石破茂首相(自民党総裁)のウソが早くも目立ちはじめた。戦後最短となる解散表明、裏金議員の衆院選公認、比例代表との重複立候補容認、国会での予算委員会拒否、日銀追加利上げへの否定的な見解など、いずれもつい先日まで安倍政治を批判してきた人物とは思えない変節ぶりだ。なぜ石破氏の虚言癖はこれほど急速に悪化したのか。石破退陣シナリオも浮上する中、衆院解散・総選挙にむけた今後の注目点を元全国紙社会部記者の新 恭氏が解説する。(メルマガ『国家権力&メディア一刀両断』より)※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:党内基盤なき石破首相。右派からは早くも「倒閣」の声
反日左翼と言われても舌鋒鋭かった“党内野党”石破氏だが
自民党が党の刷新を掲げて繰り広げた総裁選は、長らく“党内野党”のレッテルで冷遇されてきた石破茂氏を選出する意外な結果となった。
消去法で最後に残ったのが石破氏。そう評されるほど待望感が薄いなか、党役員人事、組閣が行われ、石破首相の新政権が船出した。しかし早くもその先行きを不安視する声が上がっている。
石破氏は軍事オタクといわれるほどのタカ派でありながら、保守論壇やネット右翼から「反日だ」「左翼だ」と攻撃されてきた。いわゆる“安倍政治”に対し真っ当に物申せる存在であろうとし、メディアの期待に応えて政権批判的なコメントを繰り返してきたためだ。党内でも「
...more後ろから鉄砲を撃つ」などという石破評がしばしば聞かれる。
安倍・菅政権時代に自民党を支持していた岩盤保守層の人々は、岸田政権の誕生後、自民党から離反する動きを見せていたが、石破内閣のスタートによって、それに拍車がかかるのではないかという見方が強い。
総裁選の開票終了後、高市早苗総裁の誕生を心待ちにしていた保守論壇には沈痛な空気が広がった。以下は、櫻井よしこ氏が主宰するYouTubeチャンネル「櫻LIVE」の一コマだ。
「総裁選の中継を見ながら番組をやっていて、結果が出るまで盛り上がっていたんですが、一気にお通夜みたいになっちゃって」(花田紀凱・月刊Hanada編集長)
「天の声にも変な声があるというやつですね」(政治ジャーナリスト、石橋文登氏)
1回目の投票では高市氏が181票を集めトップに立った。2位は154票の石破氏だ。二人の決選投票。ついに、初の女性総理の誕生かと思われた。
だが、決選投票になって、どんでん返しが起きた。それを仕掛けたのは、岸田首相(当時)だった。
岸田前総理の名誉欲を読み誤った、高市氏と麻生氏
旧岸田派から出馬した林芳正官房長官と上川陽子外相はいずれも決選投票には進めず、旧岸田派の票がキャスティングボートを握る状況が生まれた。直前まで仲間と協議していた首相は、「高市さんでは政策が合わない」と周囲に語り、決選投票に残る可能性が高かった石破氏か小泉氏のいずれかに投票するよう伝達したという。(9月28日朝日新聞朝刊)
これにより、林、上川両陣営に集まった国会議員票は決選投票で石破氏に流れることになった。まさに派閥パワー全開である。高市氏は政治信条の異なる岸田首相に対し、つねに冷ややかな視線を向けてきた。岸田首相にとっては気にくわないヤツなのだ。
筆者はこれまで当メルマガにおいて、「総裁選ショー」のプロデューサーの一人として森山裕総務会長(現幹事長)の名を挙げてきた。だが、森山氏に全体的な方向性を示したのは岸田首相ではなかっただろうか。
岸田首相は歴史に名をとどめたいという思いが強い。麻生太郎副総裁(当時)の猛反対を押し切って、「派閥解消」へ動き、安倍派の解体にこぎつけたのは、これまで自分にたえずプレッシャーをかけ続けてきた存在への破壊衝動もあっただろうが、「党改革の先鞭をつけた宰相」の名誉に浴したい気持ちに駆られた面が強かったからに違いない。
そのために党内から反発を受け、総裁選出馬を断念することにもつながった。だからといって総裁選を党に任せっきりにしないのが岸田流だ。総裁選で党の刷新姿勢を打ち出し、自分が言い出した「派閥解消」の意味を高めたい。そう考えたに違いない。
