サム・アルトマンがOpenAIの最高経営責任者(CEO)として正式に復帰した。主要な投資家であるマイクロソフトが議決権のないオブザーバーとして取締役会に加わることが明らかになり、その影響力が強まる可能性もありそうだ。
OpenAIは、サム・アルトマン氏のCEO復帰、ミラ・ムラティ氏のCTO復帰を発表した。また、Microsoftを議決権のないオブザーバーとして取締役会に迎えるとしている。
生成AIのChatGPTを開発した「オープンAI」を一度は解任されたサム・アルトマン氏は29日、CEOに正式に復帰したと会社が発表しました。
ChatGPTを開発し、現在の生成AIブームを起こした米国のベンチャー企業、OpenAI。今月、そのOpenAIの創業者であり、ChatGPTを生み出したサム・アルトマンCEOが、突然、理事会(企業
11月17日、突如CEOのサム・アルトマン氏の退任を発表したOpenAI。世界をリードする企業のCEOの「事実上の解任劇」とあって国際社会は大きく揺れましたが、4日後の21日に同社からアナウンスされたのは、アルトマン氏のCEO復帰の報でした。OpenAIや周辺に、一体何が起きていたのでしょうか。今回のメルマガ『週刊 Life is beautiful』では、Windows95を設計した日本人として知られる中島聡さんが、その全真相を徹底解説。さらにこの解任劇で誰より評価されるべき人物の名を挙げ、その理由を記しています。
プロフィール:中島聡(なかじま・さとし) ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。
「OpenAI」CEO電撃解任&復帰ドラマの背景と全真相
日本でも報道されていると思いますが、OpenAIの取締役会が突如CEOのSam Altmanを解雇して以来、大変な事件に発展しています。時系列的には、
OpenAIがSam Altman(CEO)の解雇を発表
Greg Brockman(President)がそれを受
...moreけて辞任を発表
大株主のMicrosoftが交渉に参加
OpenAIが新たなCEOとしてTwitch創業者のEmmett Shearを任命
Sam AltmanのOpenAIへの復帰はないとIlya Sutskeverが発言
Satya Nadellaが、Sam AltmanとGreg BrockmanをMicrosoftに向かい入れることを発表
OpenAIがライバルのAnthropicとの合併を模索中と報道
OpenAI社員らによる「Samを復帰させない限り辞職する」という署名活動がスタート(最終的に770人中710名がサイン)
Ilya SutskeverがSamの解雇に賛成したことを謝罪し、署名活動に参加
Sam Altmanが再びOpenAIとの交渉を再開
OpenAIがSam AltrmanとGreg Brockmanの復帰を発表
ということがわずか4日間の間に起こりました。
個々の報道だけを見ていても流れが理解しにくいと思うので、まずは背景から解説します。
OpenAIは2015年にSam Altman、Elon Muskらによって設立された、「人類全体のためになる人工知能を作る」という目的で設立された、非営利団体です。当時、人工知能の研究開発に関しては、Googleが世界の先頭を走っており、そのままだと、一営利企業が、人間の能力を超える汎用人工知能(AGI:Artificial General Intelligence)を独占的に持つ歪な世界になってしまうことを懸念した結果、作られたものです。
OpenAIは、Elon Muskが取締役、Sam AltmanがCEO、Googleから引き抜いた超一流の人工知能研究者Ilya Sutskeverを技術のトップに置き、「人類のためになるAGI」を作るべく、研究開発を始め、画像生成AIであるDall.e、LLM(大規模言語モデル)であるGPTなどを発表しました。
当初は、全ての研究成果をオープンにする形で進めていましたが、人工知能の研究開発に必須なGPUの高騰により、非営利団体のまま世界の最先端を走ることが難しくなってしまいました。
その結果、CEOのSam Altmanは、非営利団体であるOpenAIの下に、営利団体であるOpenAI Globalを作り、そこに投資家から資金を集めて、Googleに対抗する、という戦略を採用しました。Elon Muskは、その方向性に賛成できずに取締役会を離れ(2018年)、Sam Altmanのビジョンに共感したVC(Khosla VenturesとReid Hoffman Foundation)が投資家として参加し、その後Microsoftが巨額の資金($1billion)を投入して、OpenAI Globalの大株主になりました(2019年)。
