意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「米国のTikTok利用禁止」です。広がる使用禁止。データ管理と認知戦の問題が。アメリカ連邦議会下院は3月1日に、中国発の動画投稿アプリ「TikTok」の国内での使用を大統領権限で全面的に禁止できるとする法案を可決しました。アメリカは、トランプ政権時から、TikTokやファーウェイなど、中国製のものにはバックドアがあり、重要なデータが抜き取られる可能性があるので、市場から締め出すべきだというスタンスをとっていました。連邦議会下院は、3月23日にTikTokの運営会社「バイトダンス」CEOの公聴会を開きました。CEOは、バイトダンスは中国政府のユーザーデータへの無許可アクセスを許さないグローバル企業だと主張。また、約15億ドルを投じて、アメリカの利用者のデータはアメリカに本社を置く企業にホストサーバーを置き、「TikTok USデータセキュリティ」に管理させるなどの提案をしました。アメリカでは、公的機関に従事する職員が、公的な端末でTikTokを使用することを禁じる州が増えていますが、カナダのトルドー首相も同様の禁止措置を発表。4月には、アメリカのモンタナ州議会で、一般ユーザーの使用も禁じる法案が可決されました。TikTokには、公的な場面で大事な機密情報が中国に流出するかもし
...moreれないという安全保障面での危惧もありますが、「認知戦」の脅威もあります。認知戦とは、ある動画や言葉を多く目に触れさせることで、考えや認識を恣意的にコントロールすることです。実は、NGOの「国境なき記者団」もTikTokには警鐘を鳴らし続けていました。ロシアによるウクライナ侵攻が始まったころ、エンターテインメントコンテンツに紛れて、ロシアのフェイクニュースが表示されるようになっていたからです(その後、ロシアのライブ配信は一時的に禁止されました)。TikTokユーザーの3分の2は10代~20代半ばの若者といわれています。楽しみで動画を見ているつもりでも、誤情報により極端な価値観を植え付けられる危険があります。自分のスマートフォンは世界中に繋がっていて、そのデータを誰がどんなふうに活用しようとしているか分からないということは、意識しておかないといけません。ほり・じゅん ジャーナリスト。8bitNews代表。『堀潤モーニングFLAG』(TOKYOMX)が放送中。スーダン取材の2つの写真展を6/11まで、両国『ピクトリコ』と恵比寿『弘重ギャラリー』で同時開催中。※『anan』2023年6月14日号より。写真・小笠原真紀 イラスト・五月女ケイ子 文・黒瀬朋子(by anan編集部)https://ananweb.jp/news/488722/
一部議員の猛烈な反発によりこれまで見送られてきたものの、5月18日にようやく自公により国会に提出され、6月9日の衆院内閣委員会で修正可決された「LGBT理解増進法案」。今国会で成立する見通しとなりましたが、そもそもなぜ自民党はLGBT法案に対して、これまで否定的な姿勢を見せ続けてきたのでしょうか。今回のメルマガ『ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)』ではジャーナリストの伊東森さんが、その裏事情を徹底解説。さらにそんな自民党が同法案を国会提出せざるを得なかった理由も明らかにしています
LGBT法案 自公が修正合意。自民党、宗教保守に配慮、結局は“外圧”でしか変われない日本
5月16日、自民党の茂木敏充、公明党の石井啓一両幹事長は東京都内で会談し、LGBTなどの性的少数者への理解増進法案について、自民党と公明党で修正合意した与党案を州内に国会へ提出する方針を固めた。
2021年に与野党の実務者で一致した法案を提出する意向を表明する。
一方、立憲民主党の岡田克也幹事長は、
「修正は改悪だ」(*1)
と厳しく批判。
与党は、19日から開かれるG7(先進7カ国首脳会議)サミットを前に国会へ提出し、性的少数者の権利保護に消極的だとの批判をかわす狙いだ。
ただ、今回の与党案は、2021年に与野党の実務者で合意した法案の「差別は許されない」との表現を、「不当な
...more差別はあってはならない」と変更。
「性自認」との文言も、「性同一性」に置き換えた。安倍晋三元首相の国会答弁で使われた言い回しと同一であり(*2)、保守系の議員は理解を示す。
しかしながら、当事者や支援者からは理念の後退を懸念する声が上がっている。国会内で開かれた集会で、性的少数者の支援団体「fair」の松岡宗嗣代表は、
「議論すればするほど内容が後退していく。このままでは理解増進法ではなくて、差別を増進するような法律になってしまう」(*3)
とする。
目次
玉虫色決着 強引幕引き
自民党、宗教保守に配慮
結局は“外圧”でしか変われない日本
玉虫色決着 強引幕引き
自民党と公明党で合意した修正内容は、野党を含む2年前の超党派の合意案を踏襲しつつ、差別についての記述の見直しや、「性自認」の文言の変更、独立した項目だった「相談体制の整備の削除」といった修正を加えた。
自民党は「意味は変わらない」と主張するものの、識者は法的な実効性を低下させると危惧する。
自民党が主導した修正は、「差別は許されない」とする記述の見直しだ。法案の第一条(項目)であった文章を全面的に削除し、三条(基本理念)において「不当な差別はあってはならない」と変えた。
このことについては、「許されない」のままでは禁止規定とみなされ、それを根拠とした訴訟を起こされかねないとする保守派議員の懸念を踏まえたもの(*4)。
追手門学院大学の三成美保教授(ジェンダー法)によると、「不当な差別」という表現は、2016年に成立したヘイトスピーチ解消法で使われている。
憲法学では、「合理的な区別」と「不合理な差別」を分けることが通説であり、不適切とまでは言えないとのこと(*5)。
ただ、
「何が正当で、何が不当なのかという範囲を明確にしなければ恣意的な法解釈がなされる恐れがする」(*6)
と危惧する。
