「カッコいい衣装が出たから、我慢できずに課金してしまった」――そんな攻略に必要ではない装飾品や見た目だけの装備に衝動的にお金を使ってしまい、キャラクターの強化や効率的な育成は後回し。
そして、現実のお金を使った「課金」が原因で、気がつけば生活費に影響を与え、後悔する。
そんなお金の使い方をする人を不思議に思う人は多いかも知れません。
ではこうした行動を取ってしまう人の背景には、どんな心理が隠れているのでしょうか?
トルコのカラビュク大学(KBU)で行われた研究によると、このような課金行動をしてしまう人は「人気を得たい」という欲求が原因になっているという。
さらに、社会的スキルが低い人ほど、こうした人気欲求に駆られて無計画なアイテム課金に走りやすいことも示されているそうです。
つまり、オンライン上で「認められたい」という気持ちが強くなると、つい後先考えずにお金を使ってしまうリスクが高まるというわけです。
本記事では、こうした研究結果をもとに、オンラインゲームにおける衝動買いの背景と、その背後にある心理的なメカニズムについて、分かりやすく探っていきます。
研究内容の詳細は2024年10月19日付けで科学雑誌『Computers in Human Behavior』に掲載されています。
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社会的スキルが低い人はゲーム内で衝動買いをしやすいゲームの衝動的な課金は「人気買い」でもあ
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社会的スキルが低い人はゲーム内で衝動買いをしやすい
社会的スキルが低い人はゲーム内で衝動買いをしやすい / Credit:DALL·E
衝動買いという行動は、消費者の行動としてこれまでたくさん研究されてきました。
現実の世界では、自己肯定感が低かったり、社会的不安が強かったりする心理的な要因が、衝動買いやブランド品への好みを強くすることが実証されています。
たとえば、自分に自信が持てない人が、ブランド品というはっきりとしたステータスを持つ商品を買うことで、心の中の空虚さを一時的に埋めようとする「補償的消費」が知られています。
例えば、社会的比較理論(Festinger, 1954)や自己決定理論(Deci & Ryan, 1985)では、他人と比べて不安を感じた時に、ブランド品や高いステータスの象徴を求める傾向があることが説明されています。
そして、こうした行動は、結果的に衝動買いにつながりやすいと考えられています。
一方で、最近急速に広まったオンラインゲームの世界では、現実のブランド品のような役割を果たす、希少なアイテムや目立つ装飾品がたくさん用意されています。
ゲーム内のレアアイテムや特別なアバター、期間限定のコスチュームなどは、まるで「ブランド品」のようなステータスシンボルの役割を果たしています。
さらに、現実世界での人間関係において自己肯定感が低かったり、コミュニケーションに不安を感じる人は、オンラインの世界では課金アイテムの購入を通じて「人気者になりたい」という心理が働きやすいことが指摘されています。
そのため、カラビュク大学の研究者たちは、オンラインゲームユーザーを対象に、競争心や人気を求める欲求、そして社会的能力(スキル)が、ゲーム内での衝動買いにどのような影響を与えるのかを調査しました。
調査は、DiscordやTwitchなどの活発なゲームコミュニティを通じて参加者を募り、234名を対象にオンラインアンケートを実施して行われました。
また、部分最小二乗構造方程式モデリング(PLS-SEM)という統計手法を使って、複数の要因がどのように関係しているかを同時に検証しました。
この手法により、「競争心が人気への欲求を高め、その結果としてゲーム内の衝動買いが起こる」というプロセスや、社会的スキルがその関係をどのように調整するかを明らかにすることができました。
結果として、競争心そのものが直接衝動買いを増やすわけではなく、むしろ競争心が強いプレイヤーほど「人気を得たい」という気持ちが高まり、その人気欲求が衝動買いの主な動機になっていることが示されました。
さらに、社会的スキルが低い場合には、この「人気を得たい」という欲求がさらに強く働き、衝動買いにつながりやすいことも明らかになりました。
これは、対人スキルが低い人ほど現実の場面で承認や評価を得にくく、その代わりにオンラインでアイテムを購入してでも人気者になろうとする傾向が強まるからだと考えられます。
ゲームの衝動的な課金は「人気買い」でもあった
社会的スキルが低い人はゲーム内で衝動買いをしやすい / Credit:clip studio . 川勝康弘
本研究の結果からは、競争心や「みんなに認められたい」という気持ちが、ゲームの衝動的な課金に直接影響を与えていることが分かりました。
