ポイント
・ 質量分析によるグライコプロテオーム解析を加速するソフトウエア「GRable Version 1.0」を開発
・ 一つの糖タンパク質の糖鎖付加部位に結合する多様な糖鎖構造の「見える化」を実現
・創薬シーズ探索や抗体などのバイオ医薬品の品質管理に活用
概 要
国立研究開発法人 産業技術総合研究所(以下「産総研」という) 細胞分子工学研究部門 分子細胞マルチオミクス研究グループの岡谷千晶 主任研究員、富永大介 主任研究員(当時、現:明治薬科大学教授)、富岡あづさ テクニカルスタッフ、坂上弘明 研究員、久野敦 研究グループ長と、名古屋大学 糖鎖生命コア研究所糖鎖ビッグデータセンターの梶裕之 特任教授(兼:産総研 客員研究員)、慶應義塾大学 医学部の洪繁 特任准教授、合田徳夫 特任講師(当時)は、糖鎖が結合したタンパク質の質量分析によるグライコプロテオーム解析データを自動解析できるソフトウエア「GRable Version 1.0(以下、GRable)」を開発しました。糖ペプチドの同定は2段階の質量分析(MS2)による方法が主流ですが、産総研では、1段階の分析(MS1)で糖ペプチドシグナルを特定する方法(Glycan heterogeneity-based Relational IDentification of Glycopeptide sign
...more als on Elution profile(Glyco-RIDGE)法)を開発し、MS2による方法よりも網羅性の高い分析を可能としました。本ソフトウエアはGlyco-RIDGE法に基づく質量分析を支援するもので、バイオ医薬品などの特定糖タンパク質の詳細構造解析や、創薬シーズとなり得る糖タンパク質探索のための大規模解析のどちらにも活用できることを実証しました。本ソフトウエアはウェブ公開されており、無償で利用可能です(質量分析によるグライコプロテオーム解析を加速するソフトウエア「GRable」の公開)。なお、この技術の詳細は、2024年9月30日に「Molecular & Cellular Proteomics」に掲載されました。
下線部は【用語解説】参照
研究の背景
患者のQuality Of Life(QOL)向上や医療費の抑制のため、早期に疾患を発見し発症前に治療する先制医療や、個人差を踏まえて効果が高く副作用の少ない治療を行う個別化医療の実現が求められています。一方、糖鎖は「細胞の顔」として細胞の状態により変化するため、疾患に伴い糖鎖構造が変化する糖タンパク質は、細胞の病変を鋭敏に反映する目印や機能分子として、先制医療を可能とする診断薬や個別化医療に資する治療薬の開発に利用できます。この疾患に伴う糖鎖変化を利用した糖鎖創薬では、真に病態と関連し、標的となる病変細胞に特異性の高い糖タンパク質(糖鎖・タンパク質の組み合わせ)を同定することが重要です。一方、糖鎖は、タンパク質や核酸と比べて構造が多様かつ複雑で量的に少なく、解析面で大きな障壁があります。グライコプロテオーム解析は、現在主流である、糖ペプチド由来のフラグメントイオン(プロダクトイオン)に基づくMS2ベースの解析法では、信頼性の高い糖ペプチドの同定が可能である一方、解析に十分なMS2スペクトルが取得されないと糖ペプチドが同定できず、網羅性に課題がありました。
研究の経緯
産総研では、レクチンを用いた簡便・高感度な糖鎖プロファイリング技術および質量分析を用いた詳細構造解析技術の開発に取り組み、それらを組み合わせたマルチモーダル糖鎖解析プラットフォームを構築してきました(参考文献1)。糖タンパク質を治療標的とする場合には、抗体などの標的プローブの作製にあたり、どの位置にどのような糖鎖が付加しているか(部位特異的グライコフォーム)を知ることが重要です。しかし、糖鎖の構造の多様性および複雑性から、詳細構造解析は非常に難易度が高く、網羅性と精度を兼ね備えた解析法が求められています。この課題を解決するため、産総研では、独自の部位特異的グライコフォーム解析法としてGlyco-RIDGE法を開発してきました(参考文献2、図1)。本研究では、糖鎖解析プラットフォームの要素技術として、質量分析によるグライコプロテオーム解析を加速するためのソフトウエア「GRable」を開発しました。なお、本研究開発は、国立研究開発法人 日本医療研究開発機構の次世代治療・診断実現のための創薬基盤技術開発事業 「糖鎖利用による革新的創薬技術開発事業(2016~2020年度)」による支援を受け実施しました。
