課題です。地球から大量の食料を輸送することは、コストとロジスティクスの観点から非現実的。そのため、宇宙空間で食料を現地生産する技術は、ミッションの持続可能性を確保するために不可欠。Soleinのような革新的な食料源は、宇宙飛行士の栄養を確保するだけでなく、食料の多様性を向上させ、精神的な健康にも寄与する可能性を秘めているわけです。「宇宙の尿」が未来の食料に?資源循環の重要性Solein生産において、窒素源として尿を利用するという事実は、宇宙における資源循環の重要性を示唆しています。水のリサイクルシステムがISSで既に運用されているように、排泄物などの廃棄物を有効活用することは、閉鎖的な宇宙環境で生存するために不可欠。将来的には、宇宙ステーションや居住地で生成される廃棄物が、食料やその他の生活必需品に変換される、より高度なバイオ再生型生命維持システムが構築されることが期待されます。食料生産技術の進化がもたらす人類の宇宙進出への貢献HOBI-WANプロジェクトのような取り組みは、単に宇宙食の供給問題を解決するだけでなく、人類が宇宙で長期的に活動するための基盤を築くもの。食料生産技術の進歩は、宇宙飛行士の生存率を高め、より遠くの天体への探査を可能にします。これは、人類が地球外で持続的に生活するための、重要な第一歩と言えるでしょう。Reference: Europe wants to make space food out of thin air and astronaut pee Top image:AIによる生成
高市政権となり、自民と維新の自維連立政権が発足した。社会保障改革は前石破政権で盛り込まれた病床削減・転換をはじめ、維新主導の施策が盛り込まれたが、これら政策が医療界に与える影響とは…。
中国の北京大学(PKU)で行われた研究によって、厚さわずか1.8ミリメートルという“紙のように薄い布”が、従来のケブラーをしのぐ防弾性能を発揮するとの発表。
論文では、同素材が布として衝撃に対し、これまでで最高の性能を示したことが報告されています。
この新素材は、カーボンナノチューブ(炭素原子が筒状につながった極細の糸)をアラミド繊維の中に整然と並べるという独自の方法で作られたものです。
その結果、わずか数枚重ねるだけで衝撃のエネルギーを吸収し、これまでの常識を覆す強度としなやかさを同時に実現しました。
これほど薄い素材が、なぜ衝撃を大きく減速できたのでしょうか?
研究内容の詳細は2025年10月31日に『Matter』にて発表されました。
目次
これまでの防弾服は繊維の力を発揮できていなかった1.8㎜の薄さで弾丸を止める最強防弾布未来の防護服のスタンダードになるか?
これまでの防弾服は繊維の力を発揮できていなかった
防弾服が厚い理由は繊維の力を発揮できていないから / Credit:Canva
「防弾チョッキは分厚くて重いもの」──そんな常識が、最近の研究で揺らいでいます。
一般に、銃弾から身を守るには厚い層が必要だと考えられており、実際に多くの防弾服はケブラーという丈夫な糸を何十層も重ねることで衝撃を受け止めています。
しかし、重ねるほど服は分厚く重くなり、着る人の動きや
...more すさや疲れやすさを大きく損なってきました。
そこでまず押さえてほしいポイントは、「薄い布」で強さを出すためには布の中で各糸が同時に力を出すことが重要だという点です。
糸は目に見えない長い分子の鎖(高分子鎖:繊維を作る長い分子の連なり)でできており、これらがまっすぐに揃って踏ん張れば大きな力に耐えられますが、並びが乱れていると衝撃で“滑って”しまい力が逃げてしまいます。
この「滑り」が起きると、一部の糸だけが先に伸び切って切れ、残りの糸はまだ余力を残すというムダが生じます。
結果として布全体は最大の力を引き出せないため、設計者は「人数を増やす」つまり層を追加して不足分を補うことで安全確保を図り、どうしても厚く重くなるのです。
次に押さえるべき基礎知識は、材料には強度(どれだけ引っ張れるか)と靭性(どれだけエネルギーを吸収して壊れにくいか)という性質があり、これらはしばしば両立しにくいという点です(トレードオフ)。
簡単に言うと、硬く丈夫な材料は「割れやすく」、粘り強い材料は「変形しやすい」ため、どちらかに偏ると別の弱点が出るということです。
では、どうすれば糸が一斉に踏ん張り、かつ粘り強さも確保できるのか――そこが今回の研究の問いです。
研究チームはこの問いに対し、繊維内部で分子が滑らないように揃えること(配向)と、ナノレベルの補強材を併用して力を受け渡す工夫を目標に設定しました。
鍵となる候補は「カーボンナノチューブ」と呼ばれる極細の筒状炭素素材で、理論上はとても高い引っ張り強度を持ち、繊維の中で力を橋渡しする役割を期待できます。
ただし実務上は、長いナノチューブは絡まりやすく、繊維中で均一に分散させて一定方向に並べる(配向)のが非常に難しいという壁が存在します。
さらに従来のアラミド繊維などでは、元の高分子鎖が硬くて製造時に十分に引き伸ばして分子配向を作りにくいという技術的制約もありました。
そこで今回研究チームはナノチューブの表面処理や分散法と、繊維の段階的引き伸ばしを組み合わせるアプローチで問題解決に挑みました。
1.8㎜の薄さで弾丸を止める最強防弾布
カーボンナノチューブで織った『最薄防護服』誕生 / Credit:Aramid fibers with dynamic strength up to 10 GPa and dynamic toughness up to 700 MJ m−3
どうすればカーボンナノチューブの向きを揃えられるのか?