多くのプレイヤーは「キャラクターを強く、魅力的に育てたい」「このアイテムがあればもっと楽しくなる」といった前向きな理由を持ちながらも、実際は「他の人に注目されたい」「みんなに褒められたい」という心理が買い物の決め手になっている可能性があります。
研究者たちは、論文の中で「プレイヤーは、人気者になったり人気を保ったりするために、特定のゲーム内コンテンツを購入する動機がある可能性があり、この行動は人と上手に交流できる能力(社会的能力)のレベルによって違ってくる」と指摘しています。
つまり、オンライン上で人気になりたいという気持ちが強ければ、アイテムの購入や課金をしやすくなり、悲しいことに社会的スキルが低い人はその衝動を抑えるのが難しくなるということです。
一方、社会的スキルが高い人は、人気を求めても、無計画にアイテムを買いすぎることは少ない傾向にあります。
社会的スキルがある人は、ゲーム内でのアイテムに頼らずに、人気を得ることができるのでしょう。
(※もしかしたら現実でもゲーム内でも人気に興味がないストイックな生き方をする人が最も能力が高くなるのかもしれません)
このような消費行動は、現実世界で高価なブランド品を買う「補償的消費」と似た現象と捉えられます。
たとえば、自己肯定感が低い人ほどブランド品を買って自分の価値を補おうとする現象があるように、オンラインゲームでも、他人との比較や認められたい気持ちがプレイヤーを衝動買いへと駆り立てているのです。
心理学の研究では「外部からの評価に頼りすぎると、本当に大切な自分の欲求や楽しみよりも、周りの評判を気にするようになる」と指摘されています。
では、私たちプレイヤーはどうすればこの衝動買いの輪から距離を置くことができるのでしょうか。
もし今度ゲームで課金するときには、一度立ち止まって、自分の本当の動機を考えてみるといいかもしれません。
例えば「この購入は本当にキャラクターを育てるためのものなのか?それとも、単に人気を得たい気持ちで買わされているのか?」と自問するだけでも、行動を変える助けになるでしょう。
全ての画像を見る元論文Linking gamers’ competitive spirit and in-game impulse purchase: The need for popularity as a mediator and social competence as a moderatorhttps://doi.org/10.1016/j.chb.2024.108479ライター川勝康弘: ナゾロジー副編集長。
大学で研究生活を送ること10年と少し。
小説家としての活動履歴あり。
専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。
日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。
夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。編集者ナゾロジー 編集部...
私が見ている赤は、他人にも同じような赤として認識されているのか?
私が赤と認識しているものは、別の人にとっては青である可能性はあるのか?
これらは誰もが人生で一度は考える疑問だと言われており、古代から哲学者たちの頭を悩ませてきました。
個々の人が持つ主観的な感覚体験のことを「クオリア」と呼びますが、自分のクオリアと他人のクオリアが同じであるかどうかを証明することは困難だからです。
しかし米国のジョンズ・ホプキンス大学(JHU)で行われた研究により、私たちの網膜に存在する色覚細胞がどのような仕組みで生成されるか、またどんな比率で存在するかが確かめられ、この長年の哲学的疑問の答えとなり得る結果が得られました。
研究者たちは「正常な色覚を持つ人たちの間でも、同じリンゴに対して色が少し違って見える可能性がある」と述べています。
今回はまず実験の背景を解説しつつ、次ページ以降でクオリアに関連する発見を紹介したいと思います。
研究内容の詳細は2024年1月11日に『PLOS BIOLOGY』にて公開されました。
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人類の視覚は動物の中でも最高クラス「赤のクオリア」私とあなたの赤は違う可能性が高い
人類の視覚は動物の中でも最高クラス
あまり知られていませんが、人間は動物界でも最高レベルの視覚を有しています。
約600種の昆虫、鳥、哺乳類、魚、その他の動物の視力を比較した2018年の研究
...moreでは人間の視力が外れ値と言えるほど高い値であることが示されています。
人間の視力は猫の7倍、ネズミや金魚の40~60倍、ハエや蚊の数百倍に及んでいます。
さらに人間は色覚においてほとんどの哺乳類よりも優れており、何百万色もの色を見分けることが可能です。
「私の赤」と「あなたの赤」は違う可能性が高い 色覚細胞の研究から意外な発見 / Credit:安間眼科 . 色覚特性の異常(色覚多様性)とは?