研究の内容
現在主流のMS2ベースの解析法とは異なり、Glyco-RIDGE法はMS1ベースの解析法であるという特徴を有しています。液体クロマトグラフィーにおける溶出プロファイルおよびMS1質量の差分に基づき、糖ペプチドをクラスターとして検出することで、断片化が必要なMS2ベースの解析法よりも微量の糖ペプチドを検出できます(図1A、B)。MS2ベースの解析法では、糖ペプチド由来のフラグメントイオンによりペプチド配列を同定しますが、Glyco-RIDGE法では、MS2ベースの解析法で取得したペプチド配列のリストを用いることで、クラスターとして検出された糖ペプチドのペプチド配列を推定します(図1C)。本手法では、断片化を行わず糖ペプチドを検出するため、MS2による方法よりも網羅性を高められます。
本研究では、糖鎖解析プラットフォームの要素技術として、質量分析によるグライコプロテオーム解析を加速するため、Glyco-RIDGE法に基づくグライコプロテオーム解析を自動化するソフトウエア「GRable」を開発しました。GRableでは、ビューワーにて検出した糖ペプチドクラスターを可視化することで、サンプル中の糖ペプチドの多様性を視覚的に把握できる工夫をしています(図2)。
モデル試料を用いた質量分析データの解析に本ソフトウエアを活用することで、本ソフトウエアが特定糖タンパク質の詳細構造解析および複数の糖タンパク質が混合された試料(クルード試料)の大規模解析に利用できることを示しました。特に、一残基のみ異なるペプチドを有するアイソフォームの部位特異的グライコフォームも個別に検出できることを実証しました(図3)。
MS1ベースの解析法の課題として、断片化を行わず糖ペプチドを検出するため、信頼性の指標である偽発見率(false discovery rate)が算出できないという問題がありました。そこでGRableでは、帰属された各糖ペプチドに対し、糖ペプチド由来のフラグメントイオンなどのMS2情報を付与する機能を搭載することで、解析結果の確からしさ(信頼レベル)を可視化できるようにしました(図1C)。
また、同一の特定糖タンパク質の質量分析データを用いて、市販のMS2ベースの解析ソフトウエアと比較評価したところ、GRableでは、約4倍の部位特異的グライコフォームが推定され、GRableを用いることで網羅性の高い解析が実現できることを実証しました。
以上より、本研究では、既存のMS2ベースの解析法では検出できなかった微量の糖ペプチドをも検出できるMS1ベースのGlyco-RIDGE法を解析自動化するソフトウエアを開発することで、より網羅的な部位特異的グライコフォーム解析を実現しました。
今後の予定
本ソフトウエアは、創薬シーズの探索に活用することで糖鎖創薬の開発を加速すると期待できます。また、遺伝子治療のためのウイルスベクターの糖鎖解析への使用実績もあり(参考文献3)、抗体だけでなく新しいモダリティーのバイオ医薬品の品質管理への活用も期待できます。今後、産総研では、それぞれの利点を有するMS1ベースの解析法(Glyco-RIDGE法)と従来のMS2ベースの解析法をより効果的に統合し、網羅性と信頼性を改善した解析法とそのソフトウエアの開発を進めます。また、グライコプロテオーム解析の高度化に加え、マルチモーダル糖鎖解析プラットフォームをより強固にするための要素技術として、新たな糖鎖解析技術の開発にも取り組みます。名古屋大学糖鎖生命コア研究所では、ヒューマングライコームプロジェクト(参考文献4)において本技術も活用していくことで、ヒトの身体に存在する糖鎖の正確な構造を網羅的に明らかにします。
&...
