皆さんは抗菌薬の剤形を選択する際、何を基準に判断していますか?決して炎症反応だけで判断しないでください。2005年頃から静注から内服への変更基準が提唱されているため、山本舜悟氏が紹介します。
アメリカのハーバード大学医学部(HMS)やオーストラリアのフリンダース大学(FU)をはじめとする国際チームによって行われた大規模研究により、夜間に明るい光を浴びることが将来的な心臓病リスクや脳卒中を劇的に高めることが明らかになりました。
具体的には夜間に最も明るい環境で過ごした人は、暗い環境で眠った人に比べて心筋梗塞のリスクが最大47%、心不全のリスクが最大56%、冠動脈疾患や脳卒中のリスクも約30%高まっていました。
このリスク増加は医学研究において一般的に報告されている生活習慣による心血管疾患リスク増加幅と同等か、あるいはそれらに匹敵するほど重大です。
特に女性や若年層においてリスクの上昇幅が大きいことから、喫煙や高血圧と同じレベルで社会的に広く注意喚起をする必要があります。
「夜の明るさ」は、なぜこれほどまでに心臓病のリスクを高めてしまうのでしょうか?
研究内容の詳細は2025年6月20日に『medRxiv』にて発表されました。
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眠れない現代人が知らない『光』の真実眠りの常識が覆る!夜の明るさと心臓病リスクの関係心臓病予防は『夜を暗くする』ことから始めよ
眠れない現代人が知らない『光』の真実
眠れない現代人が知らない『光』の真実 / Credit:Canva
夜、なかなか寝つけずにスマホを触っていたら、逆に目が冴えてしまった──そんな経験をしたことはありませんか?
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実は私たちの体は、夜の暗さを感じると自然に「睡眠モード」に切り替わる仕組みになっています。
しかし、現代人の多くは夜間も強い光に囲まれて暮らしているため、本来なら暗くなると起こる体の「睡眠への切り替え」がうまく働かなくなっているのです。
人間の体は、地球が刻む昼と夜のサイクルに合わせて進化してきました。
日中に太陽の明るい光を浴びると、私たちの体は活動モードに切り替わります。
心拍数が上がり、血圧が上昇し、活動するためのエネルギーが全身に供給される仕組みです。
逆に、夜になると体は「睡眠モード」へと切り替わり、心拍数や血圧が下がり、心身が休息できるようになります。
この切り替えを司っているのが、「サーカディアンリズム(体内時計)」と呼ばれる体内のリズムです。
ところが、現代社会は夜になっても本当の意味で「暗く」なることがありません。
寝室の照明を消しても街灯やネオンの光が窓から入り込んでいたり、スマートフォンやタブレットの明るい画面がベッドの中でも手放せなかったりします。
実際、ある調査では寝る直前までスマホやテレビを見る人や、豆電球をつけて寝る人が全体の約40%もいると報告されています。
こうした夜間の「人工的な明るさ」が、私たちの体内時計を狂わせ、深刻な健康問題を引き起こす可能性が懸念されているのです。
実際、夜勤の仕事に従事している人や、慢性的に夜更かしをする人は、心臓病や糖尿病などの病気を発症するリスクが高いことが知られています。
また、ある実験では、寝室をわずか一晩明るくしただけで、睡眠中の心拍数が上昇したり、朝の血糖値のコントロールがうまくいかなくなったりすることが明らかになっています。
このことからも、「明るすぎる夜」が単に眠りを妨げるだけでなく、私たちの体そのものに直接的な悪影響を与えていることがうかがえます。
ただ、こうした夜間の光が、実際に長期間にわたって心臓病などの深刻な病気のリスクをどのくらい高めるのかは、はっきりしていませんでした。
そこで今回、アメリカのハーバード大学やオーストラリアのフリンダース大学を含む国際的な研究チームが、イギリスで行われた非常に大規模な調査を通じて、この疑問に挑みました。
夜間の光を浴びることが、実際に将来の心臓病リスクを高めるのでしょうか?
眠りの常識が覆る!夜の明るさと心臓病リスクの関係
眠りの常識が覆る!夜の明るさと心臓病リスクの関係 / Credit:Canva
夜間に光を浴びることは、本当に将来の心臓病リスクを高めるの?