そもそもカーボンナノチューブとは、炭素原子がハチの巣のようにつながって筒状になった、非常に細いチューブ状の素材です。
理論的にはとても強靭ですが、そのまま使うには大きな問題がありました。
チューブが長くなるほど、まるでイヤホンのコードがカバンの中で絡まるように、束になって絡まりやすくなるからです。
これを無理やり繊維に混ぜると、強度は均一に出せず、期待通りの性能が出ません。
そこで研究チームは、2つの工夫を考えました。
まず1つ目は、「カーボンナノチューブの束をほぐしてあげること」です。
これはチューブの表面にわずかに化学的な処理をして、一本一本をばらばらにしてやります。
この段階で絡まったナノチューブは少しずつ分離し、均一に分散しやすくなります。
2つ目の工夫は、「混ぜる相手の繊維の柔軟性を高めること」です。
防弾チョッキなどに使われるアラミド繊維は、丈夫で硬い反面、その分子が曲がりにくくて伸ばすのが難しいという弱点があります。
そこで研究チームはアラミド繊維の分子構造を少し変えて、曲げやすくする工夫を施しました。
この柔らかくした繊維の中に、先ほどのナノチューブを均一に混ぜると、相性が良くなり、両者はよく馴染みます。
さらに、この混ざった繊維を「段階的に引き伸ばす」ことで、繊維内部の構造を劇的に改善させました。
最初は常温で軽く伸ばし、次に約300℃という高温でしっかりと引き伸ばします。
温度を高めると分子は動きやすくなり、その結果、ナノチューブとアラミド繊維がまっすぐ整って綺麗に並ぶのです。
繊維の内部にあった余分な隙間(空孔)も、この工程で圧縮されて減っていきます。
イメージとしては、「混み合った電車内で乗客が詰め合って隙間なく整列するような感じ」です。
この2段階の延伸加工のおかげで、繊維内の分子同士がぴったりと接触し、衝撃が加わったときも滑らず、一斉に踏ん張れる構造が完成しました。
こうして仕上げられた繊維を実際に引っ張って試したところ、これまでの繊維にはない驚きの性能が確認されました。
測定された「動的強度(急な衝撃に耐える力)」は約10.3ギガパスカル(GPa)、「動的靭性(壊れるまで耐えるエネルギー)」は約706メガジュール毎立方メートル(MJ/m³)という記録的な数値を達成したのです。
比較として既存のケブラー繊維(Kevlar® KM2)は動的強度は約4.04 GPaであることを考えるとその強さがわかるでしょう。
この動的靭性という数値は、分かりやすく言えば、「衝撃で破壊されるまでにどれだけエネルギーを吸収して踏ん張れるか」を示しますが、706 MJ/m³という値は従来の繊維を大幅に超えた驚異的な数字です。
研究チームはさらに、この繊維を実際の布にして、破片の衝突に対する性能を試す実験も行いました。
ここで用いられたのは、重さが約1.1グラムの標準的な金属片です。
これを専用の装置から秒速約300メートルで発射して、繊維の布に衝突させました。
すると、この薄さ0.6ミリの布1枚だけで弾片の速度を約220メートルまで減速でき、3枚重ね(合計1.8ミリ)の布では弾片をほぼ停止させる結果が得られたと発表されています。
同じ条件でケブラーを使った場合、約4ミリの厚さが必要とされており、今回の新素材がいかに高い防護力を示したかが分かります。
さらに、この新しい布は織物としての柔軟性も保たれており、体の動きを邪魔せず着心地の良い防護服への応用が期待されています。
未来の防護服のスタンダードになるか?