2024年10月4日
国立研究開発法人 産業技術総合研究所
来週開催 RD20東京シンポジウム 2024
日本の関係者が海外のクリーンエネルギー技術開発の最前線に直接触れられる機会
ポイント 第6 回RD20 国際会議がインドで12 月に開催されるため、経済産業省が開催する東京GXウィークの期間内に東京でRD20東京シンポジウム2024を開催。 海外の主要研究機関TERI(インド)、フラウンホーファーISE(ドイツ)、IPHEのゲストスピーカーが、それぞれバイオ燃料戦略、太陽光発電技術への取り組み、水素の国際標準への取り組みを講演。 日本のゲストスピーカーは産業技術総合研究所 吉野彰博士、産業界から豊田中央研究所 志満津孝氏の2名。ほかに、九州大学 石原達己教授、名古屋大学 川尻喜章教授、産総研 橋本潤博士、望月剛久博士が、それぞれの国際連携への取り組みなどを講演。 RD20キービジュアル:円形で共同・連携を、様々なリボンで様々な研究者の思いを、リボンのうねりで努力の重なりが未知なる答えを生み出すさまを表現
概要
国立研究開発法人 産業技術総合研究所は、10月11日(金)にクリーンエネルギー技術の先端研究を行っている国内外の研究所や産業界のリーダーを招いて、RD20東京シンポジウム 2024を開催します。これは、国際的な研究
...more 開発の枠組みである「RD20:Research and Development 20 for clean energy technologies」の活動の一環として、経済産業省が開催する東京GXウィークの期間を想定して企画したものです。10人のスピーカーによる講演に加え、会場では東京電力ホールディングス株式会社、ENEOS株式会社、フラウンホーファー研究機構太陽エネルギーシステム研究所、アルゼンチン国立工業技術院、理化学研究所、産業技術総合研究所が、水素研究、エネルギーシステム、新素材などの研究成果をポスターセッションで掲示し、参加者と技術交流を行います。
これまで日本国内で開催していた「クリーンエネルギー技術に関するG20各国・地域の国立研究所等のリーダーによる国際会議(RD20国際会議; RD20 Conference)」は、6回目の開催となる今年、初めて日本を離れます。12月2-6日にインド・ニューデリーのTERIで開催され、リーダーズセッションやテクニカルセッション、ワークショップなど、5日間にわたるプログラムが予定されています。
RD20東京シンポジウム 2024 開催要項
日程 2024年10月11日(金) 10:00-18:00
会場 イイノカンファレンスセンター(東京都千代田区内幸町2-1-1)
主催 国立研究開発法人 産業技術総合研究所
共催 経済産業省、文部科学省、環境省、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
詳細 https://rd20.aist.go.jp/ja/events/2024_tokyo_symposium/?slug=events
その他 オンライン聴講可能・日英同時通訳 あり
RD20東京シンポジウム2024の参加登録は、RD20公式WEBサイトから
https://forms.gzr.aist.go.jp/m?f=327%20target=
https://rd20.aist.go.jp/contact/(英語)
参考情報
東京GXウィークhttps://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/roadmap/tokyo_gx_week/
RD20 メンバー機関
Instituto Nacional de Tecnología Industrial (INTI)、アルゼンチン
Commonwealth Scientific and Industrial Research Organization (CSIRO)、オーストラリア
Universidade Federal de Sao Carlos (UFSCar)、ブラジル
Energy, Mining and Environment Research Centre, National Research Council Canada (NRC)、カナダ
Joint Research Centre, European Commission (JRC)EU
Centre national de la recherche scientifique (CNRS)、フランス
Alternative Energies and Atomic Energy Commission (CEA) 、フランス
Fraunhofer Gesellshaft (Fh-G)、ドイツ
Fraunhofer Institute for Solar Energy Systems(Fh-ISE)、ドイツ
The Energy and Resources Institute (TERI)、インド
National Research and Innovation Agency (BRIN)、インドネシア
Italian National Agency for New Technologies, Energy and Sustainable Economic Development(ENEA)、
イタリア
Korea Institute of Energy Research (KIER)、韓国
Center for Research and Advanced Studies of the National Polytechnic Institute(CINVESTAV)、 メキシコ
King Abdullah City for Atomic and Renewable Energy(KACARE)、サウジアラビア
Council for Scientific and Industrial Research(CSIR)、南アフリカ
TUBITAK Marmara Research Center(TUBITAK-MAM)、トルコ
U.K. Energy Research Centre (UKERC)、英国
National Renewable Energy Laboratory (NREL)、米国
National Institute for Materials Science (NIMS), 日本
RIKEN, 日本
National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST), 日本
RD20とは
世界最先端の技術開発を行うG20各国・地域の主要な研究機関がカーボンニュートラルの実現に向けた研究開発の国際連携を促進するためのイニシアティブ(枠組み)であり、2019年に日本主導で発足しました。各国・地域のクリーンエネルギー技術に関連する研究開発や経験・ベストプラクティス・アイディアを交換する機会、また主要な研究機関間での国際共同研究の可能性を探る機会を参加者に提供しています。さらに、関連する産学官のステークホルダー間の新たなパートナーシップを深化・発展させています。
RD20 公式WEBサイト;https://rd20.aist.go.jp/ja/
本件に関する問い合わせ先 国立研究開発法人 産業技術総合研究所 RD20事務局 M-rd20secretariat-ml@aist.go.jp
機関情報 国立研究開発法人 産業技術総合研究所 https://www.aist.go.jp/ 広報部 報道室 hodo-ml@aist.go.jp
...
