野党第一党の立憲民主党が、ここにきて石破内閣不信任決議案の提出に後ろ向きの姿勢を示している。今の状況で不信任案を出すと、ポーズではなく本当に可決されてしまうかもしれないからだが、野田代表はいったい何を恐れているのだろうか。背景には他の野党、とりわけ国民民主党に対する根深い疑念があるようだ。元全国紙社会部記者の新 恭氏が解説する。(メルマガ『国家権力&メディア一刀両断』より)※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:内閣不信任案に後ろ向きな立憲民主に渦巻く国民民主への疑念
野田代表も可決されたら困ってしまう内閣不信任決議案
通常国会は、6月22日の会期末まで、あと1か月半を残すばかりとなった。会期末ともなれば毎回、決まったように野党から出てくる内閣不信任決議案。野党の勢力が与党を上まわる衆議院で、これが提出されると可決されるかもしれない。さて、どうなるのか。
内閣不信任決議案の提出には少なくとも発議者1人と賛成者50人の計51人が必要となる。これができる野党は数の上から言って、立憲民主党しかない。
5月2日の記者会見で立憲民主党の野田佳彦代表は、与党の国会提出が遅れている年金改革関連法案について「不信任に十分値する」と断言した。ところが、それなら不信任決議案を出すのかというと、こう言ってお茶を濁した。
「日米関税交渉がどの時期にどういうふうにまとまるか、
...more国難と言ってるときに足を引っ張ることもできかねるなと・・・」
石破首相が「国難」と言うトランプ関税にかこつけてはいるが、どうやら内閣不信任案提出には後ろ向きのようだ。提出して可決された場合のことを考えるからだろう。
否決されるのがわかりきっている時は、気楽に出せるのだが、今回、そうはいかない。野党がまとまりさえすれば、内閣不信任を決議することは十分、可能なのだ。
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立憲が狙うシナリオは「石破首相のまま参院選突入」だが
決議されると、石破首相は10日以内に衆院を解散するか、総辞職するかを選ばなくてはならない。
解散だと総選挙。参院選とのダブルになるだろう。“常在戦場”の心構えが政治家には必要とされるが、昨年10月に戦ったばかりだ。その結果でもわかるように、立憲は議席数こそ増えたが、政党支持率は低迷を続け、国民民主党に野党一位の座を許している。つまり、選挙をやっても他の野党勢力に議席を食われかねない状況だ。
一方、総辞職だと、石破首相が退陣し、自民党総裁選で新総裁が選ばれ、国会で首相指名選挙が行われる。不信任決議を受けた場合、衆院解散というのがほとんどで、総辞職というケースは過去にあまり例はないが、制度的にはあり得る。そのさい、現状からみて野党議員がこぞって野田代表の名を投票用紙に書くとは考えにくいし、立憲が他の野党党首を担いでまで非自公の連立政権をめざすとも思われない。
立憲にとっていちばんいいシナリオは、国民に不人気の石破首相のまま参院選に突入することだろう。反自民票が流れ込みやすいのは野党第一党のはずである。そんな立憲の思惑をわかっているからこそ、他の野党は皮肉をこめて「内閣不信任案を出すべきだ」とプレッシャーをかけるのだ。
「出さなければ、立憲は野党第1党の責任を果たしたとは言えない」(維新・前原誠司共同代表)
「この状況で内閣不信任案を出さないことがあるのかね。政権交代するとおっしゃっているんでしょ。出せば考えますよ我々は。」(国民・榛葉賀津也幹事長)(次ページに続く)
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立憲に渦巻く「国民民主さんは本当に野党なのか?」という疑心暗鬼
野田代表はこう反論する。「出せ出せというのはいいが出したら必ず賛成してくれるのか。自分たちもどう判断するかよく考えてほしい」
賛成する気もなしに出せと言っているだけではないのか、という牽制だろう。その腹の底に渦巻いているのは、野党第一党の党首としての疑心暗鬼だ。日本維新の会も、国民民主党も、野党の連帯を考えて動いているとは思えない。