未来の防護服のスタンダードになるか? / Credit:Aramid fibers with dynamic strength up to 10 GPa and dynamic toughness up to 700 MJ m−3
今回の発見により、「薄くてもしなやかでも、高い防護性能を発揮できる」ことが示されました。
研究論文によれば、本手法で得られた繊維の動的靭性はこれまでの記録を上回る水準であり、量産した繊維を織り上げた布でも優れた防護性能が確認されています。
強度と靭性の両立という素材工学の難題を打破したこの研究は、今後の防護素材デザインに新しい道を示しました。
この新素材が社会にもたらす影響は大きいと考えられます。
まず、軍人や警察官が身につける防護服やヘルメットは、同じ安全性を保ちながらも格段に軽く、薄くできる可能性があります。
これにより、動きやすさや疲れにくさが大きく改善されるでしょう。
また、航空機や宇宙船の外壁にこの軽量繊維を使えば、小さな隕石や破片(デブリ)から機体を守りつつ、全体の軽量化にもつながると期待されて...
世界のコラーゲンペプチド市場は、2022年に742百万米ドル規模に達し、2031年までに1,325百万米ドルへと拡大する見通しです。予測期間(2023年~2031年)において年平均成長率(CAGR)は6.66%と堅調に成長が見込まれています。コラーゲンペプチドは、動物性コラーゲンを加水分解して得られる低分子タンパク質であり、優れた生体利用率と機能性を持つことから、食品、化粧品、医薬品、栄養補助食品など多様な産業で需要が拡大しています。特に、アンチエイジングや関節・骨の健康維持、美容・フィットネス志向の高まりが市場成長を牽引しています。この戦略レポートのサンプルダウンロードをリクエストする @ -https://www.panoramadatainsights.jp/request-sample/collagen-peptides-market市場成長の背景:美容・健康志向の高まりとプロテイン市場の拡大コラーゲンペプチド市場の成長を支える最大の要因は、「美容と健康の両立」を志向する消費者意識の高まりです。世界的に美容サプリメント市場が拡大する中で、コラーゲンペプチドは「肌のハリ」「関節の柔軟性」「骨密度の維持」といった科学的エビデンスを持つ成分として注目を集めています。特にアジア太平洋地域では、美容・アンチエイジング製品への需要が顕著で、日本、韓国、中国などでは、コラーゲンドリンクや
...more 美容サプリメントが一般的な健康習慣として定着しています。また、欧米市場でも、クリーンラベル・ナチュラル志向の消費者が増加し、動物由来原料ながらも高純度・無臭・低アレルゲン性のコラーゲンペプチド製品が受け入れられています。市場を支える技術革新:加水分解技術とバイオ加工の進化コラーゲンペプチドの製造には、酵素加水分解技術が重要な役割を果たしています。従来の物理的・化学的分解手法では得られなかった均一な分子量分布と高い溶解性を実現することで、製品品質が飛躍的に向上しました。近年では、バイオテクノロジーを活用した新しい生産プロセスが開発されており、豚、魚、牛など複数の動物源から持続可能かつ効率的に抽出することが可能になっています。特に魚由来のマリンコラーゲンは、宗教的・文化的制約を受けにくく、アジア市場を中心に急速に需要が高まっています。また、ペプチドの分子サイズ制御や特定機能を持つペプチド分画技術も進展しており、消化吸収性や生理活性を高める研究が進行中です。需要拡大分野:食品・飲料から医療・化粧品まで広がる応用領域コラーゲンペプチドの用途は年々多様化しています。食品・飲料分野では、スムージー、プロテインバー、ドリンク、スープなどに添加され、健康志向の高い消費者層に支持されています。栄養補助食品分野では、筋肉回復や関節ケア、骨粗鬆症予防を目的としたサプリメントとしての採用が増加しています。さらに、化粧品業界では、コラーゲンペプチド配合のスキンケア製品が「インナーケア+アウターケア」の両面から美容効果を訴求し、売上を伸ばしています。医薬品・医療分野では、創傷治癒促進や組織再生に関する研究が進み、再生医療やドラッグデリバリーシステム(DDS)への応用も検討されています。地域別市場分析:アジア太平洋が最大市場、欧州と北米が高付加価値製品をリード地域別では、アジア太平洋地域が世界市場の最大シェアを占めています。特に日本と中国は、美容・健康食品としてのコラーゲン消費が非常に活発で、製品の多様化とブランド競争が進んでいます。日本市場では、味や風味を損なわない粉末タイプのコラーゲンペプチドが主流で、飲料や食品に簡単に溶ける利便性が評価されています。中国ではEコマースを通じた販売拡大が進み、若年層や女性を中心に需要が拡大中です。