ポイント
・ ゼオライトの基本構造である複合構造単位 (CBU)を予め配列し、組み上げる新たなゼオライト合成法を開発
・ 新規骨格を有するゼオライト(UPZ-1)の創出に成功
・ 任意の細孔構造を有する高性能なゼオライト材料開発に貢献
概 要
国立研究開発法人 産業技術総合研究所(以下「産総研」という)触媒化学融合研究センター ヘテロ原子化学チーム 西鳥羽 俊貴 産総研特別研究員、五十嵐 正安 上級主任研究員、材料・化学領域 佐藤 一彦 領域長補佐は、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)のプロジェクトで、ゼオライトの基本構造をあらかじめ配列させ、組み上げる、新規合成手法の開発に成功し、単結晶X線構造解析および透過型電子顕微鏡によりその詳細な構造を明らかにしました。
ゼオライトの複合構造単位(Composite Building Unit : CBU)であるd6rを含むオルトケイ酸のかご型12量体(Q12H12)を水素結合により配列させ、この配列を維持したまま脱水縮合によりゼオライトを合成することができました。この新規合成手法は、さまざまなニーズに最適化されたゼオライト開発の新しい手法として、高機能・高性能な触媒や分子ふるいなどの開発に応用が期待されます。なお、今回の
...more 成果の詳細は、10月3日(米国東部時間)に米国の学術誌Chemistry of Materialsに掲載されます。
下線部は【用語解説】参照
※本プレスリリースでは、化学式や単位記号の上付き・下付き文字を、通常の文字と同じ大きさで表記しております。
正式な表記でご覧になりたい方は、産総研WEBページ
( https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2024/pr20241003_2/pr20241003_2.html )をご覧ください。
開発の社会的背景
ゼオライトは規則正しく配列した細孔を持ち、また細孔内に触媒活性部位を持っていることから化学工業用触媒、環境浄化触媒およびガス分離の分野で広く利用されています。合成されるゼオライトのほとんどが塩基性の高温・高圧の水熱条件で合成されています。高性能なゼオライト合成に向けて、有機物を鋳型とした合成方法、種結晶により結晶化を促進する方法や、ゲルマニウムやホウ素などのヘテロ原子により結合形態を制御する方法などが開発されています。しかし、水熱条件下での合成では、ゼオライトへの結晶化と溶解が可逆的に進行し多様な非晶質のケイ酸塩を経由するため、合成過程が複雑で不明な点が多く、生成物の合理的な設計や形成過程の解明が困難です。この課題を打開し、各種の用途に求められる結晶構造や原子配列を得るため、ゼオライトの部分構造や、複合構造単位の転写を目指した合成法の開発が進められています。しかし、先に述べた合成法と同様にこれらの合成方法も水熱条件下で行われるため、依然としてゼオライト形成過程は複雑であり、高性能・高機能なゼオライトを精密に設計・合成することは困難です。
研究の経緯
産総研はこれまでに、シリカ(SiO2)の基本単位であるオルトケイ酸(Si(OH)4)をはじめ、その2量体、環状3量体、環状4量体、オルトケイ酸のかご型8量体(Q8H8)、かご型12量体(Q12H12)を合成・単離する技術を開発しています(2017年7月27日 産総研プレス発表)。さらに最近、Q8H8の8個の頂点に放射状に存在するヒドロキシ基に着目し、水素結合させることで、Q8H8が1次元、2次元および3次元状にネットワークを構築した「水素結合性無機構造体(Hydrogen-bonded Inorganic Framework: HIF)」を開発しています(2021年12月10日 産総研プレス発表)。今回、このHIF結晶の結晶性を維持させたまま脱水縮合させることが可能なプロセスを開発することにより、水素結合をシロキサン結合へ変換することで図1に示すような基本構造を配列させたゼオライトの合成手法の開発に至りました。
