武田薬品、三菱倉庫、JR貨物の3社は、CO2排出削減に向けた取組みの一環として、医療用医薬品輸送の一部をトラックから鉄道輸送へ切り替えるモーダルシフトを10月から開始すると発表した。
一般社団法人カーボンニュートラル機構理事を務め、カーボンニュートラル関連のコンサルティングを行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / @fukuokasho12))に解説していただきました。
目次
1. 「GXリーグ」とは
1-1.「GXリーグ」の概要
1-2.「GXリーグ」立ち上げの背景
2. 「GXリーグ」が目指す世界
2-1.循環構造
2-2.排出量を調整するシステムの実現
3. 「GXリーグ」が提供する4つの場
3-1.自主的な排出量取引の場(GX-ETS)
3-2.マーケットルール形成の場(GX WORKING GROUP)
3-3.未来のビジネスチャンスを探る場:GX FUTURE SESSION
3-4.企業同士の繋がりを深める:GX STUDIO
4. 「GXリーグ」の今後の展開
4-1.段階的発展
5. まとめ
世界全体でカーボンニュートラル達成に向けた取り組みが行われている中、日本も温室効果ガス削減を目的として「GXリーグ」を立ち上げました。
このGXリーグは「リーダーシップ」というコンセプトのもと、2050年のあるべき社会および企業像の実現をリードする未来企業の集合体になることを目指しており、「GX(グリーントランスフォーメーション
...more )」に自発的に取り組む企業をさまざまな角度からサポートしつつ、その活動をさらに推進するようなシステム作りに注力しています。
今回は、2023年よりスタートするGXリーグの詳細や活動、そして今後の展望について解説します。
1. 「GXリーグ」とは
1-1. 「GXリーグ」の概要
引用:GXリーグ
「GXリーグ」は、2022年2月に経済産業省が発表した新しい制度です。カーボンニュートラルを達成するための制度として導入されました。
「GX」は「グリーントランスフォーメーション」の略で、温室効果ガスの主要な原因である化石燃料使用から、再生可能エネルギー、例えば風力や太陽光発電を主体としたエネルギーシステムへの移行を促進する取り組みを意味しています。
GXリーグは、産官学の三者が一堂に会し、協働を進める「場」としての役割を果たしています。具体的には、「GX企業」としてのリーダーシップを取りながら、カーボンニュートラルを実現するための取り組みを進めていきます。産業界、学術機関、官公庁との連携を通じて、サスティナブルな成長を目指す企業の支援が行われます。
また、GXリーグは「リーダーシップ」の重要性を強調し、企業が自発的かつ積極的に未来社会への取り組みを進めることを奨励しています。つまり、2050年を見据えた持続可能な社会を創出するためのリーダーシップを持った企業の集合体としての存在を目指しているのです。
1-2. 「GXリーグ」立ち上げの背景
気候変動問題は世界中で議論の的となっており、海面上昇や集中豪雨、干ばつなどの環境問題が増えています。これを背景に、各国は積極的に環境対策を進めています。
日本も例外ではなく、2020年に政府は「2050年カーボンニュートラル」宣言を行い、気候変動対策への取り組みを強化しています。その一環として、2030年度までに2013年度比で46%の温室効果ガス削減を目指すという中間目標も設定しており、GXリーグの設立もこのような背景から生まれたものと言えます。
日本は、温室効果ガスの削減を目指す国際的な動きに対応し、その中核として活動する組織として経済産業省が「GXリーグ」を2022年に立ち上げました。
GXリーグの参加企業は、温室効果ガスの排出削減に注力し、その取り組みが外部から適切に評価されることで、経済的成長を実現しています。目指すは、経済と環境、さらには社会の好循環。既に、金融、不動産、製造、運輸、サービスといった多岐にわたる業種から多くの企業が参加意向を示しています。
2. 「GXリーグ」が目指す世界
2-1. 循環構造
引用:経済産業省『GXリーグ基本構想』