答えを得るために、研究者たちはまず英国の大規模な健康調査プロジェクト「UKバイオバンク」に参加している約8万9千人(平均年齢62.4歳、女性の割合は57%)に注目しました。
これは、夜間の光と心臓病リスクの関係を調べた研究としては世界で最も大規模なものです。
実験は、参加者たちに専用の小さな光センサーを手首に装着してもらうところから始まりました。
このセンサーは周囲の明るさを記録するもので、参加者がどのくらい明るい環境で1週間を過ごしているかを詳しく記録しました。
研究チームはその後、このデータをもとに参加者を約8年(最長10年近く)にわたって追跡調査し、狭心症、心筋梗塞、心不全、脳卒中などの病気が新たに発症するかを調べました。
その結果、「夜間の明るい環境」が確かに将来の心臓病リスクを高めていることが明らかになりました。
具体的には、夜間の明るさが強ければ強いほど、後に心臓病や脳卒中を発症する人が増えていたのです。
最も暗い環境で過ごしていたグループと比較すると、夜間に最も明るい環境で過ごした人では、心筋梗塞のリスクが最大47%、心不全は最大56%、冠動脈疾患は最大32%、脳卒中は最大30%も高くなっていました。
夜の明るさ、どれくらいから心臓に悪いの?
「明るい」と言っても一体どれくらいの光がリスクになるのでしょう?研究では、夜間の明るさを次の4つのグループに分類しました。
最も暗い環境(0〜50パーセンタイル):約0.62ルクス(薄暗い月明かりがカーテン越しに感じられる程度)
やや明るい環境(50〜70パーセンタイル):約2.48ルクス(豆電球や小型の常夜灯で部屋がぼんやり見える程度)
比較的明るい環境(70〜90パーセンタイル):約16.4ルクス(部屋全体がうっすら見渡せる薄暗い室内灯レベル)
非常に明るい環境(90〜100パーセンタイル):約105ルクス(明るい室内照明やスマートフォン、テレビの光を間近で浴びている程度)
研究では夜間にわずか数ルクス程度の弱い光曝露でも健康リスクが徐々に高まり、特に100ルクス前後の環境(明るい室内や街灯の下程度の明るさ)では、心臓病リスクが著しく増加することが示されています。実践的には、寝室の照明は消し、必要なら小さく暗い間接照明を使用し、寝る前にはスマホやタブレットをなるべく見ないようにすることが推奨されます。
さらに注目すべき結果は、夜間の明るさによる心臓病リスクの上昇が、女性において特に強く現れていたことです。
通常、女性は同年代の男性に比べて心臓病のリスクが低いことが知られています。
ところが、この研究では、夜間の明るい環境で寝ていた女性は、本来持っているはずの「女性特有のリスクの低さ」がほぼ完全に打ち消され、男性とほとんど同じレベルまでリスクが上昇していました。
研究チームは、この結果について、女性の体内時計が男性に比べて明るい光の影響を受けやすく、それによって本来のリスクの低さが失われたのではないかと考えています。
この研究が画期的なのは、わずか1週間の光センサーのデータだけで、10年近く先に起こる心臓病リスクを高い精度で予測できた点です。
実際、研究者たちは「夜間の光を避けることが、心臓病のリスクを低下させるために有効な戦略となりうる」と述べています。
つまり、私たちが毎晩のように浴びている「人工的な光」が、単なる睡眠不足以上に重大な健康リスクを秘めていることが、長期間の追跡調査により初めて明確に示されたのです。
心臓病予防は『夜を暗くする』ことから始めよ
心臓病予防は『夜を暗くする』ことから始めよ / Credit:Canva
今回の研究によって、「夜間に明るい光を浴びることが、将来的な心臓病のリスクを大きく高める可能性」が初めてはっきりと示されました。
では、なぜ夜の光が私たちの心臓にこれほど悪影響を与えてしまうのでしょうか?
そのカギを握っているのが、私たちの体に組み込まれている「体内時計(サーカディアンリズム)」です。
人間の体は、太陽が昇れば目を覚まして活動を始め、太陽が沈んで暗くなれば体を休ませて回復に努めるというサイクルを繰り返しています。
日中、強い光を浴びることで私たちの体は活動モードに切り替わり、血圧や心拍数を高め、身体を動かすためのエネルギーを効率よく使えるようになります。
逆に、夜に暗くなると体は自然に休息モードに切り替わり、心拍数や血圧を下げて、睡眠や回復に備えます。
ところが、夜間に人工的な強い光を浴びると、この体内時計がうまく働かなくなってしまいます。
夜なのに明るい環境にいると、体は「今はまだ活動...