なお、本研究開発は、「有機ケイ素機能性化学品製造プロセス技術開発」(2014~2021 年度、JPNP14003)、「NEDOプロジェクトを核とした人材育成、産学連携等の総合的展開/有機ケイ素先端材料開発技術者養成に係る特別講座」(2022~2024 年度、JPNP06046)、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 さきがけ「原子・分子の自在配列と特性・機能」(2022~2025 年度、JPMJPR22A1)による支援を受けています。
研究の内容
HIF結晶の結晶性を維持して脱水縮合を達成できれば、従来よりも合理的なゼオライト合成法を開発できると着想しました。Q12H12からなるHIF結晶の結晶性を維持させながら脱水縮合可能なプロセスを見出し、新規なゼオライト合成手法の開発に成功しました。合成したゼオライトは新規骨格を形成しておりUPZ-1(Unit-Preorganized Zeolite)と命名しました。
今回の新規ゼオライト合成法は酸性条件による脱水縮合ののち、高温加熱を行うことで達成されました。図1に示したHIF結晶に対して、前段の反応では酢酸を溶媒とし、反応の促進剤としてアミンまたはアンモニウム塩を触媒量加え、140℃で加熱することで部分的な脱水縮合を促進させ、中間体を得ました。この中間体をさらに750℃で加熱することで脱水縮合が完全に進行し、新規ゼオライト(UPZ-1)を合成しました(図2)。
光学顕微鏡で観察したところ、得られたUPZ-1はおよそ80μmとゼオライトとしては極めて大きな結晶であり、出発原料として用いたHIF結晶と同様な結晶外形でした。単結晶X線構造解析により明らかにした構造を図3に示します。UPZ-1の結晶構造はb軸方向にケイ素4員環(4R)とケイ素6員環構造(6R)が交互に連なり、c軸方向にはケイ素4員環(4R)、ケイ素8員環構造(8R)が交互に連なっていました。一方で、出発原料のHIF結晶では、基本骨格構造由来のケイ素6員環(6R)に加え、水素結合で形成されたケイ素4員環(4R’)とケイ素8員環(8R’)が観察されました。それぞれの構造を比較したところ、HIF結晶中の水素結合で構成されていたケイ素4員環(4R)とケイ素8員環(8R)の水素結合の部位が、UPZ-1ではQ12H12の配列を維持したままシロキサン結合に変化していました。
UPZ-1の結晶構造を詳細に解析するため透過型電子顕微鏡により観察を行った結果を図4に示します。観測された原子配列は単結晶X線構造解析の結果と一致し、HIF結晶中のQ12H12の配列を維持したままの脱水縮合が達成されていることが確認できました。
今後の予定
ゼオライトを触媒や分子ふるいとして利用するためには、高い耐熱性や反応に適した細孔サイズが求められます。今後は、多彩なHIF結晶を作成し、脱水縮合することでさまざまなニーズに対応した高機能なゼオライトの合成を目指します。
論文情報
掲載誌:Chemistry of Materials
論文タイトル:Synthesis of Zeolites via Dehydrative Condensation of Preorganized Composite Building Units
著者:Toshiki Nishitoba, Tomohiro Matsumoto, Fujio Yagihashi, Junichi Satou, Takashi Kikuchi, Kazuhiko Sato, and Masayasu Igarashi
DOI:https://doi.org/10.1021/acs.chemmater.4c01848
用語解説
ゼオライト
ミクロ細孔を有する結晶性のシリカ(SiO2)化合物。Si原子の一部をヘテロ原子 (B、Al、Tiなど) に置換でき、触媒や分子ふるい(吸着剤、分離膜)、イオン交換など幅広い用途で使用される。
単結晶X線構造解析
試料にX線を照射し、その回折パターンから試料の結晶構造を解析すること。
透過型電子顕微鏡...