GXリーグが目指す「経済社会システム全体の変革」は、単に企業の取り組みだけにとどまらず、その成果として生まれる「価値」が新しいマーケットを創出し、それが一般の生活者の行動や意識に影響を及ぼす「循環構造」を築くことを意味しています。この構造を通じて、企業の成長はもちろん、市民の幸福感の向上や地球環境への貢献も両立させることが目的とされています。
具体的にGXリーグが推進している要点は以下のとおりです。
企業の独自の温室効果ガス排出削減
バリューチェーン全体での排出削減への取り組み
GXマーケットを拡大し、消費者が能動的に選択できる環境の実現
GXリーグは、循環構造を実現するための試行的取り組みを進めています。企業がカーボンニュートラルな未来をどう描くか、そしてその未来像に合わせた新しいGXマーケットの形成方法や、社会全体での効率的な排出削減の方法として自主的な排出量取引の試行など、多岐にわたるアクションを実施しています。
2-2. 排出量を調整するシステムの実現
GXリーグは、循環構造を実現するための試行的取り組みを進めています。企業がカーボンニュートラルな未来をどう描くか、そしてその未来像に合わせた新しいGXマーケットの形成方法や、社会全体での効率的な排出削減の方法として自主的な排出量取引の試行など、多岐にわたるアクションを実施しています。。
3. 「GXリーグ」が提供する4つの場
GXリーグは4つの独特な場を設け、これを通じて「リーダー企業間の対話を基にした政策形成」という新しいアプローチを推進しています。
3-1. 自主的な排出量取引の場(GX-ETS)
GXリーグは、カーボンニュートラルへの挑戦を経済的に有効に進めるため、自主的な排出量取引を中心とする取り組み「GX-ETS」を構築しています。この取り組みは、カーボンプライシング政策や国際的な動向といった多様な観点を考慮し、産業や企業間の公平性を保ちつつ、カーボン削減への投資を促進します。
具体的には、排出量取引のルールを設定する際に、カーボンプライシングの専門家を含む学識有識者の意見を取り入れ、賛同する企業との継続的な対話を進める方針を取っています。
GX-ETSの取り組みの流れ:
1. 目標設定(プレッジ)
– 国内の直接・間接排出に対して、以下の目標を設定します。
2030年度の排出削減目標
2025年度の排出削減目標
2023年度~2025年度(第1フェーズ)の排出削減総量の目標
– 各企業が目標を自ら設定します。
2. 実績報告
– 国内の直接・間接排出の実績を算定し、報告します。
– 算定結果の信頼性を保証するため、第三者による検証が必須です。
3. 取引実施
– 取引の対象となるのは国内の直接排出分です。
– 第1フェーズの目標を上回る場合、超過削減枠の売却や適格カーボン・クレジットの取得、もしくは目標未達の理由を明確に説明します。
– 他の企業への超過削減枠の売却は、国の削減目標(NDC)を上回った分だけ可能となります。
4.レビュー
– 目標達成状況及び取引状況は、情報開示プラットフォームである「GXダッシュボード」上で公表
– 具体的な開示の在り方については、今後参画企業との対話を通じて検討する。
– 排出削減と成長に果敢に取り組む多排出企業に対しては、各種支援策との連動を検討
3-2. マーケットルール形成の場(GX WORKING GROUP)
GXリーグの一部として、カーボンニュートラルの実現に向けたマーケットルールの構築を進める「GX WORKING GROUP」が設立されました。このグループは、新たなビジネスモデルの創出や、CO2ゼロ商品の認証制度のような明確なマーケットルールを検討するためのものです。
この取り組みは、「野村ホールディングス株式会社」を中心に、6つのリーダー企業と73社のメンバー企業が参加しています。そして、公私の連携を通じてルールを策定するための実証プロジェクトとして位置づけられています。
GX WORKING GROUPの目的は、日本企業が気候変動に貢献する機会を正確に評価する仕組みを構築することです。業界の垣根を越えて、共通の基準として適用できるルールの策定に注力しています。
具体的には、各リーダー企業...