この記事の著者・伊東森さんのメルマガ初月無料で読む
自民党、宗教保守に配慮
自民党がLGBT法案に強く反対する背景には、旧統一教会や神道政治連盟など「自民党保守派と宗教右派との強いつながり」という実態が背景にある。
昨年7月、埼玉県で「性的施指向や性自認に関する差別禁止」を明記したLGBT条例が成立した。
しかし、その過程で、神社本庁の政治団体である「神道政治連盟」の埼玉県本部が、下部組織に対し、
「LGBTQは何れも、精神疾患であることが明らかになりつつある」
「行動療法や宗教などで『治癒』する」
などと記載した文言を送り、反対意見を投稿するよう呼び掛けていたことが分かった。文章を作成したのは、「神政連中央本部の幹部」であったという。
自民党埼玉県議の中には、条例をめぐって、
「差別禁止にされると、神社に同性カップルが来た時に断れないじゃないか」
という苦情も寄せられたとも。
昨年6月には、自民党議員の大多数が参加する「神道政治連盟国会議員懇談会」で性的少数者を差別するかのような冊子が配布。そこには、
「同性愛は心の中の問題であり、先天的なものではなく後天的な精神の障害、または依存症です」
「(同性愛などは)回復治療や宗教的信仰によって変化する」
などの差別的な内容が多数掲載されていた。
結局は“外圧”でしか変われない日本
修正案にも反発していた議員が、
「乗り込んでいって思いの丈をぶちまける」(*7)
とまで息まくものの、自民党の最高意思決定委員会である総務会は16日午前、何の混乱もなく修正案を了承し、40分足らずで終了した。明確な反対意見も出ず、「全会一致」での決定でもある。
結果としては、修正案が、
「十分に骨抜きになった」(安倍派幹部)(*8)
ことを印象付ける。
そもそもの発端は、同性婚の法制化をめぐる岸田文雄首相の「社会が変わってしまう」という2月の国会答弁だ。
対応の中で、更迭された首相秘書官の「隣に住んでいるのもちょっと嫌だ」という発言が飛び出たことで、首相が法案の提出を準備するよう、茂木官房長官に指示した。
さらに4月にはエマニュエル駐日米大使が、日本の取り組みを、
「米国の大使として、個人として気にしている」(*9)
と自民党に対し、“外圧”を仕掛けた。
G7サミットでは、性的少数者の権利擁護や保護も議題の一つ。ジャニー喜多川氏の性加害問題と取り上げた英BBCからの“外圧”といい、今回のLGBT法案といい、所詮、日本は“外圧”でしか自らの社会構造を変えられないのだ。
■引用・参考文献
(*1)「LGBT法案 週内提出」西日本新聞 2023年5月17日付朝刊 1項
(*2)金沢晧介「LGBT法案『内容後退』」西日本新聞 2023年5月17日付朝刊 25項
(*3)金沢晧介 2023年5月17日
(*4)「LGBTQ法案、自公が修正合意」東京新聞 2023年5月17日付朝刊 3項
(*5)東京新聞 2023年5月17日
(*6)東京新聞 2023年5月17日
(*7)千葉卓朗・森岡航平「G7前提出 首相答弁が発端」朝日新聞 2023年5月17日付朝刊 3項
(*8)千葉卓朗・森岡航平 2023年5月17日
(*9)千葉卓朗・森岡航平 2023年5月17日
(『ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)』2023年5月21日号より一部抜粋・文中一部敬称略)
この記事の著者・伊東森さんのメルマガ初月無料で読む
初月無料購読ですぐ読める! 6月配信済みバックナンバー
ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)2023年6月4日(日)号 なぜ日本は難民を受け入れないのか? 背景にある”親日利権” トルコ、ミャンマーの場合 日本の”親日”政策のせいで難民が不幸になる(6/4)
ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)2023年6月3日(土)号 「親の顔が見てみたい」 岸田首相長男・秘書官 ”息子テロ” 更迭 首相公邸とは? 問題は海外でも イギリス、フィンランド、アメリカの場合(6/3)
いますぐ初月無料購読!
<こちらも必読! 月単位で購入できるバックナンバー>
2023年5月配信分
モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2023年5月28日(日)号 WBCの熱狂でも救えないメジャーリーグ・日本のプロ野球人気の暗い現実 北米4大スポーツの現状 メジャーリーグの”絶望的な”チーム間格差(5/28)
モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2023年5月27日(土)号 G7広島サミット閉幕 G7の歴史 G7からGゼロへ 多極化・分極化・多様化する世界(5/27)
モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2023年5月21日(日)号 ジャニー喜多川性加害問題だけではない、ジャニーズ事務所の”闇” ~2~ 日本における「アイドル」 「芸能事務所」という人権侵害 子どもへの性被害対策 「G7で最悪の対策」(5/21)
モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2023年5月20(土)号 ジャニー喜多川性加害問題だけではない、ジャニーズ事務所の”闇” ~1~ 大手メディアが”もみ消し...
女子シングルス準決勝で第1シードのイガ・シフィオンテク(ポーランド)と、世界ランキング43位のカロリナ・ムホバ(チェコ)が勝ち、10日の決勝に進んだ。シフィオンテクは2年連続3度目の優勝を目指す。ムホバは4大大会初の決勝進出となった。 …
ロシアのウクライナ侵攻による被害を避けるため、これまで別々に暮らしていたウクライナ人の聴覚障害者夫婦が8カ月ぶりに再会し、大分県別府市で新生活をスタートさせた。受け入れ先である同市内竈の社会福祉法人、太陽の家で7日、2人は記者会見を開いた。