この時に、OpenAIが採用したのが、“capped-profit”という仕組みです。営利企業ではありながら、株主に対する利益の還元には上限があり(最初の投資家の場合100倍)、それを超えた分は、全て非営利団体側が受け取る、というものです。これは、「人類全体のための人工知能を作る」という非営利団体のミッションを維持しつつ、投資をするからにはリターンが欲しい、という投資家の要望に応えるために作られた世界初の仕組みです。
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電撃解任から復帰までの4日間に起きていたこと
興味深いことに、OpenAIは、非営利団体のOpenAIの取締役会が営利団体も100%コントロールするという、ちょっと変わった企業統治の仕組みを採用しました。非営利団体と営利団体では、利益相反があって当然ですが、そこを一つの取締役会が仕切る、という体制です。そして、「人類全体の利益を、営利団体の株主の利益よりも優先する」と明記してあります(OpenAI:「Our Structure」)。
OpenAIは、GPT3で既に世界の最先端を走っていましたが、2022年11月にそれをChatGPTという形で一般消費者向けに提供したところ、それが前代未聞の大ヒットとなり、Googleすら羨む、人工知能業界のリーダー的存在に躍り出ました。
2023年にはMicrosoftが$10billionの追加投資を行い、OpenAI Global(営利企業側)の49%の株式を取得しました。その契約の中には、
OpenAIは、Microsoftのインフラを使わなければならない
Microsoftは、OpenAIの持つ技術全てを自由に自社サービスに活用できる(ただし、OpenAIがAGIを達成するまで)
という条件が含まれていました。
$10billionの投資の大半は、現金ではなく、Microsoft Azureのクレジットだ、というリーク記事(「OpenAI has received just a fraction of Microsoft’s $10 billion investment」)もあります。
そして、OpenAIがAGIを達成したかどうかに関しては、OpenAIの取締役会が決める、という規定だったそうです。OpenAIが、AGIの危険性および、その価値を非常に重視していた結果、こんな契約になったのです。
ここで注目していただきたいのは、異なるゴールを持つ非営利団体の取締役会が営利団体を統治し、「人類全体の利益を、営利団体の株主の利益よりも優先する」という通常あり得ない統治体制を持っている点です。通常であれば、こんなところに投資をする投資家はいませんが、Sam Altmanが持つ「現実歪曲空間」とOpenAIが持つ大きなポテンシャルに、投資家たちもMicrosoftも魅入られてしまったからこんな統治体制を許してしまったのです。
今回の事件は、11月17日にその取締役会が突如Sam Altmanを解雇することを発表して始まりました。明らかに株主の利益を損なう行為ですが、そんなことが可能だったのは、この異常な統治体制ゆえのものなのです。
取締役会は、解雇の際に「Sam Altmanは取締役会に対して正直ではなく、CEOを任せておくことは出来ない」と発表はしましたが、その後、具体的な理由に関しては、公には発言していません。
状況証拠として、
直前のインタビューで、Sam Altmanが「OpenAI社内で、4つ目の大きな技術革新が起こった」と発言(参照)
直前のインタビューで、Ilya Sutskeverが「今のやり方を続けていけばAGIの達成は可能」と発言(参照:[No Priors Ep. 39 | With OpenAI Co-Founder & Chief Scientist Ilya Sutskever](No Priors Ep. 39 | With OpenAI Co-Founder & Chief Scientist Ilya Sutskever))
Ilya Sutskeverが最近になって、AGIの危険性について警告する発言をしてきた事
Ilya Sutskever自身が、取締役の一人として、Sam Altmanの...