一般社団法人カーボンニュートラル機構理事を務め、カーボンニュートラル関連のコンサルティングを行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / @fukuokasho12))に解説していただきました。
目次
炭素国境調整措置とは
1-1.炭素国境調整措置の概要
1-2.炭素国境調整措置誕生の背景
炭素国境調整措置のメリット
2-1.カーボンリーケージの防止
2-2.新たなビジネスチャンスの創造
炭素国境調整措置の課題
3-1.WTOとの整合性
3-2.制度設計の多様性とその複雑さ
3-3.各国からの反発
各国の炭素国境調整措置をめぐる動き
4-1.EU(欧州連合)
4-2.カナダ
4-3.アメリカ
まとめ
近年、温室効果ガスの排出と吸収のバランスを図る「カーボンニュートラル」に対する関心が国内外で高まっています。この流れの中、欧州連合(EU)は「炭素国境調整措置」の導入を発表しました。EUは、2023年からの試行期間を経て、2026年に炭素国境調整措置を本格的に始めるとのことで、多くの国々がこの新しい動きに注目しています。
今回は、炭素国境調整措置の内容やメリット、さらに各国の対応について詳しくお伝えします。
1. 炭素国境調整措置とは
1-1. 炭素国境
...more 調整措置の概要
炭素国境調整措置、または「CBAM(Carbon Border Adjustment Measure)」は、温室効果ガスの排出に関する料金を取ることで、その削減を目指す「カーボンプライシング」の一つです。
この措置は、国内の気候変動対策の進行に伴い、他国との対策の強度に生じる競争上の不公平を避けるためのものです。具体的には、海外から輸入する商品に対し、商品の生産時に排出される温室効果ガスの量に基づいた料金を設定する制度です。
2023年7月の時点で、この制度の対象となる製品には、鉄鋼、アルミニウム、セメント、肥料、電力、水素などの環境への影響が比較的大きいものが含まれています。これらの製品を輸入する事業者は、対策コストの支払いを義務づけられています。今後、プラスチックなども対象に含まれるかもしれません。さらに、2030年までには、紙などの他の素材が追加されることも考えられています。
炭素国境調整措置を採用することで、気候変動対策の強度が異なる国々でも製品のコスト競争条件を揃えることが期待され、その結果、不公平感を緩和することが可能となります。このため、現在多くの国でこの措置に対する注目が高まっています。
1-2. 炭素国境調整措置誕生の背景
温室効果ガスの排出を全体的にゼロにする「カーボンニュートラル」への取り組みが世界各国で進行中です。しかし、国ごとの技術や産業の違いから、気候変動対策の取り組みには差が存在します。このような不公平性に対する懸念から、炭素国境調整措置の考え方が生まれました。
この措置は、特定の製品を他国に輸出する際、温室効果ガスの排出量に基づいて金銭的な課金をすることで、環境への配慮が厳格な国の企業も国際的に競争力を維持できるというメリットがあります。
さらに、この措置は「カーボンリーケージ」という問題も考慮しています。具体的には、企業が排出規制が緩やかな国へ生産拠点を移転し、結果として全体の炭素排出量が削減されない現象を防ぐ狙いがあります。
このような理由から、炭素国境調整措置は気候変動対策としての有効性が期待されており、今後の動向に多くの関心が寄せられています。
2. 炭素国境調整措置のメリット
2-1. カーボンリーケージの防止
カーボンリーケージの問題を解明すると、これは炭素排出規制の厳しい国の製品が、規制の緩い国の製品に比べて競争上不利になることを指します。この不利さにより、製造業者は生産拠点を緩い規制の国へと移転する可能性があり、結果的に全球の炭素排出量は減少せず、さらには増加する危険性があります。
例えば、炭素コストを課せられている自国製品が、課せられていない他国製品よりも競争上不利になった場合、自国での生産が減少し他国での生産が増えるため、それに伴って炭素の排出も他国に流出することになります。
しかし、炭素国境調整措置の導入によって、炭素排出が多い国からの輸入品に課金し、自国の輸出品には課金を返還することで、公平な競争環境を築き、カーボンリーケージを阻止することが期待されます。
2-2. 新たなビジネスチャンスの創造
炭素国境調整措置はまだ新しい制度の試みですが、この制度が実際に導入されると、新しいビジネスの機会が生まれると期待されています。
この措置が実施されることで、企業は炭素効率の高い製品や輸送技術の開発に注力するようになるでしょう。これにより、環境技術の革新や新しいITサービス、環境に優しい商品などのビジネスチャンスが増える可能性があります。
また、国際市場での競争力を高めるための新しい戦略やアプローチが必要となり、企業の再編や連携、技術移転などの新たな動きも生まれることでしょう。不動産や企業を誘致する自治体にとってもチャンスの幅が広がるのではと期待されています。
3. 炭素国境調整措置の課題
3-1. WTOとの整合性
