人間の中にはどんなに合理的な証拠を並べても、信念を変えない人がいます。
しかしオランダのユトレヒト大学(UU)とアメリカのカリフォルニア大学バークレー校(UC Berkeley)などの共同研究により、チンパンジーですら強い証拠を示されれば初期の選択(初期信念)を覆し、自らの選択を合理的に変えることができることが示されました。
研究ではチンパンジーに対していくつかの証拠が提示されましたが、チンパンジーは証拠の強弱に応じて選択を更新しました。
さらにこれまでアテにしていた証拠が弱められたとき、頼るべき証拠を素早く切り替える能力も示されました。
これは自らの脳内で浮かんだ考えを比較してどちらが正しいかを判断する高度な客観的な認知がチンパンジーにも存在することを示唆します。
このような新たな証拠で信念を変更する能力は、進化のどの段階で出現したのでしょうか?
研究内容の詳細は2025年10月30日に『Science』にて発表されました。
目次
自分の中の思考を客観的に比較する能力は人間だけのものか?チンパンジーは「証拠の価値」の変化すら察し信念を変更できるダーウィンの予言通り? チンパンジーが示す人間的理性の原型なぜチンパンジーにできることをできない人間がいるのか?
自分の中の思考を客観的に比較する能力は人間だけのものか?
Credit:Canva
証拠に基づいて信念を改める柔軟さは、
...more 従来「人間的な理性の証」と考えられてきました。
例えば怪しげな物音を聞いて幽霊かと疑っても、新たに人影が見えれば「ただの人間だった」と考え直す──こうした信念の更新は高度な知的能力の現れだというわけです。
人間以外の動物は、目先の刺激に反応したり学習結果を活かすことはできても、証拠の強弱を比較検討して信念を更新することは十分に検証されてきませんでした。
たとえばこれまでの研究でも、チンパンジーを含む大型類人猿が単独の手がかりから推論する知恵(足跡や物音からエサの場所を当てる等)は知られていました。
チンパンジーは、箱の周りに残ったエサの痕跡(残りカス)から中身の在処を推理したり、見かけに惑わされず現実を見抜いたり、矛盾する情報に直面すれば自分で追加の手がかりを探しに行くことも知られています。
チンパンジーたちの観察、推測、学習の能力はしばしば私たちを驚かせるレベルに達します。
しかし、証拠の強さを“天秤にかけて”比較し、必要に応じて自分の思い込み(信念)を修正するというような高度な能力がチンパンジーに備わっているかどうかは、これまで明らかになっていませんでした。
証拠を比較し信念を修正するには、自分自身の脳内で行われる思考を、まるで外部から見比べるように客観視する「メタ認知」という高レベルな機能の関与が示唆されます。
そこで今回研究者たちは、ウガンダの島にあるチンパンジー保護区で一連の実験を行い、チンパンジーにもこの力があるのか調べることにしました。
チンパンジーは「証拠の価値」の変化すら察し信念を変更できる
チンパンジーは「証拠の価値」の変化すら察し信念を変更できる / Credit:Canva
今回の実験では、チンパンジーたちに「2つの箱からエサが入った方を当てる」という宝探しゲームが与えられました。まず2つの箱のどちらかにエサを隠し、ヒントを1つだけ示して、チンパンジーに箱を選ばせます。
その後、エサの位置を示すヒントとして、弱い証拠➔強い証拠の順で与えました。
例えば、最初は箱を軽く振って音を聞かせる(聴覚の手がかり:中に木片が入っている音)程度に留め、次に別の箱の窓から直接中を覗かせてエサを見せる(視覚の手がかり)といった具合です。
逆に強い手がかり先行のパターン(確かな証拠を先に、弱い証拠を後に与える)も試されました。チンパンジーはまず最初の証拠をもとに箱を選び、続いて新しい証拠を与えられた後で再び選び直す機会が与えられます。
結果は明快でした。
チンパンジーたちは、弱いヒント→強いヒントという順番だったとき、2つ目に与えられた強い証拠に基づいて最初の選択を覆すことが頻繁に見られました。一方、強いヒント→弱いヒントの順では、後から出てきた弱い証拠を多くの個体が退け、当初の選択をそのまま維持しました。
また、研究チームはチンパンジーの行動を説明しうる複数の仮説(例えば「最後にもらったヒントに単に飛びついているだけ」など)を検証しましたが、最終的には選び直しが“証拠の質”に沿っていることがはっきりしました。
「そんなの当たり前だろう?」と思うかもしれません。
確かに人間として生きている私たちにとって、証拠の比較は日常的な行いであり、何の苦もなく行えるものです。
しかし気付いてほしいのは、この結果は学習だけではなし得ないという点です。
箱の中にエサの音がすると学んだだけの場合、音の有る無しという学習結果に従い判断します。
視覚的手掛かりをもとに学んだ場合も、見えるか見えないかをもとに判断を行います。
そして両方の手掛かりが同時に存在するとき、比較してどちらを重視するかは、単純な学習とは全く別の現象です。
また最も重要な点として、実験全体を通じて練習による成績向上は確認されませんでした。
