ウクライナ東部ハリコフ州のハリコフ市で5日、ロシアのミサイル攻撃で大学施設などが破壊され、5人が負傷した。地元メディアが伝えた。一方、東部ドネツク州の激戦地バフムトなどでロシア軍の攻勢が続いた。
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻により、一気に崩れてしまった国際社会の均衡。世界はこの先、どちらに向かって進むのが正答で、そのために私たちはどのような行動を取るべきなのでしょうか。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では元国連紛争調停官の島田さんが、現在我々が直面している問題を改めて整理し各々について解説。その上で、今後各国が遵守していく新ルールと秩序の「あるべき姿」について考察しています。
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綻びが進む国際秩序‐ウクライナ戦争の泥沼化と世界の不安定化
「ロシア政府内でもプーチン大統領の方針とロシア軍の体たらくに対する非難が顕在化してきた」と報じる欧米メディア。
「ロシアからの攻撃は相変わらず衰えることを知らないが、ドローン兵器による攻撃などは悉く撃ち落とした」と主張を繰り返すウクライナ政府。
「プーチン大統領によるウクライナ侵攻は世界にショックを与えたが、ロシアは結果的に失敗することになる」という論評。
「この戦争は長期化の様相を呈してきた。両リーダーが和平に向けた動きを取っている兆しは見られない。ロシアの企てが通用しないことを示すために、NATOはさらなる軍事支援をウクライナに提供する」という来日中のストルテンベルグNATO事務局長の言葉。
ウクライナでの戦争(ロシアによるウクラ
...moreイナ侵攻)の現状および見通しについて、いろいろな発言がありますが、皆さんはこれらの発言をどれだけ信用しているでしょうか?
「IT技術が発展し、まさに事が起こると同時に動画で世界に配信できるようになった今、情報をでっちあげることはできないだろう」というご指摘を今でも耳にすることが多々ありますが、実際には“今でも”戦時に提供される“当事者”からの情報の多くは、大本営発表的な性格のものであり、自身が優位に立っているようなイメージを創り出すか、さらなる支援を得るための材料として負の部分が強調され、cry for help的な形式で使われており、実情は伝えていないと言えます。
ロシア軍は思いのほか、ウクライナ軍に押し返されていて苦戦していますが、武器弾薬の量、動員できる兵士の数、そして戦略的な武器の種類と攻撃能力においてはまだまだ余力を残している上に、イランや中国などからの支援も受けていて、まだまだ戦闘執行能力は高いと言われています。
欧米諸国・NATOからの軍事支援が予定通りにウクライナに供与されているという前提でいうと、ウクライナの戦力は質が量を上回る傾向になってきていますが、それが本格的に作動して、ロシアを苦しめると予想されるのは、まだ数か月先のことです。もし、予定通りに、約束通りに供与されるのならば。
ロシア軍によるウクライナの民間施設・生活インフラ、そして補給路に対する集中的な攻撃は、ウクライナ国民の生存を脅かし、確実に戦意を削ごうとする戦略が見え、それによってリーダーシップへの反感を煽るように仕向けられています。
攻撃は確実にウクライナの力を削いでいますが、ウクライナ軍による反転攻勢はウクライナ国民と政府に勇気を与えているため、まだゼレンスキー大統領とその周辺への反感は高まってはいないようです。
このような状況下で見えてくるのは、ロシアもウクライナも多大な犠牲を払いながらも、まだ自分たちは負けてはおらず、和平プロセスについて話し合う段階ではないという思惑です。
プーチン大統領も、ゼレンスキー大統領も、和平について口にするものの、常に強調されるのは「私が出した条件に沿う内容であれば」というBig Ifであるため、実際には「話し合うことはない」というメッセージになってしまいます。
つまり戦争はまだまだ続くという見込みが立ってしまいます。
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戦争の長期化は確実に支援疲れを起こし、戦争への非当事者による関心の薄れが顕著になり、各国民の関心事は「自分の生活の改善」といった内政に向き始めることで、ウクライナを世界が見捨てざるを得ない状況を作ってしまうかもしれません。
それを引き留めるためにストルテンベルグ事務局長の発言のように欧米による支援の強化と維持が必要という内容が繰り返されるのでしょう。