Survey Reports LLCは、2024年10月に調査レポートを発行したと発表した。アジピン酸市場は、原材料(シクロヘキサノール、シクロヘキサノン)別、最終製品(ナイロン66繊維、ナイロン66エンジニアリング樹脂、ポリウレタン、アジピン酸エステル、その他の最終製品)別、用途(可塑剤、不飽和ポリエステル樹脂 エステル樹脂、ウェットペーパー用樹脂、コーティング剤、合成潤滑油、食品添加物、その他の用途)、エンドユーザー産業別(自動車、電気・電子、繊維、食品・飲料、パーソナルケア、製薬、その他のエンドユーザー産業) - 世界市場分析、動向、機会、予測、2024年から2033年」は、アジピン酸市場の予測評価を提供する。アジピン酸市場における成長促進要因、市場機会、課題、脅威など、いくつかの主要な市場力学を強調している。アジピン酸市場の概要アジピン酸は、ナイロン、ポリウレタン、その他のポリマーの製造に一般的に使用される白色の結晶性化合物である。化学式C?H??O?のジカルボン酸であり、主な産業用途はナイロン6,6の製造におけるモノマーとしてであり、強度と耐久性を高めるのに役立っている。また、アジピン酸は可塑剤、潤滑油、食品添加物の製造にも使用されている。従来は石油化学製品から生産されていたが、環境への影響を低減するために、バイオベースの原料からアジピン酸を合成する取り組みが行われている
...more 。その汎用性、安定性、およびさまざまな工業製品の特性への貢献により、高く評価されている。Surveyreportsの専門家は、アジピン酸市場の調査を分析し、2023年のアジピン酸市場規模は65億米ドルに達すると予測した。さらに、アジピン酸市場のシェアは、2033年末までに108億米ドルの収益に達すると予測されている。アジピン酸市場は、2024年から2033年の予測期間中に、年間平均成長率(CAGR)約5.2%で成長すると予測されている。無料サンプルレポートを入手する: https://www.surveyreports.jp/sample-request-1035855Surveyreportsのアナリストによる定性的なアジピン酸市場分析によると、ナイロン6,6の需要増加、自動車産業の成長、技術開発、ナイロン生産の需要増、バイオベースの代替品へのシフトにより、アジピン酸の市場規模は拡大するだろう。アジピン酸市場における主要企業の一部としては、旭化成株式会社、インビスタ、アセンド・パフォーマンス・マテリアルズ LLC、BASF SE、ラディチ・パルティシパツィオーニ SpA、ランクセス AG、山東海力化学工業有限公司、中国石油遼陽石油化学会社、アセンド・パフォーマンス・マテリアルズ・オペレーションズ LLC、アセンド・パフォーマンス・マテリアルズ・オペレーションズ Sarl、バイオアンバー社、住友化学株式会社などが挙げられる。当社のアジピン酸市場調査レポートには、北米、ヨーロッパ、アジア太平洋、中東・アフリカ、中南米の5つの異なる地域とその国々に関する詳細な分析も含まれている。当社の調査レポートには、日本の顧客の特定のニーズに合わせた詳細な分析も含まれている。目次● 各国のライドシェアリング市場規模、成長分析、主要市場プレイヤーの評価● 2033年までの世界のライドシェアリング市場(北米、ヨーロッパ、アジア太平洋地域、中南米)の需要と機会分析(日本を含む国別)● アナリストによるCレベル幹部への提言● 市場の変動と将来展望の評価● 市場細分化分析:原材料別、最終製品別、用途別、エンドユーザー産業別、地域別● 最近の動向、輸出入データ、市場動向、政府指針の分析● 戦略的な競争機会● 投資家向け競争モデルアジピン酸市場のセグメンテーション● 原材料別:o シクロヘキサノール、シクロヘキサノン● 最終製品別:o ナイロン66繊維、ナイロン66エンジニアリング樹脂、ポリウレタン、アジピン酸エステル、その他の最終製品● 用途別:可塑剤、不飽和ポリエステル樹脂、ウェットペーパー用樹脂、コーティング剤、合成潤滑油、食品添加物、その他の用途● 最終用途産業別:自動車、電気・電子、繊維、食品・飲料、パーソナルケア、製薬、その他の最終用途産業● 地域別:北米、欧州、アジア太平洋、中南米、中東・アフリカ詳細レポートへのアクセスはこちら:https://www.surveyreports.jp/industry-analysis/adipic-acid-market/1035855アジピン酸市場の地域別セグメント:地域別では、アジピン酸市場は5つの主要地域、すなわち北米、欧州、アジア太平洋、中南米、中東およびアフリカに区分される。このうち、アジア太平洋地域は2033年末までに最大の市場シェアを占めると予測されている。これらの地域はさらに以下のように細分化される。● 北米- 米国、カナダ● ヨーロッパ- 英国、ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、ロシア、その他のヨーロッパ地域● アジア太平洋- 日本、中国、インド、インドネシア、マレーシア、オーストラリア、その他のアジア太平洋地域● 中南米-メキシコ、アルゼンチン、その他の中南米地域● 中東およびアフリカについて Survey Reports合同会社Survey Reports は、20年以上にわたって先進的な企業の卓越した成長を支援してきた市場調査およびコンサルティングサービスのプロバイダーです。当社は世界中のクライアントと協力し、破壊的なエコシステムの先を行くお手伝いをしています。あらゆる主要産業における主要セグメントとニッチに関する専門知識により、適切なタイミングで適切なアドバイスを提供し、クライアントが市場での競争に打ち勝つことを支援します。連絡先:-会社名: Survey Reports合同会社電話番号: +81 03-5530-8702Eメール: sales@surveyreports.jpウェブサイトのURL: https://www.surveyreports.jp/会社住所 : 東京都江東区有明3丁目7番26号有明フロンティアビルB棟9階配信元企業:Survey Reports合同会社プレスリリース詳細へドリームニューストップへ...
