9月10日の米大統領選テレビ討論会で、トランプ前大統領による「移民たちが住民のペットを食べている」との事実に基づかない発言が物議を醸しました。この暴言同様、疾患者への偏見と差別による発言があったと憤るのは、生きづらさを抱える人たちの支援に取り組む引地達也さんです。今回のメルマガ『ジャーナリスティックなやさしい未来』では、トランプ氏の差別的な思想を受け入れてしまう人が、友好国である米国民の半数近くもいることを嘆きます。そのうえで、日本でも過去に同様の偏見が当事者たちを苦しめた歴史があることを振り返り、共生社会実現の歩みを止めてはならないとの思いを伝えています。
公開討論会で飛び出したトランプの「差別」発言。許されぬ根拠のない疾患者への差別と排除
米国大統領選に向けた民主党候補ハリス副大統領と共和党候補トランプ前大統領の初めての公開討論会で飛び出したトランプ氏の「精神病患者」に関する発言に、不快な思いをした人は少なくないだろう。
トランプ氏が短絡的に「疾患者」を迷惑な人と見なす、その根底にあるだろう価値観を強弁するのには慣れたような気がするが、それを受け入れている人がいることに悲しさを覚えてしまう。それが、同盟関係にあり、友好国である米国の国民の約半数が賛同しているか、もしくはトランプ氏を支持するあまりに、受け入れていることを考えると、切なくなる。
日米や先進国が同じ人権感覚をもとにし...moreた社会保障の考え方を共有し、国際社会は少しずつ障がい者や疾患者と共に生きる社会を描き、その行動を促し、そして実行してきたはず。米国を偉大な国にする公約に賛同するのはよいが、精神疾患者を除け者にする主張は受け入れてほしくないものだ。
トランプ氏の発言は、バイデン政権が「中流階級にとって、すべての階級にとって大惨事だった」と切り出した上で、こう続けた。
「刑務所や精神科系病院、病院から何百万人もの人々が私たちの国に流れ込んでいる。彼らは入ってきて、アフリカ系米国人やヒスパニック系、労働組合が占めている仕事を引き受けている。労働組合はすぐに影響を受けるだろう」 (This has been a disaster for people, for the middle class, but for every class. On top of that, we have millions of people pouring into our country from prisons and jails, from mental institutions and insane asylums.And they’re coming in and they’re taking jobs that are occupied right now by African Americans and Hispanics and also unions.Unions are going to be affected very soon.)
移民の流入を問題化するだけではなく、その移民が犯罪者や疾患者であり、それらの人々が米国人の仕事を奪うとの主張には、強い悪意がある。この討論会では移民がペットを食べている発言をめぐってのファクトチェック行われたが、疾患者に関する発言も、情報源は不明のままだ。
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移民への対応が現大統領の大失策だと強調したいトランプ氏はさらに「彼らは町を乗っ取っている。彼らは建物を占拠している。彼らは暴力的に入ってくる。彼女(ハリス氏)とバイデンがわが国に受け入れたのは、この人たちだ。彼らは私たちの国を破壊しているのだ」と畳みかける。
ここまで書くと、最後まで何を言ったかを伝えなければならないだろう。この話をトランプ氏はこうまとめた。
「彼らは危険だ。彼らは最高レベルの犯罪性を持っている。私たちは彼らを追い出さなければならない。私たちは彼らを早く追い出さなければならない」
危険な犯罪性のある人を追い出す、との論理は、偏見を助長し、対立と闘争を促進する。私たちは、そのような言動が繰り広げられた結果としての悲劇から排外主義政策は負の歴史として学んできたはずだが、米国ではまだ死んではいないようだ。
しかしながら、この発言を笑い飛ばすことも出来ない。それは私たちが辿ってきた道でもある。1964年、東京五輪の開催を控えた東京の在日米国大使館で、統合失調症の可能性がある青年にライシャワー米国大使が刃物で殺傷された事件では、メディアがこぞって疾患者を強制的に隔離する必要性を説き、治療よりも治安維持の風潮が先行した。
この出来事は、結果的に日本の精神疾患者の地域移行やインクルーシブ社会の遅れにつながったとも指摘される。共生社会を目指す現在は、トランプ氏の言動を受け入れる雰囲気は日本にはないと思いたい。
幸いなことに日本では、対岸の選挙であることもあり、生活に直結する話題に切迫感はなく、日本経済新聞社とテレビ東京の9月13~15日に実施した世論調査では、ハリス副大統領とトランプ前大統領のどちらが当選してほしいか聞いたところ、ハリス氏が71%、トランプ氏が19%だった。
ともあれ、今回の発言は、疾患や障がいに関する感覚は国際社会で共に作り上げていく途上にあることをも示しているのだろう。
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image by: Jonah Elkowitz / shutterstock.com
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