28日に奈良地裁で始まった、安倍晋三元首相への殺人罪などに問われている山上徹也被告(45)の裁判員裁判。山上被告は冒頭陳述で「間違いありません」と、起訴内容を概ね認めたと報じられています。この裁判には、山上被告が安倍氏を銃撃するきっかけとなった、今も統一教会の信者である実の母親も証言に立つことになっています。今回のメルマガ『詐欺・悪質商法ジャーナリスト・多田文明が見てきた、口外禁止の「騙し、騙されの世界」』では、著者で同教団にかつて信者として身を置いていたジャーナリストの多田文明さんが、これから始まる裁判の行方と懸念点を書き記しています。※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:山上被告の母親の「会いたい」と思う気持ちが、ダメだと思う理由 教団側はどのような教え込みをしているのか 5%の責任分担という教えにもとづいて、信者らは活動をしている 国内最大規模の口座売買のブローカー逮捕の余波
本日、安倍元首相を銃撃した、山上徹也被告の裁判がようやく始まりました
裁判では、被告の母親も証言をしますので、どのような言葉が出てくるのか、目が離せません。
母親は1990年代に旧統一教会に入信しており、私の信者時代に重なります。
当時の教祖への絶対的信仰の状況は『新興宗教ぶっちゃけ話』(清談社Publico)にも書いていますので、参考にして頂くとして、裁判から山上被告
...moreが教団によって、どのような影響を受けて、安倍元首相の殺害を決意するに至ったのか。それがみえてくると思いますので、統一教会問題を深堀り、分析していきます。
詐欺においては、今年の初めから情報を得ていた口座売買のブローカーが摘発されました。多くの犯罪組織とリクルーターとのつながりを持つ大規模な道具屋グループでしたので、今回の摘発が、特殊詐欺の被害の減るきかっけになればと思います。
山上被告の母親の「会いたい」と思う気持ちが、今はダメだと思う理由
TBSの報道特集で、旧統一教会問題が放送されました。記者がメモした、山上被告の母親の言葉から、現在の教団への信仰の状況がよくわかります。
母親は「会いたいです」と話していますが、結論からいえば、現状では山上被告とは直接話するべきではないと思います。報道された一連の発言から、教団の思想の影響は色濃く残っており、被告と話すことで状況がさらにこじれることが考えられるからです。
なぜなのでしょうか。状況がまったく逆の立場で説明をします。
子供が教団に入信してしまい、脱会を願う親のなかには「本人に会って話せば説得できる。わかりあえるはず」と思って話した結果、かえって関係がこじれる場合がよくあります。
ここには「なぜ本人が信者になったのか」「教義はどのようなものになっており、どのような信仰生活をしているのか」「反対している人たちと話すると、どのような心境になるのか」など、事前の知識をしっかりと得ずに、臨んでいるからに他なりません。
これまで自分たちが知っている子供とはまったく違う状況という意識が欠けているためです。
教団側はどのような教え込みをしているのか
一方で、教団側は信者らに、親に会う前の事前の対策を施しています。
私の信者時代には「反対する親はサタンの手先である。親の情に流されてはいけない。教団から引き離して、地獄に引っ張っていこうとする」と教えられました。
さらに、親と話をすれば「拉致・監禁される」などという恐怖心を植え込み、親からの言葉が心に入らないように仕向けます。
私の時は、さらに「偽装脱会をする」ようにいわれました。
これは「旧統一教会はやめた」と、親に嘘をつくようにとの指示です。そしてその場からいち早く離れなさいといわれます。このような事前準備をしている信者に対して、何も知識のない親が会えば、話がかみ合わないのは必然です。
これは、今の山上被告と母親の関係においても同じです。
山上被告が母親に会わない選択をしているのは、感情の面もあると思いますが、これ以上の「こじれ」を生じさせない気持ちも心の奥にあるではないかと思います。
それに対して、母親の「会いたい」は、教義をもとに生きている自分の置かれた状況や、山上被告の心を真に理解していない言葉に思えます。
相手の心を理解する準備もしないで、教義が心に深く根付いている状況のままで、会うことはとても危ういのです。
5%の責任分担という教えに基づいて、信者らは活動をしている
被告の母親が信者だった時代は、メシヤである文鮮明夫妻への忠誠や、教祖への絶対で、異様ともいえる活動状況でした。私自身も「神のために死ぬ気で戦え!」という言葉を何度も耳にしました。
その影響をまさに食らったののが、山上被告の家族です。もちろん、彼のところだけではなく、信者を持つ多くの家庭が、その結果、崩壊する状況となりました。
母親の言葉のなかで注目したのは「自分に原因があるって見ていく」という言葉です。その通りで、信者らは何でも自分が原因と考えるような思考になっています。教義では、神様は95%を準備しており、あとは私たち信者が残り5%の責任分担を果たすことで、地上天国は完成するといわれます。つまり、今、メシヤを中心とした神の国ができない(日本が旧統一教会を国教として動いていない)ことは、信者らの責任分担が果たせないためだと思っているのです。
すべては自分たちの不信仰が原因とされます。
信者になり始めた頃、私がみた講義のビデオでは「このまま責任分担を果たせなければ、日本は沈没する」と講師が語っていました。この責任分担とは伝道やお金集めの活動のことです。それゆえに、信者らは必死になって、不法な霊感商法や献金勧誘、正体を隠した伝道活動をしてきたのです。
韓国での信者らの活動もしかり
韓国では、韓鶴子総裁が政治資金法違反などで起訴されています。この状況に対しても、信者らは同じように考えているはずです。自分たちの信仰の足りなさが今の事態を引き起こしていると。
韓国では「私たちは心を一つにして『お母様、勝利してください』と130回叫びます」や、拘置所前で「信者たちが歌ったり、熱心に祈りを捧げたりしている」という映像が、報道特集で流されていますが、まさに自らに課せられた責任分担を果たそうとする行動といえます。
しかし今の日本では、教義にもとづいたお金集めや布教活動はできない状況ですので、今後、様々なところでの激しい抗議活動や、元信者や弁護士らへの誹謗中傷の活動が多くでてくる懸念をもっています。
いずれにしても、1990年代は、信者らの責任分担を果たすために、不法行為とされるようなお金集めの活動してきました。教義に従順な信者ほど、家庭は崩壊することとなり、日本に甚大な金銭的被害を生み出す結果となったのです。
最初の話に戻りますが、逆に母親から「会いたい」と言わない状況になれば、私は心の準備ができた態勢がとれた状況といえるのではないかと思います。本来は、山上被告が「会いたい」と話すような状況になるまで待ち続ける。それは、一生こないかもしれませんが、それだけの覚悟と反省が必要です。
(この記事はメルマガ『詐欺・悪質商法ジャーナリスト・多田文明が見てきた、口外禁止の「騙し、騙されの世界」』2025年9月28日号の一部抜粋です。続きは、ご登録の上お楽しみください、初月無料です)
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image by: Unification Church Hungary, CC0 1.0, via Wikimedia Commons
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