2024年10月3日
早稲田大学
bitBiome株式会社
ヒト常在菌の個別解析、新時代へ 3万個の細菌ゲノム解読、抗生物質耐性遺伝子を追跡
詳細は早稲田大学HPをご覧ください。
発表のポイント
● がん・炎症性腸疾患などの患者と健常者を含む日本人被検者51名から、世界最大規模3万個のヒト常在菌※1のシングルセルゲノム解析※2を実施。
● 1.7万個の口腔内細菌・腸内細菌の高精度ゲノム情報を含むデータセットbbsag20を公開。
● 従来の手法(メタゲノム解析※3)では見落とされていた300種以上の腸内細菌のゲノムを取得。
● 遺伝子の「運び屋」可動性遺伝因子※4を介した抗生物質耐性遺伝子※5の広がりを個々の細菌レベルで解明。
● 細菌の抗生物質耐性の広がり方をより深く理解する手がかりを提供し、将来的な医療や公衆衛生への応用に期待。
図:本研究で用いた新しいシングルセルゲノム解析手法
私たちの健康に重要な役割を果たすヒト常在菌。しかし、その全容解明には個々の細菌を詳しく調べる必要があり、これまでの技術では困難でした。早稲田大学理工学術院の細川正人(ほそかわまさひと)准教授と早稲田大学発スタートアップbitBiome社の研究グループは、革新的なシングルセルゲ
...more ノム解析技術を用いて、この課題に挑戦し、世界最大規模の3万個の口腔内細菌および腸内細菌の個別ゲノム解析を行いました。構築したbbsag20データセットからは、従来法では見落とされていた数百種の細菌のゲノム・遺伝子が発見されました。また、抗生物質耐性遺伝子やその「運び屋」の存在が個々の細菌単位で明らかになり、細菌間での遺伝子のやり取りを詳細に調査することが可能になりました。この成果は、常在菌を対象とした個別化医療や新たな抗生物質耐性対策の開発に貢献する可能性があります。
本研究成果は、2024年10月2日(水)(現地時間)にSpringer NatureグループのBioMed Central社が発刊するオープンアクセス科学誌「Microbiome」で公開されました。
論文名:A Single Amplified Genome Catalog Reveals the Dynamics of Mobilome and Resistome in the Human Microbiome
(1)これまでの研究で分かっていたこと
ヒト常在菌は人間の健康に重要な役割を果たしています。これまでの研究で、以下のことが分かっていました:
1.口腔内や腸内には多数の細菌が存在し、複雑な生態系を形成しています。
2.ヒト常在菌の構成は個人によって異なり、健康状態や疾病と関連があります。
3.メタゲノム解析は、常在菌の全体的な構成を調べることができます。
4.抗生物質の使用が常在菌叢に影響を与え、薬剤耐性菌の出現につながる可能性があります。
しかし、これまで常在菌研究に使われてきたメタゲノム解析では全ての細菌をひとまとまりにDNAを分析するため、個々の細菌が持つ遺伝子の構成などを詳細に調べることが困難でした。そのため、可動性遺伝因子を介した細菌間での遺伝子のやり取りや、それによる抗生物質耐性の細菌種を超えた広がり方など、重要な詳細が不明のままでした。
(2)今回新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと、そのために新しく開発した手法
本研究では、革新的なシングルセルゲノム解析技術を用いて、がん・炎症性腸疾患などの患者と健常者からなる日本人51名の被験者を対象に、ヒト常在菌の個別解析を大規模に行いました。主な成果は以下の通りです:
1.世界最大規模のシングルセルゲノムデータセットの構築:3万個の口腔内・腸内細菌の個別ゲノム解析を実施し、高品質なゲノム情報を整理して公開しました。
2.従来の手法と組み合わせて常在菌叢を解明:シングルセルゲノム解析では従来のメタゲノム解析では得られなかった種が多数獲得されました。両者の解析法を組み合わせることが常在菌叢の解明に効果的であることが分かりました。