この優れた色覚能力は青(S錐体)・緑(M錐体)・赤(L錐体)を感知する3種類の色覚細胞によってもたらされています。
それぞれの色覚細胞には得意とする色の波長があり、それぞれの反応の強さのミックスによって私たちの脳は多様な色を認識することになります。
一方、イヌの場合には、青と黄色の2種類の色覚細胞しか存在しないため赤と緑を正確に認識することはできません。
またこれまでの研究により、3種類の色覚は、元々1種類だった色覚遺伝子が変異によって重複し、それぞれが異なる青・緑・赤に反応するように進化したことが示されています。
このように、色覚については多くの研究がなされており、生物学の教科書にも多くの記述がみられます。
しかし意外なことに、緑を担当するM錐体と赤を担当するL錐体がどのようなメカニズムで決定されるかといった、基本的な事実は未解明のままでした。
さらにそれぞれの錐体で色を検知するタンパク質(オプシン)の構造やmRNAの構造が非常に良く似ているため、M錐体とL錐体をこれらの要素から区別することも技術的に困難となっていました。
そこで今回ジョンズ・ホプキンス大学の研究者たちは、Mオプシン(緑担当)のmRNAとLオプシン(赤担当)のmRNAを視覚的に区別できる技術を開発し、M錐体とL錐体がどのようなメカニズムで生成されるかを調べることにしました。
「私の赤」と「あなたの赤」は違う可能性が高い 色覚細胞の研究から意外な発見 / Credit:Sarah E. Hadyniak et al . Retinoic acid signaling regulates spatiotemporal specification of human green and red cones . PLOS BIOLOGY (2024)
調査にあたってはまず網膜のオルガノイドが作成されました。
オルガノイドとは幹細胞を分化させることで、試験管内部で作られたミニチュアの臓器のことです。
たとえば脳オルガノイドの場合、幹細胞を変化させることで、人間の脳を模倣するミニチュア脳を人工的に培養します。
「目がある人工脳」を作り出すことに成功、視神経もあり光を検知
ただこの網膜オルガノイドはまだ未熟であり、色覚細胞(錐体細胞)は十分に育っていません。
そこで研究者たちはこの網膜オルガノイドがどんな刺激によってM錐体(緑)とL錐体(赤)が生成されるかを調べました。
結果、網膜では先にM錐体が生成されて、その後にL錐体が生成されることが判明。
発生過程は進化を再現するという法則が当てはまるならば、私たちの先祖は赤より緑を先に検知するようになったと考えられます。
さらに60日目までにビタミンAの誘導体(ビタミンA由来)として知られるレチノイン酸と呼ばれる化合物が加わると、M錐体の生成が促進され、L錐体の生成が抑制されることが示されました。
これまで緑担当のM錐体とL錐体はランダムに決定されると考えられていましたが、実際にはレチノイン酸によって比率が制御されていたのです。
(※ランダムの場合、M錐体とL錐体の数はおおむね半々となり個人差も少なくなると考えられます。)
しかしランダムでない場合、M錐体とL錐体の比率は個人によって大きくバラつく可能性があります。
もし個人間でM錐体とL錐体の比率が10倍以上違うといったことが起こる場合、同じ色を見ていても、個人間で脳に伝達される緑と赤の刺激も大きく異なる…つまり「私の赤」と「あなたの赤」が違う色になる可能性がでてきます。
「赤のクオリア」私とあなたの赤は違う可能性が高い
「私の赤」と「あなたの赤」は違うのか?