つまりチンパンジーの証拠を比較する能力は、研究者とのやりとりや実験の過程で後天的に学んだものではなく、初めから理にかなった対応をとっていたといえます。
さらに驚くべきことに、チンパンジーたちは「証拠をくつがえす証拠」にも対応しました。
例えば、強い証拠として箱の窓から見せられたエサが、実は窓のリンゴの絵(写真)だったと気付いたとき、チンパンジーはどうしたでしょうか。
結果は明確で、まさに「手のひらを返す」ような反応が見られました。
強い証拠が無効化された場合、チンパンジーたちはそれまでの強い証拠に基づく選択を迷わず捨て去り、一転してもう一方の選択肢(以前は弱い証拠しかなかったほう)に切り替えたのです。
重要なのは、チンパンジーが「証拠が覆された」と認識した場合にのみ信念を修正した点です。ディフィーター(打ち消す証拠)単独では効果が見られず、強い証拠を得た上でそれが否定されたときにはじめて、チンパンジーの判断は大きく揺らぎました。
これは、チンパンジーが新旧の証拠の関係を正しく理解し、「強いと思っていた証拠が弱まった」と受け取ったことを意味します。
一連の実験結果を通じ、チンパンジーは新たな証拠の重みに応じて信念を取捨選択し、ときには証拠そのものを疑うような高度な対応まで見せたといえます。
研究チームは「チンパンジーの行動パターンは明らかにベイズ的な合理的信念改訂モデル(新しい証拠がより確かなら、それをもとに考えを更新するしくみ)と整合する」と述べています。言い換えれば、チンパンジーは矛盾する複数の証拠を反省的に吟味し、どちらを信じるべきか判断していた可能性が高いのです。
ダーウィンの予言通り? チンパンジーが示す人間的理性の原型
ダーウィンの予言通り? チンパンジーが示す人間的理性の原型 / Credit:Canva
今回の研究は、チンパンジーが新しい証拠が出てきたときに自分の信念を選び直すことができると示し、人間だけが「証拠の天秤」を使える存在ではない可能性を浮き彫りにしました。
人間の理性を特徴づけると考えられてきた考え直しの仕組みが、私たちの最も近い親戚である類人猿にも備わっているという発見は大きな意味を持ちます。
ヒトとチンパンジーの考える力の差は、まったく違う能力を持っているというよりも、「どのくらい上手にその力を使いこなせるか」という連続的な違いかもしれません。
たとえるなら、ヒトが最新型のスマートフォンなら、チンパンジーはひとつ前のモデルというわけです。
基本的な機能(証拠をもとに考えを改めるなど)は同じでも、性能や使いこなしの幅に違いがあるというイメージです。
150年前、ダーウィンは「人間の知性も動物の能力の延長線上にある」と考えていましたが、この研究はその考えを支える新しい証拠だといえます。
研究者たちは、今回の成果を動物の「メタ認知(自分の考えを振り返る力)」に関する議論を進める重要な一歩と位置づけています。
特にチンパンジーが示したのは、「ソースモニタリング」と呼ばれる力です。
これは「何を知っているか」だけでなく、「どうやってそれを知ったのか」まで理解しているというものです。
実験で見られた「二段構えの証拠への反応」は、その力の現れです。
強い証拠があとから間違いだとわかったときにだけ考えを変え、それ以外のときは変えなかった――この行動は、チンパンジーが証拠を得た経緯や確か...
記事のポイント
ミッションワン・メディアがAI分析ツール「M1リファイナリー」を公開し、広告効果の要因を可視化している。
200項目のクリエイティブ要素を横断分析し、ROAS22%、CTR20%改善などの成果を上げている。
独立系エージェンシー各社がAI活用を強化し、メディアとクリエイティブ両面の最適化競争が進んでいる。
生成AIや機械学習を生み出した技術は、メディアエージェンシーの業務効率化に多くの方法で貢献しているが、そのなかでも、キャンペーン最適化は特に大きな支持を集めているようだ。
基本的に、自社のAI能力を強化、加速させ、マーケティングミックスモデリング(MMM)をメディアキャンペーンに適用するメディアエージェンシーは増えている。そして今、その流れはクリエイティブの領域にも波及している。
ミッションワン・メディアが開発した「M1リファイナリー」とは
最新の事例がミッションワン・メディア(MissionOne Media)だ。
バークレーOKRP(Barkley OKRP)が新設したメディアエージェンシー部門である同社は、クリエイティブのパフォーマンスを対象とした、データ主導のインサイト分析ツール「M1リファイナリー(M1 Refinery)」をローンチする。
開発チームによると、同ツールは「なぜ、ある広告はほかの広告より効果的なのか」という疑問に答えよ
...more うとするものだ。
A/Bテストや標準的なプラットフォームのレポートは、もっとも効果的な広告を特定できるが、その理由まで説明できることは少ない。M1 Refineryは、クリエイティブとメディアの両面から、その「なぜ」を解明することをめざす。
[▼会員登録をして続きを読む▼]
The post ミッションワン・メディアが AI 分析ツールを公開 広告効果を左右するクリエイティブ要素を可視化 appeared first on DIGIDAY[日本版].