フランスのナント大学(UN)や日本の京都大学(京大)をはじめとする国際研究チームによって、皮膚の神経から脳を逆刺激することで「美」を実現する『神経化粧品(ニューロコスメティクス)』という概念が学術的に提唱されました。
この新しいタイプの化粧品は、皮膚を第2の脳のようにとらえ、皮膚と脳の双方向のコミュニケーション(皮膚−脳軸)を活用し、「肌」に塗ることで「心」を調整して「お肌」の調子を上向かせることを目指します。
つまり、従来のように皮膚を外側からケアするだけでなく、内面的な感情や精神状態の向上をも目指しているのです。
心の調子によってお肌の状態が違う「心➔お肌」という影響の流れを逆手に取り「化粧品➔肌➔心➔肌」と改善ループを回すわけです。
肌も心もキレイにする「ニューロコスメティクス」や「ニューロコスメ」という言葉自体は以前からみられていましたが、本研究では単なる美容マーケティングの枠を超え、具体的な神経生物学的メカニズムや免疫・ホルモンの関係性、さらにはAI技術や皮膚微生物(マイクロバイオーム)の役割まで踏み込んだ詳細な科学的アプローチを示しています。
もし、毎日のスキンケアが肌だけではなく心にも癒しをもたらすとしたら、私たちの美容習慣はどのように変わっていくのでしょうか?
研究内容の詳細は2025年6月2日に『Clinics in Dermatology』にて発表されました。
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「神経化粧品」とは何か?皮膚は第2の脳だった——「神経化粧品」が変える美容の常識神経美容でのAIと微生物の活用スキンケアが心のケアになる日——神経化粧品の可能性と課題
「神経化粧品」とは何か?
「神経化粧品」とは何か? / Credit:clip studio . 川勝康弘
肌荒れがひどい日は、なぜか気分まで落ち込んでしまう――そんな経験はありませんか?
肌の調子と心の状態がつながっているという感覚は、多くの人が感じていることでしょう。
神経化粧品は、そんな皮膚と心の密接なつながりに科学的にアプローチする新しいタイプの化粧品です。
その核心は「皮膚の神経感覚システムに作用し、生体の心理・生理反応に影響を与えることで、皮膚の機能と情緒的な幸福感を高める」ことにあります。
簡単にいえば、肌に塗ることで神経を介して気分を前向きにしたりストレス反応を和らげたりして、肌と心のバランスを整えることを目指す積極的なアプローチの製品です。
従来、心理的ストレスが肌荒れを招くことはよく知られ(いわゆる精神皮膚医学の分野)、ストレス緩和による肌治療も行われてきました。
神経化粧品はこれに対して逆転の発想をしており、肌側から神経系に働きかけて、心の状態やストレス反応そのものをコントロールし、良好な精神状態によって皮膚の調子も改善させようというのです。
この概念はまさに皮膚科学(皮膚科領域)と神経科学や心理学の交差点に位置しています。
研究者らは神経化粧品を、神経生物学や心理生理学(affective science)と皮膚科学・感覚刺激の知見を統合した学際的な領域と捉えています。
肌に塗るという日常的な行為が、実は脳内の化学物質や自律神経の働きにも影響を及ぼしうる――そんな可能性が科学的に探究され始めているのです。
では具体的に、肌と脳はどのように通信し合っているのでしょうか。
そのメカニズムを見てみましょう。
皮膚は第2の脳だった——「神経化粧品」が変える美容の常識
皮膚は第2の脳だった——「神経化粧品」が変える美容の常識 / 神経化粧品製剤によく使用される有効成分とその作用機序/Credit:Beyond beauty: Neurocosmetics, the skin-brain axis, and the future of emotionally intelligent skincare
「肌は心の鏡」という言葉がありますが、実際には肌は心と深くつながった『会話相手』のような存在です。
私たちが緊張したりストレスを感じると、肌が荒れたり赤くなったりするのは、肌が脳と密接に情報交換をしているためです。
実際、皮膚と脳は生体内でも神経やホルモンを介してお互い影響し合っており、「皮膚‐脳軸」と呼ばれる密接なコミュニケーション経路があることが知られています。