謎を解明するため研究者たちは、正常な色覚を持つとされている成人男性738人の網膜に対して錐体細胞の比率を網膜電図で測定しました。
(※網膜を含む眼球は死後に提供されたものを使用しました。また男性で調査したのは錐体細胞の色覚遺伝子がX染色体上にあるため、女性だと2種類のX染色体を調べる必要があるぶん複雑になるからです)
「私の赤」と「あなたの赤」は違う可能性が高い 色覚細胞の研究から意外な発見 / Credit:Sarah E. Hadyniak et al . Retinoic acid signaling regulates spatiotemporal specification of human green and red cones . PLOS BIOLOGY (2024)
結果、上のグラフの示すようにM錐体に対するL錐体の割合は平均で59.1%となったものの、個人間でもバラツキが非常に大きいことが判明します。
実際、最も比率が低い個人と最も大きい個人の間では、L錐体の比率は5倍以上も差がありました。
(※正規化されると100%を超える値がいくつか出てくるものの、直感的にバラツキの大きさを感じられるグラフです。)
赤を検知するL錐体の比率がここまで大きい場合、脳に届けられる赤の信号が個人間で大きく異なり、同じ赤いリンゴを見ても、赤さの見え方が異なってくる可能性があります。
またバラツキの原因となる遺伝子を調査したところ、レチノイン酸による信号の仲介役となるNR2F2遺伝子のバリエーションに関連していることが示されました。
このことは同じ遺伝子を引いている家族同士ならば比較的「同じ赤」である可能性が高いことを示します。
研究者たちも「正常な視力を持つ人たちも、お互い僅かに異なる色を見ることになる」とし、バラツキにかんしては「もし同じバラツキが腕の長さを決める遺伝子に起きていたら長さの違いに驚くだろう」と述べました。
M錐体とL錐体の生成されるメカニズムを調べる研究から、L錐体の比率の個人差が発見され、長年にわたるクオリアの問題に新たな見解が加わったのは興味深いと言えます。
研究者たちは錐体の生成メカニズムを調べることで将来的に、視覚異常や色覚異常の問題を抱える人々を助けられるだろうと述べています。
全ての画像を見る参考文献LAB-GROWN RETINAS EXPLAIN WHY PEOPLE SEE COLORS DOGS CAN’Thttps://hub.jhu.edu/2024/01/11/retina-organoids/元論文Retinoic acid signaling regulates spatiotemporal specification of human green and red coneshttps://journals.plos.org/plosbiology/article?id=10.1371/journal.pbio.3002464ライタ...
世間で話題沸騰のアニメや映画について、「あんまり流行ってると逆に見たくない」という感覚を抱くことは珍しくはないでしょう。
また、多くの人が絶賛する社会的なブームに対して、自分だけはあえて批判的な態度を取りたくなったという経験も、覚えがあるかもしれません。
素直に楽しめばいいのに、なぜか斜に構えてしまう心理は、一見すると単なる「へそ曲がり」や「冷笑的」な態度に見えますが、心理学的な視点で見ると、そこには「人にコントロールされたくない」「自分らしさを保ちたい」といった、人間に普遍的な動機が潜んでいます。
それは単に流行を嫌っているのではなく、巨大なブームとの距離感を調整することで、「自分の輪郭や価値」を守ろうとする防衛的な心理です。
本記事では、ドイツのマインツ大学(Johannes Gutenberg University Mainz)の社会心理学者ローランド・イムホフ(Roland Imhoff)博士による「ユニークさの欲求」に関する実証研究や、アメリカの社会心理学者マリリン・ブリュワー(Marilynn Brewer)博士が提唱した「最適弁別性理論」などを手がかりに、流行に背を向ける人々の心理を紐解いていきます。
ここからは、人気のものにアンチ活動を始めたり、人気のものを否定するために陰謀論めいた理屈を唱えだす人たちの心理も見えてきます。
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批評家ぶってしまう心理の理由
...more「みんなと同じ安心感」と「自分だけ特別」の最適点を探している
批評家ぶってしまう心理の理由
なぜ、人は素直に流行を楽しむのではなく、あえて「自分は興味がない」「あんなもののどこが良いのか」と批判的な立場を取りたがるのでしょうか?