電通グループ(ブランド:「dentsu」、本社:(株)電通グループ、拠点:東京都港区、代表者:代表執行役 社長 グローバルCEO 五十嵐 博、以下「dentsu」)は、(株)電通グループ グローバル・プラクティス・プレジデント - ビジネス・トランスフォーメーションの豊田 祐一を電通グループのAPAC事業を統括する「dentsu APAC CEO」に選任しました。豊田は2026年1月1日付でdentsu APAC CEOに就任し、(株)電通グループのグループ・エグゼクティブ・マネジメント・メンバーとなる予定です。
豊田は、dentsuにて30年以上のキャリアを有します。米カリフォルニア大学バークレー校を卒業後、(株)電通に入社しました。そして、同社のメディア部門、ビジネスプロデュース部門を経たのち、インド、タイ、中国でCEO等を歴任し、各市場の再建と成長を牽引してきました。dentsuがグローバル経営を強化した2024年には、グローバルでBX※を統括する(株)電通グループ グローバル・プラクティス・プレジデント - ビジネス・トランスフォーメーション、dentsu Japan BXプレジデント、および(株)電通の執行役員に就任し、2025年には(株)電通の役職が統括執行役員(BX/グローバル)となり、その責任が一部拡大されました。現職の後任については、決定し次第、
...more 各組織から公表する予定です。
なお、「APACリード」としてAPAC事業を統括してきた石原 良樹は兼務を解き、2026年1月からは「(株)電通グループ グローバル・チーフ・ストラテジー・オフィサー」としてグループ全体の戦略策定・推進に専念します。石原はAPACリードとして、One dentsuのビジョンを追求しながらグループ全体戦略の中でAPAC事業を捉え、中期経営計画で掲げている変革を牽引するとともに、日本事業との連携を強化してきました。そして、APACの成長回帰に向けた基盤を着実に築き上げました。
【(株)電通グループ 代表執行役 社長 グローバルCEO 五十嵐 博のコメント】
「豊田は、グローバルクライアント担当、APACの主要市場でのマネジメント、グローバルおよび日本でのBX領域の責任者など、幅広い経験を積む中で、多くの実績を残しており、厳しい環境にあるAPAC事業の成長回帰と、その後の持続的成長をけん引するリーダーとして、最適な人財と言えます。
中期経営計画を推進し、dentsuが持続的に成長していくためには、海外事業、特にAPAC事業の成長回帰が必要不可欠です。豊田がその変革をリードし、『「人起点の変革」の最前線に立ち、社会にポジティブな動力を生み出す』という当社グループのビジョンの下、グローバルでの成長と企業価値の最大化に向けて大いに貢献することを期待しています。」
【(株)電通グループ グローバル・チーフ・ストラテジー・オフィサー(2025年12月31日付でAPACリード兼務を解除)石原 良樹のコメント】
「この1年、厳しい事業環境は続きましたが、グループ全体にとって重要な地域であるAPACのリードを担えたことは大変光栄でした。事業に関わって頂いたクライアント、パートナー、そして従業員を含む多くの方々の協力により、成長回帰に向けた重要な基盤を築くことができました。豊田のリーダーシップとビジョンによって、APACが成長回帰を実現し、クライアントや市場により大きな価値をもたらしてくれると確信しています。」
【(株)電通グループ dentsu APAC CEO(2026年1月1日付就任予定)豊田 祐一のコメント】
「APAC事業として、またグループ全体として極めて重要なタイミングでの就任となり、身が引き締まる思いです。APAC市場は、あらゆる業界でディスラプションが起きており、かつてない変革の真っただ中にあります。熾烈な競争環境下で、私たちの多くのクライアントが事業を展開されています。ディスラプションは常にチャンスです。私たちがその変革をリードする側に立ち、クライアントの期待を超える価値を創出できるよう、世の中にまだない、dentsuならではの事業モデルを構築しながら、クライアントの持続的成長と社会の発展へ貢献していく所存です。そして、dentsu APAC事業の成長回帰と持続的成長を実現していきます。」
※BXとは、Business Transformation(ビジネス・トランスフォーメーション)の略語で、事業変革と企業変革をホリスティックに推進し、企業成長に貢献する事業領域を指します。詳細はこちらをご参照下さい。URL: https://dentsu-bx.jp/
以 上
【リリースに関する問い合わせ先】
株式会社電通グループ グループコーポレートコミュニケーションオフィス 小嶋、中川
Email:group-cc@dentsu.com...