バイデン米大統領が3日、岸田文雄首相を含む同盟国首脳らと電話協議し、ウクライナ支援の継続を再確認した。米国の要請によるもので、米議会が承認した「つなぎ予算」にウクライナ支援予算が含まれなかったことを…
富士山のふもと、山梨県富士吉田市のホテルで9月14日に開かれた自民党岸田派(宏池会)の研修会。前日に内閣改造を終えたばかりの岸田文雄首相は高揚した面持ちで、池田勇人元首相ら宏池会出身の歴代首相4人の名を挙げた後、派閥のメンバーに語りかけた。
9月最後の平日となった29日、東京・永田町では岸田文雄首相が近く衆院解散・総選挙に踏み切るとの臆測、いわゆる「解散風」が吹き荒れた。発生源は、首相自身だった。 首相はこの日の日中、与党幹部に臨時国会…
相次ぐ物価の上昇に、青息吐息状態の日本国民。それでも岸田首相は実効性のある経済対策を打つことができずにいます。首相の言うところの「異次元の経済対策」は、果たして発動されることはあるのでしょうか。今回のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』ではジャーナリストの高野さんが、岸田首相がいわゆる「バラマキ」しかできない理由を解説。未だアベノミクスを精算できない政権と日銀を厳しく批判しています。
岸田政権を呪い続けるアベノミクスの亡霊
アベノミクスを終わらせられない岸田政権の自縄自縛/それで単なるバラマキに走る「経済対策」の馬鹿らしさ
岸田文雄首相は9月26日の閣議で「総合経済対策」を10月中にまとめるよう各閣僚に指示し、それを受けて自民党は29日からその具体策の議論に着手した。岸田の狙いとしては、ガソリン代や電気・ガス代の値上がりに対する「激変緩和措置」の補助金が10月検針分から半減するとか、食品4,533品目の値上げが10月に予定されているとか、生活の基幹部分に関わる物価急上昇の打撃が浸み渡りつつある中で、それを埋め合わせる大胆な政策を提示し、そのための大規模補正予算を組むことで人気を回復し、あわよくば年内もしくは来年早々の解散・総選挙のきっかけを掴みたいというところなのだろう。
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アベノミクスの延長上で生き長らえることを選ん
...moreでしまった岸田首相
しかし、そこで致命的に障害となるのはアベノミクスの亡霊である。本来であれば岸田は、アベノミクスが経済衰退以外の何ももたらさなかったことを明快に指摘し、それに代わる「新しい資本主義」でも「キシダノミクス」でも何でもいいから、別の路線を示して清新感を打ち出すべきだった。が、彼にはその能力がなく、いかにもだらしなく、アベノミクスの延長上で生き長らえることを選んでしまった。
ちなみに、これは、岸田が宏池会本来の護憲・平和外交路線を継承するつもりが全くなく、安倍から直に受け継いだ「親米反中」路線に従って軍事的な対中対決路線に突き進んでいることとも並行的なことである。結局、岸田は自分の中に独自の経済政策も外交・安保戦略もないために、毒を喰らわば皿までもという勢いで「擬似的安倍路線」に身を投じるしかなかったのだろう。
さて、財務省の統計によると、2022年度の日本の貿易収支は去最大の21兆7,284億円の赤字を記録した。赤字は今年の上半期も続いたが、6月にようやく23カ月ぶりに430億円の黒字を実現した。しかし、それとても季節調整値で見ると5,532億円の赤字。さらに7月には再び名目で787億円、季節調整値で5,571億円の赤字となり、赤字基調からの脱出に成功していない。
その主な要因は世界的な化石燃料の高騰だが、1ドル=150円近い極端な円安が余計に国民生活を苦しめていて、本来であれば、打撃を緩和するための補助金などということより先に、実力に対して50%程度の行き過ぎになっている円安そのものに歯止めをかけて根っこを断たなければならない。それにはアベノミクス以来の金融緩和にキッパリと終止符を打ち、円高誘導に転じるべきところだが、それができない。
藻谷浩介=日本総合研究所主席研究員が毎日新聞9月24日付「時代の風」欄で書いているように、「緩和を見直すと金利が上昇し、国債や株式の市場価格が下がる。これは国の財政難や株式不況を引き起こしかねないのみならず、日銀の財務内容を大幅に悪化させる。日銀は、国債や株式を大量に買い込むという先進国はどこもやっていない禁じ手を、第2次安倍政権に強いられてしまったからだ」。
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安倍氏が2012年12月の総選挙でぶった粗暴極まりない演説