WTOは「World Trade Organization」の略であり、国際的な貿易に関するルールを制定している国際機関です。この組織はスイスのジュネーブに本部を置き、貿易に関する国際的なルールを策定しています。
WTOは「輸入品に国産品より高い基準を求めない(最恵国待遇原則)」という国際ルールを設けており、炭素国境調整措置との調整の必要性が生じています。
具体的には、炭素国境調整措置が、国境を越えて取引される商品について、各国毎の内国税の差異を調整する「国境税調整」の範疇に収まるものであるかという点に関して確立された解釈が存在していないこと、また、輸出の際の還付に関しても、「補助金協定」と整合的になるのかという点について別途の検討が必要であるとされています。
このように、炭素国境調整措置がWTOの定めるルールと相反しないか、しっかりとした整合性が取れているのかについて、今後も議論および調整を進めていくことが求められています。
3-2. 制度設計の多様性とその複雑さ
炭素国境調整措置を導入する際には、多くの要素を考慮しなければなりません。具体的には、以下の9つの要点から適切な選択を行う必要があります。
貿易の調整範囲: 輸入品だけを調整するのか、輸出品へのリベートも含めるのか。
自国の政策: 明示的な炭素価格だけにするのか、それとも暗示的な炭素価格も考慮するのか。
輸入課金の対象国: 気候変動に積極的に取り組む国を免除し、後発の開発途上国には配慮する。
対象セクター: 炭素コストの影響を受けやすい分野に限るのか、より広範な領域に拡大するのか。
製品排出量の範囲: 工場内排出だけ(スコープ1)や購入電力を含む排出(スコープ2)、商品のライフサイクル全体での排出(スコープ3)のいずれを基準にするか。
製品排出量の計算方法: 重量や価格で割り振るのか、それとも製造プロセスごとに計算するのか。
調整時の排出量: 工場や企業ごとの実際の排出量をベースにするのか、業界のベストプラクティスや平均値を基準にするのか。
適用価格: 原則として国内の炭素価格と同じにするのか、それとも他の方法を取り入れるのか。
政府収入の使途: 国内の環境プロジェクトに投資するのか、途上国支援に活用するのか。
これらの要素は単独ではなく、組み合わせることで環境への効果や行政の管理容易性などが変わります。そのため、どの組み合わせが最適か、産業セクターに応じてどのような制度設計が必要かを明らかにするため、さらなる議論と検討が続けられています。
3-3. 各国からの反発
炭素国境調整措置の導入について、国際的な意見は一致していません。
積極的にこの措置を支持する国々は、全球的な炭素排出削減のためにはこの措置が不可欠だと主張しています。しかし、特に中国やインドのような新興経済国や途上国からは、自国の製品の輸出に大きな障壁となるとして懸念の声が上がっています。
さらに、措置の導入に反対する途上国からは、これを温暖化問題の交渉の場で議論すべきだとの意見が出ており、その結果、交渉が難航するリスクや「南北の格差」が拡大する可能性についての懸念も存在しています。
炭素国境調整措置の導入に関する議論はまだ途中であり、多くの課題が残されています。そのため、各国はこの問...
秋田県大潟村が計画する、もみ殻を利用して温室効果ガスの排出削減につなげる「バイオマス熱供給事業」のプラント工事の安全祈願祭が22日、村内で行われ、関係者約25人が安全を祈った。来年6月の試運転を経て…
ブロックチェーン・スタートアップのIndieSquareは9月11日、CO2排出量可視化クラウドサービス「e-dash」を運営するe-dashと提携、カーボンクレジットのNFT化およびブロックチェーン上で償却できる、カーボンオフセットに向けた実証実験を開始した。
2015年のパリ協定の採決を受けて、温室効果ガスの排出量を定量的に計測し報告する「カーボンアカウンティング(炭素会計)」がヨーロッパでは主流になりつつある。こうした動きの中、カーボンクレジットをNFT化して償却プロセスをより透明化する気候変動対策への動きが注目されている。
同実証実験では、e-dash社の「e-dash Carbon Offset」から選別されたボランタリークレジットを、IndieSquareのノーコードweb3プラットフォーム「HAZAMA BASE」でNFT「1st-Off」として生成する。NFTにはカーボンクレジットの由来(再エネ、省エネ、森林等)や発行年、リタイアメント時のシリアルコードなどの情報が紐づけられクレジットの二重使用を防止する他、HAZAMA BASEによって迅速なオフセットが可能となっている。また、一連の取引はブロックチェーン上にタイムスタンプ付きで登録されているため、利用者はCO2排出削減に貢献したことを証明できる。
同社は将来的に、気候変動に貢献する企業や機関のビジネス創出をサポー
...more トし、環境目標達成へのインセンティブ環境作りなども展開していきたいとしている。
【参照記事】IndieSquare、CO2排出量可視化サービスのe-dashと連携し、カーボンクレジットのNFT化実証実験を開始The post ブロックチェーン企業IndieSquare、カーボンクレジットのNFT化実証実験へ first appeared on 金融・投資メディアHEDGE GUIDE.