とりわけ、参院選でさらに躍進しそうな国民民主にいたっては、公明党から秋波を送られていることもあって、連立政権入りを狙う気配さえ漂う。
たとえば、企業・団体献金をめぐる対応だ。立憲と維新は原則禁止を求めているが、国民民主は献金を存続させ規制強化を図る案で与党と合意した。国民民主は「政治団体からの献金を認めるのでは、抜け道になる」と立憲、維新を批判する。しかし、他の野党からは「国民が自公に助け舟を出している」と見えてしまうだろう。
「自民党に気遣っているのか」と立憲の小川淳也幹事長が憤ったのも、国民民主は本当に野党なのか、という疑念があるからに違いない。
小川幹事長は、国民民主に対し「労働者の側に立った価値観を掲げる両党だ。足並みをそろえて自民党政権に代わる受け皿に貢献するべきだ」と「再合併」を呼びかける。しかし、国民の榛葉幹事長は「お花畑だ。基本理念が違っている」とはねつける。
こうした認識の食い違いは、夏の参院選に向けた候補者調整にも影を落としている。
立憲は連合をいわば“接着剤”として国民民主との候補者調整を進めたい考えだが、支持率が好調な国民民主は改選4議席の4倍、つまり16議席以上、そして「比例1000万票」を目標に掲げ、積極擁立の構えを崩さない。
全国に32ある「1人区」で候補者の一本化をするよう求める連合の意向に反して、福井、滋賀、奈良で競合する見通し。維新の勢力圏である京都、大阪、兵庫にも公認候補を立てる方針だ。(次ページに続く)
参院選後を見据えて動き始めた岸田前首相と麻生最高顧問
少数与党の通常国会において、新年度予算案を「人質」に野党各党が与党に対峙し政策実現を競ううちに、もともと緊密ではなかった連携意識がさらに薄れ、政策や交渉手法の違いをめぐる鞘当てを繰り返している。
このような野党陣営の現状が、自民党に余裕を持たせているのは明らかだ。
自民党は裏金問題で信用はがた落ちだし、安倍元首相を支持していた岩盤保守層の多くは離反し、国民民主党や日本維新の会、日本保守党、参政党へと流れこんでいる。参院選で自民党がボロ負けするだろうという観測は世間で常識のように語られている。
それでも躍起になってトップの顔をすげ替えようとはしていない。むしろ「石破に参院選を戦わせ、敗北の責任を取らせて退陣させればいい」という冷めた判断が支配的だ。
政局の勝負どころは参院選後にやってくる。衆院に続き、参院でも与党が大敗し、非改選議員を合わせても過半数を下回る場合、石破首相は間違いなく退陣を余儀なくされる。そこを見据えて数を蓄えるため、岸田文雄前首相や麻生太郎最高顧問ら党の実力者たちは、すでに動き出している。今のうちに、勉強会や議連をつくり議員を囲い込もうというわけだ。
ただし、石破首相の退陣につながるほどの惨敗なら、誰が新しい総理になろうと、その後の政権運営が困難を極めるのは明らかだ。自民が政権に居座るための現実的なシナリオは、自公が野党の一部を抱きこむ形での連立再編しかないかもしれない。
その場合、党の意思をまとめるためのキーパーソンは麻生氏だ。
石破嫌いの麻生氏は、かねてから国民民主の玉木氏を評価している。参院選後の政局で、ひと働きし、キングメーカーとして復活したい腹積もりもありそうだ。玉木氏としては安易に自民党と組んでイメージを落としたくはないだろうが、政策実現が政党の本分である以上、首相になることを断る道理はない。(次ページに続く)
国民民主に対する“踏み絵”としての内閣不信任決議案も?
玉木氏は最近のネット動画番組で、立憲の小川幹事長と対談し、「ともに改革政権をめざそう」という小川氏に対して、次のように語っている。
「自民党が圧倒的に議席を減らすべきと思う点では立憲さんと同じだ。しかし、国民が求めているのは政権交代なのかというと冷めた目で見ている。現行の選挙制度では二大政党制は無理で、3つから5つの政党によるゆるやかな連立政権に日本は変ってゆく。穏健な多党制を前提とした新たな政権作りをめざしたい」
現時点で、玉木氏が自公連立の枠組みに入りたいのか、非自民の連立政権をつくりたいのかはこの発言ではわからない。どこと組むかは政策と情勢に応じて決めるということだろう。
だが、立憲の党内からは国民民主の立ち位置をはっきりさせたいという声があがる。
「(内閣不信任決議案に)国民民主党が可決する側に...