上川外務大臣は、訪問先のニューヨークで、核実験を全面的に禁じるCTBT=包括的核実験禁止条約の発効を目指す各国の外相会合に出席し、北朝鮮による核実験の可能性もある中、発効は国際社会の喫緊の課題だと訴えました。
9月13日、支持率上昇を期待し内閣改造・党役員人事を行った岸田首相。その効果は得られなかったと言っても過言ではありませんが、見るべきポイントは多々あったようです。政治学者で立命館大学政策科学部教授の上久保誠人さんは今回、「岸田人事」の複数の注目点を挙げ各々について詳しく解説。さらに選対委員長に抜擢された小渕優子氏が日本初の女性首相を目指すべき理由を詳説しています。
プロフィール:上久保誠人(かみくぼ・まさと)立命館大学政策科学部教授。1968年愛媛県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、伊藤忠商事勤務を経て、英国ウォーリック大学大学院政治・国際学研究科博士課程修了。Ph.D(政治学・国際学、ウォーリック大学)。主な業績は、『逆説の地政学』(晃洋書房)。
支持率ダダ下がりの岸田政権「付け焼き刃の内閣改造」を斬る
岸田文雄首相は、内閣改造・党役員人事を断行した。党役員には、麻生太郎副総裁、茂木敏充幹事長、萩生田光一政調会長が留任。総務会長に森山裕選挙対策委員長が、選対委員長に小渕優子組織運動本部長が起用された。内閣人事では、松野博一官房長官、鈴木俊一財務相、西村康稔・経済産業相、河野太郎デジタル相、高市早苗経済安全保障担当相が留任した。また、経験豊富なベテランの新藤義孝・元総務相が経済再生相に起用された。連立を組む公明党からは、斉藤鉄夫国交相が続投となった。
岸田首相は、重要閣僚、党幹部
...moreを派閥の会長や幹部で固めた。政権の基盤を安定させることを重視している。異次元の少子化対策、物価高対策など経済政策、そして防衛費の大幅増など歯止めのない歳出拡大の中での難しい財政運営、東京電力福島第一原発の処理水放出の対応、マイナンバー制度のトラブルを受けての「総点検」、経済安全保障体制の確立など、難しい舵取りを求められる懸案に、継続性や経験値を重視した人事を行ったのだ。
だが、各種世論調査で内閣支持率は横ばいか下落。不支持率は60%を超えている。人事の「刷新」による政権の浮揚効果は限定的だ。今回は、岸田人事が示す日本政治の現状と、今後の展望を考察したい。
私の考えだが、人事を安定させるための鉄則の1つは「敵は内側に、味方は外側に」配置することだと思う。自民党に当てはめれば、「敵は閣内に、味方は党に」ということになる。
例えば、小泉純一郎内閣時、ポスト小泉を狙い、郵政民営化に反対の麻生太郎氏を、その担当の総務相に起用し、「イエスマン」と呼ばれて首相に絶対の忠誠を誓った武部勤氏を幹事長に起用した。その武部氏も、小泉内閣発足時は構造改革に反対だった。首相が農相に一本釣りして重用して「イエスマン」に変えたのだ。
一方、第一次安倍晋三内閣は、官房長官に塩崎恭久氏、首相補佐官に世耕弘成氏、小池百合子氏、根本匠氏ら首相側近を起用し「お友達内閣」と呼ばれた。だが、族議員の大物などを閣外に置いた布陣は混乱を生み、内閣はわずか365日で瓦解した。
この反省から、第二次安倍政権では、潜在的に首相の座を争う最も強力な政敵だった麻生太郎元首相を副総理・財務相に起用し、最側近として重用した。それは、安倍政権が憲政史上最長の長期政権を築けた要因の1つとなった。
茂木敏充にはかけられなかった「財務相の呪い」
今回の岸田人事はどうか。まず、留任となった茂木幹事長だ。幹事長の続投は、人事の日程が迫ってきてもなかなか決まらなかった。首相に対抗しうる強大な権力を持つ幹事長に、「ポスト岸田」の有力候補である茂木氏を続投させることのリスクを、首相が自覚し、悩み続けたのだという。
実際、茂木氏は「ポスト岸田」への意欲を隠さない。岸田首相が打ち出した「異次元の少子化対策」について、茂木氏は児童手当の所得制限撤廃に踏み込む発言をした。また、8月に打ち出した経済対策で、首相が言及していない補正予算編成の考えを示した。いずれも、首相から主導権を奪おうとしたといわれても仕方がない言動だ。今後も、茂木氏の勝手な振る舞いが続けば、政権の基盤を揺るがすことになりかねない。
一方、茂木氏を財務相に起用するという案があった。将来の政敵になり得る者を閣内に取り込むという意味で有効な策だ。だが、それだけではない。財務相は、首相を狙う政治家にとって「鬼門」のポジションだからだ。