欧州市場は、持続可能性と製品安全性を重視する消費者が多く、魚由来や植物由来コラーゲンの人気が高まっています。北米市場では、スポーツニュートリションと連動した高純度プロテイン製品への採用が増加しており、米国ではフィットネスやウェルネスブランドが積極的にコラーゲン製品を展開しています。一方、ラテンアメリカや中東・アフリカ市場でも、健康志向の拡大とともに需要の潜在力が高まっています。市場の課題とリスク要因:原料供給と規制対応の複雑化コラーゲンペプチド市場にはいくつかの課題も存在します。第一に、動物由来原料への依存が高く、家畜・水産資源の供給不安や価格変動の影響を受けやすい点です。特に牛や豚由来製品では、BSE(牛海綿状脳症)などの感染症リスクを回避するため、原産地管理やトレーサビリティが厳格に求められています。第二に、各国で異なる食品・医薬品規制への対応も企業にとって大きな課題です。欧州食品安全機関(EFSA)や米国FDA、日本の厚生労働省などが定める安全基準を満たすため、品質保証や証明書取得が不可欠です。加えて、ビーガン・プラントベースト志向の高まりにより、動物由来製品の需要に一定の制約が生じつつあります。このため、代替たんぱく源としての植物由来コラーゲンや発酵由来ペプチドの研究開発が進められています。この戦略レポートのサンプルダウンロードをリクエストする @ -https://www.panoramadatainsights.jp/industry-report/collagen-peptides-market主要企業の戦略動向:製品多様化と持続可能なサプライチェーンの構築主要なグローバル企業としては、Rousselot(ダルタジェル社)、Gelita AG、Nitta Gelatin Inc.(日本ゼラチン工業)、PB Leiner、Weishardt Groupなどが挙げられます。これらの企業は、用途別製品ラインの拡充、酵素プロセスの最適化、持続可能な原料調達体制の構築を進めています。また、ブランド戦略として「クリーンラベル」「ナチュラル」「無添加」などの価値訴求を強化し、消費者との信頼関係を構築しています。さらに、バイオ技術を活用した高機能コラーゲンペプチド(例:美白・抗酸化・関節サポート機能)開発にも注力し、製品差別化を図っています。主要な企業:● Foodmate Co. Ltd● Gelnex● Naturin Viscofan GmbH● Ewald-Gelatine● GELITA AG● Nitta Gelatin Inc● Darling Ingredients● Lapi Gelatine S.p.A.● Tessenderlo Group● Weishardt Groupセグメンテーションの概要ソース別● 牛● 豚● 海洋● 家禽アプリケーション別● 食品及び飲料● 栄養製品● 化粧品及びパーソナルケア● その他将来展望:次世代ヘルスケアとサステナブル素材としての進化今後のコラーゲンペプチド市場は、単なる美容素材にとどまらず、「ホリスティック・ウェルネス(全人的健康)」の中核成分として発展すると予想されます。新しいトレンドとして、腸内環境の改善や免疫機能の向上など、全身の健康を支える生理活性ペプチドへの応用研究が進んでいます。また、環境負荷低減を目的としたマリンコラーゲンや再生可能バイオ原料への転換が加速することで、持続可能なサプライチェーンの確立が進むと考えられます。さらに、デジタル化が進む中で、個別化栄養(パーソナライズド・ニュートリション)に対応した製品開発が求められ、消費者一人ひとりの健康データに基づくコラーゲンサプリメントの提供も現実味を帯びています。フルサンプルレポートを請求する -https://www.panoramadatainsights.jp/request-sample/collagen-peptides-marketPanorama Data Insightsについて私たちは、数十年の経験を持つ専門家のチームであり、進化し続ける情報、知識、知恵の風景とつながる手助けをすることを決意しています。Panorama Data Insightsでは、幅広い関心分野において、定性分析と定量分析を通じてユニークで効果的なインサイトを創出し、クラス最高のリサーチサービスを提供することを常に目指しています。私たちのアナリスト、コンサルタント、アソシエイトは、それぞれの分野の専門家であり、広範な調査・分析能力によって、私たちのコアワークの倫理を強化しています。私たちのリサーチャーは、過去、現在、未来を深く掘り下げて、統計調査、市場調査レポート、分析的洞察を行い、私たちの大切な企業家のお客様や公的機関のほとんどすべての考えられることを行います。あなたの分野に関...