その一因として、私たちの中で働きやすいと考えられるのが「ユニークさの欲求(Need for Uniqueness)」と呼ばれるものです。
これは、アメリカの心理学者C.R.スナイダー(C. R. Snyder)とハワード・フロムキン(Howard L. Fromkin)によって提唱された概念で、「他者と適度に異なっていたい」という根本的な欲求を指します。
彼らの研究によれば、人間は他人と自分が「そっくりだ」と感じるとき、不快感を抱くことがあるのだといいます。
自分と同じ服、同じ髪型、同じ意見の人間が目の前に現れたとき、私たちは「親近感」よりもむしろ、「自分という存在の独自性が脅かされた」という不安を感じるのです。
猫も杓子も同じ作品を見て、似たような感想を言い合う状況だと自分の感性や意見の独自性が保ちにくくなります。
そこでアイデンティティを取り戻すための手っ取り早い方法が「みんなが右を向いているときに、あえて左を向くこと」になるのです。
この心理メカニズムについて、興味深い実証研究があります。
ドイツのマインツ大学の社会心理学者、ローランド・イムホフ(Roland Imhoff)博士らが2017年に発表した研究では、一般的に信じられていない「陰謀論」を支持する人々と、この「ユニークさの欲求」の関連が調査されました。
その結果、ユニークさの欲求が高い人ほど、定説(マジョリティの意見)を否定し、少数の人しか知らない情報を信じる傾向が強いことが示されたのです。
イムホフ博士は、彼らが陰謀論を信じる動機について、純粋に真実を求めているというより、「多くの人が気づいていない“隠された真実”を知っている自分は、特別でユニークな存在だ」という感覚を得るためではないかと分析しています。
もちろん、「流行の否定」と「陰謀論」は異なる現象ですが、ここにはどちらも「多数派の考えから距離を置き、自分独自の視点を示したい」という心理メカニズムが共通して隠れているように見えます。
「この人気は不自然だ」みたいな意見を聞くことがあるのも、「流行の拒否」と「陰謀論」にはどちらも多数派を否定する似た性質があるからかもしれません。
流行への反発が強まると、根拠の薄い理屈でも「自分の立場を支えてくれる情報」に見えてしまうことがあるのでしょう。
そしてもう一つ重要なのが、自律性という心理的欲求です。
私たちは誰しも、「自分の行動は自分で決めたい」「誰かに指図されたくない」という「自律性(Autonomy)」の欲求を持っています。
通常、私たちは好きなコンテンツを自分の意思で選んでいるつもりです。しかし、「社会現象」と呼ばれるほど巨大なブームが起きると、状況は一変します。
テレビをつけても、SNSを開いてもその話題ばかりになると、まるで「それを見ることを社会全体から強制されている」ような、目に見えない圧力を感じることがあるのです。
このように、外部からの圧力によって自由が脅かされたと感じたとき、反発しようとする心の働きを、心理学では「心理的リアクタンス(Psychological Reactance)」と呼びます。
普通なら「そんなに話題なら見てみようかな」となるところを、自律性の欲求が強い人は「自分の自由意志の危機だ」と感じて強い反発を起こすのかもしれません。
この理論に基づけば、へそ曲がりに見える「流行りのものをあえて見ない・買わない」という行動の正体が見えてきます。
それは、流行に流されず、「自分の行動は自分で決めたい」という自律性を回復するための、心の防衛反応なのかもしれません。
「みんなと同じ安心感」と「自分だけ特別」の最適点を探している
流行を拒絶するということは、多くの人との共通の話題を捨てることであり、孤立を招くおそれがあります。
しかし人間には他者とのつながりを求める「関係性(Relatedness)」という心理的欲求があり、多くの人は自律性やユニークさの欲求より、こちらの欲求が大きいので「そんなに話題ならちょっと見てみるか」となります。
では、流行を拒絶する人というのは、孤立をおそれず関係性の欲求がない人たちなのでしょうか?