しかし、今月24日には開戦から1年を迎えることになってしまう“ロシアによるウクライナへの侵攻”は、確実に国際秩序を変えてしまい、国際協調の下に成り立っていた世界は崩壊したと言えます。
それは「領土の不可侵」、「法の支配」、「航行の自由」、「自由貿易」、そして「恐怖からの自由」といった国際社会が長年にわたり相互に遵守し、尊重してきた国際ルールを踏みにじり、代わりに世界の分断と混乱を鮮明化し、相互不信を高めたと考えます。
シリアでの内戦は継続していますし、イエメンも泥沼の内戦状態です。これらの内戦に対する国際社会の関心は薄れ、調停努力も進んでいません。
さらにはミャンマー国軍によるクーデターで、民主化の試みが砕かれたと思われるミャンマーも、クーデターから2年経った今も、国軍はまだ人心を掌握できておらず、民主派グループの武装勢力(PDF)による反転攻勢に直面して、各地で戦闘が繰り返されて治安状態は悪化の一途を辿っています。
結果として国民には強いAnti国軍感情が生まれ、経済活動もままならない中、欧米諸国の企業が早々と撤退した中、我慢強く操業を続けてきた日系の企業もついに撤退を決断しなくてはならない事態になっています。
そしてミャンマー国軍にとって重要な後ろ盾だったロシアは今、ウクライナでの戦争に忙殺されており、ミャンマーへのコミットメントは大きく低下しています。中国については、“隣国”という地政学的な位置づけもあり、ミャンマーの安定は大事なマターではあるものの、その安定の担い手は誰でもよく、あまり国際社会からの風当たりを強くしたくない習近平指導部は、あまり露骨なコミットメントを控えるようになってきています。
結果として経済は低迷し、雇用も失われる中、ミャンマーは再び忘れられた国となってしまい、困窮を極めるという悲劇を生んでいます。
UNによる調停も不発ですし、ASEANからも見捨てられた感が強い中、ミャンマーは行き先を失っているように見えます。
こじつけかもしれませんが、ロシアによるウクライナ侵攻が生んだ国際分断の被害者と言えるかもしれません。
以前、このコーナーでも取り上げたエチオピアにおけるティグレイ紛争も、最近はあまり報じられなくなったので解決したのかと思われがちですが、実際にはまだ継続しており、首都アジスアベバはかろうじて平静を保っていると言われていますが、多民族・多宗教国家でもある性格上、ティグレイ紛争を機に、国内のintegrityにほころびが出てきています。
ロシアによるウクライナ侵攻が起きるまでは、国連安全保障理事会でも特別会合を開いて取り上げるほどの注目度でしたが、その国連安保理が真っ二つに割れて機能不全を起こしている今、エチオピアで起きている悲劇と、その影響が飛び火して不安定化してくる東アフリカの懸念にコミットする余裕がなくなっています。
そして北東アジアでは北朝鮮による威嚇がエスカレーション傾向にあり、核の脅威は高まっていると思われますが、こちらについても今、口頭での非難や懸念の表明はあっても、実質的な措置を取るための基盤が存在しない状況になっています。つまり北朝鮮のやりたい放題になりかねない事態です。
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そしてイラン絡みの緊張は今、広域アジア地域に新しい戦争の火種を作っているように見えます。
以前から懸念されている核開発問題にかかる分断はもちろんですが、ウクライナでの戦争の裏で、イスラエルとイランの間の緊張がこれまでになく高まっているようです。
未確認情報ではありますが、今週、イランの複数都市の軍事施設がミサイル攻撃を受けたと伝えられましたが、規模と精度から見て恐らくイスラエル軍による攻撃と思われるようです。イスラエル政府は肯定も否定もしていないようですが、イランは確実にイスラエルへの報復攻撃を準備しているようで、そうなった場合は報復攻撃の応酬に繋がり、その戦争が一気にアラビア半島全体に飛び火することになりそうです。
このようなシナリオが実現してしまった場合、国際社会はウクライナ・ロシアと広域アジア両面で起こる戦争に対応しなくてはならず、ここに噂の台湾情勢が絡んでしまった暁には、冗談ではなく世界第3次大戦に繋がりかねません。
イラクやアフガニスタンでの大失敗を経験するまでは...
ウクライナ戦争が新たな局面に入ろうとしている。1月下旬、米国、ドイツ、ポーランド、オランダなどが主力戦車をウクライナに提供することを決定した。ロシアは激しく反発している。準備や訓練の期間があるので戦車が実際に供与されるのは2、3カ月後になるだろうが、ロシアがミサイル攻撃を激化させることになるの...