2025年10月28日
早稲田大学
桐蔭横浜大学
近赤外光も利用可能なアップコンバージョン型
ペロブスカイト太陽電池の開発に成功
~色素増感型希土類ナノ粒子とのハイブリッド化により近赤外光を可視光に変換して活用~
発表のポイント
●近赤外光※1を電気エネルギーに変える新技術を開発。
●有機色素と希土類※2ナノ粒子を組み合わせ、近赤外光を可視光に変換。
●色素増感型希土類ナノ粒子により可視光に変換されたエネルギーを鉛系ペロブスカイト太陽電池が吸収(利用)することで、高効率・広帯域な太陽光利用を可能とする次世代太陽電池の開発につながると期待。
図:色素増感型希土類アップコンバージョンナノ粒子が太陽光スペクトルの近赤外領域を吸収し可視光に変換、その可視光をペロブスカイトが吸収し発電する。
太陽光発電は再生可能エネルギーの中でも最も注目される技術ですが、現在の主流である鉛系ペロブスカイト※3太陽電池は主に「可視光」しか利用できず、太陽光の半分近くを占める「近赤外光」は無駄になっていました。一方、赤外光感度を有する系ペロブスカイト太陽電池では変換効率が低いという問題がありました。早稲田大学理工学術院の石井 あゆみ(いしい あゆみ)准教授、桐蔭横浜大学医用工学部の宮坂 力(みやさか つとむ)特任教授らの研究グループは、微弱な近赤外光を吸収できる有機色素
...more を希土類系ナノ粒子に固定化し、その光を「アップコンバージョン※4」により可視光へと変換する技術を開発しました。さらに、このナノ粒子をペロブスカイト太陽電池に組み込むことで、従来の鉛系ペロブスカイト素子では利用できなかった近赤外光を電気に変換することに成功しました。本研究は、従来の限界を超える次世代型の高効率太陽電池の実現に大きく貢献する可能性のある成果です。
本研究成果は、2025年10月23日(木)に『Advanced Optical Materials』に掲載されました。
キーワード:
近赤外光、アップコンバージョン、ペロブスカイト太陽電池、色素増感、希土類ナノ粒子、有機無機ハイブリッド
(1)これまでの研究で分かっていたこと
太陽光発電は再生可能エネルギーの中でも特に期待されている技術であり、その中でも「ペロブスカイト太陽電池」は高い変換効率と低コストな製造法から、シリコンに次ぐ次世代太陽電池として注目を集めてきました。近年の研究により、ペロブスカイト太陽電池はすでに変換効率26%を超える成果を上げており、シリコン太陽電池に迫る性能を示しています。ペロブスカイト太陽電池は、太陽光の中で主に可視光領域の光を利用します。一方で金属にスズ(Sn)を使うことで近赤外の光を利用することもできますが、スズ系ペロブスカイトでは鉛系の材料に比べて品質がまだ十分でなく、また、シリコン半導体のようにバンドギャップが小さいために出力電圧が0.9 V以下に落ちて変換効率も低下するのが欠点でした。
これに対し、この近赤外光を有効に利用する技術のひとつとして「アップコンバージョン」が古くから研究されてきました。アップコンバージョンとは、低エネルギーの近赤外光を吸収し、それを組み合わせて高エネルギーの可視光に変換する現象です。特に希土類イオンを含むナノ粒子は、赤外光を可視光へ変換できる性質を持つため、光デバイスやバイオイメージングなど幅広い分野で注目されてきました。しかし、この希土類材料には大きな課題がありました。光を吸収する能力が非常に低く、レーザーのような強力な光を当てなければ十分な発光を得られなかったのです。そのため、太陽光のような自然光の下では実用化が難しいとされてきました。
そこで近年、新しいアプローチとして「有機色素による光増感」が提案されました※5。有機色素は近赤外光を強く吸収できるため、これを希土類イオンに組み合わせることで光吸収の弱点を補える可能性があると考えられてきました。実際に、近赤外光を吸収する色素をナノ粒子に付加し、そのエネルギーを希土類イオンへと移すことで、弱い励起光でもアップコンバージョン発光を引き出す研究成果が報告されています※6。ただし、色素とナノ粒子の結合安定性、また太陽電池材料との適合性といった課題が残されていました。