「派閥なき総裁選」は格好のフレーズだった。閣議で大臣たちに向けて多数の出馬を促したのは岸田首相だ。むろん、当初のシナリオは変更を余儀なくされた。“刷新感”の主役として小泉進次郎氏に期待したのだが、論戦力不足は隠しようもなく、人気が急落した。その代役として岸田氏や森山氏が目をつけたのが石破氏だった。
つまるところ今回の総裁選も、派閥領袖の好悪の感情や、権力への思惑が議員票を動かし、勝敗を左右するという点において、従来と基本的には変わりなかった。
麻生氏にマイナスに働いた、産経新聞の独自スクープ
「絶対に石破だけは許せない」と常々から石破氏を毛嫌いする麻生氏は、派内に河野太郎氏という候補者を抱えながら、決選投票に残りうる候補者として高市氏を選び、支援することを決めた。
産経新聞は9月26日深夜に以下のスクープ記事をウェブサイトに掲載した。
自民党の麻生太郎副総裁が、総裁選で高市早苗経済安全保障担当相を支持する意向を固め、岸田文雄首相らに伝えたことが分かった。(中略)麻生派は河野氏や上川陽子外相らに推薦人を出していたが、麻生氏は1回目の投票から高市氏を支援するよう同派議員に指示を出した。
この効果はもろに出た。河野氏の議員票は22にとどまり、高市氏は72票の議員票を集めた。予想より30票ほど多かった分が、麻生派から流れたものと思われる。高市氏は得票数トップに躍り出た。
麻生氏は安堵した。もし、決選投票に残る上位二人が石破氏と小泉氏になった場合、麻生氏は乗る“船”を見失ってしまう。高市氏なら、安倍元首相と同盟関係を続けたのと同じ感覚で支援することが可能と踏んだのであろう。
ところが、この産経の記事が麻生氏にとってはマイナスに働いた。麻生氏の号令を知った菅義偉元首相が、応援する小泉陣営の引き締めをはかるとともに、決選が高市、石破両氏の間で争われるケースにそなえて、石破氏との連携話をきっちり進めたからだ。
その結果、決選投票で石破氏には小泉、林、上川陣営の議員票がごっそり加わることになり、議員票数は1回目投票の46から189へとハネ上がった。勝ち馬に乗ってキングメーカーたらんとする岸田氏や菅氏の介入で状況は激変し、大逆転劇が生まれたのである。
麻生氏は、ともに高市氏に乗ろうと岸田首相に持ちかけていたらしい。しかし岸田氏は先述した通り石破支持を決めていたため、それを断った。麻生氏の完全なる敗北だった。
石破総理が急速に「ウソつき」になった理由
岸田、菅両氏に気を遣わねばならなくなった石破新首相は早くも壁にぶち当たった。総裁選では「国民に判断の材料を提供するのが新首相の責任だ」と予算委を経てから衆院を解散する意向を示していたのだが、一転して方針を変更した。
森山裕氏に幹事長への就任を要請したさい、森山氏から「衆院選をできるだけ急ぎ、総裁選の盛り上がりを活用してほしい」と進言され、その後、説得に応じたといわれている。
多くの候補者が勢ぞろいして総裁選を彩り、国民の関心を引きつける。その盛り上がりが冷めないうち、すなわち国民の目がくらんでいるうちに解散・総選挙を行って、勝利につなげる。それが、党内世論を汲んで岸田氏と森山氏が打ち合わせた「総裁選ショー」のシナリオだった。その完結のためにも、森山氏は10月中の総選挙を強く説いたのであろう。
石破氏は、9月30日、まだ首相になっていないにもかかわらず、「10月27日に総選挙を行いたい」と表明した。臨時国会(10月1日召集)の会期末は9日とし、その日に衆院を解散するという日程も、森山幹事長の主導で決められた。27日に投開票を行うには全国の選管の準備の都合上、一刻も早く日程を発表する必要があったというが、なんとも奇妙な話だ。
さて、悲願をかなえた石破首相にとって、最大の難問は挙党体制の構築だ。総裁選の決選投票で194票を獲得した高市早苗氏に総務会長就任を打診したが、あえなく断られた。幹事長だったら受けるつもりだったと高市陣営の誰かが言っていたというが、そんなオファーが来るわけもなく、眉唾物の話といっていい。
“安倍政治”の継承者として高市氏を支持する岩盤保守層が、石破政権に高市氏が組み込まれることを望まないからではないだろうか。党内基盤が弱い高市氏が政治活動を進めるうえで、岩盤保守層の強力な支援は絶対に欠かすことのできない条件である。
石破退陣シナリオも浮上。衆院解散・総選挙の注目点
右寄りの立場から見ると、石破首相は“アンチ安倍”の左翼的政治家に映るらしく、党内...