3.抗生物質耐性遺伝子の伝播状況の解明:個々の細菌レベルで抗生物質耐性遺伝子の分布を解析しました。プラスミド※6やファージ※7といった可動性遺伝因子が伝播を担っている可能性を調査しました。
これらの成果を可能にしたのは、SAG-gel技術※8と呼ばれる新しいシングルセルゲノム解析手法です。SAG-gelは責任著者の細川が2018年に創業した早稲田大学発スタートアップであるbitBiome社にてbit-MAP®として商用化されており、現在、国内外の微生物研究者に広く利用されています。
この技術の特徴は以下の通りです:
● 個々の細菌をゲル中に封入し、個別にゲノムを増幅・解析します。
● 高い精度で多数の細菌ゲノムを同時に分析できます。
● 従来の手法では困難だった、希少な細菌種の検出も可能です。
図1:SAG-gel/bit-MAP®技術の概要 (図中NGSはNext-generation sequencer(次世代シーケンサー))
同一の試料を解析した場合、シングルセルゲノム解析とメタゲノム解析では、異なる細菌種のゲノムが獲得されます。シングルセルゲノム解析では460種、メタゲノム解析では327種のゲノムが得られ、両解析で共通するのは140種に留まります。細胞から分析を始めるシングルセルゲノム解析と、壊れた細胞から抽出したDNAから分析を始めるメタゲノム解析では、得られるデータの性質が異なることが示されています。
図2:メタゲノム解析とシングルセルゲノム解析の比較:細菌ゲノム
メタゲノム解析では、プラスミド・ファージなどの可動性遺伝子を各細菌ゲノムと紐づけて分析することが難しく、殆どが見落とされてしまいます。そのため、これらの可動性遺伝子にコードされる抗生物質耐性遺伝子がどれだけ存在するか、どの細菌が保有しているのかを知ることができません。一方、シングルセルゲノム解析では、各種抗生物質耐性遺伝子がどのプラスミド・ファージにコードされ、どの細菌種に保持されているのか、保有状況とネットワーク関係を明らかにすることができます。
図3:メタゲノム解析とシングルセルゲノム解析の比較:可動性遺伝因子・抗生物質耐性遺伝子
この研究により、シングルセルゲノム解析が口腔内・腸内細菌叢の遺伝的多様性を理解することに役立つことが示されました。特に、プラスミドやファージなどの可動性遺伝因子を介した抗生物質耐性遺伝子の広がり方について、個人単位・細菌単位で把握することができる点が画期的であり、常在菌間における遺伝子のやり取りの理解につながることが期待されます。
本研究で解析したゲノムデータセットbbsag20は、CC-BY 4.0で誰でもダウンロードおよび利用することが可能です。
https://doi.org/10.25452/figshare.plus.24473008.v2
(3)研究の波及効果や社会的影響
本研究の成果は、以下のような波及効果や社会的影響をもたらす可能性があります:
1.個別化医療の進展:個人のヒト常在菌叢を詳細に分析することで、特定の疾患と関連する細菌種の特定が容易になり、新たな治療ターゲットの発見に寄与します。
2.抗生物質耐性対策の向上:耐性遺伝子のプロファイルを詳細に把握し、より効果的な耐性菌対策の開発が可能になります。新たな抗生物質の開発や、既存薬の適切な使用法の確立に貢献します。
3.環境マイクロバイオーム研究への応用:本技術は環境サンプルにも適用可能で、生態系の理解や環境保全に貢献します。土壌や水中の微生物群集の解析にも応用でき、農業や水質管理にも影響を与える可能性があります。
これらの効果により、医療費の削減や国民の健康増進、さらには環境保全など、幅広い社会的影響が期待されます。
(4)今後の課題
今後の課題として、より多様なサンプルを用いたさらなるデータ収集が求められます。特に異なる地域や人種からのサンプルを追加することで、常在菌の世界的な多様性をより深く理解することが期待されます。また、長期的な観察を通じて、細菌叢の変化や疾患との関連を明らかにすることで、個別化医療の新たな道が開かれるでしょう。
具体的な展望:
1...