つまりこれまでの研究では、ペロブスカイト太陽電池は「可視光の高効率利用」に優れる一方で、「近赤外光を十分に利用できない」あるいは「近赤外光を取り入れると変換効率が低下する」という課題に直面していました。一方、アップコンバージョン技術は近赤外光を利用する有望な手段として知られていましたが、光吸収効率が極めて低いという根本的な制約がありました。本研究では、この問題を解決するために、波長の長い「近赤外光」を光吸収係数の高い有機色素によって効率的に吸収し、そのエネルギーをアップコンバージョン過程を通じて高エネルギーの可視光に変換し、最終的にペロブスカイト層で光電変換に利用する手法を採用しました。このアップコンバージョンを組み込んだペロブスカイト太陽電池により、近赤外光のエネルギーを可視光吸収に相当する高電圧出力へと変換することに成功しました。具体的には、1.2 Vに近い開放電圧を維持しながら赤外光感度を得ることに成功し、エネルギー変換効率として16%以上を達成しました。
(2)今回の新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと、そのために新しく開発した手法
今回の研究で目指したのは、「ペロブスカイト太陽電池に近赤外光の利用機能を持たせること」でした。ハロゲン化鉛系ペロブスカイトは、太陽光の中で主に可視光領域の光を吸収します。ここで、近赤外光も吸収し、それを可視光に変換して電池に取り込めれば、太陽光をより幅広く利用でき、発電効率の飛躍的な向上が期待されます。
そのために本研究グループは、「有機色素を化学的に結合した希土類系アップコンバージョンナノ粒子」を開発しました(図1)。具体的には、まず近赤外光を強く吸収する有機色素の一つであるインドシアニングリーン(ICG)を選び、その分子を希土類イオンを含むナノ粒子の表面に固定しました。ICGは太陽光の中の近赤外領域の光を効率よく吸収することができ、そのエネルギーをナノ粒子内部の希土類イオンへと渡します。その結果、弱い近赤外光でも希土類イオンから可視光が放出されるようになりました。
さらに、このナノ粒子の表面を「ペロブスカイト(CsPbBr₃)」で覆うという界面処理を新たに導入しました(図2)。この処理により、粒子表面でのエネルギー損失が抑えられるだけでなく、太陽電池の本体であるCsPbI₃ペロブスカイト層との親和性が高まりました。つまり、異なる材料同士を組み合わせても、結晶構造が乱れたり欠陥が増えたりせず、むしろ滑らかに組み込めるようになったのです。
この改良型アップコンバージョンナノ粒子を CsPbI₃太陽電池 に導入したところ、従来のセルと比べて光電流密度が顕著に増加しました。つまり、これまで利用できなかった近赤外光がアップコンバージョンナノ粒子により可視光に変換されたのち、ペロブスカイトがそのエネルギーを吸収することで電気へと変換されていることを実証できたのです(図3)。さらに、分光感度スペクトル(IPCE)の測定からも、通常では応答のない近赤外領域で確かな電流応答が確認されました(図4)。これらの結果は、色素→希土類→ペロブスカイトという多段階のエネルギー移動を介した近赤外光での発電が確かに生じていることを示しています。
このようにして本研究では、近赤外光を効率よく吸収できる有機色素と、アップコンバージョン能力を持つ希土類ナノ粒子、そして高効率なペロブスカイト太陽電池を組み合わせるという新しい手法を確立しました。これにより、従来のペロブスカイト太陽電池が抱えていた「近赤外光利用の壁」を越え、太陽光全体をより効率的に活用するための基盤を築いたと言えます。
図1 色素増感型希土類アップコンバージョンナノ粒子の構造と近赤外光照射下での可視光発光の写真
図2 CsPbBr₃ で被覆したアップコンバージョンナノ粒子の構造と ペロブスカイト受光層への導入した際の断面SEM像
図3 左:色素増感型アップコンバージョンナノ粒子の吸収と発光特性。 発光波長はペロブスカイト層の吸収と一致する。 右:エネルギーダイアグラム。ペロブスカイト層内に置いて、 色素→希土類→ペロブスカイトという多段階のエネルギー移動が生じる。 ...