インドで開催されたG20サミットと、その直後におよそ4年半ぶりに行われたプーチン大統領と金正恩総書記の会談。世界情勢のバランスに大きく関わる2つの国際的会合を、識者はどう見たのでしょうか。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では元国連紛争調停官の島田さんが、G20で明らかになったグローバルサウスと呼ばれる国々の存在感と結束の強化を紹介。さらにロシアと北朝鮮が手を組むことが、国際社会の安全保障体制に対する大きな脅威となる理由を解説しています。
手を結ぶロシアと北朝鮮、先進国を手玉に取るグローバルサウス。緊張高まる国際情勢の行方
「これはロシアの困窮の様を示しているのだろうか?それとも北朝鮮が抱く危機感の高まりだろうか?」
9月13日にロシア極東アムール州のボストーチヌイ宇宙基地でプーチン大統領と金正恩氏の久々の首脳会談が開催されたことを受けて出てきた問いです。
2019年にウラジオストクで開かれた前回の首脳会談では、金正恩氏の依頼を受けて会談に応じたプーチン大統領でしたが、今回は少しだけ様子が違ったようです。
ただ力関係が変わったかと言われたら、若干、ロシアが北朝鮮を持ち上げることはあっても、北朝鮮の体制の存続のためにはロシアの後ろ盾と対中国・対米国とのパワーバランスが不可欠であることは、両国・両首脳とも十分に認識していることから、ロシア上
...more位の対応には変化がないと見ています。
とは言っても、今回のプーチン大統領による歓待は、ロシアが国際情勢のマルチフロントでの苦境の現れとも理解できるのではないかと考えます。
2019年の会談以降、国連安全保障理事会の常任理事国という地位を活かして、北朝鮮に対する一切の制裁決議をブロックしてきたのがロシアですが、それにも関わらず、中国にすり寄る北朝鮮の姿にプーチン大統領と政権は苛立っていたと言えます。
北朝鮮国内での飢餓問題が取り上げられた際には、食糧支援を送るものの、北朝鮮からの移民や労働者が大挙して押し寄せることを警戒し、ロシア・北朝鮮国境にシベリア駐留のロシア軍によるバリケードを築いたことはまだ記憶に新しいところです。
しかし、今回2023年9月13日のロシア・北朝鮮の首脳会談に際し、ロシア側は広々と国境線を開き、かつシベリア鉄道が管理する沿線を厳重に警備して、金正恩氏が乗った特別列車を迎え入れています。
5時間にわたる食事会、出迎え、ロケット技術の見学など厚遇で北朝鮮代表団を迎え入れたプーチン大統領ですが、その背景にある理由には、ロシアの苦境の現れというよりは、相互の利害の一致があったことを示しています。
今回の首脳会談において、双方が具体的に何を得たのかは表には出てきませんが、北朝鮮はロシアからロケット技術とノウハウの提供を受けたものと思われます。
会談数時間前に発射した2発のミサイルは予定通りに日本のEEZ外に落ちたようですが、ここ最近行われた長距離弾道ミサイルと見られる物体の発射について、2度連続で失敗しています。
そこで世界最高レベルのロケット(ミサイル)技術を持つロシアにヘルプを依頼したというのが有力な見立てです。
他にはロシア政府が当初、支持取り付けのためにアフリカ諸国に無償で供与することを持ち掛けた穀物の一部を、北朝鮮に提供するという合意が得られたと思われます。度重なる自然災害(天候不順や洪水など)に見舞われ、農業生産量が大幅に落ちることが多い北朝鮮の食糧事情を後ろから支え、金王朝の権力基盤となる“もの”を提供するという形式です。
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金正恩との会談でプーチン大統領が得たもの
そして、北朝鮮がロシアに“日ごろのサポートの返礼”という形式で与えるのが、永続的な外交的なサポートと言われていますが、それは「今後、何が起ころうとロシアが帝国主義に対して戦うあらゆる行動を全面的にサポートする」という金正恩氏の言葉にも現れています。
ではロシア・プーチン大統領は何を得たのでしょうか?