高市早苗氏との決選投票を制し、5度目の挑戦でついに自民党総裁の座を射止めた石破茂氏。過去最高の9人の候補が立つという乱戦でしたが、そのさなかに永田町には「興味深い資料」が流れていたと言います。当選挙の開票前に執筆された今回のメルマガ『有田芳生の「酔醒漫録」』では、ジャーナリストの有田芳生さんがその資料を誌面で公開。さらに近く行われる衆院選で萩生田光一氏との対決を選択した自身の心情を記しています。※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:新総理誕生と総選挙で「歴史の圧縮過程」は流れが早まる
年内総選挙は必至。新総理誕生で早まる「歴史の圧縮過程」の流れ
9月23日に行われた立憲民主党の代表選で野田佳彦候補が枝野幸男候補を決戦投票で破り、新代表に選出された。27日の夕刻にこのメルマガが読者のみなさんに届く時間には、自民党新総裁が決定して、10月1日に招集される臨時国会で新総理に選出される。石破茂候補、高市早苗候補、小泉進次郎候補のいずれかが新総理になろうとも、論戦のなかで解散、総選挙を口にしていたから、時期に微妙な差は生まれるが、年内総選挙は必至と見てよい。
石破、高市、小泉VS野田を頭にいだく総選挙は、私の読みでは政権交代には至らない。だが与野党の議席差いかんによって、来年7月の参院選で「ねじれ」が起きる可能性が生まれ、再び総選挙に向かう雰囲気が出
...moreてくるだろう。私が強調している「歴史の圧縮過程」がいよいよ早まる。政権交代への「最終決戦」だ。そのプロセスを判断していくためにも自民党内の権力構造の現状を知っておくのがよい。
総裁選の大きな特徴は、これまでの派閥がほぼ解体した状況で闘われた。「しばり」がないから9人もの候補者が立候補した。20人の推薦人を確保するときには、たとえば麻生派からは小林鷹之候補と河野太郎候補が名乗りをあげた。従来の「派閥の論理」ではありえないことだ。しかし最終盤になって麻生太郎議員は派閥メンバーに第1回投票から高市候補に投票する指示を出した。果たして一枚岩は保てるのだろうか。総裁選は麻生支配崩壊の号砲になるかもしれない。
「怪文書」的資料が予測していた総裁選の合従連衡
総裁選のさなかに興味深い資料が永田町で流れた。各陣営の推薦議員の名簿と、決選投票になった場合に林芳正支持議員は石破茂候補にそのまま流れるのではないかと合従連衡の予測を示した図表だ。
しかし決選投票に高市早苗候補が残った場合は、右寄りの保守思想で共通する「安倍派」議員はこぞって投票するだろう。安倍晋三政権が近隣諸国と摩擦を強めようとも、その思想で日本を進めていこうとする勢力の価値観と利益は一致する。国会議員でいえば高市候補の推薦人になった杉田水脈議員が典型だ。憲法改正や古い家庭の価値観を守るため、選択的夫婦別姓に反対する日本会議であり、組織的規模は小さいが統一教会が高市早苗的思考である。北朝鮮による拉致問題の解決のために前向きな石破茂候補に、櫻井よし子氏や民間団体の「救う会」や「家族会」が猛反発するのも、安倍晋三的価値観の幻影にほかならない。
小泉進次郎候補の場合は、その思想が形成途上にあり、世間受けを狙うポピュリズムゆえに、確固とした立場もない。それに対して野党第1党の立憲民主党と野党は自民党に対峙していけるのか。
「おやっ」思わせる内容があった立憲民主党の人事
立憲民主党の人事で「おやっ」思わせる内容があった。幹事長に小川淳也、政調会長に徳重和彦氏が就任した。ところが大串博志代表代行の担当は「党務統括」、長妻昭代表代行は「政策統括」だ。党務を担当する幹事長、政策を担当する政調会長の上に「統括」者がいる体制なのだ。
小川幹事長は熱血漢で好感が持たれるが、その熱情ゆえに不安がある。重徳政調会長は、憲法改正、原発再稼働論者だから、立憲民主党の理念や政策とは齟齬がある。そこを抑えるための人事だろう。
野田佳彦体制は発足から総選挙の洗礼を受けることになる。岸田文雄総理のもとで総選挙を行えば70議席ほど失うという調査があった。新総理となれば、それでも30議席減という。選挙は予想ではなく政党間の総力をあげた闘いだ。その結果をいまから予測するのは無意味だろう。
私は萩生田光一議員が地盤とする八王子市(東京24区)で立つ。「人生後期」の仕事だ。
「敗れることが恥なのではない。敗れるかも知れないことを恐れて闘わないことが恥なのである(山口正之)」。
【関連】自民総裁選 高市敗北からの株価急落を「石破茂ショック」と騒ぐ大誤解。賢明な投資家が日本に見切りをつける真の理由 【関連】石破“新総理”はどう動く?意図的に忘れられるウクライナ、透けて見える「できるだけロシアを刺激しない」という各国の意図 【関連】安倍長期政権の生みの親。“昔の名前”で立憲民主党の代表選にノコノコ出てきた野田佳彦「7つの大罪」
※ 本記事は有料メルマガ『有田芳生の「酔醒漫録」』2024年9月27日号の一部抜粋です。続きをお読みになりたい方は、初月無料の定期購読にご登録をご登録の上、9月分のバックナンバーをお求め下さい。
こちらも必読! 月単位で購入できるバックナンバー
image by: 自由民主党 - Home | Facebook
MAG2 NEWS...
自民党の石破茂総裁(67)が党役員・閣僚人事の調整を進める中、小林鷹之前経済安全保障相(49)が、党広報本部長のポストを石破氏から打診され、固辞したことが29日、分かった。広報本部長は、幹事長や政調…
立憲民主党の代表選が2024年9月23日午後に開かれた臨時党大会で投開票され、決選投票の末に野田佳彦元首相(67)が新代表に選ばれた。現職の泉健太代表(50)は党内基盤の弱さが響き、立候補に必要な推薦人20人を集めるのにも苦労した。