自民党で、財務相(および旧蔵相)から直接首相になった政治家は、戦後一人もいない。財務相は、常に族議員やその背後の業界からの予算獲得の圧力と、財政再建という難しい課題の間で板挟みとなる。そして、国民から不人気の増税を検討することになる。次期首相候補としての支持を失ってしまうのだ。
ただし、民主党政権の財務相、菅直人氏、野田佳彦氏は財務相から直接首相に就任した。それは、財源の確保に失敗して財政が悪化し、マニフェストの政策を撤回し、公約にない消費増税に取り組まねばならない混乱の中で財務相が首相に就任した例外的事例といえる。実際、菅、野田両氏は、どちらも消費増税が命取りになり短命政権に終わっている。要するに、財務相は政治生命を削る、難しい仕事だということだ。
今年8月末に各省庁の概算要求が締め切られた。その総額は約114兆円と過去最大を更新した。財政の膨張に歯止めがかからない状況だ。その一方で、岸田内閣は今年の「骨太の方針」に「歳出構造を平時に戻していく」と明記した。現状と真逆ともいえる方針を示しているのだ。
毎年1兆円ずつ増加するとされる社会保障関連予算や、国債の元利払いなど構造的な歳出増に加えて、異次元の少子化対策、物価高への対応、行政のデジタル化をはじめ幅広い分野で、予算が増加している。さらに、5年間で2倍近くに増やす方針の防衛費の増加がある。
コロナ禍で、さまざまな救済策が打たれて以降、財政のタガが外れてしまった。20年度以降、新規国債の発行は年50兆-100兆円に膨張した。その残高も1000兆円を超えた。歳出増の圧力は増える一方で、それを抑えることは政治的に困難だ。そうなると、増税で国民に負担させるしかなくなる。
茂木氏が財務相になれば、間違いなく国民からの批判に晒される。ポスト岸田としての支持も失ってしまうリスクが高い。岸田首相が茂木氏を内閣の運命と一蓮托生の存在に抑え込みたいならば、財務相起用は妙手だったかもしれないが、それはなかった。
麻生副総裁から岸田首相への進言があったという。岸田内閣は、第2-4派閥の領袖である麻生氏、茂木氏、首相の「三頭政治」によって、政権運営の方向性を決めてきた。政権基盤の安定には、その枠組みを維持したほうがいいという進言だ。
加えて、麻生副総裁が、財務省への強力な影響力を失いたくなかった。鈴木俊一財務相は、副総理の義弟だ。副総理は財務相在任3205日で戦後最長を誇る。鈴木財務相はお飾りで、麻生副総理が実質的な財務相にみえる。茂木氏に譲りたくなかったのではないだろうか。
要するに、岸田首相は政権基盤の安定を優先させて、茂木幹事長を留任させた。だが、自民党の人事の鉄則「政敵は閣内に、味方は党に」に反している。今後も、茂木幹事長が首相の見せ場を奪うスタンドプレイを続けるようだと、政権基盤が不安定化しかねない。
旧統一教会と関係のあった議員を積極的に起用した意図
岸田内閣を支えてきた「三頭政治」は継続となった。党内最大派閥である「安倍派」はどうか。安倍元首相暗殺事件後、安倍派の会長ポストは不在となっている。結局、萩生田政務調査会長、世耕参議院幹事長、松野官房長官、西村経済産業大臣、高木毅国会対策委員長の「5人衆」を中心とする15人の合議制では派閥を運営する体制となった。100人を超える大派閥をまとめるには、誰もが「帯に短したすきに長し」で力量不足ということだ。
「政敵は閣内に、味方は党に」の鉄則からいえば、閣内と党に5人組をバランスよく配置した。安倍派の5人衆は、統率力は疑問だが、実務能力は高く評価されてきた政治家だ。敵同士がそれぞれ実務で業績を挙げることを競い合う形で、結果として岸田首相に求心力が向く。逆にいえば、安倍派内では遠心力が働き、まとまりを欠いていく仕掛けだ。安倍派は今後、分裂の可能性も含めて、少しずつ衰退していくだろう。
安倍派の5人衆の中で、特に注目されるのが、萩生田政調会長の留任だ。安倍元首相の側近として、政策実現のために汚れ役も厭わない腕力の強さで叩き上げた政治家だ。
今回の人事では、官房長官就任が検討されたようだ。だが、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との深い関係が厳しく批判されてきた。官房長官は連日記者会見がある。メディアから教団の問題を必ず追及されると懸念された。結局、政調会長への留任となった。
しかし、政調会長の留任も...
ロシアの侵攻を受けるウクライナのゼレンスキー大統領が19日、米ニューヨークで始まった国連総会の一般討論演説に登壇した。戦争が長期化する中、ゼレンスキー氏は加盟国に何を訴え、国際社会はそれにどう応えようとしているのか。