ニュースを騒がせ、かつ欧米諸国の諜報機関を煙に巻いている「北朝鮮からロシアへの武器弾薬の供与」については、正直なところ、確定的な情報はまだ入ってきておりません。
しかし、プーチン大統領の「その可能性は大いにある」とのわざわざの発言はいろいろな推測を呼ぶこととなります。
ロシアはこれまでにイランやベラルーシなどから継続的に武器弾薬の供与を受け、時には国際情勢のカメレオンとも言えるトルコからも支援を得る構図が出来ています。
よく懸念が表明される中国による武器供与については、オフィシャルルートを通じたものは見つかりませんが、中ロ間のトレードを支える数々の迂回ルートを通じて供与が行われているのではないかと思われます。
その上、ワグネル経由でアフリカに持っていったロシア製の兵器を逆流させ、現在の対ウクライナ戦線に再投入しているという情報も、まだ確認が必要なものの、数多く入ってきています。
2023年2月24日にロシアがウクライナに侵攻した時点で言われていたロシアとウクライナの兵力量の比率は10対1という、ロシアが圧倒する状況でした。1年半の攻防とウクライナに対する欧米諸国からの支援の結果、その比率の差は縮まっていると言われていますが、米英の情報機関から時折観測気球的に出される「ロシアの弾薬量はもう底をつきかけているらしい」という内容を除けば、ロシアの物理的な優位はまだ変わっていないと思われます。
つまり、現時点で北朝鮮から表立って武器弾薬の供与を急ぐ必要には駆られていないと見ることが出来ますが、今後、そのような状況に陥る場合に備えた予備的な合意と言えるのかもしれません。
これに関して気になるのが、極東地域・シベリアへの北朝鮮労働者の入植を再開するという措置が合意されたらしいという情報です。
シベリア開発のためなのか?北朝鮮の外貨獲得のための措置としての許可なのか(ロシアンルーブルが金融制裁下に置かれている中、どこまでうまみがあるのかは不明ですが)?それとも、北朝鮮の軍が現時点では直接的に戦闘に巻き込まれることがないだろうとの見立てから、極東地域のミリタリーバランスを意図的に崩すための措置なのか?それとも全く別の理由なのか?
実際には見当もつかないのですが、何らかのサプライズが潜んでいるような気がしてなりません。
いろいろと憶測が飛ぶ事態ですが、2つはっきりしているのは、「反米陣営の拡大と協力の強化」という点と、それに関して「ロシア・北朝鮮が抱く“近くて遠い怖い国”中国への警戒心」での利害の一致と見ることができることです。
北朝鮮にとって中国は常につかず離れずの距離感で存在する“後ろ盾”ですが、いつ何時、見捨てられるかわからないという恐怖心に常に晒されていて、中国を引き付けておくため・繋ぎとめておくために、ロシアとの親密な関係を見せつけ、「あまり北朝鮮を放っておくとロシア側についちゃうよ」といったメッセージを暗に送り、中国からの継続的な支援と保護を確保しようという思惑が存在します。
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「G20首脳宣言」の各国合意を取り付けたしたたかなインド
ロシアにとっては、ここ最近、経済力では中国に凌駕され、中央アジア地域とシベリアにおける経済的な権益・インフラを次々と中国に奪われ、ロシアの裏庭に中国の勢力圏が広がっていることに危機感を抱いています。
シベリアの力というエネルギー協力のプロジェクトは、両国において友好の証として捉えられており、中国は安定的なエネルギーの調達、ロシアは中国マネーのロシアへの流入という利益を相互に得ることになっていますが、ここでの力関係が中国優位に働いていることに、プーチン大統領と政権幹部は決して良くは感じていないようです。
そこでかつて建国以来、軍事的にサポートし、旧ソ連時代から北朝鮮の核開発のスタートに関わってきたという実績を活かし、再度、北朝鮮の軍事力拡大の後ろ盾になる素振りを見せつけておくことで、中国に対してさまざまなメッセージを送るという目的が見え隠れします。
この際、今は対立構造にある米中関係が突如好転し、中国が反米陣営から離脱するか距離を置く事態になることを恐れ、対立構造を活かして反米陣営の結束の確保と中国をパートナーとして引き付けておくという思惑を見ることが出来ます。
これに応えるように中ロ間の外交も再度活発化し、近々、ラブロフ外相と王毅外相も会談を行い、早期のプーチン大統領の訪中の実現に向けた協議を行うようですし、北朝鮮フロントでは、近々ラブロフ外相を平壌に派遣し、今回...