周知のように、安倍晋三は2012年12月の総選挙で「日銀の輪転機をグルグル回してお札を刷らせ、日銀に建設国債を全て買ってもらい公共投資をやる」と粗暴極まりない演説をして勝利し、第2次安倍政権を打ち立てた。そして13年3月、日銀総裁の首を黒田東彦にすげ替えてアベノミクスを発動した。その《第1の矢》が「異次元金融緩和」で、その時に134.7兆円だったマネタリーベース(世に流通している現金と日銀当座預金の合計)は今日までに約540兆円増えて、ちょうど5倍の674.4兆円(8月末)にまで膨らんだ。また同じく13年3月に125.4兆円にすぎなかった日銀の国債保有高は今では約450兆円増えて576.1兆円、国債発行残高の52.2%を占めるに至った(6月末)。
これだけお札を刷って、それをヘリコプターで撒くわけにも行かないから、市中銀行が持つ国債を買い上げて、その代金を各銀行が日銀内に置いている当座預金に振り込む。そうすると、各銀行はそこからお金を引き出して個人や企業に貸し付けるので、お金が世の中に出回ってたちまち2%程度のインフレ状態が現出し、経済が好循環に向かう――という予定であったのだが、全くそうはならなかった。理由は簡単で、世の中には需要があるのにお金が足りないから人々が消費しようとしないのだというリフレ派の経済ブレーンの見立てが全く見当違いで、世の中には需要がないのでいくらお金が溢れても人々は消費に走らない。車も買い替えないし家も建て替えないからローンの需要も起こらない。企業も内部留保を膨らませていて銀行に融資を頼む必要がない。
そうすると銀行は、日銀当座預金を引き出して世の中にお金を回す動機が生じないから、国債買い上げ代金はそのまま寝かしておき、僅かでも金利を得ようとする。その証拠に、13年3月に各銀行が日銀に置いている当座預金の総額はわずか47.4兆円だったのに、今日までに約500兆円も増えて543.6兆円に膨れ上がっている(8月末)。単純化して言えば、せっかく輪転機をグルグル回してお金を540兆円も増やし、450兆円も国債を買わせ、さらには上場投資信託(ETF)など日本株式も買わせたのだが、そのお金はほとんど日銀構内から出て行かなかったということである。それに気づいた黒田は16年にその預金の一部にマイナス金利を課してお金を無理やり引き出させようとしたが、それでもインフレは起きなかった。
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アベノミクスの亡霊に取り憑かれた岸田政権の自縄自縛
こうした誤謬の積み重なりの結果、日銀は金融緩和に踏み出して過度の円安を修正したいと思っても、国債の暴落や株価の崩落によって日本経済全体が大波乱を被る以前に、まず日銀自身が債務超過に陥って経営破綻し、莫大な借金を抱えた政府も財政破滅しかねないので、怖くて踏み出せないということになってしまった。それが黒田がいくら訊かれても金融緩和からの「出口」について言を左右にして語れなかった理由であり、また植田和男新総裁も「デフレ状態ではなくなったが、インフレ目標の2%が長期安定的に達成されていない。それが達成されれば期待インフレ率も2%に達するだろう」と、謎のようなことを言って金融緩和をひたすら先延ばしにせざるを得ない理由なのである。
このように、アベノミクスの亡霊に取り憑かれてそれを身から引き剥がして投げ捨てることのできない岸田政権は、それによって自縄自縛に陥り、体系立った新しい経済対策に転換することができない。その条件下で精一杯やれることは、物価高対策、賃上げ促進、投資減税、少子化対策、防衛費激増など相互に連関しない目先の対策を並べてバラマキをすること以外にない。そこに、あわよくば支持率を上げて解散・総選挙に踏み切りたいという岸田の個人的な政局思惑が重なるので、余計に無意味な大盤振る舞いに走ろうとする衝動に走ることになるだろう。
臨時国会の論戦を通じて野党は、アベノミクスの悪夢から岸田を目覚まさせることが出来るのか、それとも自分らがその悪夢に巻き込まれていってしまうのか。そこが問われることになろう。
(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2023年10月2日号より一部抜粋・文中敬称略)
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image by: 岸田文雄 - Home | Facebook
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