脳と腸の関連性の強さを「脳‐腸軸」という言葉で表すことがありますが、脳と皮膚の間にもそれに類する言葉があるわけです。
脳が緊張するとお腹が痛くなるように、脳の緊張は肌に対して肌荒れを起こしたり、逆に心地よい刺激で肌が生き生きしたりするのは、この皮膚‐脳の双方向通信によるものと言えるでしょう。
生物学的に見ると、皮膚には神経線維の末端が無数に存在し、表皮や色素細胞、免疫細胞も含めて皮膚そのものが小さな「神経内分泌系」のように機能しています。
腸が第2の脳と呼ばれるのならば、皮膚も第2の脳と呼ぶにふさわしい要素をもっているわけです。
さらに驚くべきことに、肌自身が脳と同じような物質、例えば「幸せホルモン」として知られるβエンドルフィンや、気分を明るくするドーパミン、安心感をもたらすセロトニンなどを作り出し、これらの物質を使って脳とコミュニケーションを取っているのです。
つまり、肌で作られた「気分を良くする物質」が神経を介して脳に信号を送り、逆に脳のストレスホルモンが皮膚に影響する、といったフィードバックループが存在するのです。
神経化粧品はこの仕組みを利用します。
例えば、最近話題になっている成分「アセチルヘキサペプチド-8」という特殊なペプチドは、肌に塗ることで筋肉の緊張を緩め、シワを和らげますが、実はそれだけではありません。
このペプチドは神経伝達物質アセチルコリンの働きを抑えることで、肌の緊張感が軽くなると同時に、気持ちの緊張までほぐれてストレスが軽減する可能性があると報告されています。
同様に、エンドルフィン(脳内快楽物質)の放出を促す成分を塗れば肌のストレス反応が和らぐ可能性があります。
他にも大麻などに含まれるカンナビノイド成分は皮膚に存在するカンナビノイド受容体(CB1/CB2)に作用し、かゆみや痛み、炎症を抑えるとともに気分の不快感を和らげる効果が期待されています。
さらに『ストレスに適応する』働きを持つ植物成分(アダプトゲン)も神経化粧品に応用されています。
例えば、インド古来のハーブ「アシュワガンダ」は、ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌を抑え、肌の老化を防ぐ働きが報告されています。
さらにシベリア由来のハーブ「ロディオラ(イワベンケイ)」は、肌のエンドルフィンを増やし、心の状態を整える可能性があります。
また古くから知られているラベンダーやカモミールなどの精油を皮膚に塗ることで、香りと触覚の両面からリラックス効果が得られ、不安やストレスを和らげるアロマセラピー的な効果が期待されています。
このように、本研究で提唱された神経化粧品(ニューロコスメティクス)では従来の美容に捕らわれていた概念を超えて、神経伝達物質・ホルモンから触覚・嗅覚刺激に至るまで多彩なメカニズムで皮膚‐脳軸に働きかけ、肌の状態と心理状態の双方に良い変化をもたらすことを目指しているのです。
単に肌に塗って肌を綺麗に見せるのではなく、肌に塗ることで脳と皮膚の関係改善を促進し、心を通して肌を綺麗にすることができたなら、それは単なる化粧を超えた存在になるでしょう。
神経化粧品の概念は成分だけにとどまらず、肌状態の根本に働きかけることを目指しています。
神経美容でのAIと微生物の活用
神経美容でのAIと微生物の活用 / Credit:clip studio . 川勝康弘
毎日同じスキンケアを続けているのに、ある日は肌が落ち着いている一方で、別の日は突然調子が悪くなる――そんな経験をしたことはないでしょうか。
この違いのカギは、実は肌の奥で起きている「心の状態」にあると指摘されています。
最新の神経美容では、こうした日々の心と肌の微妙な変化をAI(人工知能)の力で捉え、リアルタイムであなたの肌と心の状態に最適なケアを提供する取り組みが進められています。
近年、カメラ映像や生体センサーのデータを解析することで、人の感情状態や自律神経の変化を客観的に捉えるAIが登場しつつあります。
例えば顔の表情筋のごくわずかな動きや肌色の変化、体表の温度分布などをモニタリングし、その人がストレスを感じているかリラックスしているかをAIが推定するのです。
学際的な意味での神経化粧品では、こうした技術とスキンケアが結びつきつつあります。
スマートフォンのアプリや自宅のスマートミラーが...