実はそういうわけではありません。ここには、人間関係における非常に興味深いパラドックス(逆説)が存在します。
私たちは「仲間外れになりたくない」と願う一方で、「その他大勢の中に埋没して、自分らしさを失いたくない」とも強く願っているのです。
この相反する欲求のバランスを説明するのが、アメリカの社会心理学者マリリン・ブリュワー(Marilynn Brewer)博士が提唱した「最適弁別性理論(Optimal Distinctiveness Theory)」です。
ブリュワー博士は、人が社会集団に所属する際、「同化(みんなと同じ安心感)」と「差別化(自分だけの特別感)」の両方が満たされる、ちょうどいい湯加減のような場所(最適点)を探し続けていると論じました。
この理論を「流行」に当てはめてみましょう。
世界的な大ヒット作品などの「巨大すぎる流行」の輪に入ることは、数千万人規模の集団に「同化」することを意味します。 そこでは「みんなと一緒」という安心感は得られますが、集団があまりに巨大すぎるため、自分が「その他大勢」の一部になってしまい、「差別化(自分たちの特別感)」が満たされません。
逆に、たった一人で孤立してしまうと、差別化は極端に高まりますが、「同化」が満たされず不安になります。
そこで、彼らが選びやすい落としどころの一つが、「アンチ派閥」や「マイナー愛好家」という『適度なサイズの少数派グループ』に所属することなのです。
「みんなが知らないマイナーな作品」を推したり、「流行りの作品をあえて批判する」という立場を取ったりすることは、社会心理学の視点で見れば、「巨大すぎるチーム(大衆)」から脱退し、「選ばれた少数のチーム(通な人たち)」に移籍する行為だと言えます。
この「少数派チーム」の中であれば、大衆とは違うという「差別化」を満たしつつ、同じ価値観を共有する仲間との連帯感(同化)も同時に得ることができます。
つまり、彼らは決して孤独になりたいわけではありません。
「大衆」に埋没するのを避け、「居心地の良いサイズの集団」に所属し直そうとしているのです。
多くの人は流行りのものに対して、ぼんやりとではあっても嫌悪感や、抵抗を感じていると思います。その背景にはこのような人間の基本的心理欲求が隠れていると考えられます。
もちろん物事の感じ方は人それぞれなので、流行に乗れなかったとしても何もおかしなことはありません。
しかし、ここで述べたような欲求が強すぎる人たちは、無自覚なまま過激なアンチ活動に走ってしまうおそれもあるので注意が必要です。
ただこうした心理メカニズムを理解すると、流行に背を向ける人たちの態度も、自分の居場所を探す人間らしい行動として映るようになるかもしれません...
同じ顧客とのインタラクションが増えるほど理解が深まり、顧客の満足度を高めてサービスの競争力も高まる経済メカニズムが現れている。
物質・材料研究機構(NIMS)の佐久間 芳樹 NIMS特別研究員と東京大学大学院工学系研究科マテリアル工学専攻の長汐 晃輔 教授らの研究グループは、名古屋大学、筑波大学、東京エレクトロン テクノロジーソリューションズ(株)との共同研究により、有機金属化学気相成長法(MOCVD)を用いた単層膜厚の二硫化モリブデン(MoS2)の成長に関して、サファイア基板上でのMoS2結晶粒の自己整合的な合体と成長膜厚の自己停止という2つの重要な成膜メカニズムを発見しました。